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第13話 予言と忠告

カゴはあって困るものでもありませんが、いざ買ってみると使い道に悩む事ってありませんか?

私はよくあるんですが……。

「フーー……」


「みんな遅いねぇ……」



臥々瑠が両手を頭の後ろに組み退屈そうにしながら言う。しかし、この世界には時計など存在してないのだからそれは仕方のない事である。一緒に居る姉の奈々瑠がその事を臥々瑠に言い聞かせる。



「しょうがないでしょう。この世界には時計なんか存在してないんだから」



午後から街の視察をするとの事で、零治達は城の広場に集まるように華琳から指示を受け、残りのメンバーが来るのを待ってるようである。



「……フーー……。ん……? 携帯灰皿が一杯になっちまった」


「兄さん……それで何本目なの?」



臥々瑠の質問に、零治は携帯灰皿の中に有る吸殻を数えて答える。



「……六本だな」


「兄さん、いくらなんでも吸いすぎですよ。禁煙しろとまでは言いませんが、少しは控えましょうよ……」


「健康のために?」


「はい」


「だが断る!」


「はぁ……」



零治の態度に奈々瑠は頭を抱えながら溜め息を吐く。



「そういえばそのタバコ、いつもの甘い匂いがあんまりしないねぇ?」



臥々瑠が鼻をスンスン鳴らしながら言うので、零治は顔をしかめながら箱から一本タバコを取り出し、唸りながら睨み付ける。



「む……って事は、葉っぱの着香が不十分だったか?」


「ちゃっこう? って事はそのタバコ、自分で作ったんですか?」


「ああ。この世界にタバコは売ってないんだから、物質変換魔法で材料を用意して自分で作るしかないだろう? しかし、あの甘い匂いがあまりしないとは……もっと詳しく研究をせねばならんか」


「呆れました。そこまでしてタバコが吸いたいんですか……?」


「奈々瑠。喫煙者にそれは愚問でしかないぞ」


「なんだお前達、随分早いな」



と、そこへ春蘭と桂花が集合場所にやって来た。



「あぁ、春蘭か。こういう場合、男は先に来ておくのがお約束なんだよ。それより華琳と秋蘭はどうした? まだ、昼か?」


「うむ。食事は済んだのだが……なにか髪のまとまりが悪いとかでな。今、秋蘭に整えさせている」


「なるほど。あのクルクルした巻き髪は整えるのが大変そうだからなぁ」


「アンタ、随分女の身支度に理解があるのね?」



桂花が意外そうな顔をしながら訊いてくる。



「そりゃ身の回りに女が三人も居るからな」


「まあ、それに州牧ともなったお方が、だらしない格好で公の前に出てみろ。臣下たる我々どころか、主の品格まで疑われるわ」


「あら、珍しく意見が合ったじゃない]


