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第15話 憑きまとう闇

この話、前書いていた時そうでしたが、途中から何を書いているのか自分でも訳が分からなくなり、勢いに任せて投稿してしまった事をよーく憶えてます。

ちなみに前回と違い、後半は内容が完全に変わっています。

「ここにも居ないか……」



零治は誰かを探しているのか、城内のあちこちを歩き回る。



「う~む……一体どこに行ったんだ……?」



零治は一人ブツブツと呟きながら吹き抜けの廊下を歩く。

その時、反対側から桂花が現れ、眼が合った。



「……げ」



桂花は零治と眼が合った途端に、汚い物でも見るかのように嫌そうに表情を歪める。



「…………」



桂花の態度に零治は内心呆れながらも、華琳の居場所を知らないか訊こうとするのだが……。



「近寄らないでっ! 感染るからっ!」



桂花の開口一番がこれである。



「何がだよ?」


「私の口からとても言えない何かよ!」


「やれやれ。想像力が豊かな事で……。おい、桂花。華琳がどこに居るか知らないか?」


「ふんっ。たとえ知っててもアンタなんかに教えるもんですか! 地の底を這いずり回ってお探しなさい」



根っからの男嫌いの桂花は相変わらず零治に対して高飛車な態度を取り続けている。

だが、そんな事を言われて引き下がるほど零治も甘くはない。



「そうか。教える気が無いんならコレを使うまでだ……」



零治はそう言いって、不敵な笑みを浮かべながらコートの下から小さな茶色の瓶を取り出す。



「ち、ちょっと! 何よそれ!?」


「ん。自白剤だが?」


「じ、自白剤っ!?」


「ああ。教える気のない奴には薬を使うのが一番だからな。さあ、口を開けろ……」



零治は小瓶を片手に、桂花にじりじりと近寄る。



「ちょっと! 冗談じゃないわよ! 誰がそんな得体の知れない薬なんか飲むもんですかっ!」


「……何をしてるのだ? 二人して……」


「ん? おお、秋蘭。いいところに来てくれた。華琳がどこに居るか知らないか? 部屋にも玉座の間にも居ないし……桂花も知らないようだからな」


「だ、誰が知らないなんて言ったのよ! 知ってるけど教えてやらないって言っただけでしょ! だいたいアンタ、私に無理やり自白剤を飲ませようとしたくせに、よくそんな何食わぬ顔をする事が出来るわね!」


「……自白剤?」



そう聞いた秋蘭の視線が、零治の手に有る小瓶に止まる。



「音無。確かその瓶に入ってるのは、お前が吸ってるたばこの着香剤じゃなかったか?」


「へっ……?」


「ハハハハハ。バーカ、引っかかってやんの」


「なっ! だ、騙したわねぇ!!」



桂花がわなわなと体を震わせ、顔を真っ赤にして憤慨する。

それを見て、秋蘭は呆れたように言う。



「やれやれ。桂花もそうだが、音無も音無だぞ。二人してタチの悪い事を……」


「ハハハ。いや、すまんな。やられっぱなしじゃ気が済まないタチなんでな。で、肝心の華琳は?」


「華琳様なら、今日は一日お休みだぞ?」


「ん? そうなのか……」


「聞いていなかったのか?」


「ああ。効率的な連絡手段についての案を出すように言われてな、今日までにまとめて、報告に来るよう言われてたんだが。華琳が休みの日を忘れて……なんて事は無いよな?」


「それは、アンタの仕事が遅いのが悪いんでしょ。今日までの仕事なら、昨日のうちに終わらせて報告しておけば済む事じゃない」


「内容的に、間違いなく今日になるがいいかと確認はしたぞ。それで問題ないって話だったんだが」


「……やれやれ。また悪い癖か」


「悪い癖?」


「音無は華琳様が一日仕事を休んでいるところ……見た事があるか?」


「なるほど。そういう悪い癖か」



零治は納得したように頷く。



(昼間休んだり、街に遊びに出てる姿は見た事あるが……。丸一日休んでる華琳は確かに見た事が無いな……)


