第102話 試験開始 蜀編
やっと三国の試験の話が書き終わった。まあ、話はまだまだ続くので完結までの道のりは当分先になりますけど。ゴールはまだ遠いぜ。
「フー―……」
ここは零治が担当している試験会場。といっても、会場その物は成都城の中庭を模した仮想空間であり、魏と呉の試験会場と全く同じ。待ち時間を潰すために用意しているカフェテーブルセットも同じ物だが、周りにはジュース類の缶や瓶と大量の氷が詰め込まれたクーラーボックス、その隣にも同じ型のクーラーボックスがあるが、こちらには缶ビールと氷が大量に詰め込まれている。おまけに零治が使用しているテーブルは少々大きめの作りで、氷が詰め込まれたアイスペールや未使用のグラスを置く小さな棚なども設置されているし、ジンやウイスキーのボトルも数本置かれている。この場だけ完全に零治の趣味が全開になっている空間と言えるだろう。椅子に腰掛けてる零治はタバコを吹かしながらコーヒーブレイクを堪能しているが、椅子にもたれかかって誰に言うのでもなく呟く。
「遅いなぁ。まさかオレの所だけ誰も来ないんじゃないだろうなぁ……? まあ、それならそれで全員問答無用で失格にしてやるだけだし、大幅に人数が減らせるからこっちとしては助かるが」
本来ならあるはずのない無機質な金属の扉が存在しているという異常な光景が現実世界の成都城の中庭に広がっているのだ。この世界の人から言わせればその扉はあまりにも異質。扉の先へ進むのを躊躇う者も居ないとは断言できない。それでいつまで経っても来ないという事も考えられるだろうが、零治の中にもう一つの疑問が浮上してきた。
「それとも道に迷ってるとかそんなオチじゃねぇよな? ……BD、その可能性はあるのか?」
『そんな訳ねぇだろ。相棒もあの道を通ったから分かるだろ? ここまでは一本道だったじゃねぇか。そういう風に創ったんだからな。それでどうやって道に迷うなんて器用な真似が出来るんだよ?』
「言われてみりゃそうだな。なら、もうしばらく気長に待つか」
この場には自分以外に誰も居ないし、仮想空間なので何をしても誰も咎めやしない。零治はタバコをガラスの灰皿に押し付けて火を消すと、右手を缶ビールの入ったクーラーボックスに伸ばして一本手に取り、蓋を開けるとプシッと炭酸ガスの吹き出る音がし、ツマミとしてテーブルの上に無造作に置いてあるポテチの袋もバリッと開けて酒盛りの準備を整えた。
「ひゅ~! キンキンに冷えてやがるぜ。じゃ、さっそく。……んっ、んっ、んっ」
零治は表情を綻ばせ、缶の飲み口に口をつけると一気に傾けて冷え切ったビールを流し込んで旨そうに喉を鳴らした。口の中に広がるホップとモルトの苦味と程よい炭酸の刺激、爽快な喉越しはまさしく故郷の味。例え魔法で創り上げた偽物から得てる感覚だとしても、忠実に再現しているので本物と遜色なかった。五百ミリのロング缶だというのに、零治は半分も一気に呑み干して缶を口から離すと感無量げに大きく息を吐いた。
「かぁ~っ! ウメェ! 久しぶりのビールは身体に沁みるなぁ! んで……あぐっ! むぐむぐ……んっ。やっぱビールとポテチの組み合わせは鉄板だな」
『仕事前にビールとはとんだ試験官様だな。それ以前にこの仮想世界用に創った偽物でよくそこまで喜べるものだな』
「いいじゃねぇか。オレのとっちゃコイツは故郷の味なんだ。偽物と分かっててもここまで忠実に再現できてたら嬉しくもなるさ。ちゃんとアルコール分もあるしな」
『あぁそうかい。しかし、そんなに酔っ払いたいんならその感覚を弄ってやろうか? それこそ吐きたくなるほどの感覚にしてやるぜ』
「そこまでしなくていい。それに仮に酔ってもだ、そこはお前に何とかしてもらうさ。体内のアルコールを分解してもらうなり感覚を弄ってもらうなり色々とな」
『なあ。相棒にとって俺様は何なんだ? 便利屋か何かのつもりか?』
「この場においてはそうかもな」
『あぁ~、全然嬉しくねぇや』
あくまでもこの空間は、BDの力も借りて死を疑似体験できるほどの危険な場所として用意した仮想世界なのだが、こうやって食料品なども忠実に再現して用意する事が出来る。元いた世界での酒、ビールやお気に入りのジンやウイスキーだって呑める。当然それらもBDの力があるからこそ用意できる物。零治一人ではここまでは出来ない。そういう意味ではこの場において、零治にとってBDは完全に便利屋扱いと言えるだろう。その事を嘆いているBDをよそに、ビールの味を堪能ながらバリバリとポテチを食べている零治に樺憐から通信が来た。
『零治さん。臥々瑠がオレンジサイダーをご所望なのですが用意してくれますでしょうかぁ?』
『ったく。こんな事になるんなら菓子類なんか用意するんじゃなかったぜ』
『まあそう仰らずに。娘達もなんだかんだで嬉しいのですよ。例え仮初の空間で得ている錯覚だとしても』
『喜んでもらえて光栄だね。いま用意してやる。その代わり、飲み食いした分はちゃんと働けと臥々瑠に伝えとけよ』
『ふふふ。承知しましたわぁ』
通信を終え、零治はビールの缶をテーブルに置いて右手をジュース類の缶や瓶が入ったクーラーボックスに伸ばし、オレンジサイダーの缶を手に取った。それを一旦テーブルに置くと今度は綺麗なグラスに右手に取り、左手でアイスペールのトングを掴んで氷の塊を数個摘み取ってグラスの中に落とし、最後にオレンジサイダーの缶の蓋を開けて中身を注ぎ込んだ。注文の品を用意した零治はテーブル内の何も無い空間に視線を伸ばし、左手の人差し指をその先に向けて線を引くように横にスライドさせた。するとそれに呼応するように次元の壁が裂けて小さな穴が出来上がり、零治はその穴の先にグラスを持っている右手を突っ込んだ。穴の先で何が起きてるのかは分からないが、手に持っているグラスを誰かが受け取る感触が感じられ、別のグラスが手渡されたので零治はすぐに右手を引っ込めると、手には空になったグラスが残されていた。用件は済んだので零治は意識を次元の裂け目に集中して穴を塞ぎ、空のグラスをテーブルの上に置き、再びビールを煽り始めた。
「んっ、んっ、んっ。……あぁ~。ん? ちっ。もう空になっちまったか」
『おい相棒。受験者達がいつ来るか分からねぇんだから程々にしとけよ』
「けっ! この程度の酒でオレが酔っ払うかよ。それにこっちの世界の連中から見れば、オレが何を呑んでいるのかは分からねぇだろ?」
『そうかもしれねぇが、相棒が担当するのは蜀の連中だろ? あっちには確か境遇が似ている奴が一人居たろ? 名前は確か……一刀だったか?』
「別にいいさ。この場でオレが何をしようが咎められる筋合いは無い。文句があるんなら人を待たせるなって話だ」
『やれやれ。もう酔っ払ってんのかね』
正直言って今の零治の言い分はめちゃくちゃだ。決戦前の大事な特訓を行う前に酒を呑む行為は決して褒められた事ではない。零治が担当するのは蜀のメンバーだが、向こうには人一倍真面目な関羽などもいる。彼女のような性格をした人間が今の零治の姿を見れば間違いなく怒鳴り散らすだろう。それはそれで面倒事になるだろうが、今の零治にとってそんな事はどうでもいいのである。重要なのはここで行う試験。それを済ませる事だ。それ以外の事でとやかく言われる筋合いなど無いのである。ビールの缶が空になり、空き缶を予め用意していたゴミ箱にポイッと投げ捨てると、零治は二本目の缶ビールに手を伸ばして蓋を開け、またしても一気に煽り始めたのだが、その時に今度は恭佳から通信が送られてきた。
『もしもし、零治。聞こえる』
『聞こえてる。何か用か?』
『ああ。ちょいと春蘭の説得に手を焼かされてさ。道具を用意してほしいんだけど』
『お安い御用だ。何が必要なんだ?』
『銃を一丁アンタの魔法で用意してくれ』
『……マジで言ってるのか?』
『マジだよ』
『分かった。何がいいんだ? ハンドガン? ショットガン? アサルト? サブマシンガン? ……まさかロケランとかグレランじゃねぇだろうな……?』
『こんな所で爆発系の重火器が使えるかよ。無難にハンドガンでいいよ』
『はいよ。で、どんなハンドガンがいいんだ?』
『一番いい物を頼むよ』
『分かった。とっておきの品を用意してやるよ。因みに弾はどうするんだ?』
『とりあえず実弾とゴム弾、両方用意してくれ』
『ご注文承った』
通信を終えた零治はビールの缶をテーブルの上に置き、身体の凝りをほぐすように両手を組んでい一度大きく伸びをした。ここから銃を魔法で用意するにしても決して簡単ではない。銃とは小さな部品もあるため構造も複雑だ。ならば構造が単純な銃にするという手もあるが、それだと恭佳が文句を言ってくるかもしれない。だからここではふざけない方がいいだろう。とはいえ、恭佳の口ぶりからすぐに必要な様子だったので時間もかけられない。となれば方法は一つしかなかった。
「BD、聞こえてただろ? そういうわけだから銃を用意してくれ。弾薬は実弾とゴム弾の二種類な」
『ったく。人をいいようにこき使いやがって。……ほらよ』
突如として次元の壁が裂けてその中から立て掛け型のガンラックがガーッと派手な音を立てながら、まるで列車のように進み出てきて零治の目の前で停止した。目の前のガンラックには大量の銃器類が立て掛けられて収められており、その数の多さ、種類の豊富さに零治は思わず口笛を鳴らし、椅子から立ち上がって棚の前まで進み出た。
「ひゅ~。スゲェ数の銃だな。これだけありゃ一国を相手に戦争も余裕で出来るな」
『褒めていただいて嬉しい限りだね。ほら、さっさと好きな銃を手に取れよ。それとゴム弾だが、そいつは弾頭が紺色をした弾丸が込められたマガジンだからな。忘れんなよ』
「はいはい。さーて、どれにするかね」
自分で使うわけじゃないが、ここまで豊富に揃えられると選ぶのも迷ってしまう。零治はハンドガンが集中的に収められているコーナーからどれにしようかと、棚の前で右へ左へとウロウロしていた。それから少しして、零治の眼に一丁のハンドガンが止まり、それを手に取った。その銃は通常のハンドガンのうように角張った形ではなく、前後が丸みを帯びて緩いカーブを描いた独特の形状をしていた。零治はその銃を一目見て納得したように頷き、実弾とゴム弾が込められたスペアマガジンを一本ずつ手に取り、椅子に腰掛けた。
「コイツがあるとは驚きだ。コイツにしよう。早速姉さんに届けないとな」
零治は樺憐達の所にジュースを届けた時と同じように、テーブルの何も無い空間に向かって左手の人差し指で線を引くようにピッと横にスライドさせると、次元の壁が裂けて小さな穴が宙に出来上がった。零治はその穴に向かって無造作に選んだハンドガンと二本のマガジンをポイッと投げ入れ、用が済むと穴は独りでに塞がり完全に元に戻った。やる事は済んだので、後は受験者達が来るのを待つだけ。零治はそれまでの時間を潰すように二本目のビールの残りを呑み始めた。
「んっ、んっ、んっ」
『おい、零治』
注文の品を渡してからすぐに恭佳から二度目の通信が送られてきたので、零治は空にした二本目のビールの空き缶をゴミ箱に投げ捨て、何事かと思いながら右手の人差し指を耳元まで持ってきて応答したが、零治の表情は怪訝なものだった。通信を送ってきた恭佳の声が明らかに不機嫌だからだ。
『どうした?』
『こいつは一体何だ……?』
『ご注文のハンドガンに決まってんだろ』
『アタシは一番いい物を頼んだはずだよ……』
『だからとっておきの品を用意してやったんじゃねぇか』
『どこがだ!? 何でよりにもよってVP70なんてポンコツを寄越しやがるんだ! アタシへの嫌がらせかっ!』
『ポンコツだぁ? おいおい。そいつは知る人ぞ知る名銃だぞ』
『なに言ってやがる。迷銃の間違いだろうが……。零治。アタシはこんなポンコツ銃なんか要らない。返品だ』
『ったく。オレの一押しにケチをつける気か?』
『うるさい。アンタがどう言おうが返品だ。また妙ちくりんな銃を回されちゃたまんないから、次は指定させてもらうよ』
『はいはい。で、何をお求めで?』
『デザートイーグルだ』
『姉さんは相変わらずデカくて高火力な銃がお好みだなぁ。……バレルはどうする? 何ならロングバレルにしてやろうか?』
『余計なカスタムはしなくて結構。ノーマルタイプを寄越しな』
『はいはい。承知しましたよ』
返品と言われたのでまずは手渡した銃を回収する必要がある。零治は先程と同様に左手の人差し指をピッと横にスライドさせて次元の壁に穴を開けて恭佳が居る試験会場と繋げ、穴の中に右手を突っ込んだ。右手の先は自分では見えないが、手を開いて指を内側に仰ぐ動作を繰り返し、恭佳にまずは先に渡した銃を返せと促した。それからすぐに右手に何か硬い物を叩きつけられたような痛みと感触が走り、零治は一瞬痛そうに顔を歪めると同時に素早く右手を穴から引き抜いた。掌には先程恭佳に届けたVP70と二本のマガジンが確かに手渡されていた。
「ったく。乱暴に扱いやがって。暴発したらどうするつもりだ」
零治は恭佳の銃の扱いに対して文句をブツクサと言いながら手渡されたVP70と二本のマガジンをテーブルの上に置き、ガンラックの前まで進み出てハンドガンのコーナーから、その大きさ故に一際目立っているデザートイーグルと二本のスペアマガジンを手に取り、片方のマガジンに装填されている弾の弾頭が紺色である事も確認して椅子に腰掛けると、開きっぱなしの次元の穴に向かって無造作に放り上げると、用が済んだので次元の壁の穴は独りでに塞がり、零治はテーブルにあるVP70を右手に取って、手をクルクルと回してあらゆる角度から自分にとって一押しである銃を観察した。
「ふーむ。いい銃だと思うんだがなぁ。確かに欠陥があるのは事実だけどよ」
「あっ。やっぱり零治さんだった」
「ん?」
ほんわかとした聞き覚えのある声が右からしたので、零治が何事かとそちらへ視線を向ければ桃香を始めとした蜀の面々が目の前まで来ていたのだ。ようやく受験者達がこの場に来てくれたので、零治も仕事に入る事ができるというものだ。が、皮肉めいた性格のせいでいつものように開口一番に嫌味とも取れるセリフを零治は無意識に口にしてしまった。
