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第101話 試験開始 魏編

今回の話に登場するある物、私は好きなんですけどねぇ。あの独特のデザインが特に。

とあるゲームの主人公も愛用しているし、やはり根強い人気があるという証拠なのでしょうね。

零治が用意した青色の扉を開け放つと眩い光が華琳達を出迎えたので、魏の首脳陣達は眼を細めて辺りに何も存在していない真っ白な空間内を進んでいく。しばらくすると成都城の中庭に存在していた物と全く同じ青い扉が見えてきたので、華琳は迷わずドアノブに手を伸ばして扉を開け放つ。開け放った扉の先にはどこかの庭園のような一部の光景が見えたので、華琳は扉の先に待ち受ける庭園内へと足を踏み入れ、後続者である春蘭を始めとした魏の首脳陣達も続いた。扉を潜り抜け、辺りを見回した華琳達だったが、その表情はすぐに怪訝な物へと変わった。



「これは……どういう事なの?」


「華琳様。ここは成都城の中庭……ですよね?」


「……ええ。どう見てもそうにしか思えないわね」



春蘭の言う通り、扉を潜り抜けた先に広がる風景は間違いなく成都城の中庭である。確かに自分達は零治が用意した試験会場へと続く扉の先に足を踏み入れ、いくばくかの距離を歩いていた。なのに辿り着いた先にあるのはスタート地点である成都城の中庭。これでは場所を移動していない事になる。何がどうなっているのか全く理解できない状況に置かれている華琳達の様子をよそに、開け放たれたままの青色の扉が独りでに閉まりガチャンと重い金属音が鳴り響いたので、華琳達は何事かと後ろを振り返るが特に何も起こらなかった。さっきから非現実的な出来事が連続して起きているが華琳はそれに動じる事もなく、不敵な笑みを浮かべながら辺りを注意深く観察してみた。それからすぐにある事に気づいたのだ。



「ん?」


「華琳様、どうかなさいましたか?」


「みんな、空を見てみなさい。例の城が存在していないわ」



華琳に促され、全員が空を見上げるとそこには確かに叡智の城ヴァイスハイトは存在していなかった。眼前に広がるのは雲一つ無い青空のみ。この場所に辿り着いた直後、魏の首脳陣全員が辺りが妙に明るいと感じてはいたが、これがその疑問の答えだった。アレ程の巨大な建造物がこの短時間で移動したというのは考えにくい。もちろん可能性はゼロではないが、叡智の城は黒狼が大陸全土に宣戦布告をした上で使ってきた最強の切り札なのだ。それに空に浮かんでいるのだから己の身の安全も完璧に確保されている。わざわざ移動する理由など無いはずである。



「道理で空がいつものように明るかったのですか。という事はやはり、この場所は我々が先程まで居た中庭とは違うのでしょうか? 華琳様」


「それはこの場をもう少し詳しく調べてから判断する必要があるわね」



現状では情報が少なすぎる。ここが最初から居た成都城の中庭なのか、それとも似て非なる別の場所なのか。それを知るためにはとにかく周囲を詳しく調べて情報を集めねばならない。どんな些細な情報も見逃すまいと、華琳達は辺りをくまなく見渡してみた。それからすぐに、華琳の眼に庭の中央付近に存在しているある物が止まったのだ。



「ん? あれは……」


「華琳様、何かあったのですか?」


「ええ。あそこを見てみなさい。誰か居るわ。見たところ人影は二つあるようね」


「んん~? ……なあ、秋蘭」


「どうした、姉者」


「あの人影、椅子に座って卓を囲んでいるように見えるんだが……あんな所に卓などあったか?」


「いや、少なくとも私は見た覚えが無いな」


「考えても仕方ないわ。今はとにかく、あの人影の正体が誰なのかを確かめるわよ」



ここに留まってあれやこれやと考えても埒があかない。今は少しでも情報が必要なのだ。華琳達はその場から足を進め、人影の正体が誰なのかを確かめるべく移動を開始した。距離はそこまで遠くはない。近づくにつれ、ぼんやりとしか見えていなかった人影も次第に明確に視認できるようになり、充分な距離まで近づいた所で華琳達は人影の正体が誰なのかを理解した。



「あら、貴方達だったの」


「フーー……。おっ? ようやく到着かい。来ないのかと思っていたよ」


「ずずっ……ふぅ。……ふむ。どうやら全員お揃いのようですね。感心感心」



二人分の人影の正体は亜弥と恭佳だった。二人は呉の陣営の試験を担当している樺憐達と同様に白が基調になっているカフェテーブルとセットになっている白色の椅子に腰掛け、優雅にコーヒーブレイクを堪能している最中だった。恭佳はホットコーヒーを片手に愛煙しているタバコを吹かしながらリラックスしていて、ホットコーヒーだけを堪能している亜弥もどこか知的な雰囲気を醸し出していた。



「人影の正体は貴方達だったのね。亜弥、恭佳」


「まあね」


「……零治はどうしたの? 姿が見当たらないけれど」


「彼は魏の担当ではないのですよ。だからこの場には居ないんです」


「へぇ~……提案した本人が私達ではなく他国の担当をするなんて、一体どういうつもりなのかしらね? 零治は……」



意味深なセリフを口にするなり、華琳は笑みを浮かべているがその表情には影が落ちているし氷のように冷たい。そして何より眼が全く笑っていないのだ。華琳は今までの付き合いの長さから、魏の試験官を担当するのは零治だと当然のように思っていた。なのに実際に会場に来てみれば、その零治は担当ではないのでこの場には居ない。それが気に食わないのだろう。



「華琳。何を思ってそんな顔をしているのかは敢えて訊きませんが、零治には確かめなきゃいけない事があるんだそうです。だから貴方達の担当は私達に任されたんですよ」


「確かめなきゃいけない事? 一体何よ?」


「さあ? 私達もそれは聞かされていないので知りませんよ」


「ならば零治は蜀と呉、どちらを担当しているの」


「それが知りたいのであれば、まずは零治が用意した試験を終わらせる事ですね。要件が済んだら彼が担当している試験会場まで連れて行ってあげますよ」


「…………」



今は零治がどこで何をしているのか、それを議論するためにここに来たのではない。零治と黒狼の闘いの決着を見届ける。その血戦に同行する資格を勝ち取る試験を受けるためにこの場に来たのだ。それにいま零治が何をしているのかを知った所でどうする事も出来ない。試験を放り出して彼が担当している試験会場まで行くような真似をしては、本来受けるべき試験を自分から放棄する事になるのだ。それは即ち、血戦当日は留守番を言い渡されるという事。零治の事は気になるが、今は目の前のやるべき事に集中せねばならない。華琳は一度深呼吸をして気持ちを切り替え、亜弥と恭佳に試験の内容の説明を求めた。



「ふぅ……そうね。今は私達がやるべき事に集中しましょうか。ならば亜弥、恭佳。試験内容の詳しい説明をお願いできるかしら?」


「理解していただいて何より。……恭佳。貴方もいつまでくつろいでいるつもりなんですか。そろそろ仕事を始めますよ?」


「フーー……。ん~? アタシはもう少しここでくつろいでいたいんだけどねぇ」


「恭佳。私達はここでコーヒーブレイクをするために居るわけじゃないんですよ」


「分かってるって。ちょっとした冗談じゃんか。ちゃんと役目は果たすよ。あぁ、その代わり、小難しい説明は面倒だから全部アンタに任せた」


「やれやれ」



いついかなる状況でも恭佳は決してぶれない。それは平時だろうが戦中だろうがだ。魏に降り立った天の御遣いの一人にも数えられている人物だというのに、当の本人にはその自覚が無いのか面倒事は基本いつも人任せ。これは元いた世界でも変わらない。もう慣れた事だが、最後ぐらいビシッと決める所は決めてほしいと亜弥は内心思いながらも説明役を買って出る事にした。