「ご自身の休息と公務を比べれば、必ず公務を優先されるお方だからな……。今日の休みも、私と姉者で無理やりに休ませたのだ」


「なら、春蘭は?」


「華琳様の代理で、季衣と一緒に視察に出掛けている」


「よく華琳があの二人で納得したな……」


「……軍関係の視察だったからな。まあ、色々あったのだよ。こちらも」



笑みを浮かべながらそう言う秋蘭。

それを見て、零治はその色々とやらを即座に察する。



(華琳を説得するのに春蘭は絶対に役に立たないからな。それどころか寝返る姿が眼に浮かぶぜ……)


「いや、お疲れさん」



秋蘭の苦労を察しながら、労いの言葉をかける零治。



「なに、大した事ではないよ」


「なら、この書類も今日は見せない方がいいな」


「なんだったら預かってあげましょうか?」



桂花が悪意の有る笑みを浮かべながら言う。だが、そんなあからさまな悪意の籠もった笑みを浮かべれば何を考えてるのかなんてバレバレである。

だが、それでも零治はあえて桂花に書類を手渡した。



「そうか。ならお前に預ける。無くすんじゃないぞ?」


「ええ、任せといて」


(くっくっく。バカな男ね。こんな物、後で焼却炉にでも持って行って……)



桂花は内心、零治の行動をほくそ笑む。しかし……。



「奈々瑠、臥々瑠、ちゃんと見ていたな?」


「はい」


「うん、バッチリと」



零治に呼ばれて、奈々瑠と臥々瑠が吹き抜けの廊下の横に生えてる茂みの中からひょいっと顔を出してきた。



「ひゃあ!? ア、アンタ達、どこから出てきてるのよっ!」


「そんなの貴方には関係のない事でしょう? それよりも、桂花さん……」


「な、何よ……?」


「兄さんに預けられたその書類、どうしようと貴方の自由ですが、その後、貴方がどうなろうと全て自己責任になる事をお忘れのないように……」



奈々瑠が眼を細めながら脅すように言ってくるので、桂花はその迫力に気圧されそうになるが負けじと訊き返す。



「どういう意味よ、それ?」


「その書類には特殊な薬剤が塗り込まれていてね、アタシ達の鼻じゃないと嗅ぎ分けられない匂いがするんだよ。あぁ、ちなみにその匂いは何をやっても消す事も出来ないからね」


「なっ!?」


「つまり、それをどこに持っていこうが、どこに隠そうが私達の鼻は誤魔化せないという事です。これだけ言えば私達が何を言いたいのか分かりますよねぇ?」



桂花の顔が青ざめていく。自分の考えが完全に見透かされている事を流石の彼女も自覚したようである。



「兄さん、もしも桂花さんがあの書類を捨てようとしたらどうしますか?」


「ちょっと! 誰も捨てるなんて一言も……っ!」



だがそうしようとしていたのは紛れもない事実であるし、零治が思いもよらぬ手を使ってきたので、今の桂花には、いつもの冷静さはどこにも無く、どう対処したものかとうろたえていた。



「殺しちゃっていい?」


「ちょっと!?」


「臥々瑠、それは流石にダメだろ」


「ほっ……」



臥々瑠の過激な発言に、零治は首を横に振ってダメ出しをする。それを見た桂花は、ホッと胸を撫で下ろし安堵する。だが……。



「せめて半殺しにしておけ」


「なっ!? アンタねぇ、この二人を止める意思は無いの!?」


「無い」



零治は真顔でキッパリと答える。



「……三人とも、桂花は我が軍の大事な軍師なのだ。頼むからそういう真似はしないでくれよ……?」



それまで無言で零治達のやり取りを見守っていた秋蘭が呆れながら口を挟んでくる。



「安心しろ、冗談だ」


「……とてもそうは見えなかったのだが」


「それは気のせいだろう?」



シレッとした態度を決め込む零治。



「ああもうっ! いいわよ! 返すわよ、こんな物!」



このままでは自身の身が危ないと判断し、桂花は悔しそうな顔で書類を零治に突き返す。



「では、私達は失礼しますね。書類の安全も確保できたようですので」


「ああ」


「臥々瑠、行くわよ」


「うん」



奈々瑠と臥々瑠は茂みから飛び出し、小走りにその場を立ち去って行き、桂花はその後ろ姿を、悔しげな顔で睨み付ける。



「チッ! あの二人さえ居なければ……」


「……何か言ったか。桂花……」


「別に……」


「はぁ……二人ともよさないか。……それと音無、その書類だが、急ぎのものでないなら、明日の朝にしてくれると嬉しいのだが。華琳様に何か言われたら、私の名を出して構わんぞ」