「当然だ」


「しかし……その華琳も、今は刺史じゃなく、陳留の州牧ってやつに昇進か……。これでさらに広い地域を治める事になるわけだな」


「何よ。何か問題でもあるの?」


「誰もそんな事言ってないだろ。ただ、その昇進って大変な事じゃないのか?」


「華琳様は既に陳留刺史としての十分な実績があるだろう。州牧など、ごく正当な評価……いや、むしろ低いくらいだ」


「そうなのか?」


「当たり前だ。本来の州牧が逃亡した非常時でもあるしな。中央にも、わざわざ人を選別して派遣するより、有能な華琳様に任せよう、と思った見る目のある奴が居たのだろう」


「それに、中央には知り合いも何人か居たしね」


「あん? それってつまり、桂花が中央に居る知り合いに手回しして、華琳を州牧にしたって事か?」


「ええ。袁紹の所って、扱いは悪かったけど、中央との繋がりだけはたくさん作れたのよね」


「それ、華琳が知ったら怒るんじゃないか?」


「別に怒らないわよ」



と、そこに、身支度を終えた華琳と秋蘭が合流する。



「華琳様……」


「なりふりを構っていられるほど、今の私達に力も余裕もないでしょう。使えるものなら天の国の知識でも部下の繋がりでも、遠慮なく使わせてもらうわ」


「…………」



零治は黙って華琳の髪に視線を向けている。



「……何?」


「いや、髪のまとまりが悪いと聞いてたのだが、いつも通りだから大丈夫そうだな、と思ってな」


「そう。ならいいのだけれど……零治」


「なんだ?」


「奈々瑠と臥々瑠の髪、随分とボサボサじゃないのかしら?」



華琳が奈々瑠達に視線をやり、二人の髪の事を指摘する。



「あ~、これはクセ毛だからこれ以上直しようがないんだ。だから勘弁してくれよ」


「そんなこと言って、ホントは面倒だから手抜きしたんじゃないの?」


「「むっ……!」」



桂花が零治にバカにしたような視線を向けながらそう言ってきたので、奈々瑠と臥々瑠はむっとした表情になり桂花を睨み付けるので、零治は二人をなだめる。



「二人とも、アレの言う事なんかに耳を貸すな」


「ちょっと、何よアレって!? アンタいくらなんでも失礼じゃないの!!」



零治のその一言に、桂花はヒステリックな声を出しながら零治を睨み付けるが、零治はそれを軽く流して、涼しい顔で言い返す。



「失礼? 失礼が服を着て歩いてるような奴にだけは言われたくないな」


「なんですってぇ!!」


「はいはい、二人ともいい加減になさい」



二人の言い合いを見かねた華琳が仲裁に入る。



「まあ、そういう事なら仕方ないわね。……それにしても、こうして州牧になったおかげで季衣との約束を守ることも出来たし、言うことはないわ」


「ん? そういえば、その季衣はどうしたんだ? 姿が見当たらんが……」



零治は辺りを見渡しながら言うので、零治の疑問に秋蘭が答える。



「今朝、山賊のアジトが見つかったという報告があってな。私か姉者が討伐に向かうから、街を見に行って来いと言ったのだが、聞かなくてな」


「あぁ、それならオレも聞いたよ。確か亜弥も一緒だったよな?」


「ああ。自分の村と同じ目に遭ってる村を見ていられんのだろう。はりきって出掛けて行ったぞ」


「なら、土産ぐらいは買っといてやらないとな」


「なんだ。考える事は同じか」



そんなやり取りをしている零治と春蘭に、桂花は呆れた視線を向けながら確認するように言う。



「アンタ達、観光に行くわけじゃないのよ?」


「分かってる。仕事と両立させればなんの問題もないだろ?」


「ちゃんと仕事をするんならね」



零治に華琳も念を押すように言い、その言葉に春蘭が大きく頷き返事をする。



「はい」


「華琳様ぁ……。コレは一緒に連れて行くのに、なんで私は留守番なんですかぁ?」


「ちょっと、なに兄さんを指差してコレ呼ばわりなんかしてるのよ」


「臥々瑠、こんな奴の言う事なんか気にすんな。……そうだなぁ。お前が普段警備隊として街を見回ってるオレより街に詳しくて、有事の際に華琳を守る事が出来るんなら代わってやるが?」



零治のその言葉に桂花は悔しげな表情になる。

確かにこのメンバーの中では警備隊として街を見回ってる零治が一番街には詳しいだろうし、有事の際に関しては、桂花は華琳を守るどころか、むしろ守られる側の立場になってしまう。

なので、桂花はしぶしぶ納得する。



「くっ……! 分かったわよ」


「はい、無駄話はそこまでにして、そろそろ出発するわよ。なら桂花。留守は任せたわよ」


「はぁい……」



そうして零治達は街を目指し、城を発った。


………


……



「あれが陳留か……」



全身傷だらけの特徴的な女の子が街の入り口を前にして一人呟く。



「やっと着いたー。凪ちゃーん、もう疲れたの」


「いや、沙和……これからが本番なんだが」


「もう竹カゴ売るの、めんどくさーい。真桜ちゃんもめんどいよねぇ……」



メガネをかけ小洒落た格好をしたおさげの女の子が、傷だらけの女の子に文句をブータレながら、もう一人の、やたら肌を露出させた服装をし、ドライバーやらレンチらしき物などといった機械いじりに使う道具が飛び出したポーチを腰に下げた童顔と巨乳が特徴的な女の子に話を振る。



「そうは言うてもなぁ……全部売れへんかったら、せっかくカゴ編んでくれた村のみんなに合わせる顔がないやろ?」



真桜と呼ばれる女の子は渋面を作りながら沙和と呼ばれる女の子にそう言い聞かせ、凪と呼ばれる女の子も同感する。



「そうだぞ。せっかくこんな遠くの街まで来たのだから、みんなで協力してだな……」


「うっうー……。分かったよぉ」



涙目になりながらもしぶしぶ納得する沙和。



「最近はなんや、立派な州牧様が来たとかで治安も良うなっとるみたいやし、いろんな所から人も来とるからな。気張って売り切らんと」


「……そうだ。人が多い街なら、みんなで手分けして売った方が良くないかな?」


「……なるほど、それも一利あるな」


「それじゃ、三人で別れて一番売った奴が勝ちって事でええか? 負けた奴は晩飯、奢りやで!」


「こら真桜。貴重な路銀を……」


「分かったの」


「沙和まで……」


「よっし。二対一で、可決って事で! 凪もそれでええやろ?」


「はぁ……やれやれ。仕方ないな」


「ほな決まり!」


「おーなのっ!」


「……なら、夕方には門の所に集合だぞ。解散!」



傷だらけの女の子が、そう号令をかけ、三人は街の中に足を踏み入れる。


………


……



「はい! それでは、次の一曲、聴いていただきましょう!」


「姉さん。伴奏お願いね」


「はーい」



姉妹と思われる女三人組の旅芸人が街の通りで演奏を始める。



「ほぉ。旅芸人も来ているのか……」



秋蘭は珍しげに言い、それを聞いた零治は怪訝な表情になる。



「ん~? 珍しいか? 前からそれなりに居たはずだが……」


「芸人自体はさして珍しくないだろうが、あれは南方の歌だろう。南方の旅人は今までこちらまでは来れなかったからな……」


「ん? つまり……途中の街道が危険だったから、今まで来れなかったって事か?」


「そういう事だ。商人と違って、街道が安全でなければ連中は寄って来ないからな。そういう意味では、我々の働きが認められた、とみて良いかもしれん」


「特に彼女らは女だけのようだし、武芸に相当の自信があるか、安全でなければ、こんな所まで来ないでしょうね」


「なるほど。確かに……」



華琳のその説明に零治は納得したように頷き、旅芸人の姉妹に視線を戻す。



「ありがとうございましたー」


「次、もう一曲、いってみましょう!」



旅芸人達が演奏を終え、次の曲の演奏に入る。



(しかし、あまり人気はないみたいだな。下手って訳じゃないが、そこまで上手いとも言えないな……)