「さて、華琳達も来た事ですし試験の説明に入りましょうか。まずは、貴方達を受け持つ試験官は私と恭佳の二人になります。よろしくお願いしますね」


「ええ。こちらこそよろしく頼むわ。それで? 貴方達は私達を一体どうやって試すつもりなのかしら?」


「まあそう焦らずに。ちゃんと順を追って説明しますので」



華琳はいつも通り落ち着いているが、それ以外のメンバーはソワソワしていてどこか落ち着きがない。それは大陸が消滅の危機に瀕しているせいなのか、それともこの試験会場のせいなのかは分からない。今度の闘いは零治達個人で決着を着けねばならない問題だが、大陸全土が巻き込まれているからこそ華琳達も無関係ではない。だから同行すると言い出したのだが、こちらも簡単に同行を認めるわけにはいかないのだ。何しろ叡智の城では何が起きるのか予測が出来ない。だからこそ、彼女達には試験を課すのだ。無理難題にも等しい試験を。内容が内容なので落ち着いて冷静に話を聞いてもらわねばならない。亜弥はいつもと変わらぬ穏やかな口調で話を進めた。



「では、まずは試験を受けてもらう対象者ですが、これは春蘭を始めとした武人組になります。桂花、稟、風の軍師三人組は対象外です」


「ふむ。という事は、試験の内容は武力が関係したものになるのかしら?」


「そうです」


「……あの~、亜弥様ぁ。質問があるのー」



まだ説明を初めて間も無いというのに、おずおずと右手を上げて質問を投げかけてきたのは沙和だった。だが彼女の表情からテンションがだだ下がりしているのが嫌でも分かってしまう。もうこれだけで沙和が何を聞こうとしているのか亜弥はすぐに理解したが、敢えてそこはツッコまずに本人の口から言わせる事にした。



「ん? 沙和、どうしたんですか?」


「その試験、沙和も受けなきゃ駄目なのー?」


「当たり前でしょう。貴方は警備隊で小隊長を務めている人物。つまり軍師ではなく武人なんですからね」


「あう……でも、沙和そんなに強くないし、試験受ける意味なんて無いと思うのー」


「沙和っ! 何を弱気な事を言ってるんだ! 我らは音無警備隊の一員として、隊長の闘いを見届ける義務があるんだぞっ!」



沙和の弱気な発言に怒りを露わにしたのは凪だった。彼女はその真面目な性格も相まって音無警備隊が発足してから人一倍働いていた。当然ながらその全ては敬愛する隊長である零治のためにだ。その零治が宿敵である黒狼との最後の闘いに挑むのだ。しかもこの闘いの決着には大陸全土の未来がかかっている。だから決して自分達も無関係ではない。今回の闘いで出来る事は何も無いかしれない。しかし、凪としてはせめて零治達に同行して黒狼との闘いの決着を見届けたい。それが音無警備隊の一員である自分の義務と凪は考えている。だからこそ沙和のこの弱気な態度が許せないのだろう。



「うぅ~……凪ちゃんの言いたい事は沙和も分かるのー。でも、それでも沙和が弱い事に変わりはないのー」


「だからって始める前から諦めてどうするんだっ!? 沙和は隊長に役立たずの烙印を押されたいのか!」


「昨日のあれは隊長の演技だったじゃないのー」


「確かに昨日のは演技だったが、ここで投げ出すような事をしてみろ。隊長の性格を考えれば、あの人は本気でお前の事を役立たずとみなして見放す可能性は充分にあると思うが?」


「うっ……」



凪の言葉に沙和は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。警備隊が発足してからもうかなりの付き合いだ。それなりに零治の性格も理解している。彼は相手が女性だろうが言うべき事はストレートに、尚且バッサリと斬り捨てるほどの言葉を容赦なく浴びせる事がある。昨日の件は演技だったが、ここで試験を投げ出す真似をしたら何を言われるか分からない、見放されるかもしれないという恐怖心が沙和の中に芽生えた。だがこの場合、恐らく零治は何も言わないだろう。寧ろ逆にその状況を内心では歓迎すらするかもしれない。なぜなら彼は華琳達を危険な目に遭わせたくないのだ。しかしこれは零治の心情を理解していなければ分からない話である。それが分からない沙和は零治に見放されたくない思いから、諦めたように項垂れた。



「うぅ~……もう、分かったのー。沙和も試験をちゃんと受けるのー」


「最初からそう言えばいいんだ。……で、真桜。まさかお前まで沙和と同じ事を言ったりしないだろうな?」



と、凪は次に真桜にギロリと睨みを効かせた。真桜も沙和と同様に警備隊での仕事はお世辞にも真面目とは言えなかったし、面倒事も避ける傾向にあった。試験を用意してくれた零治に対して間違いなく失礼に当たるのだろうが、真桜から言わせるとやはりこれは面倒事に該当するのだ。だから凪は今回も今までと同様に沙和みたく何かしらの言い訳を並べ立てて投げ出すのではないかと思い、こうして睨みつけているのだ。だがそんな凪の考えとは対象的に、真桜は両腕を組んで不敵な笑みを浮かべていた。



「ふっふっふ。凪、ウチを腰抜けの沙和と一緒にされたら困るで?」


「むっ! 真桜ちゃんっ! 今の台詞は聞き捨てならないのー!」


「あぁもう。そう怒鳴りなや。単なる言葉のあややき。……で、話を戻すけど、ウチは当然隊長が用意した試験を受けるで! ほんで見事に合格もしたるわっ!」


「……お前にしては珍しくやる気を見せているな。警備隊の仕事ですらそんなやる気を見せた事が無かったのに、一体どういう心境の変化だ?」


「決まってんやろっ! 空に浮かぶあの城の中には、きっとウチらにはとても思いつかん未知の絡繰りがぎょうさんあるはずや! これを逃したら二度とお目にかかれへんかもしれんやろっ!?」


「そういう事か。まあ、理由が何にせよ、真桜がやる気を出してくれるのはいい事だが」


「せやろぉ。あわよくばそれを持ち帰って研究をして、ウチの発明にも役立ててやなぁ」


「真桜。一人で盛り上がってる所をすみませんがね、叡智の城にある物を持ち帰る事は認めませんよ」


「ええっ!? ね、姉さん! 何でなん!?」



亜弥から告げられた言葉は真桜にとって相当ショックな内容なので、彼女は驚きのあまり両眼を皿のように開いていた。当然ながらこれにはちゃんと理由があるし、亜弥もそれを言い聞かせるつもりだ。でなければ試験を始める前から余計ないざこざを仲間内で起こす事になる。亜弥はカップに残っているコーヒーをグイッと飲み干して息を一つ吐き、落ち着いた口調で理由を述べ始めた。



「真桜、確かに貴方の言う通り、叡智の城には貴方が考え付きもしない未知の絡繰りが多く存在していますし、その技術は貴方の今後の発明にも大いに役立つ事でしょう。現物があるのなら尚更です」