「ようやくご到着か。随分と待たせてくれたじゃねぇか。真打ちは最後に登場する的な余裕でも見せたかったのか?」
「ご、ごめんなさい。みんな中々前に進めなくてここまで来るのに時間がかかっちゃって。それで……」
「おいおい。ちょっとした冗談だよ。そこまでマジになって謝らなくてもいいさ」
軽い冗談のつもりで言ったのに、桃香が真剣な表情で詫びの言葉を述べ始めたので零治はそれをやめさせるべく左手を突き出して桃香を制止した。冗談とはいえ、皮肉めいた部分があるため桃香のような真面目な性格をした人間には通じないのだろう。ようやく受験者達が来てくれたのだから、余計ないざこざを起こして時間を無駄に浪費するのは零治も本位ではないのだ。
「……なあ、零治」
「ん? どうかしたか、一刀」
「零治って、確か赤壁の戦いで左眼を負傷していたはずだよね? 昨日までしていた眼帯を外してるって事は、眼は無事だったの?」
「あぁ……まあな」
「そうなんだ。よかったね」
「ありがとよ」
「それとさっきから気になってたんだけど、その右手に持っている物は……?」
「あぁ、銃だよ。何だ一刀、お前は見た事が無いのか?」
「いや、ゲームやマンガの中でとか、エアーガンぐらいなら。……それ、まさかとは思うけど……本物?」
「正真正銘の本物だ。弾も装填してるから撃てるぜ」
「じゃ、じゃあ、零治が使ってるテーブルの前にある棚の物も……」
「ああ。全部本物だ。これだけありゃ、戦争も余裕で出来るぜ。なんなら撃ってみるか? 的になる物ならいくらでもあるぞ」
「い、いいよ。遠慮しとく……」
「フッ。冗談だよ。銃の扱い方も知らねぇド素人に、いきなり本物を撃たせたりするかよ。そんな事があるのは、ゲームや映画の中だけだ。……さて、全員揃った事だし、本題に移るとしようか」
試験の全容を説明するべく、零治は椅子をガタガタと動かして桃香達の方へと向きを変えて足を組みながらコートの下に右手を突っ込み、愛煙しているタバコの箱を取り出して蓋を開くと、箱を軽く上下に振ってタバコを一本飛び出させ、口に咥えて引っ張り出すと箱をコートの下にしまってジッポライターを取り出して火を点けた。ライターの蓋を閉じるとカチャンと軽快な金属音が鳴り、零治はライターをコートの下にしまって煙を大きく吐き、試験の説明を始めた。
「フー―……。では試験の説明に入ろうか。まず、お前らの試験官を担当するのはオレだ。そして受験者に該当するのは、関羽を始めとした武人達になる。軍師は該当しないからな」
「ふむ。零治殿、ならば試験の内容は武力に関する事柄になる、という事になるのですな?」
「ああ」
「ふふっ。貴方に武の手解きをしてもらえるとは光栄の極みですな」
「星。お前のその余裕、いつまで保つかな……?」
「……なあ、零治。もしかして俺もその試験、受けなきゃダメなの……?」
自分を指差しながら不安げに訪ねてきたのは一刀だ。魏と蜀の最終決戦、そこで繰り広げた零治との一騎打ちで、彼の強さは嫌というほどに一刀も思い知っている。そんな人物から武の手解きを受けるなど、日頃から関羽達からしごきを受けている一刀に言わせると間違いなくそれ以上の地獄になるのは容易に想像がつく。だが、一刀のそんな不安に満ちた想像とは裏腹に、零治は鼻で笑って皮肉めいた笑みを彼に向けた。
「フッ。安心しろ。一刀、お前は対象外だ。第一、ここで執り行う試験はお前の想像を遥かに超えた危険が伴うんでな……」
「危険って、一体何を……?」
「……命のやり取り。ほぼ殺し合いに等しい事をするんだ。お前はそんな所に身投げでもしたいのか?」
タバコの煙を吹かしながらとんでもない発言をした零治の眼には冗談を言っている様子は無い。澄んだ蒼色の瞳は氷のように冷たく、以下に今の言葉が本気なのか嫌でも分かってしまう。零治から聞かされた言葉を耳にするなり、一刀は無言で冷や汗を流しながら首を左右にブンブンと激しく振った。
「それで結構。ここまで言っても参加するなんて言われたら、オレも扱いに困るんでな」
「ふむ。ですが零治殿、貴方一人で我ら全員に手解きをするのは少々時間がかかるのでは? まさか、全員を同時に相手にするおつもりなのですか?」
「そこまでする気は無い。オレもそこを考慮してもう一人試験官を用意してある。正直気は進まんがな……」
「もう一人? 一体誰なのです?」
「それは――」
『あぁ、零治。聞こえる?』
「ちょっと待て」
恭佳からまたしても通信が来たので話の腰を折られてしまうが、応答しないわけにはいかない。零治はタバコを左手に持ち替えて右手の人差し指を耳元まで持ってきて通信に応じたが、話は早めに切り上げたい所である。こっちにも受験者達が来ているのだから、時間の無駄な浪費はしたくないのである。
『おい今度は何だよ? こっちも受験者達が来てるから話を先に進めたいんだが』
『分かってるって。けどこっちも春蘭が強情で困ってるんだ。悪いけど銃の追加をお願いしたい』
『それは構わんが、ゴム弾があるんだからそれを使って春蘭を直接撃っちまえよ。その方が手っ取り早いぜ』
『出来ればそれはやりたくないんだよ。アンタだって今まで一緒に戦ってきた仲間に銃口なんか向けたくないだろ?』
『……まあな』
『まっ、これは最後の手段だ。次で駄目ならアタシも心を鬼にして春蘭を撃つ覚悟さ』
『分かった。で、次はどんな銃をご所望で?』
『アサルトライフル。それもオプションでグレネードランチャーを装着したやつだ。弾は実弾のみでいい』
『はいよ。グレランの弾はどうする? 榴弾? それとも焼夷弾か?』
『無難に榴弾でいい』
『注文承った。ちょっと待ってろ』
通信を終えた零治はタバコをテーブルに設置してあるガラス製の灰皿にグリグリと押し付けて火を消し、煙を吐きながら椅子から立ち上がり、スタスタとガンラックの前まで足を進めると、アサルトライフルが収納されているコーナーからガチャガチャと銃の物色を始めた。その様子は別に不自然ではないが、その前、つまり恭佳と通信をしている最中はどうだろうか。指を耳元に当ててただ黙っていた。蜀の首脳陣達にはそういう風にしか見えなかった。あまりにも不自然な光景である。どう尋ねるべきか迷う光景だったが、零治とより深く関わりあえるまたとない機会なので、我先にと言わんばかりに真っ先に星が質問を投げかけた。
「零治殿。先程急に黙ってましたが、どうかなさったのですか?」
「後で教えてやるよ。……ん~……おっ? M4A1じゃないか。コイツにするか。後はオプションのグレラン。それとサイトもつけてやるか」
念話の事を質問されても、説明したって到底理解できるはずがない。何しろ使える人間同士でないと相手の声が聞こえないのだ。それをありのまま説明したって到底信じられるはずがない。とはいえ、後で教えてやると言った手前、そのまま放置というわけにはいかないが、とりあえずその件は後回しだ。まずは恭佳から注文されたアサルトライフルの用意が先である。銃が決まったので、零治は次に別の棚からオプションのグレネードランチャーをハンドガードに組み付けられているピカティニーレールに装着し、更にオプションパーツが収納されている棚からホロサイトを一つ取り、それを銃本体の上部のピカティニーレールにリアサイトとして装着した。実戦で使用するのにも申し分ないアサルトライフルの完成である。満足気に頷いた零治はグレネードランチャーのロックを外して銃身を前にスライドさせ、棚から一発の榴弾を手に取ると装填して銃身を引き戻していつでも使える状態にすると、スペアマガジンを二本手に取り、そのまま腰掛けていた椅子に座ってテーブルの何も無い空間に左手の人差し指を突きつけ、ピッと線を引くように横にスライドさせた。その動きに呼応するようにアサルトライフルのサイズに合わせた次元の穴が開き、零治はその穴に向かってアサルトライフルとスペアマガジンを放り込むと、穴は何事もなかったかのように独りでに塞がって消えた。ひとまず余計な仕事は済んだので、零治は気を取り直すために二本目のタバコを取り出して火を点け、煙を吹かし始めた。
「フー―……。ったく。人に余計な仕事をやらせやがって」
「零治殿、今のは一体……っ!?」
「いいか、星。ここで起きる事全部に対していちいち驚いたり、あれやこれやと考えても時間の無駄だ。ここでは『これが普通』なのだと思っとけ。その方が気が楽だぞ」
「……承知しました。そうさせてもらいます」
「それでよろしい。で、話を戻すが、もう一人の試験官。そいつを今からこの場に呼んでやる。……始めに断っとくが、そいつの呼び方は普通じゃない。だがその事で疑問をぶつけるのはやめろ。こっちも無駄に疲れるからな。黙って見てるんだぞ」
零治に念を押された事で蜀の首脳陣達は無言で頷いた。その様子に大丈夫だろうと思った零治はおもむろにテーブルに置いてあるウイスキーが入った角張ったボトルを手に取ると、キャップ式の蓋を開けてボトルを引っくり返して中身をドボドボと地面の上に捨ててしまったのだ。これを酒好きの星や翠蓮が知ったらどう思うだろうか。まあそれは置いておき、ボトルの中身が綺麗に無くなると零治はそれをテーブルの上に置き、右手をコートの下に突っ込んで緩いカーブを描いた金属の棒を一本取り出した。過去に使用していた自作のバタフライナイフである。零治は右手の中でクルッと回転させるとグリップの留め金が外れて二つに別れ、中に格納されていた刃が出てきて一本のナイフに姿を変えた。これで一体何をするのかと蜀の首脳陣達が考えていた次の瞬間、零治はナイフを左手で逆手に持って刃を自分の右手に突き刺したのだ。しかも思いっきり力を入れていたので、ナイフはそのまま掌を貫通してしまった。
「つうっ! やっぱいてぇな……っ!」
「零治殿! 何をなさっているのですか!?」
「騒ぐな。黙って見ていろといったはずだぞ」
零治の異常としか思えない行動に蜀の首脳陣達は完全に言葉を失っていた。しかし、そんな周りの様子などお構いなしに零治は右手に突き刺したナイフを引き抜くと、乱暴にテーブルの上に刃を突き立てて中身を捨てた空のウイスキーのボトルを左手で手前まで引き寄せ、注ぎ口の上に右手を被せて刺し貫いた右手の傷口から溢れ出ている自分の血をボトルの中に流し込み始めたのだ。ついさっきまで琥珀色の輝きを放っていた液体が収まっていたボトルには、ドボドボとドス黒い深紅の液体で満たされていき、あっという間に七百ミリのボトルは零治の血で一杯になってしまった。
「さて……これで用意はできた」
零治はボトルの中身がこぼれなようにしっかりと蓋をし、BDから得ている異常な治癒能力で掌の傷口も瞬く間に塞がる。右手に血で満たされた瓶を片手に椅子からゆっくりと立ち上がり、事の成り行きを見守っていた桃香達に向き直った。零治が言っているもう一人の試験官、その人物をこの場に呼ぶためになぜ自傷行為をしなければならないのか全く彼女達には理解できなかった。桃香達のその考えを読み取ってなのか、零治はニヤリと意味深な笑みを浮かべて右腕を振りかぶり、ブンッと思いっきり腕を振り抜いたのだ。するとどうだ。彼の右手に握られていたボトルがまるで壁にでも叩きつけられたかのようにバリンと派手な音を立て、何な無いはずの空間で粉々に砕け散り、中に入っていた血も壁に飛び散ったようにその何もない宙にベッタリと付着して残されているのだ。あまりにも非現実的な光景。唖然とした表情で目の前の出来事を桃香達は見ていたが、まだこれだけでは終わらなかった。宙に残された零治の血はただ地面に垂れ落ちるのではなく、まるで意思でも持っているかのようにゆっくりと動いて大きな長方形を描き、更に長方形の中にある何も無い空間に幾重にも縦の筋が走って次第にその血は見た目が金属質のある物へと変質していき、あっという間に深紅の鉄格子の扉へと姿を変えたのだ。
「れ、零治さん。それって、扉なんですか?」
「ああ。そして、もう一人の試験官はこの奥に居る。……おい。入り口は創ってやったぞ。さっさと出てこい」
零治は右手で横に創り上げた鉄格子の扉を乱暴にガンガンと叩いた。扉の奥は真っ暗闇で、叩いた音も反響していたので、奥に空間があるのは確かなのだろう。一体誰を呼んだのかと桃香達が考えていたその時、扉の奥からカツーン、カツーンと等間隔で人の足音らしき音が反響しながらこちらへ近づいてきたのだ。真っ暗闇が続いている扉の先には人影など全く見えないが、足音が近づくにつれて暗闇の奥から、紅く禍々しい発光体が二つ浮かび上がり、その光は上下に軽く揺れながら扉の奥から近づいていた。もしかしたらあれはもう一人の試験官の眼なのかもしれない。しかし、人間の眼が光を放つなど異常でしかない。星、翠、蒲公英の三人も零治が戦場であんな色の眼をしていた姿は見ているが、やはり慣れるはずもなく、固唾を飲んで謎の人物が近づいてくる様子を見守っていた。やがてその人物は扉の前まで辿り着くがまだ姿は見えず、ここから見ても分かるのは紅く光っている眼だけだ。扉の奥に居る人がドアノブに手をかけたのだろうか、こちら側のノブがガチャガチャと音を立てて動いているが、扉はガタガタと揺れるだけで開く様子がなかった。
「あん? おい相棒。このドア壊れてんじゃねぇのか? ノブを回しても開かねぇぞ」
「何? ったく、しょうがねぇな。下がってろ」
零治はやれやれと言わんばかりに溜め息を一つ吐いて、テーブルに無造作に置いていたVP70に右手を伸ばして取り、スライドを引いて銃口を扉のノブ付近に向けたのだ。彼が引き金を二回連続して引くと、バンバンと二回火薬が爆ぜる音が響いて二発分の空薬莢が宙を舞い、ガンガンとドアノブ付近に弾丸が命中して火花を散らす。それから少し遅れて零治の足元付近でキーンと軽快な金属音が鳴り響き、コロコロと空薬莢が転がり落ちていた。
「ほれ。これで開いたはずだぜ?」
「ったくよぉ。随分乱暴な開け方するじゃねぇか」
「お前にだけは乱暴と言われたくねぇな。いいからさっさと出て来て桃香達に挨拶しな」
「へいへい」