零時の思う通り、客はそれほど居ないし、おひねりもあまり貰えていない様子である。



「まあ、腕としては並という所ね。それより、私達は旅芸人の演奏を聴きに来た訳じゃないのよ?」


「分かってる」


「狭い街という訳でもないし、あまり時間もないわ。手分けして見る事にしましょう」


「承知しました。では、私は臥々瑠と街の右手側、姉者と奈々瑠には左手側を回らせます。それでよろしいですか?」


「問題ないわ。では、突き当りの門の所で落ち合いましょう」


「はっ」


「零治。警護と案内、しっかり頼むわね?」


「了解」


「むぅ……」



春蘭が羨ましげな視線を零治に向ける。

本当は華琳と一緒に行きたいのだろうが、そういう訳にもいかないので、秋蘭が春蘭に理由を言い聞かせる。



「……諦めろ、姉者。私達は音無ほど街に詳しくないし、この中に居る人間では音無が一番強いのだから、華琳様の警護に就くのは当然だろう?」


「……音無」


「なんだ?」


「貴様の腕っ節の強さが、心底羨ましく思うぞ。どうすればそこまで強くなれるのだ?」



春蘭の質問に零治は短い間を置き、どこか悲愴感が漂う表情をしながらポツリと呟いた。



「……人間をやめたら……かな?」


「はっ?」



零治の言ってる意味が理解できず、春蘭は間抜けな声を出し、きょとんとする。



「いや、すまん。今の言葉は聞き流してくれ……」


「ほら春蘭。無駄話なんかしてないで早く行きなさい」


「はぁい……」



華琳にこう言われては従わない訳にはいかないので、春蘭は哀愁を漂わせながら、同行者である奈々瑠を置いてトボトボと街の左手側に足を進める。



「あっ、春蘭さん。待ってくださいよー」



奈々瑠が慌てながら春蘭の後を追いかける。

その後ろ姿を見て、秋蘭は苦笑ながら通りに行くのを見送って、臥々瑠に出発するよう声をかける。



「やれやれ……。では、臥々瑠。私達も行こうか」


「は~い」


「さて、私達も行くわよ」


「ああ」



残りのメンバーも、各々が視察する場所に足を進めだした。


………


……



「ん? なあ、華琳」


「何?」


「大通りは見ないのか? こっちは裏通りだぞ」


「大通りは後でいいのよ。大きな所の意見は、黙っていても集まるのだから」


「あぁ、なるほど」


「それより零治。……この辺りを見て、貴方はどう思う?」


「どうって……」



零治は華琳に言われて、辺りに市や小さな店がひしめき合う通りを見回す。



「いつも通り何事も無く、十分に賑わってると思うが?」


「そのくらい、見れば分かるわよ。もっと他に気付く事はないのかしら?」


「気付く事ねぇ……。強いて言うなら、この辺りは食い物屋と料理屋が多いってぐらいだな」


「ええ。食材がすぐ手に入るから、それは当然ね。それで、他に気付く事はない? 何でもいいわ」


(ん? 思った事を適当に言っただけなんだが、意外な反応だな)



零治は再び通りをぐるりと見回し、思った事を華琳に聞かせる。



「……この通りは調理器具を取り扱う店……鍛冶屋が無いな。鍛冶屋が有ればもっと繁盛すると思うんだが?」


「鍛冶屋は三つ向こうの通りに行かないと無いわね」


「そしてその通りには料理屋が無い」


「ええ。よく分かってるじゃない」


「つーか、そこまで詳しいんならオレの案内なんか必要ないだろう?」


「ふふ。ちょっと貴方を試したかったのよ。警備隊として街の事をちゃんと把握してるのかをね」


「あっそ……。で? 実際に街の光景を目にしたご感想は?」


「ええ、悪くないわ。人の流れ、客層や雰囲気は地図や報告書だけじゃ実感できないから、やはり、たまにはこうして視察して実際に確かめないといけないわ。でないと、住民達の意にそぐわない指示を出してしまいかねいわ」


「フッ。そうだな。それに……」



零治は小さく笑い、露店の前の人だかりに視線を止める。



「……ああいう光景は、紙の地図じゃ確かめられないからな」


「はい、寄ってらっしゃい見てらっしゃーい!」



そこに居た露天商の女の子、カゴを売りに来た三人娘の一人、真桜がネコの額ほどのスペースに竹カゴをずらりと並べ、道行く人に元気よく声をかけていた。

たまたま前を通りかかった零治の眼に、売り子の真桜の横に置かれていた大きな木箱に止まる



「ん? なんだこりゃ?」


「カゴ屋のよう……だけれど?」


「いや、カゴじゃなくて、このデカイ木箱だよ。何なんだコレ?」


「さあ?」



零治は売り子のすぐ横に置かれた、やや大きめの木箱の事を指差しながら訊くが、華琳にも分からないようだ。仕方ないので零治は箱を観察して自分で考えてみる。

木箱は所々に金属のフレームが組み込まれており、隙間からは木製の歯車がチラリとその姿を覗かせている。どうも何かの機械のように見える。



(ん、歯車……だと? この時代に歯車なんか有ったか?)


「どうしたの? そんなに歯車をジーっと見て。零治は歯車を初めて見るのかしら?」


「いや、歯車ぐらい見た事あるさ。……流石に木製のは初めてだがな」


(華琳の口ぶりから察するに、どうも普通にあるみたいだな……)



二人の会話が聞こえたようで、真桜は感心したような表情で零治達に声をかけてくる。



「おお、そこのお二方、なんともお目が高い。それはウチが発明した絡繰の、全自動カゴ編み装置やねん」


「全自動……」


「カゴ編み装置……?」



零治と華琳は怪訝な表情で真桜に訊いてくるので、真桜は実演をして見せる事にする。



「せや。この装置の底の部分にこう、竹を細ぅ切った材料をグルーッと一周突っ込んでやな……そこの兄さん、ちょっとこの取っ手を回してくれるかぁ?」


「これをか?」



零治は真桜に言われ、木箱の横に取り付けられてる取っ手の付いたハンドルをグルグルと回す。すると……。



「ん……? おおっ!」



みるみる内に竹カゴの側面が出来上がり、装置の上部からせり出してきた。



「ほら、こうやって、竹カゴの周りが簡単に編めるんよ!」


(確かに凄いが……おもいっきり手動なんだが!)