「そ、そうやろ!? そうなれば魏だけやない。この大陸全体が大きく発展できる可能性もあるんやで! それの何がいけないんや!?」


「別に魏やこの大陸が発展する事自体を悪いとは言いませんよ。ですが、私達はこの世界にあそこで造られた物を残したくないのです。いや、そもそも残してはいけないんだ。残したりすれば、この世界は間違いなく遅かれ早かれ、私達の世界と同じ運命を辿る事になる……」


「同じ運命って……なんやの?」



亜弥が真桜に叡智の城に存在している物を持ち帰らせたくない訳。それはこの大陸の未来を見据えての事。叡智の城の技術力や知識、それによって造られた物などが真桜にとって良い刺激となり、新たな発明に繋がる事自体はいい事なのだろうし、それにより魏や大陸全体が大きく発展するのも期待できる。だがそれだけで済むとは亜弥は思えなかったのだ。自分達の世界にとってもそうだったが、叡智の城からもたらされるものはこの大陸にとってパンドラの箱なのだ。



「叡智の城に存在している様々な物は、この世界の人間から見れば人知を超えた結晶と言っても過言ではない。そしてそれだけ優れた技術力……それを独占したいと思う輩が現れれば、間違いなく新たな戦争に火種となり、この大陸の未来は悲惨なものとなる」


「ちょっ! 姉さん、まさかウチらや華琳様の事が信用できんて言うんかいっ!?」


「華琳がよく出来た為政者だという事は私も分かっていますし、貴方達が間違いを犯す事もないと考えています。しかし、貴方達より後から生まれた世代はどうです? 叡智の城の全てを独占しようとはしないと断言できるのですか……?」


「それはそのぉ……」



亜弥の鋭い指摘に真桜は言い淀んで言葉に詰まってしまう。亜弥の考えは憶測の域を出ていないが、彼女の考えている通りの未来が現実になる可能性は充分にある。どれだけよく出来た人格者でも、己の野心のために欲にまみれた道を突き進む事はあり得るのだ。人間とは罪深き生き物。先達の教えをバカ正直に守り続ける保証などどこにも無いのだ。



「これで私の言いたい事が理解できたのならば、叡智の城にある物を持ち帰るのは諦めるのですね」


「せ、せやったら姉さん、見るだけなら? 見るだけやったら別にええやろっ!?」


「それくらいなら構いませんよ。物を見るだけでも、真桜の発明の新たな刺激には充分になると思いますので」


「よっしゃあ! 当初の予定とは変わったが、俄然やる気が湧いてきたでぇ!」



大陸の未来がかかっているのに、真桜の動機は見る人によっては不順と捉えられるかもしれない。だがそれが結果的に良い未来へと繋がるのであれば問題はないし、こちらの言い分も思いの外すんなりと理解してくれた。仮に叡智の城にある物を持ち帰った場合、零治を始めとした理解ある人間が管理すれば最悪の未来も回避できるかもしれないが、それも不可能なのだ。全てが終われば、自分達はこの世界を去る事になる。だから見るだけで我慢してもらうしかない。でもそれだけでも充分なのだ。真桜は賢い。叡智の城にある物を見ただけでも、新たな発明のきっかけには充分なる。それにより、魏やこの大陸も大きく発展してくれるに違いない。それを見届ける事が出来ないのは残念に思えるが、亜弥はその気持を押し殺し、本題である試験の内容についての説明を再開した。



「さて、では本題に戻りましょうか。先程も説明した通り、試験を受ける対象者は武人組。ここまではいいですね?」


「ええ」


「試験官は私と恭佳の二人です。貴方達には私か恭佳、どちらかと制限時間付きの一本勝負をしてもらいます。因み対戦相手の指名はこちらでさせてもらいます。拒否権もありません。もしも拒否した場合、その時点で失格とみなします」


「あらあら。零治も随分と厳しい試験を用意してくれたわね」


「……本当に厳しいのはここから先の規則だと思いますよ。それに特訓という名目があるとはいえ、内容を知れば反発する者も少なからず出てくるだろうと私は考えています」


「何ですって?」



零治が華琳達に用意した試験は普通の内容ではない。叡智の城、そこはこの大陸に生きた華琳達にとって未知の危険地帯なのだ。そんな所に同行させるとなれば普通の特訓では付け焼き刃ほどの効果も期待できない。何よりあそこで闘うのは零治達の役目だ。連れて行くだけでも危険だというのに、それ以上に危険な役回りを華琳達にやらせるつもりなど零治には毛頭無い。あくまでも彼女達は零治と黒狼の闘いの決着を見届ける、そのために同行するのだ。華琳達には最低限自分の身を守る術を会得してもらう。それがこの特訓の目的なのだ。



「試験中ですが、貴方達にはあくまでも防戦に徹してもらいます。獲物を使ってこちらの攻撃を防ぐのは構いませんが、反撃する事は認めません。反撃した場合、その時点で即失格とみなします」


「なっ!? 亜弥っ! 何だそのふざけた規則は! 音無は我ら武人を冒涜しているのか!」


「姉者、落ち着け」


「これが落ち着いてなどいられるかっ! 秋蘭! お前はこんなふざけた話を聞かされて何とも思わないのか!?」


「だから落ち着け。姉者の気持ちは私も分かるさ。しかしこれにもちゃんとした理由があるはずだ。まずは話を最後まで聞くべきだと思うぞ」


「せやなぁ。ウチも正直納得は出来んが、秋蘭の意見に同意やな。……亜弥、今の規則を考えたんは当然零治なんやろ?」


「勿論です」


「なら、ちゃんと説明してくれるよな? このままやとウチら武人は納得できんし、下手したら喧嘩になって試験どころや無くなるで」


「分かってますよ」



霞の言い分は亜弥も充分に理解しているし、春蘭が憤慨しているのも分かっているつもりだ。特に戦いに生き甲斐を感じている根っからの武人がこんな話を聞かされて怒らないはずがない。今の春蘭はまさにその典型。秋蘭や霞は冷静でいる分まだマシな方だろう。しかしこれは説明には骨が折れそうである。特に相手が春蘭のような筋金入りの武人となれば尚更だが、そうも言ってられない。亜弥は内心溜め息を吐きながらいつも通りの落ち着いた口調で話を進めた。



「春蘭、貴方が怒る気持ちは理解しています。ですが零治のこの采配には、貴方達の身を案じている意味があるのですよ」


「どこがだ! 私には音無が我らの実力を舐めているとしか思えんぞっ!」


「そう思われるのは仕方ないでしょうね。しかし黒狼達と直接闘うのは『私達』の役目なのです。それに、叡智の城では何が起こるのか私達にも予測は出来ない。だから貴方達の命の保証も出来ないのです。ですから零治は春蘭達に身を守る術をこの短期間で身に付けてもらおうと思って――」


「それが舐めていると言ってるのだ! 我らは今日この日まで死と隣り合わせの激戦を戦い抜いてきた! 今更どんな危険があろうと我が剣で切り拓くっ!」


「はぁ~……参りましたね。叡智の城での危険は黒狼達だけじゃないのに……」



やはり春蘭のような激情家の説得は一筋縄ではいかなかった。見ての通り状況は取り付く島もない状態。今は一分一秒たりとも時間を無駄にせず、早い所試験を始めたいというのに、このままではいつまで経っても話が先に進まない。亜弥が頭を抱えて溜め息を吐いていたその時、それまで終始無言でタバコを吹かしながら話を聞いていた恭佳が横から口を挟んできた。