零治に促され、扉の奥に居るもう一人の試験官が反対側のドアノブに手を伸ばして回すと、金属が軋むような音を立てて鉄格子の扉がゆっくりと開いたが、零治がこちら側のドアノブに向かって銃を発砲したせいで表のドアノブがポロッと外れて地面の上に転がり落ちた。扉が開いてもその先は真っ暗闇で零治が呼んだ試験官の姿は全く分からない。相変わらず眼と思われる深紅の発光体が浮かんでいるだけだが、その人物が一歩前に脚を踏み出すごとに少しずつ姿が露わになり、全身黒ずくめにして黒のロングコートを着用した一人の男性が扉の奥からようやく姿を見せたのだが、蜀の首脳陣達はその人物の姿を見て己の眼を疑った。
「えっ!?」
「ど、どうなってんだよ……これは!?」
「零治殿が……二人っ!?」
「ヒヒヒ。予想通りのリアクションありがとよ」
「……コイツがもう一人の試験官だ」
誰もが驚きを隠せなかった。鉄格子の扉の奥から姿を見せたのはもう一人の零治なのだ。姿形、服装こそ全く同じだが、新たに現れた零治にはいくつか違う点があった。まずは何と言っても深紅に発光している禍々しい瞳だ。しかも白眼の部分は真逆の真っ黒い色をしているのだ。次に左腕。最初からこの場に居た零治は拘束具のガントレットを身に着けているが、もう一人の零治にはそれが無い。そして赤壁で星につけられた左眼の傷跡。これも無いのだ。極めつけはこの下卑た喋り方。そう。新たに現れたもう一人の零治は、正確に言うと零治ではなく彼の姿を模したBDなのだ。この仮想世界を創り上げた力の大部分はBDによるもの。術者の思い通りに何でも出来る世界だ。だからこそ現実世界では肉体を持たないBDも、こうして人の形となって姿を見せる事も可能なのだ。BDは桃香達を始めとした蜀の首脳陣達を眼にすると、両手をズボンのポケットに突っ込んでどこか見下した視線を向けながら、零治に挨拶しろと言われているのに挨拶とは程遠い不遜な言葉を投げかけた。
「よお。初めましてだな、蜀の甘ちゃん共。まあ、これが二度目の顔合わせになる奴も何人か居るがな。ヒヒヒ……」
(はぁ……星の件が絡んでいるとはいえ、やっぱコイツをこの場に呼んだのは間違いだったのかもしれん……)
「れ、零治。零治って双子だったのか……?」
「姉なら一人居るが、オレにこんなタチの悪い兄弟なんか居ないぞ。一刀」
「あぁん? 相棒、そんな冷たい事言うなよなぁ。俺たちゃ一心同体だろ?」
「誤解を招くような事を言うな。追い出されてぇのか」
「おお? 俺様とケンカしてぇのか? おもしれぇ。この世界でなら全力で暴れられるからなぁ。その気があるんなら喜んで相手してやるぜ?」
「用件が済んだ後でなら受けて立ってやるぞ。血の魔導書そのモノという、これ以上特訓に相応しい相手は居ないからな」
零治と全く姿形が同じ人間がこの場に現れる。この世界の人間から言わせれば異常事態でしかないのに、その零治本人は自分と全く同じ姿のBDとごく普通に会話をしていた。この光景を見せられているせいで、蜀の首脳陣達は自分達の感覚がおかしいのだろうかと考え始めているが、全くおかしくはない。双子でもないのに全く同じ姿の人間が二人存在しているなどあり得ないのだ。目の前の光景に初めは言葉を失っていたが、星はもう一人の零治、つまりBDの言動に耳を傾けていく内に一つの疑問が浮上した。彼女の脳裏にはまだ残っているのだ。あの時の零治の姿が。
「……お主」
「あん? 何だよ?」
「お主はまさか……『あの時』の……」
「ほぉ~。憶えててくれるとは光栄じゃねぇか。趙雲だったか? ヒヒヒ……」
「星、どうしたんだよ? こいつが誰か分かるのか?」
「翠、分からないのか。こやつの正体、かつて孫策殿の軍を単独で全滅させた、零治殿とは似て非なるあの男だ……」
「何だって? ……たんぽぽ。お前分かるか?」
「ん~……言われてみると雰囲気は似てるけど、たんぽぽには分からないよ」
「……星」
「ん? 零治殿、どうかなさいましたか?」
「一つ確認したい。コイツの正体がなぜ『あの男』だと分かった。確かに眼の色や喋り方など明らかに異なる部分はあるが、姿形は間違いなくオレだぞ。なのにどうして別人だと分かったんだ」
「上手く説明できないのですが……何と言いましょうか、纏っている空気。それが明らかに違うと感じたのです。あの時よりも明確に」
「…………」
星が出した答えに零治は表情には出していないが内心不安を感じずにはいられなかった。星が言うあの時とは、零治がBDに身体を貸して呉軍に壊滅的な痛手を与えたあの戦いの事を指している。この時も星は確証はないが本能的にBDの存在、人格を感じ取っている。だが今回は明確に感じたと述べているのだ。もしかしたら零治が危惧している不安な未来の可能性が高まっているとも考えられるが、自分は専門家ではない。星に起きている身体の異変自体があり得ない事態なのだ。これについてはBDに訊くしかないが、口にするわけにはいかない。すぐ隣りに本人が居るが、零治はわざわざ念話を使ってこの事を訪ねた。
『BD、どう思う』
『どうだろうな。ただ、明確に俺様という存在を感じ取った点を考えると、覚醒の兆候が強まっている可能性は高いな』
『となると、“あれ”を実行する必要性も……』
『ああ。あるな』
『……そうか。気は進まんが、星の未来を潰さないためにはやむを得んか』
『ヒヒヒ。よく言うぜ。話を聞いた時はめちゃくちゃ食いついてたくせによ。もしかしてこの女に惚れてんのか? 相棒」
『茶化すな。そろそろ本題に戻るぞ』
『へいへい』
「零治殿、どうしたのです? また急に黙り込んだりして」
「いや、何でもない。ではそろそろ本題の説明に戻るか」
星の身体に起きている異変、これをどうやって解決するかも一つの課題であり、その方法についてはBDから一つの提案が出されている。零治が蜀の試験官を担当した最大の理由がこれなのだ。これは自分でなければ出来ない役目。そして、星の人生を狂わせてしまった。その事に対する責任でもあるのだ。とはいえ、これについては後回し。まずは本題である試験の説明をしなければいけない。
「さて、試験の対象者は既に説明した通りだ。で、次に試験の内容だが――」
「おい相棒。難しい話は全部任せるから、俺様はここでくつろがせてもらうぜ」
「勝手にしろ」
「あぁ、勝手にするさ」
姿形、声まで完全に同じなため、真面目に試験の説明をしようとしている零治とは対照的な姿のBDを眼にすると自分でも嫌な気分になる。とりあえず、零治はBDはこの場に居ない者と自分に言い聞かせて桃香達に向き直って説明を進めようとする中、BDは両手を頭の後ろに組んで身体を左右に揺らしながらカフェテーブルの方まで足を進めて椅子に腰掛け、右手をおもむろに缶ビールが詰め込まれたクーラーボックスに伸ばして、ビールを一本取り出して蓋を開けた。
「へへっ。じゃあ俺様は、コイツを一杯引っ掛けてるぜ」
「おいお前、それはオレのビールだぞ」
「堅い事言うなよ。足りなくなったらまた出せば済む話だろう? ……んっ、んっ。……っ!? ぶふぅっ!」
上機嫌な様子でビールを一気に口の中に流し込んだBDだが、機嫌のいい表情は一瞬にして消え失せ、それとは真逆の強張った表情になり、彼は口にしていたビールを盛大に吹き出してテーブルは瞬く間にビールでビチャビチャになってしまった。なぜBDがこんな反応をしたのか零治は嫌でも分かってしまう。BDがビールを吹き出した原因は間違いなく味だろう。
「うげぇぇ……。何だこりゃ!? ただ苦いだけでクソ不味いじゃねぇか! 人間ってのはこんな不味い物を呑んでんのかよ」
「不味くなんかねぇ。嫌なら呑むな。それと汚したテーブルはちゃんとお前が掃除して綺麗にしろよ」
「へいへい。分かってますよ、ご主人様」
「その呼び方もやめろ。桃香達にいらん誤解をされかねん」
BDはテーブルの一角にある折り畳まれた状態の白い布巾を手に取り、零治に言われた通り吹き出したビールでビチャビチャになったテーブルを拭き上げて綺麗にし、両手で捻ってギュッと絞り上げて水分を出して椅子の背もたれにかけてすぐに乾くようにした。日頃の言動からそういった面はいい加減そうに思えて実は割と几帳面なのかもしれない。テーブルを掃除し終えたので、今度は水色のボトルに手を伸ばし、栓を開けてBDは注ぎ口に鼻を近づけて匂いを嗅いでみたが、強い刺激臭が鼻を突き刺したのでBDは顔をしかめた。
「あん? えらく妙な匂いがするな。相棒、コイツの中身は何だ?」
「ジンだ。まさかそれも呑むつもりか?」
「ああ」
「やめた方がいいぞ。ビールを吹き出す奴にそれが呑めるとは思えんがな」
「バカにすんなよ。呑んでみせらぁ。……んっ、んっ」
「おいおい。なんて呑み方をするんだお前は」
アルコール度数が平均で四十度前後もあるジンを、BDはあろうことかグラスにも注がずにそのままラッパ呑みしたのだ。BDは人間ではないので平気なのかもしれないが、普通の人がこんな真似をすれば一気に酔いが回るし、最悪の場合は急性アルコール中毒になりかねない。普通なら零治も止めているのだろうが、BDは人じゃないのだ。呆れながら事の成り行きを見守っていたが、案の定BDはすぐに顔を歪めてジンも吹き出してしまった。
「ぶーーっ! げほ! げほ! あんだこりゃ!? まるで薬みてぇな味がするじゃねぇか! おい相棒! ホントにコイツは酒なのかよ!?」
「れっきとした酒だ。ったく。だから止めたのによ」
BDがジンの味を薬みたいだと表現したが、これはあながち間違いではない。なぜならジンの原型が薬用酒だったからである。1660年、オランダのライデン大学医学部教授、フランシスクス・シルヴィウスが作った解熱、利尿用薬用酒のイェネーバ、英語読みだとジェネヴァになるが、これが起源だと言われていて、普通に呑んでも美味なので一般化していった。更に1689年、オランダの貴族であったオレンジ公ウイリアム三世がイングランド国王として迎えられた際にこの酒もイギリスに持ち込まれ、人気を博するようになり、その際に名前も短くジンと呼ばれるようになった。そこから時が流れて十九世紀半ばに連続式蒸留器が発明されると、これまでより飛躍的に雑味が少なく、度数の高いスピリッツが蒸留できるようになり、ジンの製法も大きく様変わりした。原料自体は大きく変わらないが、まず連続式蒸留器でアルコール度数の高いスピリッツを作り、そこにジュニパーベリーなどの副材料を加えて単式蒸留する。これにより現代で流通しているドライ・ジンが世に誕生したのだ。
「……零治殿、あの男は一体何がしたいのですか」
「気にするな。ただオレの世界の酒が口に合わなくて悶絶してるだけだ」
「むっ。『零治殿の世界』の酒ですと?」
酒という言葉を耳にするなり、星は眉をピクリと動かしてBDのテーブルに視線を向けた。いや、彼女だけではない。酒好きの翠蓮や黄忠、厳顔も興味津々な様子でBDのテーブルに視線が向いているし、翠と蒲公英も視線がそちらに向いていた。自分で用意した物とはいえ、この様子に流石の零治も呆れざるを得なかった。
「おい。反応する所が違くないか?」
「零治殿、何を仰いますか。昨夜も申したではありませぬか。酒は人生の友だと。ましてやあそこにある酒が全て零治殿の世界。つまり天界の物となれば気にならぬはずがありませぬ」
「同感だね。零治、まさかあんたはあの酒を全部独り占めしようってのかい? 少しくらいあたしらに分けてくれたってバチは当たらないだろ?」
「はぁ~……。桃香、お前の所の家臣達はみんなこんな性格なのか?」
「あ、あははは……。そういうわけじゃないんだけど、星ちゃん達ってお酒が大好きだから」
「いいじゃねぇか、相棒。景気づけにちょいと呑ませてやれよ。……ほれ」
横で話を聞いていたBDは零治の考えなどおかまいなしにクーラーボックスから缶ビールを一本取り出し、無造作にそれを星達の方へと放り投げた。宙を舞い放物線を描きながら水滴を滴らせる缶ビールはゆっくりとこちらへ飛来してくるが、それは星達の手には届かず、零治が素早く左手を伸ばしてそれを掴み取り、BDを睨みつけた。
「BD。勝手な真似はするな」
「おぉ~。怖いねぇ。ビール一本ごときでそこまで目くじら立てんなよ」
「ふんっ。……んっ、んっ、んっ。あぁ~……」
全く悪びれる様子のないBDの姿に零治は鼻を鳴らしていちべつくれると、缶ビールの蓋を開けてそれを一気に喉へ流し込み、あっという間に空にして大きく息を吐いた。零治のその様子に関羽は顔をしかめ、何やら言いたそうな雰囲気を放っていた。
「ん? どうしたのだ? 愛紗よ」
「いや、何でもない」
「言いたい事があるのなら言えばよかろう。今の零治殿は敵ではないのだぞ?」
「そ、それもそうか。……おほん。失礼だが、音無よ」
「ん? 何だよ?」
「貴殿は今から我らの試験官を務める身。なのに酒を呑むのはいかがなものかと思うのだが」
「クックック。オレはこの程度の酒で酔うほど弱くない。何より、この世界ではいくら酒を呑もうが下戸でも決して酔う事は無い。オレがそういう風に設定しているんだからな」
零治の口から出た意味深なセリフ。世界を設定している。この世界の住人である桃香達から言わせると訳が分からないとしか言えない。訳が分からない点に関しては一刀も同じだが、彼は時代こそ違えど現代の世界で生きてきた身だ。流石に現実ではあり得ないが、フィクションの世界ではそういう話はかなり見聞きをしてきている。もしかしたらと思い、一刀は思い切って自分なりに考えた答えを零治にぶつけてみた。
「なあ、零治。もしかしてここって、俺達が住んでる成都城とは違う場所だったりするのか?」
「……なぜそう思うんだ?」
「零治のさっきのセリフもそうだけど、俺達が生活している成都城には無い物がここにはあるし、後あれだ。何だっけ? えぇっと……ヴァイスハイト? アレが空に無いし」
「ほぉ~。大した観察眼だな、一刀。お前の言う通りだ。ここはお前達が知る成都城とは似て非なる空間。オレが創り上げた仮想世界だ」
「似て非なる空間? 零治殿、ならばこの場は現実ではないと言うのですか?」