「それは構わんが……そういった気遣いをすると華琳が怒るんじゃないか?」


「うむ。理解はしてくださるだろうが、納得はされないだろうな」


(やれやれ。難儀な王様だぜ……)


「なら、書類の事は警備の仕事が忙しくて忘れていた、という事にでもしておこう」


「そうか。気を遣わせて悪いな」


「気にするな。じゃ、書類の事を忘れるために、警備の仕事に行って来る」


「そうか。なら城を出るなら、向こうの庭を通った方が近道だぞ」


「ちょっと、秋蘭!」



桂花が慌てたように声を出す。

その反応で、零治は秋蘭の言った言葉の意味を即座に理解する。



(なるほど……)


「そうか。礼を言う」



零治はそう言い、その場を後にし、秋蘭が言った近道に足を運んだ。


………


……



「こっちだよな……?」



零治は秋蘭に言われた道を進んでいく。すると、そこには……。



「……やっぱり」


「すぅ……すぅ……」



零治の視線の先には、ハンモックのような物に揺られながら、すぅすぅと寝息を立てながら寝てる華琳の姿があった。



「さて、どうしたものか……」


「……ん、んぅ……」


「……ん? 顔が赤いな。ひょっとして暑いのか? ……こっちの世界じゃ使えるか分からんが試してみるか」



零治はそう言い、右手を上に掲げ指をパチンと弾く。すると、やさしいそよ風が華琳に向かって吹き付ける。



「ふむ。上手くいったな。……これなら、大抵の魔法は使用可能だな」


(へえ。こんな事も出来るのね。魔法というものは……)



華琳は内心感心する。実は彼女はつい先ほどまで起きていたのだが、零治の気配を感じ取ったので、今はこうして寝たふりをしているという訳である。



(どうして私は寝たふりなんかしてるのかしら? この曹孟徳ともあろう者が、どうして相手の様子を窺うような真似を……?)


「しかし……」


(ん?)


「この少女が、あの曹孟徳とはな……。オレの知ってるイメージとは随分かけ離れてるな……」


(……いめぇじって何の事かしら? 天の国の言葉のようだけど……)


「…………」



零治は黙ったまま寝ている華琳の姿を見つめている。



(……ひょっとして、気付かれたのかしら……?)


「なぜ……」



零治は誰に言うのでもなく、一人ポツリポツリと、嘆くように呟く。



「なぜ、彼女のような王が……オレの世界には存在しなかったんだ……」


(零治?)


「華琳のような指導者が居れば、あの戦争もあそこまで酷い状況にはならなかっただろうに……」


(戦争? 天の国でも戦争が……?)


「彼女のような人物が居たら、オレも今とは違う生き方が出来たのだろうか……?」


(零治……。貴方、ひょっとして、哀しんでるの……?)


「もしそうなっていたら……オレもあの人を……彼女を殺す事なんか……っ!」


(あの人?)



寝たふりをして眼を瞑っているので、零治がどういう表情をしているかは分からないが、口調から何かに対して後悔している事だけは華琳にも理解できた。

華琳が聞き耳を立てるのに気付いてるのかそれとも気付いていないのか、零治はなおも後悔の言葉を吐露し続ける。



「オレは……オレは……っ!」


『何? いまさら被害者面するつもりなのかい? この人殺しが……』


「っ!?」



突然、零治の頭の奥に、男とも女とも聞き取れる中性的な声が響いた。

その声を聴くと同時に零治の顔に緊張が走り、周りの空間は漆黒の闇へと包まれる。

そんな中、零治はゆっくりと後ろに振り返る。



「また貴様か。死神……」



視線の先に立つ人物に対して、零治はゆっくりと口を開いた。

死神と呼ばれる人物は、漆黒のローブを身に纏っており、頭に被っているフードからはドクロの顔が姿を覗かせ、完全に骨と化している右手には大鎌が握られて、その刃には幾重にも塗り重ねられてどす黒く変色した血がベッタリとこびり付いている。