「……底と枠の部分はどうするの?」


「あ、そこは手作業です」


「そう……。まあ、便利といえば、便利ね……」



華琳が苦笑しながら言うが、零治は容赦なく一番の問題点を指摘する。



「全然全自動じゃねぇじゃんか……」


「うっ。兄さん、ツッコミ厳しいなぁ……。そこは雰囲気重視、っちゅうことでひとつ」


「なんだそりゃ……?」



零治が真桜に呆れた視線を向ける。その時、装置から何かが軋むような異音がする。



「あ、ちょ! お兄さん、危ないっ!」


「え……?」



真桜が叫ぶが時すでに遅し。



「どわあっ!?」


「大丈夫、零治?」



装置は派手な轟音を立てバラバラに吹っ飛んでしまい、木製の歯車や、竹カゴの材料が辺りに散らばる。

残ったのは零治の手に握られてるハンドルだけだった。

あまりの突然の出来事に、零治はハンドルを握ったまま硬直してしまう。



「ば、爆発したぞ……」


「あー。やっぱダメやったか……」



真桜は先程の光景を見て、天を仰ぎながら低い声で言う。

その言葉に零治は、首だけ動かし、真桜に問いかける。



「……どういう事だ……?」


「まだそれ、試作品なんよ。普通に作ると、竹のしなりにこう強度が追い付かんでなぁ……こうやって、爆発してまうんよ」


「そんな物騒なモノをなぜ持って来た……」


「置いとったらこう、目立つかなぁ……て思てな」


(そんな物騒なモノで実演なんかやらすな! オレを殺す気かっ!?)


「ならここに並んでるカゴは、この装置で作った物ではないの?」


「ああ。村のみんなの手作りや」



真桜のその一言で、どこか気まずい空気が漂い始める。



「…………」


「…………」


「なぁ、お兄さん」


「あん?」


「せっかくの絡繰を壊したんやから、一個くらい買うていってぇな」



真桜は商売人特有の愛想笑いを浮かべながら零治に言う。

それを見た零治は内心呆れ果ててしまう。



(オレを危険な目に遭わせた上に、カゴまで買わせようとするか。ある意味見上げた商人魂の持ち主だな、コイツ。つーか、それ以前にこの機械が壊れた直接の原因はオレじゃないと思うんだが……)


「……まあ一つくらいなら。買ってあげなさい、零治」


「買うのかよ? まあいいが……」


(こんな物なんに使えってんだ? オレ、カゴが必要なほど私物の置き場に困ってないぞ……)


………


……



続いてこちらは街の左手側に足を運んだ春蘭と奈々瑠。

二人が歩いている通りは衣類などを取り扱っている店が所狭しと立ち並んでいる。



「この辺りは、服屋ばかりだな」


「そうですね」


「…………」



春蘭の視線が一軒の服屋の店頭に飾られてる服に止まる。



「春蘭さん、どうかしたんですか?」


「……ああ、この服、華琳様がお召しになったら似合うだろうなぁ……」



春蘭は顔をだらしなくにやけさせながら言うので、奈々瑠が呆れた顔で釘を刺すように当初の目的を春蘭に聞かせる。



「春蘭さん、私達は視察に来てるんですよ……」


「わ、分かっているぞ! それぐらい……」


「ならいいんですが……」


「…………」



春蘭の視線が再び店頭に飾られている服に止まる。

余程その服が気になるのか、先程から春蘭はそこから一歩も動こうとはしない。



「……ちょっとだけなら……」


「春蘭さん……」


「はっ!? いかんいかん。誘惑に負けるな私!」



春蘭は頭をブンブンと左右に振って誘惑を振り払おうとするが……。



「…………」



またしても服に視線が止まり、奈々瑠は黙ってそれを見守る。



「…………」


「……ああ、やっぱり可愛らしい服が有るなぁ」


(はぁ……。これは落ちるのも時間の問題ね……)


「……そうだ、ちょっとだけ……」


「視察はどうするんですか……?」


「こ、これも視察の一環だ。行くぞ、奈々瑠」


「はぁ……。少しだけですよ?」



二人は目の前の服屋に入店し、営業スマイルを浮かべた店員が二人を出迎える。



「いらっしゃいませー」


「おお、これはなかなか……」



店の品揃えに春蘭は驚嘆し、一着の女性用の服を手に取る。

それを見た店員が、おずおずと春蘭に声をかける。



「あのぅ、お客様。失礼ですがこの辺りは、お客様よりも少々小さめの……。お客様に合う物でしたら、あちらの棚に」


「ああ、華り……いや、知り合いの頼まれ物なのだ。私の事は気にせず、放っておいてくれ」


「は、はあ……そうですか?」



春蘭がそう言うので店員は怪訝な表情をしながらも春蘭から離れる。

もはや彼女の頭には視察という当初の目的は残っていないだろう。



「うむ、これも悪くない……。ああ、あれも……」


(ダメだこの人。早くなんとかしなきゃ……)



奈々瑠がそう思ってた時、メガネをかけ小洒落た服装をした女の子、沙和が不意に春蘭に話しかけてきて、別の服を手に取る。



「じゃあ、これは?」


「おおっ。これは素晴らしい!」


「やっぱりなの! それだったら、こっちも合うと思うのー」


「……そうかぁ? それはイマイチだろう。むしろ、これを内側に合わせた方が……」


「おおーっ。お姉さん、なかなかやるのー」


「お主もな……って、誰だ貴様っ!」


(今更気付いたの!?)


「うーん。さっきから、服を見る眼が凄く熱かったから……。こういう服が好きなら、これも気にいるんじゃないかなーって思ったの」


「ほぅ。最近はそういうのが流行りなのか」


「そうなのー。でもお姉さんは、自分のこだわりがちゃんとあるみたいなの」


「フッ、貴様、この私とやり合う気か……? 本気になった私は、かなり凄いぞ?」


「んー。このお店、可愛い服がたくさんあるし……分かったの! その勝負、受けて立つの!」



二人は服に対して譲る事が出来ないこだわりを持っているようで、二人の闘いはますますヒートアップする。特に春蘭は華琳に関係する事となると普段以上のスペックを発揮する人物な上に、言っても聞かない人物なのでもはや止める事は不可能だろう。



(何……? この熱血的な展開は……?)