「そうだ。この場で執り行う試験にはさっきも言ったように危険が伴う。だがお前らを殺すような真似をするわけにはいかない。が、こっちの世界のように単なる模擬戦では付け焼き刃にもならん。お前らには、限りなく現実に近い形式で死が伴う闘い、それを疑似体験してもらわなきゃならんのでな……」
「限りなく現実に近い形式……。零治殿。まさかこの世界は、仮初の世界でありながらほぼ現実と同じだと仰るのですか?」
「ああ。この世界は現実ではないし、この場に居るお前らの肉体も本物ではない。だが、人間が持つ五感の視覚、聴覚、味覚、嗅覚、そして……痛覚も忠実に再現してある。だからここで負傷すれば当然痛みを感じるし血も出る。そして死ねば『死』を疑似体験も出来る。だからある意味現実と同じ部分はすべて同じなんだよ」
「なるほど。ふふっ。貴方も中々に悪趣味な試験を考えつきますな、零治殿」
「……星。その余裕の笑み、試験の細かい規則を聞かされた後でも維持していられるか?」
「ほお。まだ何かあると?」
零治が考え抜いた試験の内容はある意味では悪質なモノだ。だが、たった一日やそこいらでこの世界の英傑達に黒狼達と互角に闘えるほどの実力を身に付けさせるなどどう考えても不可能である。しかし、危険の巣窟でもある叡智の城内で生き延びる術を身に着けさせる事は決して不可能ではない。当然それに見合った過酷な訓練を受けてもらう必要はあるが、黒狼との決着を見届ける目的であそこへ行くのであればこれで充分であるが、その内容を知れば反発する者も必ず出るであろう試験の細かいルールを聞かせた。
「まず試験はオレ、もしくはそこでふんぞり返ってるもう一人のオレ。どちらかと制限時間付きの一本勝負をしてもらう。勝負に負けたら当然だがその時点で失格だ。ここまではいいな?」
「ええ。異論はありません」
「当初はこちらが対戦者を指名する予定だったが、これに関してはお前らに譲ろう。どちらのオレと勝負したいか好きに選べばいい。その方がこっちも安心できる」
「ああん? 相棒、今のはどういう意味で言ってんだ……?」
「さあな。自分の胸に手を当てて訊いてみたらどうだ?」
「ふむ。しかし零治殿。今の内容、聞いた限りでは別に特殊な規則は無いように思えましたが」
「ここまではな。一番重要なのはこの先だ。……勝負の間、お前らがオレ達に反撃をする事は一切認めない。得物を使ってこちらの攻撃を凌ぐ分には構わんが、あくまでも制限時間の間、お前らには防戦に徹してもらう。反撃すればその時点で問答無用で失格とする」
「なっ!? ふざけるなっ! 一体それのどこが特訓だというのだ!」
「フッ。予想通りさっそく反発する奴が出たか」
「この魏文長も舐められたものだな。貴様の提示する茶番に付き合わなくとも、裏切り者の黒狼達は我らがこの手で討ち倒してみせるっ!」
零治が提示した試験の内容を耳にするなり魏延は憤慨し、それと同時に黒狼達は自分達の手で倒すとまで豪語した。が、零治から言わせればそれはただの戯言でしかない。もはや人間というカテゴリーに当てはめてもいいのかと疑問視されるべき存在の黒狼を、この世界の武人達の力で倒せるはずがないのだ。だが魏延のようなタイプの人間には口で言っても時間の無駄でしかない。同種の人間を今まで間近で散々見てきた零治にはそれが嫌でも分かってしまう。普通なら説得をするべき場面なのに、零治は魏延を説得するどころか、逆に嫌味ったらしい笑みを浮かべながら無言で彼女に向かって拍手を送ったのだ。
「……貴様。私を馬鹿にしているのか」
「ほお。オレの皮肉が分かるか。なるほど。おつむの中身まで筋肉で出来ているかと思ったが違うようだな」
「っ!? 言ったな!」
「あはっ♪ 音無さん、焔耶の事もう分かっちゃったんだ」
「貴様も一緒に調子に乗るなっ!」
「ん? 何だ。蒲公英、お前そいつとは犬猿の仲なのか?」
「たんぽぽ、こんな脳筋と仲良くするつもりなんか無いよ」
「ふんっ! 私だって貴様と仲良くするなど願い下げだ」
「もう! たんぽぽちゃんも焔耶ちゃんもやめてってば! 音無さんの前でみっともないよ!」
「……は~い」
「桃香様がそう仰るのならば。ですが、私はこの男の言い分を認める事は出来ません」
「困ったなぁ。どうすれば焔耶ちゃんは納得してくれるの?」
「決まっています。私がこの場でこの男よりも強い事を証明してみせます」
「ほぉ~。今のは笑えない冗談だな。どうやらお前から真っ先にブチのめされたいらしいな。クソガキが……」
「相棒、待ちな」
それまで終始無言で話を聞いていたBDが横から口を挟み、全員の視線が彼に集中した。BDは不味いとボロクソに言っていた缶ビールを一本一気に呑み干すと、右手にあるアルミの缶をグシャッと握り潰し、変形した缶をその辺に無造作に投げ捨てて腰掛けていた椅子からゆっくりと立ち上がり、魏延に鋭い眼光を向けながら表情に影を落としていた。
「BD、どうした?」
「相棒、このクソガキの躾、俺様にやらせろ……」
「何?」
「コイツにはいつぞやの戦いで孫策を仕留め損ねた貸しがある。そのツケをこの場で払わせてやりてぇんだよ……」
「…………」
「安心しろ。これに関しては試験としてはカウントしねぇ。あくまでもこの件は、俺様個人の問題だ。ちゃんと躾の範囲で収めてやるよ」
「……いいだろう。ただし、くれぐれもやり過ぎるなよ」
「分~かってますよ。ヒヒヒ……」
零治が念を押し、BDは右手をヒラヒラと振りながら分かったと言っているが全く信用できない。下卑た笑い声を出しながらドス黒い殺気を纏い、ゆっくりと魏延の方へと足を進めてくその姿、仮想世界とはいえやりすぎては大問題だ。最悪の場合は自分が止めに入ればいいと、零治は言い聞かせてBDの動向を見守る事にした。
「ククク。よお。久しぶりじゃねぇか、クソガキ」
「何? 何の話だ。私は貴様と直接話すのは今日が初めてだぞ」
「ああ? 寝言言ってんじゃねぇ。俺様は相棒と姿形こそ同じだが全くの別人だ。話聞いてなかったのかぁ? その頭の中身は空っぽなんですか~?」
BDは上半身を側面から魏延に向かって傾け、バカにするかのように右手の人差し指で何度も自分の頭をツンツンと突っついた。BDの不遜な態度を見るなり、零治は右手で顔を覆いながら俯き、大きな溜め息を吐いて頭を左右に振っていた。これでは躾ではなく誰がどう見てもBDが魏延にケンカを売っているだけにしか見えない。それに魏延の性格は春蘭とほぼ同じだと零治は判断している。だからこの先の展開も予測できていたようで、案の定魏延はBDの不遜な態度に過剰な反応をしたのだ。
「貴様ぁ! 私に喧嘩を売っているのか!」
「ああ。売ってますが何か? それ以外の何に見えるんですかぁ? やっぱり頭空っぽなんですか~? ヒャハハハハっ!」
「言わせておけばぁ!」
完全に頭に血が上りきった魏延は右手で握り拳を作り、BDに殴りかかった。初っ端からこんな事をしては蜀の首脳陣達にこちらへの心象を悪くするだけにしかならないが、一分一秒が惜しい状況だ。多少は仕方ないだろうと零治も割り切っているが、内心この選択に後悔をしていた。そんな零治の心境などつゆ知らず、BDは魏延の拳をヒラリと身体を横に振って躱し、ガラ空きになっている彼女の足元に自分の足を引っ掛けて魏延を転ばせた。
「ぐあっ!?」
完全に不意を突かれたのでどうする事も出来ず、地面の上にうつ伏せ倒れ込んで無様な姿を晒してしまった。普通ならこれでも充分なのだろうが、BDが性格上ここでやめるはずもなく、彼は冷淡な笑みを浮かべながら魏延の後頭部に右足を乗せてグリグリと踏みつけ始めたのだ。
「ヒヒヒ。直情型のバカは扱いやすくて楽だぜ。おい、ザコ女。もう終わりなんですかぁ~?」
「貴様ぁ……私を愚弄する気か……っ!」
「ケッ! 思い上がってんじゃねぇぞ、ザコが。俺様を相手にしてこのザマなのに、黒狼達を倒すだぁ? 寝言は……寝てから言いなっ!」
「がはっ!?」
BDはまだ反抗的な態度を取る魏延が気に食わないのか、右足を彼女の頭から退けたかと思ったら今度は無防備な背中を一度思いっきり踏みつけた。多少は手加減しているので背骨が折れたりするなどの傷は負わせてないが、全身に走る激痛は生半可なものではない。やっている行為も人として許されざる事だ。これは決して躾などではない。大切な仲間を傷つけているBDの行為に我慢の限界を感じた一刀は声を荒げて彼に怒鳴り散らした。
「おいっ! お前何してるんだよ! いくらなんでもやりすぎだろっ!」
「ああ? んだぁ? テメェもコイツみてぇに痛めつけられてぇのか。北郷一刀ちゃんよぉ……」
「ど、どうして俺の名前を……」
「言ったはずだぜ。俺様は相棒と一心同体の存在。だから相棒が見聞きした記憶は全て共有してんだ。それに元はと言えば、テメェらの躾がなってねぇから俺様がこうしてこのガキを躾けてやってんだろうが。なあ? 魏延ちゃんよぉ……」
「気安く私の名を呼ぶな……っ!」
「まだ口答えする気か。どうやらテメェにはもっとキツい躾が必要みてぇだな……」
これだけ痛めつけても反抗的な態度を変えない魏延に、BDは表情に影を落として更に彼女の背中を踏みつけてやろうと乗せている右足を上げようとしたその時だった。右側頭部に何か硬い物を押し付けられ、冷たい感触が走ったので右に視線を動かしてみた。視線の先には、自分の頭にVP70の銃口を押し付けた零治が立っており、彼は引き金にも指をかけていつでも撃てる態勢を取っていたのだ。
「相棒。何の真似だ?」
「いま躾が必要なのは魏延ではなくお前の方だ。バカ野郎が……」
零治はそう言うなり容赦無く引き金を引いて発砲し、BDの頭を撃ち抜いたのだ。バンッという火薬が爆ぜる音がその場に鳴り渡り、排莢された空薬莢が宙を舞う。銃弾を撃ち込まれたBDの頭部からは大量の血が吹き出して彼は横へと吹っ飛んでいきながら辺りを血で汚し、そのまま地面の上に俯せにぶっ倒れてピクリとも動かなくなり、頭からは未だに大量の血を流し続けてその場に血の池を作り上げた。BDの倒れている姿に侮蔑の視線を向けている零治は忌々しげに鼻を鳴らし、ゆっくりと右腕を下ろした。
「フンッ。あれほどやり過ぎるなと言ったのに、オレの言う事を聞かないからそうなるんだ」
「れ、零治……なんて事をしてるんだよっ!?」
「ああ? 何がだよ?」
「何がじゃないだろ! 自分が何したか分かってるのかっ!? 仲間を殺したんだぞっ!」
「ケッ! 仮想世界で何を今更。それ以前にコイツは人間じゃねぇし、殺しても死なねぇよ。……おい。お前もいつまで死んだフリなんかしているつもりだ、BD。さっさと立てよ」
零治は何事も無かったかのように地面に倒れているBDに声をかけるが、彼からは一切の反応が無い。これが芝居だという事も零治はお見通しだ。普通に起こすのも癪なので、零治はさらなる脅しの言葉を投げかけた。
「立たないつもりなら、その身体に残りの銃弾を全部ブチ込んでやるぞ……」
「……ったくよぉ。相棒、なんて事してくれるんだ。いきなり人の頭に鉛弾をブチ込みやがって。お前には血も涙も無ぇのかよ」
「人の皮を被った悪魔にそんな事言われたくねぇな」
零治の行為に対して文句をブーたれながらBDはムクリと上半身を起こし、右半分が血で真っ赤に染め上がった顔でこちらに視線を向けた。銃弾を撃ち込まれた傷口からは今も大量の血が流れ出ており、そのまま地面の上にボタボタと垂れ落ちて血の池はどんどん大きく広がっていた。桃香達は頭からダラダラ流血しているBDの姿を見て顔を青ざめさせている。傍から見ると完全にホラー映画のワンシーンだ。
「あぁ~、畜生。いってぇなぁ。頭に穴が開いてるから血も止まらえねぇぞ。相棒、今の俺様どんな風に見える? 映画の中の追い詰められた主人公に見えねぇか?」
「いいや。すぐに撃たれて退場する三下のザコにしか見えんな」
「ああん!? 俺様の脳天をブチ抜いたのはオメェだろうが!」
「それはお前がやりすぎるから悪いんだろうが」
「れ、零治。一体何なんだよそいつはっ!? どうして銃で頭を撃たれても平気なんだよ!?」
「それはコイツが人間じゃないってのもあるが、この仮想世界はそういう所なんだよ。一刀、お前だってこの場では何をされても死なないんだぞ。何なら試しに、お前の頭もコイツでブチ抜いてやろうか?」
「じょ、冗談じゃないよ……」
「安心しろ。そんな事しねぇよ。仮にやったら、周りの連中が黙ってないからな。ほら。それよりもさっさと魏延を起こしてやれ」
「あ、あぁ、そうだな。焔耶、ほら。掴まって」
「ふんっ。貴様の手など借りるまでもない」
一刀は倒れている魏延に右手を差し伸べるが、彼女は一刀の事を毛嫌いしているため彼の右手を押し退けてふらつきながらも自力で立ち上がった。そしてそのまま一刀に付き添われながら桃香達の所へ戻っていくが、BDに手も足も出せなかった事がよほど悔しいのか、忌々しげに歯ぎしりをしていた。零治は魏延が立ち上がるとまだ向かってくるのではないかと思っていたが、それは無かった。だが彼女の意思をまだ確認できてはいない。それを確かめる必要があるので、彼はふらつきながら歩いている魏延の背に向かって声をかけた。
「おい、魏延。こちらが提示した条件を飲むのかまだ確認が取れていないぞ。オレ達に従うのか今すぐ答えろ」
「…………」
「まだ反発するというのなら、今度はオレがお前の躾をしなきゃならん。さっきほどじゃないにしても、もう一度痛い思いをしてもらう事になるぞ。それでも考えを変えないというのならば……お前は失格にするしかないな」
「焔耶。これ以上意地を張って魏の御遣い殿に迷惑をかけるでない。素直に彼の言う事を聞かぬか」
「桔梗様! ですが私は……っ!」
「お主の言いたい事も分からなくはない。じゃが、悔しいが儂らの実力では黒狼達に敵わぬのも紛れもない事実。それにあくまでも儂らは、彼らの闘いの決着を見届けるために同行するのだ。儂らの目的を履き違えるでない」
「……分かりました」
(ふんっ。さっきと違って随分と素直じゃないか。確か厳顔だったか?)