まさに、死神と呼称するに相応しい姿をしている。



「最近は見ないと思っていたのだが、またその醜いドクロ面を拝むとはな……」


『おやおや。久しぶりに顔を見せてやったってのに随分とご挨拶じゃないか。えぇ? 人殺しさん……』


「…………」



零治は無言で死神を睨みつけるが、対する死神はその視線など物ともせず、嘲笑うかのように歯を小刻みに打ち鳴らしてカカカと笑って見せる。 



『そんな眼で睨んでも無駄無駄。私は死を司る神なんだよ。アンタの視線なんか全く怖くないね』


「一体なんの用だ、死神。わざわざそんな事を言うために現れたわけではあるまい……」


『特に用があるわけでもないさ。ただ……今のアンタが随分と面白い状況に置かれてるからねぇ。ちょいと挨拶でもしとこうと思ってね』


「ならば今すぐオレの視界から消え失せろ。オレは貴様と話す事など一切無いんでな……」


『カッカッカ。相変わらず無愛想な男だねぇ。……しかし、アンタ……』


「何だ……」


『元居た世界でもそうだったけど、こっちの世界でも随分と沢山の人を殺してるじゃないか……』


「……それがどうした。オレはただ命令に従ってやっただけだ」


『おやおや。罪の意識は全く無いのかい?』


「無いな。奴らは殺されても仕方のない賊どもだ。確かに一部の人間には生活面の事情などからやむを得ず盗賊に成り下がった者も居たかもしれん。その点を考えれば同情は出来なくもないが、それでも連中がしていた事を正当化する理由にはならん……」


『カッカッカ。本当に罪の意識が無いのなら、さっきのアンタは一体何なんだい? まるで……自分の過去の行いに対して後悔の念を抱いているように見えたんだがねぇ……』


「貴様……何が言いたいんだ……」


『なぁに。本当のアンタは一体どっちなのかと思ってね……』


「本当のオレだと?」


『あぁ、そうさ。……“自分の過去に対して後悔しているアンタ”と、“戦場で人斬りを楽しんでいたアンタ”……一体どっちがアンタの本性なんだい? 音無零治……』


「オレが……人斬りを『楽しんでいた』……だと……っ!?」


『ああ。私はアンタに取り憑いてから後ろでずっとアンタの戦いぶりを見ていた。戦場で人を斬り殺している時のアンタの表情はとても楽しそうだったねぇ。それこそ……あの銀狼って男と同じ表情をしていたよ』


「死神風情がぁ! それ以上ふざけた事を抜かすようなら、容赦はせんぞ!」



我慢の限界を感じた零治は、鬼のような形相でギリギリと歯ぎしりをしながら腰に下げている叢雲に左手をかけて、鞘と柄の境目を親指でパチリと弾いて、いつでも抜刀が出来る体勢に入る。



『おーおー。怖い怖い。それだけ怒るって事は、やっぱり自覚があるようだねぇ』


「減らず口を叩きやがって! 今すぐ黙らせてやる!」


『まあそう怒らずに最後まで話を聞きなよ。……アンタは兵士としても、神器使いとしても最高レベルの存在だ。むしろ誇るべき事なんだよ、その本性は』


「……それはどういう意味だ」



死神が意味深な言葉を並べたてるので、今にも斬りかかりそうだった勢いの零治が寸での所で踏み止まったので、死神はここぞとばかりに歯をカチカチと打ち鳴らして話を続ける。



『いいかい。人間同士の戦いにおいて何よりも優先すべき事は相手を倒す、つまり殺す事だ。でないと自分が殺されるだけだからね。これぐらいはアンタも分かるだろ?』


「ああ……」


『そして、敵を殺す事において尤も必要な要素……それは“残虐性”だ。戦場では優しさなんて感情は邪魔にしかならない。自分を殺そうとしている相手に情けなんかかけてもいい事なんか何一つありはしない。時には話し合いで解決して戦闘を回避する事も可能だろうが、この時代ではそんな事はごく稀の話だし、戦いが始まる前だという事が前提におかれる。殺し合い、特に戦争を始めてから話し合いをしようとするバカなんか居やしないだろう?』


「そうだな」


『まあ、和平交渉なんて言葉が世の中にはあるけど、自分の立場を優位にしたい野心家がひしめくこの時代じゃ難しいだろうね』


「…………」


『おっと、話が逸れたね。……でだ、さっき言った残虐性ってのは人間なら誰しもが持っているプログラムなんだよ。特にアンタはそれが他の連中に比べて突出した貴重な存在なんだ』