「亜弥、ちょいとアタシに任せてくれよ」


「恭佳、何かいい方法でもあるんですか?」


「ああ。春蘭みたいなタイプの人間を口で説得するなんて時間の無駄だよ。こういう奴にはもっと分かりやすい方法を取らないとね」


「……まさか拳で分からせるとか言うつもりじゃないでしょうね」


「似てるけどそこまで暴力的な手段は取らないよ。な~に。ここはお姉さんに任せときな」



恭佳の思いつきは大抵ろくな事ではないが、今は猫の手も借りたい状況なのだ。ここは一つ恭佳に任せてみようと亜弥は思い、春蘭の説得役を交代する事にした。役目を承った恭佳はタバコをグリグリとガラスの灰皿に押し付けて火を消し、右手の指を耳元付近に持ってきて零治に通信を送った。



『もしもし、零治。聞こえる』


『聞こえてる。何か用か?』


『ああ。ちょいと春蘭の説得に手を焼かされてさ。道具を用意してほしいんだけど』


『お安い御用だ。何が必要なんだ?』


『銃を一丁アンタの魔法で用意してくれ』


『……マジで言ってるのか?』


『マジだよ』


『分かった。何がいいんだ? ハンドガン? ショットガン? アサルト? サブマシンガン? ……まさかロケランとかグレランじゃねぇだろうな……?』


『こんな所で爆発系の重火器が使えるかよ。無難にハンドガンでいいよ』


『はいよ。で、どんなハンドガンがいいんだ?』


『一番いい物を頼むよ』


『分かった。とっておきの品を用意してやるよ。因みに弾はどうするんだ?』


『とりあえず実弾とゴム弾、両方用意してくれ』


『ご注文承った』



銃など使ってどうやって春蘭を説得するのか疑問である。恭佳のこの考えを知ったら亜弥はどう思うのか。この試験会場は零治がBDの力を借りて用意した仮想世界なので、仮に銃を人に向けて発砲しても本当に死ぬ事は無いが、死その物は疑似体験できるし人間の五感も忠実に再現されている。だからある意味では人を射殺出来るのだ。恭佳の考えが未だに分からない亜弥は不安そうに訪ねてみた。



「恭佳、いま通信を送った相手は零治ですか?」


「ああ」


「何を言ったんです?」


「すぐに分かるよ」



そんなこんなな内に亜弥と恭佳が使用しているカフェテーブルの中央の空間内に小さな次元の裂け目が出来上がり、その奥からポーンと一丁のハンドガンと二本のマガジンが飛び出し、無造作にカフェテーブルの上に転がり落ちた。目の前の非現実的光景に華琳達はギョッとするが、それは亜弥も同じだった。何しろ元いた世界で見慣れていた銃が飛び出してきたのだ。しかし恭佳はというと、注文の品であるハンドガンに訝しげな視線を向けており、おもむろに手に取ると品定めするように手を回転させてその銃を様々な角度からよく観察している。恭佳が持っているハンドガンは一般的な角張った形ではなく、スライドの前後が丸みを帯びており緩いカーブを描き、銃本体もかなり変わった形をしていた。次に恭佳はマガジンキャッチボタンを押してマガジンを取り出して中を確認すると、装填されている弾丸の弾頭は鈍い輝きがあるので間違いなく実弾だろう。恭佳はマガジンを銃に戻して右手に持ったまま、左手の指を耳元付近まで持ってきて再度零治に通信を送った。



『おい、零治』


『どうした?』


『こいつは一体何だ……?』


『ご注文のハンドガンに決まってんだろ』


『アタシは一番いい物を頼んだはずだよ……』


『だからとっておきの品を用意してやったんじゃねぇか』


『どこがだ!? 何でよりにもよってVP70なんてポンコツを寄越しやがるんだ! アタシへの嫌がらせかっ!』


『ポンコツだぁ? おいおい。そいつは知る人ぞ知る名銃だぞ』


『なに言ってやがる。迷銃の間違いだろうが……』



VP70とはヘッケラーアンドコッホ社から1970年に、当時の最新コストカット技術を惜しみなく投入されて発売されたハンドガンである。VP70は部品点数を減らすためにショートリコイル方式ではなく、ストレートブローバック方式を採用。その際に生じる不都合はあの手この手を使って強引に捻じ伏せ、その結果あの特異なデザインになったのである。銃本体にもプレス鉄板ではなくハンドガンでは史上初の強化プラスチックフレームを使用し、内部にも金属製インナーフレームを組み込んで不足しがちな硬度を見事に補っている。その結果かなりの軽量化にも成功したのだ。更に専用の着脱式ストックを組み付ければ三点バースト射撃が可能なマシンピストルにもなる。このように当時としては革新的な技術を数多く盛り込み、ヘッケラーアンドコッホ社も世界各地に売り込みをかけたが、会社の思惑とは裏腹にVP70は欠点を露呈してしまう事態が次々に起きたのだ。まずVP70に使用する弾丸は九ミリパラベラム弾なのだが、このような威力の高い弾丸をブローバック方式で使用するのはハンドガンでは本来不向きで、最悪の場合、射撃時に部品が破損する危険性があるのだ。しかしVP70はそこの対策もちゃんとされており、銃内部にあるライフリングの溝を深めに彫り、発射時の高圧ガスは溝を通して前方に逃がすように工夫が施されていた。しかしこれが逆に仇となり、弾の威力が落ちる結果に陥ってしまったのである。ならばマシンピストルとして弾をバラ撒いてゴリ押し戦法で使えるかと思えばこちらもそう都合良くはいかず、変則ストライカー方式を採用しているためトリガーストロークが長く、トリガープルも重かったのだ。そのせいで引き金を引く時に生じる手ブレが大きくなるためもともと精密射撃に不向きな銃な上に、毎分2200発というバカみたいな連射力から発生する凄まじい反動のせいで、ただでさえ悪い命中率が余計にガタ落ちするという有様だったのだ。また、サイトが擬似凹型の照星と照門を組み合わせた独特の形状をしており、形状が従来のハンドガンと異なるため狙いが定めにくいと不評だったが、一部狙いがつけやすくて優れているとの評価もあったとの事。そして極めつけはアメリカ軍次期制式拳銃選定トライアルのチャレンジでの結果だ。トライアルでは軍用拳銃においてもっとも重要な点とされている、ある程度汚れた弾丸を使用して発射する、保管状態の異なる弾薬を混用して発射するというテストがあり、言ってしまえば質の悪い弾丸を使用するのだ。この悪条件が重なったせいで五発の内一発はジャムを起こすという何とも散々な結果を残してしまった。それでもヘッケラーアンドコッホ社も色々と努力はしたのだが、残念ながら1989年に生産を終了。現在では殆ど流通はしていなく、その特異な機構とデザインから、一部のコアなガンマニアからコレクターズアイテムとして珍重されており、VP70は銃の歴史にある意味名を残しているので、零治の言う通り人によっては名銃なのだろうが、恭佳の言うように迷銃とも考えれる。要は人それぞれという事なのだろうが、これだけ数多くの欠点を抱えた銃なのだ。少なくとも戦場で使えるような代物ではないので、恭佳の言う通りポンコツと言われても仕方ないのだろう。