「すまんのぉ、御遣い殿。焔耶は頭が固くてな。こやつの非礼、儂に免じて許してほしい」
「いや、謝るのはこっちの方だ。直接手を下したわけではないにしても、明らかに躾の範疇を超えた行いだったからな。こっちこそ悪かった」
本来ならばBDのあの行き過ぎた行動から更なる諍いに発展してもおかしくなかったのに、厳顔が魏延を諭してくれたおかげで目の前の問題は解決し、魏延の言動等について代わりに謝罪をして頭まで下げたのだ。こんな姿を見せられてはこちらも謝罪せねばならない。まあ、それを抜きにしても零治は初めから謝罪するつもりだったが、とりあえずこれでようやく話が先に進める事ができるというものである。
「さて……魏延はとりあえず納得してくれたようだが、他の連中もオレが提示した条件に異論はないな?」
零治はグルリと蜀の首脳陣達を見回して改めて問いかけるが、誰も何も言わない。つまり納得してくれているという事だ。やっと試験を始める事が出来ると零治は内心安堵しつつ、BDが起こしてくれた問題行動に対するイラつきを紛らわすようにタバコをコートの下から取り出して火を点け、煙を吹かした。そのついでに制限時間を計る砂時計も取り出した。
「フー―。これでやっと仕事ができる。……おい、一刀。お前に頼みがある」
「俺に? なんだい?」
「まずはこれを持て」
「ん? これって……砂時計? なんでこんな物を俺に?」
「そいつは試験中の制限時間を計るための物だ。時間を見る係をお前にやってほしい」
「あぁ、それならお安い御用だよ。でも、どこで見てればいいんだい?」
「ん~? そこのカフェテーブルを使えよ。コーヒーとか飲み物と食い物もあるから勝手に飲み食いしていいぞ」
「それはありがたいんだけどさぁ……」
零治が言うカフェテーブルの方を一刀は見るがその表情は不安気である。それもそのはず、テーブルにはBDも居て、彼はテーブルにある零治が用意した飲食物を興味深げにあれやこれやと飲み食いしていて占領しているのだ。魏延に対してあれだけ攻撃的な事をしていたので、一刀も何かされるのではないかと不安で仕方ないのである。
「奴の事なら心配するな。怒らせない限り何もしてこねぇよ」
「ホントかよ……?」
「そんなに不安ならこの銃を護身用に持ってろ。まだ弾も残ってるから、奴に何かされそうになったら遠慮なくブッ放していいぞ」
「それも遠慮する。まあ、不安だけど身の危険を感じたらすぐに逃げるよ」
「あっそ」
本物の銃など持ちたくないし、そんな物を所持していたらそれ自体がBDを刺激する事に繋がりかねないと一刀は感じたのかもしれない。とりあえず零治から銃は受け取ろうとせず、手渡された砂時計を片手にカフェテーブルの方まで足を進め、BDの様子を伺いながら静かに椅子に腰掛けて、砂時計をテーブルの上にセットして一刀は準備を整えた。
「よし。さて、一番手は誰だ?」
「ふふっ。一番手はこの趙子龍がいただきましょうか」
「あーっ! 星ずるいのだ! 一番手は鈴々がもらうつもりだったのに!」
「すまんな、鈴々。こういう時の順番は早いもの勝ちと相場が決まっておるのだ。ですよね? 零治殿」
「いつオレがそんな事を言った? まあ、真っ先に名乗り出たのはお前なんだ。一番手はお前のものだ。星」
「だそうだぞ、鈴々」
「ぶ~……」
「フッ。膨れっ面の張飛は置いておくとして、星。お前はどっちから試験を与えてほしんだ?」
「愚問ですな。私が望む相手は零治殿、貴方以外におりませぬ」
「フー―……お前との腐れ縁、結局最後まで断ち切れないままここまで来てしまったか。まあいいだろう。望み通り相手をしてやる。来い」
零治に促され、星は彼の後についていくように歩き、場所を少しだけ変える。そこは中庭の中央付近。零治が用意したカフェテーブルとの距離も極端に離れたりしてないので、一刀も充分に視認できる距離感だし、その周囲には邪魔になるような障害物も一切無い。まさに一対一の勝負におあつらえ向きの場所である。零治はタバコを口に咥えたまま叢雲の柄に左手を添えて棒立ちの姿だが、隙は見当たらない。対峙する星は内心緊張しているが、零治にそれを悟られないように余裕の笑みを絶やさぬまま龍牙を構え、いつでも零治を迎え撃てるように体勢を整えた。
「さて、一刀。準備はいい。いつでも初めていいぞ」
「ああ。なあ、零治。因みにこの砂時計、砂が落ちきる時間はどれぐらいなんだ?」
「五分だ」
「五分? 思ったより短いんだね」
「お前にとってはな。だが、星にとっては長い長い五分間になるだろうよ……」
「ふむ。その五分とやらが一体どれほどの時間なのかは分かりませぬが、私はいくらでも貴方の試験にお付き合いする覚悟ですぞ」
「大した自信だな、星。ならばお前の覚悟、見せてもらおうじゃないか。……では、試験開始だ」
零治は口に咥えているタバコを吐き捨て、専用ベルトから叢雲を鞘ごと引き抜いてそれを左手に持ちながら悠然と歩き出したので、一刀も慌てて砂時計を引っくり返してテーブルにセットした。視認性を上げるために青色に着色された砂はサラサラと下に零れ落ちてゆく。辺りはしんと静まり返り、零治の足音だけがその場に響く中、星は全神経を集中して零治がどう動くのかを片時も眼を離さずに彼の動向を伺っていたがその矢先、零治が叢雲の柄に右手を伸ばして姿勢を低くし、地面を蹴って星との間合いを一気に詰めてお得意の高速の居合を放ったのだ。
「散れ……」
「くぅ……っ!」
星は龍牙を使って咄嗟に防御するが、零治の放った居合はただの居合ではなかった。突撃時から身を護るように全身に、縦横無尽に射程内に存在する全ての物を斬り刻む真空波の刃を発生させて星に接近し、更に己の間合いに捉えるとお得意の高速の居合も重ねて放ったのだ。零治の一撃、それと彼の周囲に渦巻く真空波の刃が龍牙にぶつかり、無数の火花を散らしてガリガリと金属の削れる音が鳴り響いた。零治はそのまま星の横を素通りすると右足で踏ん張ってブレーキを掛けながら軸にして反転し、叢雲を鞘に収めてゆっくりと立ち上がった。
「ほお。よく防いだな。褒めてやるよ……」
(零治殿の今の一撃……赤壁で使っていたものかっ! これは一時も気が抜けんな)
「まあもしかしたら偶然かもしれないからな。もう一度確かめてやる……」
(来るっ!)
零治はその場からもう一度叢雲を片手に悠然と歩きながら星に接近し、ある程度距離を縮めた所で叢雲の柄に右手を伸ばして姿勢を低くし、地面を蹴って先程と同じように真空波を身に纏いながら突撃して高速の居合を放った。星は龍牙を水平に構えながら正面にかざし、身体を捻りながら横に退避して零治の放った凶刃は躱すも彼が纏っている真空波の刃は容赦無く襲いかかり、龍牙の柄の部分からガリガリと金属の削れる無数の音が鳴り、激しい火花が散った。居合を放ちながら星の横を素通りした零治は先程と同じように右足で踏ん張ってブレーキをかけ、それを軸足にして反転して星に向き直り、叢雲を鞘に収めてゆっくりと立ち上がった。
「なるほど。どうやらさっきの一撃を躱したのも偶然ではなさそうだな」
(やはり間違い無い。零治殿のあの攻撃、見た目の剣の一振りだけでなく、実際にはそれ以上の数の太刀筋がある。しかし、一体どうやってこんな芸当を。いや、今はそのような事を考えている余裕は無い。まずは間合いを計り違えないよう集中せねばっ!)