「何をどう解釈すれば貴重扱いされるのか全く理解できんな……」


『まだ分からないのか? 残虐性が高いって事は、それだけ戦いに、人を殺す事に向いている、つまり兵士として優れていると同時に神器使いとしても優秀なのさ。忘れたのかい? 神器の力の原動力が何なのかを……』


「…………」


『神器の力の源……それは使い手が心の内に抱える“負の感情”。怒り、哀しみ、憎しみなどといった憎悪。それらの全てをひっくるめた残虐性こそが神器の……アンタの力の根幹ってわけさ。だからいい加減自分を偽るのはやめな』


「…………」


『私の言っている事が理解できたかい?』


「ああ。充分に理解したよ」


『そうかい。それは良かった。ならこれからは自分の心にもっと正直になって……』


「貴様の話に耳を傾けて、どれほど時間を無駄に浪費したかという事をなぁ!!」



零治は怒声を上げながら地面を蹴り、一気に死神の懐まで踏み込み、叢雲を抜刀して死神の胴体を一文字に薙ぎ払う。だが……。



『カッカッカ。無駄無駄。いくら人を殺す事に長けたアンタでも、そんな事したって私は殺せやしないよ』



零治の一撃は死神の胴体をすり抜けて空を虚しく薙いだだけだった。

薙ぎ払われた死神の胴体はまるで煙のように辺りに霧散するが、すぐにゆらゆらと揺らめきながら元に戻る。



「貴様ぁ……っ!」


『まったく……これでダメなら、もう少し強引な手を使って……』



死神は顎に左手を当てて何かを思案するようにブツブツと一人呟く。

と、その時、零治の頭の奥に聞き覚えのある声が響く。



『零治……零治、零治……っ!』


「ん? この声……華琳……か?」


『あぁ、そうだったね。今この場にはアンタ以外にも人が居たんだっけね。仕方ない、今日の所は退散しますかね』


「今日の所と言わず、貴様はそのまま地獄に帰りやがれ……」


『カッカッカ。それは出来ない相談だね。アンタが自分の本性を認めない限り、私は何度でもアンタの前に現れてやるよ』


「…………」


『まっ、今日の所はこの辺にしといてやるよ。それじゃあね、人殺しさん。またいつの日か、語り合おうじゃないか。カッカッカ』



死神は歯を打ち鳴らしながらふわりと宙に浮き、そのままゆっくりと姿を消し、その場から去っていった。

それと同時に、それまで辺りを覆っていた暗闇も晴れて、城の中庭の風景が零治の視界内に広がる。



「チッ! 忌々しい死神が……っ!」


「零治ったら!」


「っ!? ……あ、あぁ。か、華琳。すまない、起こしてしまったか……」



後ろから響いた鋭い声に零治は思わずビクリと肩を震わせつつゆっくりと後ろに振り返れば、ハンモックらしき物の上から心配そうにこちらを見ている華琳と眼が合う。



「それは構わないわ。それよりも零治、貴方……さっきまで一体誰と話をしていたの……?」


「……何を言ってるんだ。ここにはオレとお前しか居ないじゃないか」


「ええ。そうね。でも、貴方は確かにさっきまで誰かと話をしていたわ……」


「…………」


「零治、本当の事を言うとね、私……寝てなかったの。貴方がここに現れたから、寝たふりをしていたのよ」


「っ!?」


「だから、貴方が言っていた言葉は一言一句すべて憶えているわ。何ならここで言って見せてもいいのよ」


「……ただの空耳なんじゃないのか?」


「なら、貴方の右手に握られてる『ソレ』は何……」


「こ、これは……」



華琳の指摘に零治は言い淀んでしまう。

零治の右手に握られてる物、それは抜き身状態の叢雲だ。ここまで指摘されると言い逃れをするのはかなり難しい。

だがそれでも零治は思考をフル回転させて、適当な言い訳を並べ立てて誤魔化しに入る。



「ちょいと剣の鍛錬をな。身体がなまったら困るからな」


「こんな場所で……?」


「ああ。オレはやりたいと思ったら、すぐ行動に出るタチなんだよ」


「そう。なら、貴方の剣の鍛錬というのは、何も無い空間に向かって怒鳴り散らしながら剣を振り回す事なのね……」


「なっ!?」



華琳の口から出てきた予想だにしない言葉を聞かされた零治は驚愕する。

今の言葉から得られる結論は、話を聞かれていただけでなく、零治が取った行動そのものを見られていた事になるのだ。