奈々瑠はこの状況について行けず、すっかり置いてきぼりになっていた。

それからしばらくして……。



「……うむ、久しぶりに良い戦いであった。血がたぎったぞ!」


「私も楽しかったの。その買った服も、きっとその子に似合うと思うのー」



二人は満足げな表情で店の前に立ち。



「や、やっと終わった……」



奈々瑠は心底疲れ果てた表情で店の前に立っていた。



「しかし、少々服を買いすぎたな。これでは持って帰るまでに落としてしまいそうだ……」


(両手で抱えなきゃ持てない量を少々って言うのかしら……? ってか、私も持たされるハメになっちゃったし……)


「あー。それなら、この竹カゴを使うと良いの」



沙和はそう言って、背に背負っている竹カゴを一つ春蘭に差し出す。



「おお、それは助かる! 感謝するぞ!」


「あ、でもそれ、売り物なの……」


「なんだ、そうなのか」


「あと今思い出したけど、今日中にこのカゴ、全部売らないといけないの……」


「フッ。それならそうと早く言え。今日の勝負の礼だ。そのようなカゴ、私が全て引き取ってやろうではないか!」


「おおっ! お姉さん、太っ腹なのー!」


(ん……? あれ? でも、確かさっき服をこんなに買ったから……)


「はっはっは。誰がお腹がたゆんたゆんで子供が乗ったらフカフカだとー?」


「誰もそんな事言ってないのー」


「まあ良い。ほれ、これで……」



春蘭は服を大量に抱えてるにもかかわらず、器用に懐から財布を取り出し、沙和にお金を手渡す。

しかし……。



「…………」


「…………」


(やっぱり……)



その金額はスズメの涙ほど。どう考えても沙和が持ってる竹カゴを全部買い取る事は出来ない。



「……それは流石に、一個しか売れないの」


「……すまん」


「はぁ……」


………


……



こちらは街の右手側に居る秋蘭と臥々瑠。

こっちの通りは日用雑貨などを取り扱っている店が大半を占めている。



「…………」


「…………」



臥々瑠は気まずそうに身を縮め、チラチラと隣に立つ秋蘭の顔色を窺っている。

別に臥々瑠が秋蘭を怒らせる事をしたわけではないのだが、この異様な雰囲気のせいで話しかける事が出来ないのだ。



(うぅ……。何なの? この重っ苦しい空気は……)



秋蘭は目の前の傷だらけの女の子、凪が露天商を務めるカゴ屋の前に足を止め、さっきからずーっと目の前に並んでるカゴを凝視して、露天商の女の子はその秋蘭の様子を窺うように見つめていた。

決して二人が睨み合ってる訳じゃないのだが……。



「…………良いものだな。このカゴは」


「……どれも入魂の逸品です」


「……そうか」


「……はい」


「…………」


「…………」



再び黙り合う秋蘭と凪。

誰が見ても、異様な空気を漂わせてるのは明らかであった。



(も~。そんなにそのカゴが欲しいんなら早く買ってよ! アタシ、これ以上この空気に耐えられないよ~!)



臥々瑠としては一刻も早くこの重っ苦しい空気から解放されたいのだが、それには秋蘭がカゴを買うかどうか決めなければならないのだが……相変わらず秋蘭は黙ってカゴを凝視しているだけだった。



「…………」


「…………」


「姉ちゃん、このカゴ一つおくれや」


「……まいど」



一人の一般客が二人の間に割って入り、カゴを一つ購入し、凪は軽く会釈をして客にカゴを手渡す。

ほんの一瞬だが、その場の空気が和んだが……。



「…………」


「…………」



客が立ち去った事で、またしても異様な空気に戻ってしまう。

流石の臥々瑠も限界のようで、涙目で秋蘭に心の叫びを訴えかける。



(お願いだから早くして~!)


「……よし」


「…………っ!」



ようやく秋蘭は決断し、それを見た凪の表情がこわばる。



「……これを一つ、もらおうか」


「……はっ」



凪は姿勢を正し、秋蘭にカゴを手渡した。

それを見て、臥々瑠は心の中で安堵の息を漏らす。



(はぁ……。これでやっとこの空気から解放される……)


………


……



そうして一同は視察を終え、集合場所の突き当りの門で合流をする。



「……で?」



華琳が一同を見回す。

その場に居る全員が、どう説明したものかと困惑の表情を浮かべ黙り込む。



「どうしてみんな、揃いも揃って竹カゴなんて抱えてるのかしら?」



華琳が周りのメンバーに問いかける。

最初に口を開いたのは秋蘭だった。



「はぁ。今朝、部屋のカゴの底が抜けているのに気付きまして……」


(ホントにそうなのかなぁ……?)