「この様子なら難易度を上げても問題なさそうだな。次からもう少し激しく行くぞ。今度は躱せるか……?」
「望む所です」
叢雲を片手に悠然と歩いて接近してくる点は変わらないが、零治は星の側面から回り込むように遠回りに接近してきたのだ。星は龍牙を構えながら零治の動きを眼で追い、彼が視界の外に出たら少しだけ身体の向きを変えて零治を常に己の視界内に捉え続けて下手に動こうとはしなかった。その様子を面白がるように零治は鼻を鳴らして口角を上げ、叢雲の柄に右手を伸ばして低姿勢で突撃をしてきた。星は先程と同じように龍牙を正面にかざしながら身体を捻って横に飛び、零治との間合いを大きく離して叢雲の刃、そして彼が身に纏っている真空波の刃からも難を逃れ、素早く身体を反転させて零治を注視した。彼は既に身体を止めて低姿勢のまま反転してこちらを向いていたが、零治はそのままもう一度地面を蹴り、叢雲を素早く鞘に収めて突撃し高速の居合を連続して行ってきたのだ。
「つぅ……っ!」
零治は先程、次からもう少しは激しく行くと自分から宣言していた。だから星も零治が行動パターンを変えてくるだろうと予想はしていたが、実際にその場面に直面すると一つ一つの対処が紙一重のレベルになる。現に零治の連続して繰り出してきた二回目の居合は、一回目の時と同じように龍牙で防御しながら横へ飛ぶ事で躱す事は出来たが殆どギリギリだったのだ。反応が後少しでも遅ければ星は間違いなく零治が身に纏っている真空波の刃に全身を斬り刻まれていたはずだ。だがギリギリとはいえ躱したのは事実。身体を止めて右脚を軸にして反転し、叢雲を鞘に収めて立ち上がった零治は感嘆せざるを得なかった。
「大した反応速度だな。まさかこれも躱されるとは思ってもみなかったぞ」
「お褒めいただき光栄ですな。しかし、零治殿。失礼を承知で言わせてもらいますが、貴方の今の闘い方はあまりにも単調で芸がありませぬな。これでは愛紗達にも呆れられてしまいますぞ?」
「……言ってくれるじゃねぇか。いいだろう。もう少し後からやるつもりだったが予定変更だ。今からオレだからこそ出来る、悪質な戦法を見せてやる」
「悪質な戦法?」
「行くぜ。最後までついて来られるか!」
「っ!?」
零治が口火を切り、地面を蹴ってその場から低姿勢でダッシュし、全く同じ居合術を星に放った。もちろん星も零治の動きを的確に分析しながら徐々に慣れてきたので、最速最小限の動きでその一撃を躱してみせた。しかし零治はそんな事など物ともせず、素早く軸足でブレーキをかけて身体を止めると同時に反転してもう一度地面を蹴って低姿勢でダッシュし、二度目の居合を星に浴びせた。だが、この一撃も余裕とまではいかないが先程と違い、真空波の刃を龍牙で確実に防御しながら横に飛んで躱してみせた。
「やれやれ。どんな闘い方をしてくれるのかと期待してみれば、先程と変わらぬではありませぬか。零治殿、これでは訓練になりませぬぞ」
「そうやって余裕をかましてられるのも今の内だけだっ!」
「っ! 三度目が来るかっ!」
零治はもう一度地面を蹴り、低姿勢で最速のダッシュをして星に向かって居合の体勢のまま突撃を繰り出した。だが、今の零治の闘い方は居合の回数が増えているだけで戦法自体は全く変化が無い。これでは星に単調と指摘されても仕方ないだろう。しかし、三度目の居合はただの居合ではなかった。確かに零治が自分で宣言した通り、この一撃は零治だからこそ出来る悪質な戦法なのだと星はすぐに思い知らされるのだ。
「フフフ……」
「なっ! 消えた……っ!?」
零治が三度目の居合を繰り出してきたので、星は彼の攻撃を受け止めるべく龍牙を構えて体勢を整えていた。だがその矢先、零治は不敵な笑みを浮かべながらまるで散りゆく雲のように霧散して、星の目前で文字通り姿を消したのだ。星も、そしてギャラリーである桃香達も何が起きたのか全く理解できなかった。しかし、今の零治は星に考える余裕など与えるつもりは無い。消えたと思っていた次の瞬間、彼は居合の構えを維持した姿で星の右側面から姿を見せたのだ。
「どこを見ているっ!」
「っ!?」
突然の出来事に星は面食らうが、確実に零治の出現に反応できていたので彼が放った三度目の必殺の居合と真空波の刃も龍牙で防ぎながら後方へ跳躍して難を逃れた。三度目の居合を放ち、星の目の前を素通りした零治は軸足でブレーキをかけて反転し、叢雲を右手の中でクルッと回転させて鞘を水平に持ち、刀首を掌で押しながら鞘に収めてゆっくりと立ち上がる。ようやく彼の猛攻が止まったようだ。
「ふぅ……流石に今のは冷や汗をかきましたぞ」
「そう言ってる割にはあっさりと避けてくれたじゃないか」
「先程の姿をいきなり消す術、随分前に貴方と闘った時に一度見ていますからな。そのおかげなのか、身体が勝手に動いてくれたのですよ」
「つまり本能で避けたってのか? まるで野生の獣だな」
「……零治殿。私のようなうら若き乙女を獣呼ばわりするのはいささか失礼ですぞ」
「自分で自分をうら若き乙女と言ってると安っぽく聞こえるぞ。それにそうやって軽口が叩けるって事は、まだ余裕はあるようだな……」
「無論です」
「フッ。その意気やよし。せいぜいバテないように最後まで頑張ってみな」
叢雲を鞘に収めたままそれを片手に零治は悠然と歩いて星に接近するので、彼女は緊張に満ちた面持ちで龍牙を構えながら零治の次の動向を伺った。零治はその姿を面白がるように鼻を鳴らし、霧散する雲を使って歩幅五歩分ぐらいの短い距離を横に移動してみせたり、かと思えばまた霧散する雲を使って後方に下がったりと星をおちょくるような無意味な動きを繰り返し始めた。
「その動き、私を幻惑しようという魂胆なのですか?」
「さあな。自分の手の内を口頭で相手に教えてやるほどオレはお人好しじゃないぞ」
「私に小細工など不要ですぞ。正面から堂々と来れば良いのです、零治殿」
「誰が正攻法を使うと言った? 言ったはずだぞ。オレは、オレだからこそ出来る悪質な戦法を見せてやるとな……」
表情に影を落とし、氷のように冷たい笑みを浮かべながら零治はもう一度霧散する雲を使ってその場から姿を消した。またしても星の不意を突くのかと思いきや、今度は彼女の目の前に姿を表したのだ。星は零治の十八番である一撃必殺の居合を警戒して龍牙で防御しながら後方へ飛び退ろうとしたが、零治がそれよりも速く動き、叢雲を鞘に収めたまま左腕を振り上げ、そこから続け様に振り下ろすという二連続の打撃を浴びせてきたので、ガツンガツンと鈍い金属音が響いた。
「くっ!」
「まだまだぁ!」
零治の猛攻は止まらず、叢雲を振り下ろすと同時に右手を柄に伸ばして逆手に持ち、素早く抜刀して振り上げて鋭い斬撃を星の龍牙の柄に打ち込んだが、まだそれだけでは終わりではなく、続け様に逆手で持ったままの叢雲を振り下ろしてもう一撃打ち込むと、最後のダメ押しであるかのようにクルッと身体を回転させながら叢雲を順手に持ち替えて振り向きざまに横へ薙ぎ払うように振り抜き、二連続の打撃、三連続の斬撃という合計五連続攻撃を星に浴びせたのだ。だが星も負けじと龍牙を駆使してその猛攻をすべて受け止めたが、零治の一撃一撃は速いだけでなくとても重かった。龍牙の柄からは激しい火花が散り、鈍い金属音も鳴り響かせて星自身も後ろへと大きく押しやられてしまった。その様子に零治は感心したように口笛を鳴らし、あれだけ激しい攻撃を繰り出したにもかかわらず涼しい顔をして叢雲を鞘に収めた。
「これも受け止めるか。随分と強くなったものだな、星」
「はぁ、はぁ……当然です。貴方と初めて出会って負けたあの日以来、私は鍛錬を欠かさず続けてきたのですからな」
「だがそう言ってる割には息が上がってきてるぞ。もう限界なのか……?」
「まさか。最後までお付き合いいたしますぞ」
「……なんか引っかかる言い方だがまあいい。お前のやる気がまだあるという事は理解できたよ」
まだまだ闘える様子を星は見せているのだ。失格にする必要は無い。零治はまたもや納刀した叢雲を片手に悠然と歩きだして星に接近を始めた。試験が開始され、零治の猛攻を凌ぎながらその行動パターンを星は把握したつもりでいたが、高速の突撃による一撃必殺の居合、霧散する雲を駆使した瞬間移動、更に打撃に斬撃を組み合わせた剣術。これら一つ一つだけならまだ対処が何とか出来るが、この三つの行動パターンを複合されると話は別だ。フェイントなども入れられるとますます動きが読みにくくなる。しかし星はその状況に臆する事もなく、己の感覚を極限まで研ぎ澄ませて零治が次にどう動くのかを注視していた。
(さあ、零治殿。次はどう攻めてくるおつもりか……)
「フッ……」
零治は低姿勢で地面を蹴ってダッシュはしたが、その速度は最初に見せた高速の居合に比べると遅い方だ。だがこれはあくまでも星との間合いを詰めるための移動手段。だからそこまで速度は求めていないのだ。星を己の間合いに捉えた零治は叢雲の柄に右手を伸ばし、そのまま抜刀しつつ弧を描くように振り上げた。
「ふんっ!」
「っ! く……っ!」
星は零治が振り上げてきた叢雲の刃を、上体を後ろに反らして何とか躱したが、反応が少し遅かったのだろうか。陽光を煌めかせている叢雲の切っ先が前髪をかすめ、水色の髪の毛が数本宙を舞った。だがそれでも避けた事に変わりはないが、零治の攻撃がこれで終わりのはずがない。そう予測していた星は、零治が叢雲の刃の向きを振り上げた体勢のまま変え、一歩前に踏み込み振り下ろしてきたタイミングで後方にバックステップをして間合いを開いたので、零治は忌々しげに舌打ちをして叢雲を鞘に収めた。
「チッ! これも避けたか。大した奴だな……」
「ふふっ。この趙子龍を見くびらないでいただきたいですな。いつまでも昔のままの私と思ったら大間違いですぞ」
「ほぉ~。大きく出たな。なら……」
零治はそこで言葉を区切り、チラリと一刀が使用しているカフェテーブルに置かれている砂時計に視線を向けた。サラサラと零れ落ちて下に溜まっている砂の量はおよそ半分といった所だろうか。現時点では星の試験での防戦ぶりは順調と言える。しかしこのままで終わらせるつもりなど零治は毛頭無い。彼は試験の難易度に最終段階をちゃんと用意してある。それを実行に移す時が来たと判断するべきなのだろう。
(砂の残量から見て残り時間は二分半って所か。そろそろ試験も最終段階に移すか……)
「零治殿、どうなさいました? まさかもう終わりと申すわけではないでしょうな」
「バカを言うな。まだ制限時間が半分残ってるんだ。ここから試験の難易度を最終段階まで上げてやる……」
「最終段階?」
零治は叢雲を一度右手に持ち替え、チラリと左腕を覆っている拘束具の役割もある深紅の装甲板で構築されたガントレットに視線を向ける。ガントレットの留め具に意識を集中すると、留め具はカチャカチャと音を立てて独りでに外れ、ガントレット本体も零治が意識を集中した事でスルッと勝手に外れて地面の上に落下し、ガチャンっと派手な金属音を立てた。そして次に、ガントレットの下に隠されていた何重にも巻き付けられているベルトの拘束具、これも独りでに解けてバラバラと次々に勝手に外れて地面の上に落ちていき、BDと融合した事で変異した人ならざるモノ、まるで炭のように真っ黒で所々に血管のように紅い筋が無数に走って明滅を繰り返している異形の腕が露わになった。星、翠、蒲公英、翠蓮の四人はこの腕を見るのはこれで二度目だが、桃香達はこれが初めてなのだ。自分の眼を疑わざるを得なかった。
「な、何なのだ! 音無のあの腕は……っ!?」
「にゃ? あのお兄ちゃん、自分の腕に墨でも塗ってるのか?」
「り、鈴々ちゃん。流石にそれはないと思うよ。……でも、零治さん。あの腕ほんとにどうしたんだろ」
「零治殿。今度は何をするおつもりで? その左腕を見せて桃香様達を脅かすのが目的ではありますまい」
「当たり前だ。ここからはオレも全力で行く。オレの闘い方……その眼に焼き付けなっ!」
叢雲を左手に持ち直し、吠えるように零治が天を仰ぐと彼に落雷が落ちたかのように左腕に宿るBDの魔力がほとばしり、深紅の禍々しい光がその身体から放たれた。一瞬の出来事だったが、零治に特に異変は見られない。だが、零治の姿をよく観察していた星は彼の変化に気づいた。
(ん? 零治殿の左手から剣が消えている。どこにやったのだ?)
そう。ついさっきまで零治の左手に握られていた叢雲が文字通り鞘ごとその姿を消したのだ。今の彼は左手を開いており、何も持っていない。どうなっているのかと星は思案を巡らせて零治をもう一度よく観察してみると、ある物を見つけたのだ。それは先程まで嫌でも眼にしていた叢雲の柄である。だがその存在位置に星は違和感を感じざるを得なかった。
(あれは……零治殿の剣の柄か? しかしあの位置、あれではまるで左腕の後ろにあるように見えるが……一体どうなっているのだ?)
「フッ……悪くない仕上がりだな」
「っ!? れ、零治殿……それは一体……っ!?」
零治が左腕を自分の正面にかざすように上げたおかげで星の疑問が解消された。零治の左手に持たれていた叢雲は消えたのではない。ちゃんと彼の手元にあったが、それはあまりにも非常識な光景だろう。零治の左手の手首からジョイントのように有機物、つまり腕の一部が伸びて叢雲の鞘を固定して腕と一体化しているのだ。しかもただ一体化しているのではなく、ジョイントとなっている部分はフレキシブルに稼働するおかげで鞘本体を左手で握る事も出来る。これにより零治は叢雲を片手、及び両手で振るう事が可能となったので手数が大幅に増えるだろう。
『我ヲ血ノ魔導書ト一体化サセルトハ。屈辱以外ノ何物デモナイナ』
『試験中の間だけだ。我慢しろ』
「ふぅ……貴方は本当に何でもありのお方なのですな」
「フッ。流石にもう慣れたか? さて……続きと行こうかっ!」
「っ!?」
零治は低姿勢でダッシュして星との間合いを詰め、ジョイントを稼働させて叢雲の鞘を握り締めて振り上げと振り下ろしの二連撃を放ったので星は龍牙の柄を駆使してそれを巧く凌いだ。もちろん零治の猛攻がこれで終わるわけもなく、そこから逆手で叢雲を抜刀して振り上げと振り下ろし、更に身体を回転させるタイミングで順手に持ち替えて薙ぎ払うの三連続の斬撃も浴びせた。
「つぅ……っ! 相変わらず見事な攻撃ですが、これでは前と同じですぞ」
「フッ……そう思ってるのならばお前の眼は節穴だな、星っ!」
「っ!?」
今の零治は叢雲の鞘が左腕と一体化している。だから鞘を常に持っている必要性が無いので左手が空いている状態なのだ。零治は薙ぎ払った体勢のまま左手を叢雲の柄まで伸ばして両手で握りしめ、一度後ろに引いて下から斬り上げてその一撃を星の龍牙の柄に打ち込んだ。
「くっ!」
その強力な一撃で星は両腕を跳ね上げられて防御が崩れてしまい、大きな隙を晒してしまう。零治はここぞとばかりに叢雲を両手で持ったまま宙に掲げて大きく振りかぶったので、星はすぐにバックステップをして零治との間合いを開き、それと同時に零治は深紅の魔力波が電流のように刃からほとばしる叢雲を振り下ろし、渾身の袈裟斬りを放ったのだ。
「だらぁぁぁぁっ!」
星が一瞬速く後ろに下がったおかげで零治の一撃は空振ったが、彼の太刀筋は深紅の禍々しい光を帯びていて誰もが眼にする事が出来た。おまけに最後の袈裟斬りは鋭いだけでなく、周囲に凄まじい剣圧を放って空気をビリビリと振動までさせたのだ。流石にこれほどの凶刃を前にしては百戦錬磨の星も息を飲み、冷や汗を流さずにはいられなかった。対象的に零治は大きく息を吐くと叢雲をブンッと振り下ろしてクルッと右手の中で回転させて逆手に持ち、ゆっくりと左腕に結合している鞘に収めた。
「よく躱したな。これほど優秀な生徒が相手だと、オレも難易度をここまで上げた甲斐があるってものだ」
「貴方の期待に応えれて嬉しい限りですな。ですが、私としては貴方と刃を交えた真剣勝負をしたいのが本音ですがね」
「そうかい。なら黒狼達との血戦で留守番をするというのならしてやっても構わんぞ?」
「留守番は出来ない相談ですな。この大陸の未来を決める最後の闘い……その結末を見届けないわけには参りませぬ」
「フッ。なら不合格にならないように頑張ることだな。試験も大詰めだぞ。星、ここまで来たからには最後までやり遂げてみせろっ!」
(っ! あの高速の剣術が来るかっ!)