『零治。アタシはこんなポンコツ銃なんか要らない。返品だ』


『ったく。オレの一押しにケチをつける気か?』


『うるさい。アンタがどう言おうが返品だ。また妙ちくりんな銃を回されちゃたまんないから、次は指定させてもらうよ』


『はいはい。で、何をお求めで?』


『デザートイーグルだ』


『姉さんは相変わらずデカくて高火力な銃がお好みだなぁ。……バレルはどうする? 何ならロングバレルにしてやろうか?』


『余計なカスタムはしなくて結構。ノーマルタイプを寄越しな』


『はいはい。承知しましたよ』



通信を終え、恭佳は不満げに鼻を鳴らしてVP70 が飛び出してきた何も無い空間を見つめると、またしても次元の壁が切り裂かれてそこから人の右手がニュッと現れたのだ。零治の手である。出てきた零治の右手には何も無く、指をクイクイっと内側に仰ぐ動作を繰り返していた。まずはVP70を返せという事らしい。恭佳は零治の手に叩きつけるようにVP70と二本のマガジンを手渡し、それを受け取った零治はすぐに右手を奥に引っ込めた。それからしばらくして先程VP70が飛び出してきたように大型のハンドガンであるデザートイーグルと二本のマガジンが次元の壁が破られた奥の空間から飛び出し、それらは無造作にカフェテーブルの上に転がり落ちてガチャンと重い音を立てた。恭佳は念の為にと思い、デザートイーグルを右手で取り、VP70を受け取った時と同様に手を回転させて様々な角度から観察し、更にスライドも軽く後ろに引いて薬室を覗き込むと一発の弾丸が装填されているのが確認できた。次にマガジンキャッチボタンを押してマガジン取り出すと、この銃にも装填されているのは実弾である。そして二本あるマガジンの片方に装填されている弾丸の弾頭は鈍い金属の輝きがなく、分かりやすくするためなのか弾頭部分が紺色をしている。こちらがゴム弾を装填したマガジンだろう。今度は問題なさそうなので、恭佳は満足気に何度も頷いていたが、亜弥は不安一色の心境である。



「き、恭佳。なぜ零治に銃など用意させたんです……」


「決まってんだろ。これで春蘭を説得するんだよ」


「貴方まさか……それを彼女に使うつもりなんですか?」


「亜弥。アンタの言いたい事も分かるさ。だけどアタシらには時間が無いんだ。それに春蘭みたいな直情型は身を以って分からせなきゃいけない。アタシらの世界がどれだけ危険で溢れているのかをね……」


「それなら私達が神器使いとしての本気を見せれば済む話でしょう。銃など必要ないのでは……?」


「確かに蜀や呉の連中が相手ならそれで充分かもね。だけど春蘭達には、アタシ達の強さに対して慣れがあるかもしれない。そうなってくるとアンタがいま言った方法はあまり当てにならないよ」


「慣れ、ですか……」



亜弥も恭佳の今の言い分は理解できた。蜀や呉のメンバーは零治達が異常な強さを誇っている、その点については理解があるだろうが、彼らの闘いぶりを間近で見ている者はそこまで多くない。だから神器使いとしての強さを見せれば今みたいな状況になっても従わせるのは容易かもしれない。だが、これまで共に戦ってきた華琳達の場合はどうだろうか。全力ではないにしても、零治達の闘いぶりはもう何度も眼にしてきている。だから恭佳が言ったようにある程度の慣れは確かにある可能性がある。慣れとは恐ろしいもので、初めて見る光景も何度も繰り返して見てくると人はそれを当たり前と認識し、異常だと思わなくなる。つまり感覚が麻痺してくるのだ。しかしこれも程度のよるから一概にどの方法が最善かとは断言できないが、一番手っ取り早いのは慣れていない光景を見せる。そういう意味では銃器類はうってつけかもしれない。とはいえ不安が無いわけではないが、今は時間が惜しい。亜弥はこの場を恭佳に託す事にした。



「……分かりました。貴方に任せます。ですが、なるべく穏便に済ませてくださいよ」


「努力はするよ」



恭佳だって出来る事ならば春蘭に向かって銃を発砲するような真似はしたくないと思っている。おまけに彼女がチョイスした銃は、ハンドガンの中でも大型であるデザートイーグルなのだ。コンクリートブロックを粉砕する程の破壊力があり、威力も折り紙付き。弾丸も実弾とゴム弾の二種類を用意しているが、ゴム弾も当たればかなり痛いし、人によっては確実に気絶もする威力がある。なるべく事が穏便に進んでほしいと恭佳も願いつつ、零治から受け取ったデザートイーグルを片手に椅子から立ち上がり、春蘭に向かって口を開いた。



「さてと、待たせたね。春蘭」


「恭佳。お前が手に持っているそれは何だ?」


「あぁ、これ? こいつは銃と言って、アタシらの世界にある武器の一つさ。分類上飛び道具に該当するね」


「飛び道具? ならば弓矢のような物なのか?」


「まあね。といっても、その威力は弓矢なんかじゃ比較にならないだろうけどね」


「ほ~。で、それで何をしようというのだ?」


「コイツでアンタにも分からせてやるのさ。アタシらの世界が、どれだけ危険で溢れているのかをね……」


「ふっ。そのような小さな玩具でこの私と勝負でもしようというのか?」


「そうしてやってもいいが、それは最後の手段だ。まずはこの銃がどれだけ恐ろしい威力を秘めているのか、その眼に焼き付けてもらうよ」


「いいだろう。ならば早い所見せてみるが良い」


「そう急かすなよ。まずは的を用意しないとね。……亜弥、なんか丁度いい物ある?」


「う~ん……あぁ、アレを使いましょうか」



この空間は零治が用意した仮想世界だ。本来の成都城の中庭の情報を元にして忠実に再現しており、庭木や池の位置、庭に存在していた物がそっくりそのまま創り上げられている。そのためこの場所にも、庭の一角に黄忠や厳顔が弓矢の訓練で使用していた円形の大きな的が存在しており、それを使う事にした。的があるのならば後は実演をするだけだが、用意したデザートイーグルの威力を実演で教えるとなれば、この世界では比較対象がないと意味がない。この世界で馴染み深い飛び道具は弓。つまり弓の使い手が必要になるので、恭佳は秋蘭に声をかけた。



「お~し。的があるんなら後は実演あるのみ。秋蘭、ちょっと付き合いな」


「ん? 別に構わんが、何をすれば良いのだ?」


「簡単さ。お得意の弓であの的に一発射撃をしてくれればいい。比較の対象がないと、コイツの威力も理解できないだろ?」


「そういう事か。承知した」



恭佳に指名され、秋蘭は弓を片手に彼女の隣まで足を進めて射撃訓練用の的の前まで立った。距離にして約十メートルぐらいだろうか。デザートイーグルの実演にも問題のない距離である。秋蘭は矢筒から矢を一本引き抜き、弦に番えていつでも撃てるように用意をしたので、恭佳もデザートイーグルのスライドを軽く引いて薬室内に弾がちゃんと装填されるのをもう一度確認して準備を整えた。