臥々瑠は首を傾げながら秋蘭を見つめる。

仮に秋蘭の話が本当だとしたら、あそこまでカゴを凝視する必要はなかったはずである。



「……まあ、それなら仕方ないわね。どうせ貴方の事だから、気になって仕方なかったのでしょう?」


「は。直そうとは思っていたのですが、こればかりはどうにも……」


「いいわ。で、春蘭は? 何か山ほど入れているようだけれど……」



華琳の視線が春蘭のカゴに詰め込まれてる、大量の服に止まる



「こ、これは……季衣の土産にございます!」



春蘭はそう説明するがこれは完全な嘘。

実際は華琳のために買った服なのだが、視察をそっちのけで服選びに没頭していたなんて口が裂けても言えなかった。

当然ながら奈々瑠にもしっかりと口止めをしている。



(嘘ばっかし……)



そのため本当の事を口にしこそしないが、奈々瑠は心の中で毒づく。



「何? 服?」


「はっ! 左様にございます!」


「……そう。土産もいいけどほどほどになさいね」


「はいっ! ほどほどにしますっ!」


「……で、どうして音無もそんなカゴを背負っているのだ?」



秋蘭がカゴを背負っている零治の方を見ながら訊く。

本人も答えこそするが、カゴを買った経緯が経緯なだけに、適当にお茶を濁す。



「……こっちにもいろいろ事情があってな」


「……事情かぁ」


「……そうか」



春蘭と秋蘭も零治の表情を見て何かを読み取ったようで、深く追及はしてこなかった。



「それで、視察はちゃんと済ませたのでしょうね? カゴなり土産なりを選ぶのに時間をかけすぎたとは、言わせないわよ」


「はいっ!」


「無論です」


「ならいいわ。帰ったら今回の視察の件、報告書にまとめて提出するように。……零治、奈々瑠、臥々瑠、貴方達もね」


「了解」


「えっ? わ、私達もですか!?」



奈々瑠は自分達が言われるとは思っていなかったようで、うろたえながら華琳に訊く。



「こういう意見は質云々よりも、まずはいろいろな視点からの意見が大切なのよ。分かったわね?」


「ぜ、善処します……」


「は~い……」


(奈々瑠はともかく、臥々瑠には荷が重い気がするが……。いざとなったらオレが手伝ってやるか)



と、その時、唐突に何者かが零治達に声をかけてくる。



「そこの、若いの……」


「……誰?」


「そこの、お主……」



声の主は、目深に布を被った誰か、だった。低くしわがれた声は、老婆のようにも聞こえるし、若い男性が無理に声を作ってるようにも聞こえる。無論、かぶってる布のせいで表情はまったく分からない。



「何だ? 貴様」


「占い師か……」


「華琳様は占いなどお信じにならん。慎め!」


「……春蘭、秋蘭。控えなさい」


「は? ……はっ」


「強い相が見えるの……。希に見た事の無い、強い強い相じゃ」


「一体何が見えると? 言ってごらんなさい」


「力の有る相じゃ。兵を従え、知を尊び……。お主が持つのは、この国の器を満たし、繁らせ栄えさせる事の出来る強い相……。この国にとって、稀代の名臣となる相じゃ……」


「ほほぅ。良く分かってるではないか」



春蘭はまるで自分の事のように誇らしげに胸を張り、満足げな表情で大きく頷く。



「……国にそれだけの器が有れば……じゃがの」


「……どういう事だ」



占い師の言葉に秋蘭は眉をひそめる。



「お主の力、今の弱った国には収まりきらぬ。その野心、留まるを知らず……あふれた野心は、国を犯し、野を侵し……いずれ、この国の歴史に名を残すほどの、類い稀なる奸雄となるであろう」


「貴様! 華琳様を愚弄する気か……っ!」



激昂した秋蘭が占い師に掴みかかろうとするが……。



「秋蘭!」



華琳はそれを手で制止する。



「……し、しかし華琳様!」



秋蘭は納得のいかぬ表情で反論しようとするが、華琳は言葉に耳を貸さず、占い師に不敵な笑みを向けながら話を進める。



「そう。乱世においては、奸雄となると……?」


「左様……それも、今までの歴史に無いほどのな」


「……ふふっ。面白い。気に入ったわ。……秋蘭、この占い師に謝礼を」


「は……?」


「聞こえなかった? 礼を」


「し、しかし華琳様……」



秋蘭は占い師が華琳の事を奸雄呼ばわりしたため、謝礼を渡すのを渋る。

仕方なく華琳は零治に謝礼を渡すように命じる。



「……零治。この占い師に、幾ばくかの礼を」


「ん? ああ……」



華琳に言われ、零治はズボンのポケットから財布を取り出す。



「早くなさい」


「分かってる。そう急かすなよ……」



零治はいくらかの小銭を目の前に置かれてるお椀の中に入れる。



「乱世の奸雄大いに結構。その程度の覚悟も無いようでは、この乱れた世に覇を唱える事など出来はしない。そういう事でしょう?」


(乱世の奸雄か……。確か史実の曹操もそう言われてたんだよな……)


「それから、そこのお主……」



占い師が今度は零治に声をかける。



「今度はオレか? 何だよ?」


「大局の示すまま、流れに従い、逆らわぬようにしなされ。さもなくば、待ち受けるのは身の破滅……。くれぐれも用心なされよ?」


「……ご忠告どうも。だが生憎とオレは占いなんか信じない主義でね。自分の事は自分で決めさせてもらう」


「左様か……。ではもう一つだけ……」


「まだ何かあるのか?」


「お主が持っておる、その雲の名を冠する剣についてじゃ……」


「なに……?」



占い師の口から予想だにしない言葉が出て来たので、零治の表情がこわばる。



「その剣に秘められし、『無限にも等しい力』……。もし使うのなら、よく考えて使う事じゃ。その強大な力は……お主の命をも蝕む危険な力じゃ」


(コイツ……なぜ叢雲の事を知っている? しかし、『無限にも等しい力』だと? 一体何の事だ……?)