零治がその場で居合の構えをしたので星は彼お得意の高速居合が来ると即座に察し、零治が地面を蹴って突撃して来るのと同時のタイミングで彼女も地面を蹴り、龍牙を正面にかざしながら横に大きく飛んだ。その直後に星の目の前を叢雲を振り抜いた零治が素通りし、眼には見えないが彼が身に纏っている無数の真空波の刃の存在。それを肌で感じ取った。ギャラリーとして観戦している桃香達も零治が凄い実力の持ち主なのだという事は理解できたが、それと同時に星の立ち回りにも疑問が浮かんでいた。
「う~ん……」
「朱里ちゃん、どうかしたの?」
「うん。私、武術についてはあまり詳しくないけど、星さんの動きがどうしても不自然に感じちゃうの。雛里ちゃんはそう思わない?」
「……不自然ってどういう風に?」
「音無さんの剣術が凄いのは分かるんだけど、どうしてあそこまで大きく飛んで下がったりしてるのかなぁって」
「あっ……言われてみれば確かに」
零治が放つ高速にして尚且一撃必殺の居合術。この世界の武人だけでなく、軍師達から見てもそれは眼を見張る技と言えるだろう。言い換えればそれは零治の技がそれだけ驚異とも感じられるのだ。だが、だからといって星の立ち回り方には傍から見ていると疑問を感じざるを得ないだろう。何しろ彼女は、零治が居合を放つたびに叢雲の刃渡り以上の距離を開くように飛び退って回避しているのだ。身の安全のために回避する行動は間違いではないが、蜀の武人組達から言わせると今の星の立ち回りは体力を無駄に消耗する動き方になるのだ。武人ならば必要最小限の動きで相手の攻撃を見切り、体力は温存しておくべきもの。今の今まで乱世の時代で戦い抜いてきた星がそれを忘れるはずがないし、疎かにするはずもない。関羽を始めとした武人組達も内心では星の今の立ち回りに疑問をずっと感じていたが、目の前の激闘でそれを口にするのも忘れていたが、諸葛亮が疑問を述べた事を皮切りに、蜀の首脳陣達は星の今の立ち回りに方について内に抱えている疑問を口にし始めた。
「朱里の言う通りだ。今の星の立ち回り方にはあまりにも無駄が多すぎる。一体どういうつもりであんな動きを……」
「にゃ? あれって星の作戦じゃないのか?」
「いや、鈴々。お前音無の話を聞いてなかったのか? 試験中、あたしらは反撃が出来ないんだぞ。制限時間中ひたすら音無の攻撃を避けなきゃならないのに、体力を無駄に使う動きなんかして何の意味があるんだよ?」
「もしかして星姉様、音無さんの剣術の迫力に気圧されてるんじゃない? それであそこまで大袈裟に避けてるとか」
「ふんっ。貴様みたいに腰抜けじゃあるまいし、あの星がそんな理由で逃げ腰になるものか」
「あーっ! そこまで言うんなら、次は焔耶がやってみなよ。言っとくけど、音無さんの剣術は間近で見ると本当に怖いんだからね!」
「はいはい。蒲公英ちゃんも焔耶ちゃんも喧嘩はその辺でやめなさい。でも、みんなの言う通り星ちゃんの今の立ち回りはやはり気になるわね。一体何の意図があるというのかしら」
「それは本人から訊くしかなかろう。ただ、お館様が言うには魏の御遣い殿、音無の剣術はお館様の世界の剣術とかなり似ているらしい。もしかしたらそこに秘密があるのかもしれんな」
関羽を始めとした蜀の武人組が星の今の動きについてあれやこれやと考えながら自分の意見を出し合っている。だがその中、一人だけ何も言わずにただジッと零治と星の一騎打ちを観察している人物が居た。それは呂布である。
「…………」
「ん? どうした、恋。何か気になる事でもあるのか?」
「…………星の動き」
「星の動き? 恋、お主には何か分かるというのか?」
「…………星、あの人の剣を避けてるんじゃない。もっと別の物」
「別の物? では星は何を避けるためにあんな動きをしているというのだ?」
「…………?」
「いや、そこで首を傾げられても困るのだが」
呂布は星の動きについて本能的に何かを感じ取っているのかもしれない。だが、関羽がその核心とも言える部分を質問しても呂布は黙って首を傾げるだけである。結局は分からずじまいのままだ。彼女達のやり取りは零治の耳にも聞こえていた。本来こちらの手の内を明かすのは相手に対策を取らせる事になってしまうが、このままでは星に腰抜けの不名誉な称号を与えてしまうと思い、零治は種明かしをしてやろうと考えた。
「フッ。星、何やらあれやこれやと言われているようだが?」
「別に私は気にしておりませぬ。それに、貴方との一騎打ちは慎重に慎重を重ねるぐらいが丁度いいのですよ」
「だろうな。……残り時間も僅かだ。星、オレの剣術に隠されている秘密。それを今から見せてやろう」
「おやおや。敵に手の内を明かしても良いのですか?」
「構わんさ。知られた所でオレは気にしない。それに、お前は既に本能的にその秘密を完全にではないにしても見抜いているようだしな……」
零治はそこで言葉を区切り、両眼を閉じて意識を集中する事ほんの数秒間。ゆっくりと両眼を開くと零治の眼の色はBDの力を発動した時の黒と紅のツートンカラーへと変色していた。その姿に星は恐怖を感じるが逃げるような無様な姿は晒さない。ここまで来た以上は最後までやり抜く。それが武人としての生き様だ。零治はこの姿を見ても怯まない星に感心しながら悠然と歩き、左腕から生えているジョイントを稼働させて叢雲の鞘を左手で握り締めて右手を柄へ伸ばし、地面を蹴って低姿勢で突撃してお得意の居合を星に放った。
「うらあぁぁぁぁぁっ!」
「っ! くぅ……っ!」
零治が星の目の前を素通りしながら叢雲を振り抜くと同時に、彼の周囲に深紅に発光する曲線を描いた無数の筋の真空波の刃が出現し、零治の魔力に呼応して普通の人間でも目視できるようになっていたのだ。もちろん殺傷能力も健在で、星が持つ龍牙の柄に真空波の刃が触れると無数の火花を散らしてガリガリと金属の削れる音も鳴り響き、零治はいつものように右脚でブレーキを掛けてその脚を軸にして反転し、叢雲を鞘に収めてゆっくりと立ち上がった。
「どうだ? 今のオレはこういう事も出来るんだぜ」
「ふぅ……。眼に視えるようになった事で恐ろしさが余計に伝わってきましたよ。まさか全身に無数の刃を纏っていたとは。零治殿、今の貴方はまさに歩く凶器ですな」
「フッ。今のは褒め言葉として受け取っておいてやる。……さて、ギャラリーは今のを見てどういう反応をしているかな?」
零治は攻撃の手を止めてチラリとこの闘いを傍観している蜀の首脳陣達に視線を向けた。桃香達は何が起きたのか理解できず、唖然とした表情でこちらを見ているだけ。しかしこれには魔法が絡んでいるため、その概念が存在しないこの世界の人間に理解を求めてもそれは無理な話である。だがそれでもだ、この世界で生きる武人達は視力が常人以上に発達している。だからちゃんと視えていたのだ。深紅に発光する、零治の周囲から渦を巻くように出現した無数の光の刃が星が持つ龍牙の柄に当たり、火花を散らしていた所が。
「……一体なんなのだ。音無の周囲に出現したあの光は?」
「星のさっきの動き、あの光も避けるために後ろに飛んだように鈴々には見えたのだ」
「うん。たんぽぽにもそう見えた。ひょっとして今までの星姉様の動きもあれが原因だったのかな? だけど何で? あの光に当たるとまずいの?」
「……あっ。もしかしたら」
「翠姉様、どうしたの? もしかして何か分かったの?」
「ああ。確証があるわけじゃないが、もしかするとあの光……音無の剣の太刀筋なのかもしれない」
「えっ? どうしてそう思うの?」
「たんぽぽ、忘れたのか? 赤壁で音無と勝負した時、あいつの剣術であたしらの槍に二つの傷をつけられただろ」
「お姉様、まさかあの光が原因だって言いたいの……?」
「さっきも言ったが確証は無いさ。だけど可能性は高い。あの光が星の槍にぶつかった時、一瞬だけど火花が散る所も見えたんだ」
「う~ん……おば様はどう思う?」
と、蒲公英はこれまで終始無言で両腕を組みながら零治と星の一騎打ちをジッと観察している翠蓮に質問を投げかけてみた。翠の出した推理の内容はハッキリ言って常識外れもいいとこだ。太刀筋が光となって現れ、眼に視えるなどどう考えたってあり得ない事である。だが零治はこの世界の常識が当てはまらない人物であり、大陸に降り立った天の御遣いの一人に数えられているのだ。何をしても不思議じゃない。翠蓮はそう考えていた。
「さあねぇ。常識で考えれば、翠の推理は完全に非常識な内容さ。だけど相手はあの零治だよ? 何をしても不思議じゃないんじゃないの?」
「要するにおば様にも分からないって事なのね」
「やかましい。そんなに答えが知りたいんなら後で零治に訊いてみなよ。あいつの事だ。きっと気前よく教えてくれると思うよ」
「うぅ……出来ればたんぽぽは聞きたくない」
「あらあら。蒲公英ちゃん。闘う前からそんな弱気でどうするの? 気持ちで負けてちゃ、勝てる勝負にも勝てなくなるわよ」
「紫苑の言う通りじゃな。蒲公英よ。お主も桃香様とお館様に仕える将の一人として、恥じぬ闘いをせぬ意気込みぐらい見せんか」
「そう言われてもさぁ、あの音無さんを相手にしてそんな気持ちになんてなれるわけないじゃん」
「全く情けない事を。恋を見てみろ。星との一騎打ちが始まってからずっと食い入るように見ておるぞ。あれはやる気がある証拠じゃな」
厳顔に促されて呂布の方を見てみれば、彼女は愛用している方天画戟を横に置いてその場に体育座りをして零治と星の一騎打ちをただ黙って食い入るようにジーッと見つめていた。呂布が蜀に加わってから、首脳陣達は彼女がどれだけ闘いに生きがいを感じている筋金入りの武人なのかとうに理解している。呂布のこの様子は完全に戦闘モードのスイッチが入った証拠なのである。その様子が気になったのか、董卓が声をかけた。
「恋ちゃん、どうしたの? 魏の御遣いさんが気になるの?」
「…………恋、早くあの人と闘いたい」
「はぁ……呆れた。もう火が点いちゃったの?」
「詠ちゃん。しょうがないよ。恋ちゃんは強い人を見るといつもこうなっちゃうんだから」
「それぐらい分かってるわよ。恋、念のために訊いておくけど、あんたこの試験の決まり事、ちゃんと理解しているわよね?」
「…………?」
賈駆の問いかけに対して呂布は不思議そうに首を傾げている。これは間違いなく零治が用意した試験のルールを全く理解していない証拠である。呂布は別に頭が悪いわけではないのだが、今一つ理解力が乏しい点は否めない。というのも、彼女は絵に描いたような筋金入りの武人であるため、自分が興味を引く事柄、ましてや強者を前にするとどうしても勝手気ままに闘う傾向があるのだ。そのため呂布の頭の中では、零治の試験も彼を倒す、その程度にしか認識していないのである。
「あのねぇ、恋。よ~く聞くのよ。この試験では、あんたはあの男に手は一切出しちゃ駄目なの」
「…………倒しちゃ駄目?」
「そうよ。あくまでも魏の御遣いの攻撃を制限時間中防ぐのが試験内容なんだからね。いい? 失格にされたくなかったら絶対に反撃はしちゃ駄目よ」
「…………分かった。恋、あの人に反撃しない」
「むぅ~……ねねは納得できませんぞっ! 恋殿の強さは天下一! その恋殿がなぜ御遣いの一人だからって偉ぶってるあんな男の言う事を聞かねばならないのですかっ!」
賈駆の説明のおかげで呂布は試験のルールをちゃんと理解してくれたが、なぜか一緒に居る陳宮が怒り心頭の表情で納得いかないと言わんばかりに喚き散らしていた。当然ながらその怒鳴り声は零治の耳にも届いてしまっており、彼は叢雲を鞘に収めて居合の構えを取ったまま星に視線を向けつつ、忌々しげに舌打ちをしていた。
「あのチビ……後で逆さ吊りの刑にでもしてやるか」
「零治殿。ねねはああいう性格なのですよ。あやつの言う事にいちいち腹を立てていては無駄に疲れるだけですぞ?」
「あぁそうかい。……もう砂が尽きるな。星、これが最後の一撃だ。コイツを見事に凌げたら、お前はオレ達の血戦に同行する権利を勝ち取れるぞ」
「ふふっ。望む所です。この趙子龍が貴方の用意した試験を突破し、蜀の将の強さは天の御遣いにも肉薄する事、ここで証明してみせましょうぞっ!」
「いいだろう。……ならばその眼に刻めっ! オレが繰り出す最凶の一撃を! そして見事凌いでみせろっ!」
零治が居合の構えをしたまま口火を切ると放たれる闘気が風となってコートをバサバサと激しくなびかせ、彼を中心点に深紅に輝く魔力の波動がドーム状に広がっていき、零治と星、庭木の一部などと二人が立つ空間内がその光に覆われたのだ。一体何が起こるのかと星、そして蜀の首脳陣達は緊張に満ちた面持ちで零治の次の行動を静観していた。今の所現状に変化は無く、零治が作り上げた光のドームも特に害は無さそうに思えた。星達がそう思っていた次の瞬間、零治はニヤリと口角を上げて居合の構えを維持して突撃のモーションに入ったので、星は即座に龍牙を正面にかざして防御の体勢を取ったが、彼女の行動とは裏腹に零治の姿は霧散する雲を使ったかのように一瞬にしてその場から消えてしまった。そしてその直後、光のドーム内に無数の斬撃とも思える光の筋が上下左右と縦横無尽に刃物を振るうような音を響かせて走り、深紅に光る大きな線が大量に残された。
「……何なのだ。これは」
目の前に広がる光景に誰もが唖然としていた。零治が残したと思われる光の筋はまるで電飾のようにその場に当たり前のように鎮座しており、星はその場から一歩も動けなかった。だが彼女は、そして蜀の首脳陣達はすぐにある違和感に気づいた。それは自分がいま見ている風景である。ドーム内の風景がまるで割れた鏡に映し出されているかのように、横や縦、斜めにずれたり歪んだりしているのだ。不審に思った星は自分の左手を目の前にかざすと、やはり周囲の景色と同様に、掌の中心から真横にずれて視えていた。まるで刃物で切断されたかのように。
(これは……何かまずいっ! 理由は分からぬが、この場に留まっていては危険な気がするっ! 零治殿がまだ姿を見せていないのも気になるが、今はとにかくここから離れなくてはっ!)