「秋蘭、まずはアンタから撃ちな」


「ふむ。ではお言葉に甘えて……」



秋蘭は矢を番えている弦を引き絞り、ゆっくりと構えて目の前に存在する的に鋭い眼光を向けた。辺りがしんと静まり返っている中、僅かな風が吹き、周囲の庭木が揺れてカサカサと音が鳴って葉を舞い散らした。その刹那、秋蘭が引き絞っている矢から右手を離した。



「ふっ!」



秋蘭が放った矢は空を斬り、的に向かって一直線に飛来していった。それからすぐにカッと乾いた音が鳴り響いて秋蘭が放った矢が的のど真ん中に命中したのだ。まさに一発必中。だが、秋蘭から言わせればこれくらいの芸当は出来て当然の事。現に彼女の射撃の腕前を見ても誰も何も言わない。当然の結果だと予測していたからだ。だがそれでも臣下の弓の腕を褒めるべく、華琳は秋蘭に拍手を送って褒め称えた。



「流石は秋蘭。見事な腕前ね」


「お褒めいただき光栄です、華琳様」


「うむうむ。見事だったぞ秋蘭。私も姉として鼻が高いっ!」


「やれやれ。姉者は喜び過ぎだぞ?」


「ふふっ。……さて、恭佳。次は貴方の番よ」


「ああ。なら、全員よーく見ときな。この銃をブッ放したら、あの的がどうなるのかをな……」



大口径のハンドガンなので本来は両手で構えるべきなのに、恭佳は右手だけで構えて的に狙いを定めた。デザートイーグルはその威力故に反動も凄まじいが、正しい姿勢で構えを取れば華奢な女性でも撃つ事が可能な銃だ。ただしこれは両手でちゃんと構えたらの話である。当然ながら大口径のハンドガンを片手で撃とうとするなど、やるとするならば扱う銃の知識が全く無いド素人か、映画などのフィクションの世界でだけだ。だが恭佳は決して素人なんかじゃない。元いた世界で、銃を扱う場面などいくらでもあったし、神器使いに覚醒してからもそれは変わらなかった。だからといってプロでもこの構えは褒められた姿じゃない。最悪の場合、発砲時の反動で肩を間違いなく脱臼してしまう。ならなぜこんな構えをしているのか。それを理解している亜弥は内心呆れていた。



(やれやれ。相変わらずカッコつけたがりですねぇ。後で痛い目に遭うのは自分だというのに)


「フー……」



辺りがしんと静まり返り、華琳達が見守る中恭佳は一度大きく息を吐いて気持ちを落ち着け、狙いをつけている的に全神経を集中し、引き金に指をかけた。それからすぐに恭佳は右手の人差し指に力を加えてトリガーを引いたその瞬間、バンっと火薬が爆ぜるような音が鳴り響いて銃口から火が吹き、スライドが可動して薬莢が宙を舞い、恭佳の右腕は発砲時の反動で大きく上に跳ね上がった。それと同時に的に命中した弾丸はまず、秋蘭が命中させた矢を木っ端微塵に粉砕し、的の板に命中したが大口径のハンドガンから繰り出されるその破壊力に耐えきれるはずもなく、大きな風穴が空いて真っ二つに割れてしまったのだ。それから少し遅れて、彼女の足元でキーンと小さな金属音が鳴り、排莢された空薬莢がコロコロと転がっていた。



「くぅぅ~……っ! いってぇーっ! やっぱこんなデカイ銃、片手で撃つもんじゃないね」


「ならやらなきゃいいでしょう。あんな撃ち方したのによく手首と肩が痛いだけで済んでますね……」


「一体……何が起きたというの……?」



恭佳は銃の反動で跳ね上がった右手首と肩をさすり、亜弥は今の射撃に対して冷静なツッコミを入れていたが、華琳達の耳にそれは届いていない。ただ唖然とした表情で真っ二つに破壊された的を見ているだけだ。的が破壊された出来事はまさに一瞬。秋蘭が矢を放った瞬間も常人から見れば一瞬の出来事だが、戦慣れをした華琳達にとってそれは一瞬ではない。少なくとも彼女達の動体視力は常人より発達している。だから秋蘭が矢を放ち、それが的に命中するその瞬間もしっかりと視えていた。だが、恭佳の射撃は彼女が銃の引き金を引いた次の瞬間には的が真っ二つに割れていた。あまりにも非常識な光景にしか華琳達には見えなかったのだ。



「恭佳、今のはもしかして……魔法なの?」


「いいや。アタシは魔法なんか何一つ使っちゃいない。この結果は全て銃だけの力で起きた事だ」


「……恭佳様。その銃って奴、もしかして一種の絡繰りやったりせぇへん? 射撃の時、上の部品の一部が可動する所が見えたんやけど」


「ほぉ~。真桜、アンタそういう所は鋭いね。察しの通り、この銃って物は一種の絡繰りだ。だから原始的な弓以上の威力があるのさ」


「やっぱりそうなんかっ! 何を飛ばしてあんな破壊力を実現したんや!? 早速調べなあかん!」



自分の推理が見事に当たっているこの状況に興奮気味の真桜は、我先にと的が設置されている場所まで駆け寄り、その場で四つん這いになって手がかりとなる物がないかの調査を開始した。まずは破壊された的の残骸などをあさり、拾っては投げ捨て拾っては投げ捨てを繰り返す。的の残骸には何も違和感を感じる物が何も得られなかったが、それらをあさっている内にある物を見つけた。



「ん? ……っ!? これって!」


「真桜、どうしたの? 何か分かったの?」


「華琳様っ! これ見てください!」



真桜の右手に持たれているのは陽光を受けて煌めく小さな金属の破片である。当然ながらこの金属片もデザートイーグルの銃弾で破砕されているため原型を留めておらず、これだけでは何なのか傍から見ては分からない。しかしその金属片は端の方が鋭利に研がれていた。この情報から、真桜が何を見つけたか華琳もすぐに理解した。



「もしかしてこれは……鏃の破片なの?」


「間違いないですわ。鏃とはいえこれは鉄の塊や。なのにそれをこんなにも簡単に破壊するなんてありえへんですわ。……恭佳様、教えてや。何を使えばこんな芸当が出来るんや」


「仕方ないねぇ。なら、タネ明かしといこうか」



恭佳は左手でデザートイーグルのスライド後部にあるコッキングセレーションを掴み そのまま後ろに引っ張ってコッキングを行い、薬室からまだ発射前の弾丸を一発排莢して左手を素早く振り上げてその弾丸を掴み取った。恭佳は握り拳を作った状態のまま左手を前に差し出してきたので、華琳を始めとした魏の首脳陣達は彼女の前に集まり、恭佳は左手をゆっくりと開いて掌の中でコロコロと転がりながら鈍く光り輝いている銃弾を華琳達にお披露目した。



「コイツさ。コイツが的を破壊した物の正体である銃弾だ」


「これが。……あっ!? そういえばさっき!」



恭佳の先程の射撃をよく観察していたのだろう。彼女の掌の上で転がっている銃弾を見た瞬間、真桜は可動したスライドから薬莢が排出される所も目撃していたのだ。真桜はその場で四つん這いになってまだどこかにあるはずの空薬莢を血眼になって探し回り、地面の上で光り輝いているそれを見つけるとすぐさま手に取ったが、発砲直後の空薬莢なのでまだ熱を帯びており、あまりの熱さにすぐに地面に落としてしまった。仕方ないので真桜は発明の作業時によく使用している革製の手袋を着用してもう一度空薬莢を拾い上げた。