零治は疑問に思うが、占いを信じない主義なので深く訊こうとは思わず、それが忠告なのかどうかはっきりさせるだけに留める。



「それも忠告か……?」


「いかにも……」


「フッ。だがこの国でオレがそんな力を使わなきゃ倒せないような奴なんか居るわけ……」



普通に考えれば居るはずなとないだろう。

しかし、その考えを否定するかのように、占い師の口からある人物を連想させる言葉が出てくる。



「相手が黒き狼でもか……?」


「何っ!?」


「黒き……狼っ!?」


「それって……!」



占い師の言葉に零治、奈々瑠と臥々瑠の三人は驚きの表情を浮かべる。

今の言葉から連想される人物は三人の中では一人しか心当たりがない。



「貴様……」


「零治?」


「貴様っ! なぜ叢雲の事を、そしてなぜ奴の事を知っているんだっ!!」


「…………」



零治は凄まじい剣幕で占い師に詰め寄りながら怒声を上げ、目の前に設けられている卓をバンッと叩く。

しかし占い師は沈黙を保ったままである。

通りを歩く通行人達も何事かと零治の方にチラチラと視線を走らせる。



「質問に答えろっ!!」


「零治! やめなさい!」


「ぐっ! チッ……!」



華琳に一喝され、零治は忌々しげに舌打ちをして引き下がる。



「儂からこれ以上は語れぬ。時が来ればおのずと答えは分かる……」


「そうかい……」


「零治。行くわよ」


「ああ。だがその前に……アンタ、名は?」


「管輅ともうす……」


「管輅……か。その名、憶えといてやる……」



零治は管輅と名乗った占い師にそう告げ、その場を後にした。


………


……



「……それにしても春蘭。よく我慢したわね。偉かったわ」


「……はぁ」



視察の帰り道、華琳は占い師に対して全く怒らなかった春蘭を褒めるが、当の本人はなぜ褒められたのか理解出来ていないようで、首を傾げながら生返事をする。



(そういえば、春蘭の奴、随分と大人しかったなぁ。秋蘭はあんなに怒ってたのに)


「……なあ、音無」


「何だ?」


「乱世の奸雄とは、どういう意味だ?」



春蘭は真顔で零治に問いかける。



「…………」


「…………」


「……そういう事か」



華琳と秋蘭は絶句し、零治は納得したように言う。

秋蘭、溜め息を一つ吐き、春蘭に奸雄の意味を説明する。



「……姉者。奸雄というのは、奸知にたけた英雄という事だ」


「……そうか。かんちか」


「春蘭さん。絶対意味を解ってないでしょう……」


「ごめん。アタシも解んない……」


「お前は別に知らなくていい」


「奸知とはずる賢く、狡猾な、という意味よ」


「ええと、という事は……」



華琳が解りやすく説明するが、まだよく理解できていないようので、零治がより解りやすい言葉に置き換え補足する。



「世が乱れれば、ずる賢い手段で上にのし上がる、卑劣な奴って意味だ」


「な……なんだとぅ! あの占い師! 華琳様に何という暴言を!!」



ようやく意味を理解した春蘭が剣を抜刀してブンブンと振り回しながら憤慨する。



「華琳様、すぐに引き返しましょう! あのイカサマ占い師め! 木っ端微塵に叩き斬って、城の外堀に放り捨ててくれる!」


(木っ端微塵に叩き斬るって、どうやるんだよ? 是非とも見てみたいわ……)


「……だから、いいと言ってるでしょう、春蘭。とりあえず剣をしまいなさい」


「そうだぞ。落ち着け、姉者。そんなに剣を振り回したら危ないだろう」


「これが落ち着いてなどいられるか! くそぅ!」


(それにしても、『大局の流れに逆らえば身の破滅』に『無限にも等しい力』……か。帰ったら亜弥に話をしてみるか)


………


……



その夜、亜弥の自室にて、零治は昼間の出来事を亜弥に伝える。



「……てな事があってな」


「なるほど……」


「一体何の事だと思う?」


「さあ? そもそも、『大局』という言葉がいろんな意味で捉える事が出来ますから、判断するのが難しいですねぇ……」


「そうか……。なら、『無限にも等しい力』ってのは何の事だと思う?」



零治は管輅という占い師から言い聞かされたもう一つの言葉の意味を聞いてみるが、亜弥は渋面を作り両腕を組んで唸りながら考えてみるが、やはりこちらも分からない様子だ。



「う~ん……叢雲に秘められた『無限にも等しい力』……ですか。……すみません、さっぱり分かりません」


「いや、分からないならいいんだ。悪かったな。こんな時間に」


「いえ、こちらこそお役に立てなくて申し訳ないです」


「気にすんな。それじゃあな」



零治はそう言いながら、亜弥の部屋を後にした。

零治の気配が部屋から離れたのを確認した亜弥は一人ブツブツと呟くように言葉を漏らす。



「……『無限にも等しい力』……恐らくアレの事なんでしょうが……。まだ、黒狼がこの世界に居ると確定した訳じゃありませんから、話すべきではないでしょう。しかし、それでも本当に話すべきなのか……?」