「これでも本当の事を話す気は無いの……」


「…………」


「…………」



お互いに何も言わなくなってしまい、気まずい沈黙がその場を支配する。

しばらくして、その静寂を打ち破るように零治が静かに重い口を開く。



「すまない、華琳。今はまだ話したくないんだ……」


「…………」


「いつか……いつの日か必ず本当の事を話す。だからそれまで、心の整理を付ける時間をオレに与えてほしい……」


「……分かったわ。話の内容も貴方の個人的な事に関わるようでしょうし、無理に訊き出すような真似は私もしないし、するつもりもないわ。でも、これだけは憶えといて。例え何があろうとも、私は貴方の味方よ」


「ありがとう……」


「それから、貴方も今日は休みなさい。もし仕事があるのなら、それは亜弥にでも代わってもらいなさい」


「分かった。そうさせてもらう。……だが、休めという事に関してはお前も同じだぞ」


「それぐらい言われなくても分かってるわよ」


「ハハハ。ならいいさ。……じゃあ、オレは行くよ。せっかく休んでいたのに、騒ぎ立ててすまなかった……」


「その事は構わないと言ったでしょう。ほら、貴方もさっさと行って休みなさい」



華琳はシッシッと言わんばかりに、野良猫を追い払うような仕草をする。



「やれやれ……。それじゃあな」



華琳の行動に零治は苦笑しながらその場を去って行った。



「……ふぅ」



その場に取り残された華琳は小さく息を吐き、ハンモックに寝転がり身を預け、眼を閉じて、今度こそ休むべく本当の眠りについた。


………


……



あの後から零治はどこに行くわけでもなく、フラフラと中庭を彷徨うように歩き、やがて中庭の一角に設けられた東屋の椅子に腰かけて、タバコを吹かしながらボーっと空を眺めている。



「……フーー……」



零治が吹かした煙はユラユラと揺らめきながら上空を昇り、そのまま風の流れに乗って見えなくなる。

その最中、零治の脳裏に死神の言葉が蘇る。



『本当のアンタは一体どっちなのかと思ってね……』


「…………」


『自分の過去に対して後悔してるアンタと、戦場で人斬りを楽しんでいたアンタ……一体どっちがアンタの本性なんだい?』


「オレの……本性……」



脳裏をよぎった言葉に返答するように零治はポツリと呟き、ふと自分の右手に視線をやりながら思う。

この手は大勢の人の血で汚れている。それは今まで戦場で戦い続け、時には暗殺という手段を用いてそれだけの人を殺してきた証。



「しないよう意識はしていたつもりだが……やはりそれでも、心の奥底では後悔しているのかもな……」


『この人殺しが……』



またもや死神の言葉が零治の脳裏をよぎる。人殺しという単語、ただそれだけが。

その言葉を振り払うように零治は頭をブンブンと左右に振り、空を見上げる。

日は既に傾き始め、空は茜色に染まっていた。



「あぁ、そうさ。オレは人殺しだ。それを否定するつもりはないが……オレが人斬りを楽しんでいたなんて言葉は絶対に認めない。そんな事……あってたまるか……っ!」



またも零治は死神の言葉に答えるように一人呟く。

その時、零治の眼には、茜色の空の向こうから死神のドクロ面がぼんやりと浮かび上がり、歯をカチカチと打ち鳴らしながら自分の事を嘲笑っているように見えた。

作者「この話、ホントは欠番にしてやろうかとも思ってた」


零治「つーか、何だありゃ。またなんか増えてるじゃねぇか……」


亜弥「ええ。しかもすごく縁起の悪い者が……」


奈々瑠「兄さんって取り憑かれキャラだったんですか……?」


臥々瑠「まるで某格ゲーのキャラみたいだね」


作者「○ッパの事か?」


臥々瑠「そうそれそれ」


作者「アレはアレでホント色んなもんが憑いてたよなぁ。いや~懐かしい」


零治「話を逸らすな。おい、もしかしてコイツは今後も……」


作者「出てくるよ」


亜弥「あら~。……零治、お気の毒様です」


奈々瑠「兄さん、エクソシストでも呼びますか?」


臥々瑠「ついでに塩もかけといたら?」


零治「あれ? 何でオレがいじられてんだ? こういう役割は作者のはずなのに……」

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