「あったわ! ……あれ? こいつ先端が無くなって中が空洞になっとる。恭佳様、その銃弾って奴、もっかい見せてくれますか?」


「ああ。好きなだけ見なよ」



真桜は恭佳から未使用の銃弾を受け取り、地面から拾い上げた空薬莢を交互に見比べた。未使用の銃弾にはまだ弾頭が残っているが、使用済みの弾丸には弾頭が無く、空になった薬莢だけしか残ってない。真桜だけでなく、これだけの情報があれば何が飛ばされたのかは察しがつくだろう。



「恭佳様、もしかしてその銃から発射されたのって、この弾の先端の部分なんか……?」


「その通りさ」


「やっぱそうなんや。けど、これ金属で出来とるっていっても、こんな小さな塊でどうやったらあんな威力が出せるんや……」


「秘密はアンタが持ってるその空薬莢にあるんだよ」


「からやっきょう? それってこの中が空洞になっとる容器の事なん?」


「ああ。中が空洞って事は、空洞の部分に何かを詰める用途があるから。真桜、アンタもそれは分かるだろ?」


「え、ええ。だけどこれ、拾った時から中身空やったんやけど」


「当たり前さ。その薬莢の中身は、発砲時に燃焼して無くなっちまってるんだからね」


「燃焼……? ……っ! ひょっとしてこいつの中身って、火薬やったんか!?」


「ご名答。その通りだ。その銃弾の先端、弾頭っていうんだけどね。薬莢の中に詰められてる火薬を爆発させ、その力で弾頭を押し出して飛ばしている。だからアレだけの威力が出せるのさ」


「だから拾った時めちゃくちゃ熱かったんか。せやけど、火も使わんとどうやって着火させとるんや?」



この世界にも火薬は存在している。しかし用途が何にせよ使うとなるとどうしても火を使っての着火が必要不可欠となる。しかし、恭佳が銃を発砲する所を目撃していた魏の首脳陣達全員の頭には共通の疑問があった。仮に火薬を使用していたのならばどうやって着火させたのかと。射撃時に恭佳は火など一切使ってなかったし、点火するような様子も無かった。それなのにどうやって火薬を爆発させたのか全く理解できない。もちろん恭佳もその辺の疑問についてもちゃんと自分なりに説明はするつもりでいた。



「あぁ、はいはい。そこもちゃんと説明してやるって。ただし、アタシなりのザックリした説明になるけどね。銃の構造や仕組みをいちいち細かく説明してたら時間がいくらあっても足りやしない」


「お願いしますわ」


「まず、どうやって薬莢に詰められてる火薬に着火しただけど、着火する機構が薬莢自体に備わってるのさ」


「えっ!? こんな小さな金属の容器にでっか!?」


「ああ。薬莢の後ろには、雷管て呼ばれる部品が組み付けられてるんだよ。で、銃には引き金を引く時に装填されてる弾丸の雷管をブッ叩く機構がある。雷管をブッ叩いた衝撃で薬莢内部で着火が起こり、そして中の火薬に引火して瞬く間に爆発。その衝撃で弾頭が押し出されるって訳さ」


「……恭佳。貴方それでも軍人ですか? 銃の説明にしてはかなり大雑把なんですけど」


「うっさいなぁ。さっき言ったろ? 銃の構造と仕組みをいちいち細かく説明してたら時間がいくらっても足りないって」


「まあ、それはそうなんですが」


「あの、恭佳様。まだ疑問があるんやけど訊いてもええですか?」


「ああ。何だよ?」


「さっきその銃を撃った時、上の部品が滑るように後ろに下がって可動したやん。あれは何の意味があるん?」



真桜が疑問視している部品とはスライドの事を指しているのだろう。絡繰りの事となると彼女はいつもこのように次々と質問を投げかけてくる。こういった自分では到底考えつかないような物、ましてやそれが零治達の世界では普通に存在している物となれば技術者としての血が騒がないはずがない。こういった刺激が真桜の発明に役立つのは間違いないだろうが、説明する物が物なのでそれを素直に喜ぶべきなのかは微妙だが、恭佳は真桜の事を信じてスライドを指差しながら説明を始めた。



「あぁ、ここはスライドって名称なんだけどね。発砲時にコイツが後ろに可動して空になった薬莢の排出と次弾装填が行われてたのさ」


「排出と次弾装填?」


「そう。弾が装填される場所は薬室って言うんだが、銃を撃っても空薬莢が薬室に残ったままじゃ次の弾が撃てないだろ? だからスライドが後ろに可動して空薬莢を排出、そして元の位置に戻る時に弾倉に込められてる弾を薬室に装填して次の弾がすぐに撃てるようにしてるってわけ。分かったか?」


「……あの一瞬の出来事でそれだけの事が起きてたなんて。今のウチじゃ到底考えつけん構造やわ」


「真桜。念の為言っとくけど、間違っても銃なんか開発するんじゃないよ。こんな物騒な物、この世界には必要ないんだからね」


「分かっとりますって。ウチの絡繰りは世の中の役に立たせたいんですから」


(ふーむ。そうは言っても、厳顔が既に似たような武器を使ってるんですがねぇ。まっ、ここは敢えて言わないでおきましょうか)


「さて、恭佳。貴方の今の射撃で、その銃とやらの威力は充分に理解できたわ。で? そんな物を用意して何をしようというの?」


「そうだね。ならそろそろ本題に入るか」



恭佳にとって銃の実演は余興に過ぎない。彼女にとっての本題はこの先にあるのだ。それは春蘭の説得。この試験内容と零治の意図、それを理解してもらうためにわざわざこんな物騒な物まで用意したのだ。恭佳はデザートイーグルを片手に春蘭に向き直り、静かに口を開いた。



「さて、春蘭」


「何だ」


「コイツの今の射撃を見て、アンタはどう思った? 何を感じた?」


「……確かにお前の言った通り、恐るべき威力だな。弓矢など比較にならん。しかし、それがどうしたというのだ」


「まだ分からないのか? アタシらの世界にはコイツが当たり前のように存在している。一般人だって入手する事も可能なくらいにな。それだけアタシらの世界は、そして叡智の城は危険で溢れかえってるんだよ。もしも黒狼達が銃を使ってアンタを出迎えたらどう対処するっていうんだ……?」


「ふんっ。飛び道具ならば理屈は弓矢と変わらん。そんな物、飛んでくる弾を剣で叩き落とせば済む話ではないか」



春蘭が出した答えはあまりにも非常識極まりないものである。人間の動体視力では捉えきれない程の速度で飛んでくる弾丸を剣で叩き落とすなんて芸当、現実では不可能である。そんな事が出来るなど漫画やアニメ、ゲームの世界ぐらいだろう。流石の恭佳もこの返しに対して反応に困り果てており、亜弥も助け舟を出す事にした。一人で駄目なら二人ががりで説得するまでである。



「春蘭、貴方自分が今どれだけ無茶な事を言ってるか分かってるんですか……?」


「どこが無茶なのだ? 弓矢と同じ飛び道具ならば可能ではないか」


「なら訊かせてもらいますが、貴方は先程の恭佳の射撃で、的に命中した弾丸が飛来している所がちゃんと視認できたんですか? 銃弾の飛来速度は弓矢とは比較にならないんですよ」