理由は分からないが、星はこの光のドーム内に留まるのが危険と感じたのか、彼女はまだ姿を見せていない零治を警戒しつつ、ドームの外に素早く出るかのようにバックステップをしたが、すぐのその場から出る事が出来なかった。まるで身体が水中内にあるかのように妙な浮遊感に襲われ、動きがとても緩慢になっていたのだ。
(なっ!? 身体が……重いっ! 一体何が……っ!)
「本能的に危機を感じて逃げたか。だが間に合うかな……?」
「零治殿っ!」
星がバックステップをした直後に零治は地面に片膝を突いた体勢で姿を表した。だが奇妙な事に彼は最初に居た場所から一歩も動いていないのだ。動かずしてどうやって星に一撃を浴びせるのか誰もが疑問に思っていた。しかし、それもすぐに分かる。零治の攻撃は既に終わっているのだ。後は仕上げるのみ。彼は左腕に繋げている叢雲の鞘を稼働して左手で握り締めて目の前に立てた状態でかざすと、右手にある叢雲本体を逆手に持ってゆっくりと鞘に収め始めた。その間も星は懸命に手を伸ばして少しでも早く光のドームから飛び出そうとし、少しずつその身体が外へと出ていった。
「くっ! 間に合ってくれ……っ!」
「終わりだ……」
零治が叢雲を鞘に収め、パチンという特徴的な音が一度鳴った次の瞬間である。光のドームと光の筋が音も立てずに粉々に砕け散り、ドーム内に映っていた周囲の風景、庭木などが一瞬にして切断されてバラバラになり、次々と倒れて辺りに轟音が鳴り渡り、小さな植木の葉っぱなどもバサッと派手な音が鳴って宙を舞ったのである。ついでに星の髪の毛の一部も混ざっており、彼女の水色の頭髪の束がパサッと地面の上に落ちた。
「…………」
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
星の頭髪の一部が宙を舞った所を目撃した全員が、彼女は零治との一騎打ちに敗北したのだと思っていた。だが実際は違う。星は零治が叢雲を鞘に収めた瞬間という、まさにギリギリのタイミングで光のドームの外に出る事が出来たのだ。しかし彼女の後頭部に纏めてある長い尻尾髪、それが半分ほどまだドーム内に残っていたのでそれが切断されて宙を舞ったのだ。星は龍牙を右手に持ちながら地面の上にへたり込み、肩で激しく息を切らしていたが傷一つ無い。へたり込んでいる姿は武人として無様かもしれないが、零治はそうは思っていない。星は自分が用意したこの無理難題にも等しい試験を見事にクリアしてみせたのだ。それを教えるように後ろからBDが声をかけてきた。
「相棒。砂が尽きた。時間切れだ。これが何を意味してるかは分かるよな?」
「ああ。……星、おめでとう。お前は宣言通りオレの用意した試験を見事に突破してみせた。合格だ。認めようじゃないか。お前の強さを。そして黒狼達との血戦への同行をな」
「はぁ、はぁ……お、お褒めいただき、感謝……いたします」
拍手をしながら褒め称える零治に星は感謝こそするが、体力が限界を迎えているせいで立ち上がれないし、息も未だに乱れたままである。零治はその姿にフッと息を漏らして苦笑し、スタスタとカフェテーブルの方へ足を進めると、クーラーボックスの前で立ち止まり、両手を突っ込んでキンキンに冷えた缶ビールを二本取り出してそれを両手に持ち、未だに地面の上にへたり込んでいる星の方へと歩き始めた。彼女の前で足を止めると、零治はその場にしゃがんで右手を星の顔まで突き出し、手に持っている冷え切った缶ビールを彼女の頬にピタリとくっつけた。その冷たい感触は疲れ切った星には強い刺激で、いきなりだったので彼女は驚いて飛び起きた。
「ひゃっ!? 零治殿っ! いきなり何をするのですか!」
「フフフッ。ちと冷たかったか? だがそれだけ怒鳴れりゃまだ元気がある証拠だし、火照った身体にはちょうどいい刺激だっただろ?」
「むぅ……確かに気持ち良かったですが。それは一体なんなのです?」
「お前が気になっていたオレの世界の酒の一つさ。呑めよ」
「よろしいのですか?」
「お前はオレが用意した無理難題にも等しい試験を合格したんだ。これはそれに対する褒美だ」
「ふむ。ではありがたくいただきましょうか。しかし、これはどうやって開けるのですか? 栓らしき物も見当たりませんが」
「あぁ、いま開けてやるよ」
零治は一旦右手に持っている缶ビールを地面の上に置き、左手にある缶ビールのプルタブに右手の人差し指を引っ掛けて力を加え、プルタブを起こした事で缶の蓋が押されてプシッとガスが吹き出る音が鳴り、そのまま蓋を開けて零治は星に缶を手渡した。次に彼は地面に置いたもう一本の缶ビールの蓋も開けて右手で持ち、星の持っている缶にコツンと軽く打ち付けた。
「……零治殿。盃は無いのですか?」
「これはこのまま呑むんだよ。まあ、人によっては専用のグラ……じゃなかった。盃に注いで呑む事もあるが、それはまたの機会だ。……んっ、んっ、んっ。かぁ~っ! ウメェ!」
「ふむ。……んっ、んっ。……んぅっ!?」
零治はビールの缶に口をつけて傾けると一気に喉へと流し込み、表情を綻ばせていたのでそれだけ旨い酒なのだろうと星は思った。だから彼に倣って缶に口をつけて傾け、中身のビールを同じように流し込んでみたが、星はすぐに表情を零治とは真逆の苦虫を噛み潰したように歪めた。ビールを口にすると中にホップとモルトが醸し出す独特の苦味と香りが鼻の奥にまで広がり、舌の上には炭酸の刺激が来て味を愉しむどころでは無かったのだ。しかし、零治から受け取った酒を吐き出すのは失礼と思い、星は我慢して口の中のビールを呑み下したが、今まで口にしてきた酒とは全く異なる味わいだったのですぐに缶から口を離した。
「れ、零治殿。何なのですか、この酒は……。独特の香りと苦味がしますし、それに口の中全体に小さな針を刺されたような刺激が広がって来ましたぞ」
「ははは。まっ、この世界の人間が抱く最初の感想はそうなるだろうな。だが慣れると旨いぜ。それにこの酒は味よりも喉越しを愉しむ酒なんでな。……んっ、んっ、んっ。ぷはぁ~」
「慣れるかどうかは分かりませぬが、これはありがたく頂いておきましょう」
「ああ。その代わり、その酒はチビチビやるのはやめとけよ。そいつは常温で呑む酒じゃないからな。生ぬるいビールほど不味い酒は無い」
「ふむ。承知しました。では、私は合格者として残りの者達の闘いを肴にでもして、この酒を愉しませてもらいましょうか」
「……お前結構悪趣味だな」
「何を仰います。これは武に生きる者の醍醐味ですぞ」
「オレには分からん感覚だな」
星の持論に全く共感できない零治は呆れながらビールを呑み干し、空き缶をポイッとカフェテーブル付近に設置してあるゴミ箱の中に投げ捨てた。そして一息つくためにコートの下からタバコの箱を取り出して蓋を開き、箱を軽く上下に振って一本飛び出させるとそれを口に咥えて引き抜き、ライターで火を点けて煙を吹かし始めた。星は龍牙を肩に担ぎ、零治から受け取った缶ビールを左手に持ちながら桃香達の方へと優雅な足取りで戻っていき、蜀の首脳陣達が彼女を出迎えた。
「星ちゃん、お疲れ様。怪我はない?」
「はい。この通り、傷一つ負ってはおりませんよ」
「いや、星。怪我は確かにしていないがお前、後ろの髪が……」
「ん?」
関羽に指摘されて星は龍牙左腕の脇にはさみ、右手を後頭部へと伸ばして束ねている尻尾髪を手繰り寄せると、半分ほどバッサリと切り落とされている事にようやく気がついた。後ろで束ねていた髪は腰よりもやや下辺りまでの長さがあったので、その半分まで切断されたとなると、元の長さまで伸ばすのには相当の時間が必要になるだろう。髪は乙女の命などとよく言うが、星はあまり気にしている様子は無かった。
「あぁ……随分短くされてしまったな。まあ、零治殿との勝負でこの程度で済んだのであれば、授業料としては安い方だろう」
「そ、そういうものなのか……?」
「考えてもみろ。零治殿が最後に使ったあの大技を。もしもあの場に留まっていたら、今頃私はバラバラに斬り刻まれていたのだぞ。それが髪の毛だけで済んだのは幸運と思うべきだ」
「……確かにな」
「なあ、星。お前が音無から貰ったそれは何なんだ? 何かの入れ物みたいだけど」
翠が興味を示したのは星の左手に握られているビールの缶である。アルミ缶などという容器は当然この世界には存在していない。翠だけに限らず、蜀の首脳陣達は興味津々である。中身を知れば一部の人間は更に反応する事だろう。星はそれを分かってなのか、周りに自慢するかのように缶に口をつけてビールを流し込むが、その独特の苦味に顔を歪めそうになるがそこは何とか表情に出さないように我慢して涼しげに語りだした。
「んっ。……ふぅ。これは零治殿の世界の酒だ。試験を合格した褒美という事で頂いたのだよ」
「へぇ~。良い物もらってんじゃないの、星。ちょいとあたしにも呑ませてくれよ」
「いくら翠蓮殿の頼みでもそれは聞けませぬな。どうしても欲しければ、零治殿の試験に合格して彼に頼む事ですね」
「やれやれ。ケチ臭い奴だねぇ」
「というか、星。お前はこんな時に酒を呑むとはどういう神経をしているんだ」
「全く。愛紗は堅物だな。これは零治殿から褒美として貰った物なのだぞ。彼の厚意を無下にするのは失礼ではないか」
「それはそうかもしれんが。だからといっていま呑む必要は無いだろう」
「何を言う。私は試験に合格をした身だ。つまりやるべき事を終えたのだから、酒を呑もうがそれは私の自由だぞ」
「はぁ……もう勝手にしろ」
「おい。いつまで和気あいあいして試験官を待たせるつもりだ。次は誰がやるのかさっさと決めてくれ」
いつまで経っても次の受験者が名乗り出ないので零治がタバコを吹かしながら苛立ち混じりに声をかけてきた。時間的余裕は決してあるとは言えない。しかも蜀は受験者の人数が多いのでさっさと次を捌いていかないと時間がかかりすぎるのだ。そのためにBDというもう一人の試験官も用意したのだが、魏延との諍いで印象は最悪である。恐らく零治一人で残りの武人組全員を相手にする羽目になるだろう。本人も内心そこは諦めてるし、BDにまともな仕事ぶりを期待するのも間違いなのだ。
「あははは。ごめんなさい、零治さん。それじゃあ次は誰が試験を受けるの? 受けたい人は手を上げて~」
桃香が武人組にそう呼びかけると、公孫賛一人を除いた武人組全員が無言で、しかも同時に挙手をしたのだ。因みに蒲公英は自分から手を上げようとしなかったので、翠蓮に無理やり手を引っ張られて挙手させられている。これは強者を前にした結果、武人としての血が騒いでなのか、それとも単純に次は自分がと順番をかっさらいたいからなのか。理由が何にせよやる気があるのは零治としても望ましい状況ではあるが、この光景には苦笑せざるを得ない。
「おいおい。同時に挙手されても困るんだが……」
「えぇ~っと、零治さん。この場合はどうすればいいのかな?」
「はぁ……もうそっちでクジ引きでもして順番を決めてくれ。クジの用意はこっちでしてやるよ」
「ははは。零治殿、苦労が耐えませんな。おかげでこの酒を呑む愉しみがまた一つ増えたようだ」
「……悪趣味な女め。どういう育ち方をしたらあんな捻くれた性格になるんだ」
自分の苦労するさまを見てビールを呑みながら愉しもうとする星に、零治は悪態をつきながらカフェテーブルの方へと足を進め、吸っていたタバコを灰皿にグリグリと押し付けて火を消した。次に蜀の武人組の受験順番を決めるためのクジを用意するべく、その辺に転がっている石やら木の枝やらを拾い上げてBDと一緒に物質変換魔法を使って材料を用意して工作を始めた。まさかこんな事になるとはと零治は思いつつ手を動かし、強すぎるのも考えものなのかもしれないと内心苦笑していた。魏、蜀、呉と三国の試験が始まりどれだけのメンバーが零治が用意した試験を突破できるのか。それはまだ誰にも分からない。
零治「どうした。今年のGWは話を書く暇が無かったのか?」
作者「いや、時間はあったんだが……今年の連休は『例のアレ』のせいで非常につまらなくてよ」
亜弥「……あぁ、『アレ』ですか」
作者「そっ。何のかは敢えて伏せておくがよ」
恭佳「ん? でもそれなら言い換えると、書く時間はいくらでもあったんじゃないの?」
作者「そうだけどさ、せっかくの連休に縛りが入るとストレスが溜まるだろ? そのせいか、連休中はあんまり捗らなかったんだよ」
奈々瑠「『アレ』にやられてたってオチじゃないんですね?」
作者「今の所はな。まあ、まだ安心は出来んが」
臥々瑠「だよね。外を出歩く時はやっぱりマスクしてるよね。暑くないの?」
作者「暑いに決まってんだろ。だけどそこは我慢するしかない。でなきゃ身を護れないからな」
樺憐「読者の皆さんも、『例のアレ』にはくれぐれもお気をつけくださいな」
零治「しかし……なぜこの場で注意喚起なんかしてんだ?」
作者「……他に書くネタが無かったので。それに注意喚起は悪い事じゃないだろ?」
零治「まあ、否定はしないでおいてやるよ。せいぜいお前も気をつけて生活するんだな」
作者「分かってるよ」