亜弥は一人呟きながらら窓辺に佇み、月を眺める。



「……あの力は、あまりにも危険すぎる……。出来る事なら話したくはない。彼自身のためにも……」


………


……



「……はぁ。今日の実入りも、今一つだったわね」



昼間の旅芸人三姉妹の三女が宿屋の部屋で、頭を抱え、溜め息をつきながらぼやく。



「あーあ。こんなんで、大陸一の旅芸人になれるのかなぁ……」



旅芸人の次女が座ってる椅子の背もたれに力なくもたれかかりながら三女同様に現状をぼやく。



「ほら、二人とも、気にしないの。明日はきっと良い事があるってー」


「天和姉さんは気楽でいいわねぇ……」



次女が能天気な長女の天和に呆れながら言い、それを聞いた天和は頬を膨らませながら反論する。



「えー。ちーちゃんもれんほーちゃんもひどーい」



天和の抗議をよそに、一番のしっかり者の三女、人和は現状の打開策を思案し、どうするかを二人に問いかける。



「それより、何か新しい策を考えないと、本当に行き倒れよ? もう宿泊費もあまり無いのだから……」


「ちょっと、せっかくこんな都会まで来たのに、また田舎回り!? 私、絶対嫌だからね!」


「私だって嫌よ……。もっと大きな都で有名にならないと、多寡が知れているもの」


「もぅ、二人とも辛気くさいなぁ……。お姉ちゃん、外の空気吸ってくるからねー」


「はいはい。あーあ、誰か後援者が付いて、大陸中を回ったりとか出来ないかなー」


「それならせめて、もっと有名にならないとね」



人和は頭を抱え、地和は机の上に突っ伏し今の状況を嘆き、今後どうするべきか頭を悩ませる。



「あーっ、空気がおいしー!」



外に出た天和は大きく伸びをしながら言う。



「まったくもぅ~。人生まだまだ長いんだから、二人とも、もっと楽しくやれないのかなぁ……?」



天和がそう言ってた時、一人の不審な男が声をかけてきた。



「あ……あのっ!」


「んー? 誰ですかー?」


「張三姉妹の、張角さんですよね!」


「そうですけどー」


「あの、俺……張角さんの歌、凄く好きなんです! これからも頑張ってください!」


「え? ホントに? ありがとうございますー♪」


「あと……よかったらこれ、もらってください! よく知らない貴重な本らしいですから、売ったら、ちょっとはお金になると思います! 活動資金の足しにでもしてください!」



男はそう言いながら、懐から取り出した黄色い包みを手渡す。



「え? いいんですかー? 嬉しいですー♪」



天和は感謝の意を表し、男の手を優しく両手で握り締める。

突然の出来事に男は頬を緩ませ感激する。



「うお……あ、握手まで……! こっちこそありがとうございます! この手、もう一生洗いません!」


「あはは♪ 厠に行ったらちゃんと洗わなくちゃダメですよぉ♪」


「それじゃ、失礼しますっ! 追われてるので!」


「はぁ……?」



男はそう言い、逃げるようにその場を立ち去る。



「なんだったんだろ……?」


「あの、すいませーん。さっきこっちの方に、怪しい男が来ませんでしたかー?」



続いて、入れ替わるように、兵士達を率いた季衣が現れる。



「怪しい人? さあ? 見てないですけどー……」


「そうですか。ありがとうございます! じゃ、次はあっち捜しに行くよ!」


「はっ!」



季衣は兵達に指示をし、慌ただしくその場を後にした。



「なんだかみんな忙しそうだなぁ……」


「どうしたの、姉さん。何か騒がしかったみたいだけど」


「んー……よく分かんない」


「あれ。その黄色い包み、何?」



地和が天和の持ってる包みを指差しながら聞いてくる。



「なんかお姉ちゃん達を応援してくれてるって人がくれたの。売ったらお金になるかもってー」


「ホント!? ちょっと、見てみましょうよ!」


「あーっ! お姉ちゃんがもらったんだから、お姉ちゃんが開けるのー!」


「……はいはい。分かったから、早く開けてよ」



地和に促され、天和は乱暴に包み紙を破き、中身を取り出して、二人に見せびらかすように掲げる。



「えへへー。じゃーん!」


「何これ……。古い……竹簡?」



地和はもっと豪華な物が入ってるとでも思っていたのだろうか、竹簡を見て落胆したような表情になる。



「表題が書いてあるわ。ええっと……南華老仙……。太平……要術……?」



人和がメガネに手を当てながら竹簡に書かれてる題名を読み上げる。

しかもそれは華琳が捜している古書。

つまり、先程の男が華琳の下から古書を盗み出した犯人という訳である。



「何これ? こんなボロボロの本、本当に売り物になるのぉ?」


「好事家なら、内容次第で高く引き取ってくれると思うけど。でも……ちょっと待って? これ……」



人和が食い入るように古書の内容に目を通す。



「ねえねえ、ちーちゃん。これ売ったら、もうちょっとこの街に居られるかなぁ?」


「お金も良いけど、なんかこう、私としては、凄く売れっ子になる方法とかが書いてあると嬉しいんだけどなー」


「……天和姉さん」



しばらく古書の内容に目を通していた人和が何やら緊張したような面持ちで天和に呼びかける。



「なにー?」


「これ、凄いわ……。私達の思い付かなかった有名になる方法が、たくさん書いてある……」


「ちょっと……ホントに!? さっきの冗談よ?」



地和が驚いたように言う。先程冗談交じりに言った事を、よりにもよって一番のしっかり者の人和が言うのだから無理もない。

だが人和はいつになく真剣な表情で力説する。



「冗談なんかじゃないわよ。これを実践していけば、きっと……大陸を獲れるわ! 私達の歌で!」


「ホントに!?」


「ええ!」


「よ、よく分かんないけど、凄いのねー」



話についていけてない天和は、のほほんとした表情で言う。



「そうよ! 凄いのよ!」


「よぉっし! なら私達三人、力を合わせて歌でこの大陸、獲ってみせるわよ! いいわね!」


「おおーっ!」


「ええ!」



三人は力強く右手を天に高々と突き上げ、元気よく声を上げ、気合を入れる。

だがこの行為が、のちに大陸に大きな争いを巻き起こすきっかけになるとは三人は知る由もなかった。

臥々瑠「アタシには分からない……」


零治「ん? お前が先陣を切るとは珍しいな。で? 何が分からないって?」


臥々瑠「今回の秋蘭の行動。どうしてカゴ一つ買うのにあそこまで凝視する必要があったの……?」


奈々瑠「さあね。そのカゴに何か思う所があったんじゃないの?」


臥々瑠「でも、ただの竹カゴだよ?」


作者「いやいや。ただの竹カゴじゃないぞ」


臥々瑠「ほえ?」


作者「凪が言ってただろ? 『どれも入魂の一品』だって」


亜弥「確かに言ってましたが、それって普通のカゴとどう違うんですか?」


作者「たぶん……作り手の血のにじむような作業光景が見えるのさっ!」


零治「そんなカゴ、オレは持ちたくないわ……」

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