「ならば鎧で防げばいい。その銃の弾もそこまで万能ではなかろう?」


「確かに小さな銃弾なら防げるでしょうが、まさか全身を重い鉄製の鎧で防護するんですか? それだと貴方の実力も最大限まで発揮できないと思いますけど」


「なら革製にすればよかろう」


「革製だと更に厳しいでしょうね。特に恭佳がいま使った銃は大型の部類に入る物ですから、必然的に銃弾も大きくなる。皮の鎧なんて簡単に貫通してしまいますよ?」


「それでもどうにかするのが魏武の大剣と呼ばれる私の役目だ。それに恭佳が使用したその銃、弓矢と同じで連射はそこまで出来ないのではないか? 一発撃つごとに狙いも定め直す必要がありそうだ」


「へぇ~。よく見てるじゃないか。一回撃っただけでそこまで気づくとはね」


「私を侮るな。それならば簡単な話だ。動き回って狙いをつけれなくし、弾切れを誘うなどいくらでも打開策はある。そのような玩具、私には役に立たんぞ」


「そうかい。ならもっと強力な銃を用意すれば考えを改めるか?」


「ほぉ~。まだ他にもあるというのか。ならば見せてみるがいい」


「いいだろう。ちょいと待ってな」



零治に頼んでゴム弾も用意させてあるのでもう思い切ってこの弾を使用し、春蘭と直接勝負をしても良いのだが、今まで共に戦ってきた仲間に銃口を向けるのはやはり気が引ける。恭佳もこれは出来れば最後の手段として取っておき、使わずに済ませたいのが本音である。なので零治に別の銃を用意させるために、また左手の人差し指を耳元付近まで持ってきて通信を送った。



『あぁ、零治。聞こえる?』


『おい今度は何だよ? こっちも受験者達が来てるから話を先に進めたいんだが』


『分かってるって。けどこっちも春蘭が強情で困ってるんだ。悪いけど銃の追加をお願いしたい』


『それは構わんが、ゴム弾があるんだからそれを使って春蘭を直接撃っちまえよ。その方が手っ取り早いぜ』


『出来ればそれはやりたくないんだよ。アンタだって今まで一緒に戦ってきた仲間に銃口なんか向けたくないだろ?』


『……まあな』


『まっ、これは最後の手段だ。次で駄目ならアタシも心を鬼にして春蘭を撃つ覚悟さ』


『分かった。で、次はどんな銃をご所望で?』


『アサルトライフル。それもオプションでグレネードランチャーを装着したやつだ。弾は実弾のみでいい』


『はいよ。グレランの弾はどうする? 榴弾? それとも焼夷弾か?』


『無難に榴弾でいい』


『注文承った。ちょっと待ってろ』



恭佳が次に注文したのはアサルトライフルだ。銃にもよるが拡張マガジンなどを使わなければ装弾数は平均で三十発前後になる。フルオートで撃てば一人の人間を数秒で蜂の巣に出来る連射力を誇る銃だ。おまけに恭佳が注文したアサルトライフルにはオプションでグレネードランチャーも装備されている代物である。この世界では驚異以外の何物でもない。恭佳が零治に通信を送って少し時間が経過すると、カフェテーブルの宙にデザートイーグルを注文した時よりも大きめの次元の穴が開き、そこから一丁のアサルトライフル。それからスペアマガジンが二本ガチャンと派手な音を立てて落ちてきたのだ。そして注文通りオプションでグレネードランチャーが装備されてるし、狙いをつけやすくするためのホロサイトも装備されていた。恭佳は口笛を鳴らしてカフェテーブルの前まで歩み寄り、右手に持ってるデザートイーグルをズボンのベルトに捩じ込み、注文したアサルトライフルを手にとってクルクルと回転させてマジマジと観察した。



「ほぉ~。M4A1カービンか。悪くないチョイスだ。それにグレランだけじゃなくホロサイトまで装備されてる。零治の奴、いい仕事をしてくれたじゃないか」


「恭佳……なんて物を頼んでるんです。貴方はそれで春蘭を蜂の巣にでもする気なんですか。それともグレネードランチャーで吹っ飛ばすつもりですか……」


「んなわけ無いだろ。あくまでもコイツは的を撃つのに使うだけだよ」


「ならスペアマガジンは必要ないのでは……?」


「これは零治が勝手に寄越したんだ。アタシは注文しちゃいないよ。亜弥、それよりも新しい的をセットしてくれよ。さっきの奴は真っ二つに割れちまったからね」


「はいはい」



やる事はさっきと変わらないが、最初に使用した的はデザートイーグルの一撃で真っ二つに破壊してしまったのだ。実演をするとなれば新しい的が必要だが、幸いな事に的は複数この場にはある。恭佳に指示されて亜弥は的がセットされている場所まで足を進めると、真っ二つに割れた使えない的を台から外してその辺に投げ捨て、新しい的のセットをした。その間に恭佳は銃の状態をチェックするために、まずはマガジンを取り外して込められてる弾に異常がないかを確かめて、汚れ等も無いので一度頷いて銃に戻す。次にコッキングレバーを軽く後ろに引いてエジェクションポートを覗き込み、薬室に弾が装填されている事を確かめてレバーを元に戻した。銃のコンディションは問題なし。後は射撃の実演だけだ。やる事はそれだけなのだが、先程のデザートイーグルとは形も大きさも全然違うので、興味心を刺激された真桜がまたしても真っ先に質問をしてきた。



「なあ、恭佳様。それも銃なんか?」


「ああ」


「にしちゃ、さっき使った物とは形も大きさもえらい違うんやけど」


「そりゃそうさ。銃ってのは多種多様でね。コイツは連射機構も備わってるから、さっき使った奴とは全然違う代物だよ」


「連射機構? ほな、さっきの銃は連射は出来んのですか?」


「あぁ~、引き金を何度も引けば一応出来るが、命中率はガタ落ちするね。如何せん一発撃つごとに生じる反動が制御しきれないから。それにさっきの銃は連射性よりも一発の威力を重きに置いてるしね」


「ならその銃は連射性に優れてるっちゅう事ですか?」


「まあね。引き金を引きっぱなしで撃ち続ける事が可能なのさ。その代わり、んな事したら数秒で弾切れになるけどね」


「へぇ~。早う見てみたいわ」


「焦らなくてもすぐに見せてやるよ。……亜弥、的の準備は?」


「良いですよ。いつでもどうぞ」


「はいよ。じゃ、みんな危ないから少し離れてな」



恭佳に促され、華琳達は数歩後ろに下がって射撃の様子を静かに見守った。恭佳は先程と同じ所定の位置に付き、地面に片膝を突いて姿勢を安定させ、モードをフルオートに切り替えてライフルのストックを右肩に当てて銃本体を固定して構え、ホロサイトを覗き込んで目の前に存在する木の的のど真ん中に狙いを定めた。



「フー―……」



恭佳は一度大きく息を吐いて手ブレを可能な限り抑え、数秒間の間を置くとグッと右手の人差し指に力を加えてライフルの引き金を引いた。その瞬間、銃口が火を吹いて火薬が爆ぜる音が連続して鳴り渡り、恭佳の足元には空薬莢がバラバラと転がり落ちていた。その間に新たに用意した射撃用の木の的はバキバキと音を立てながらあちこちに風穴が空き、見る影もない姿になっていた。それからすぐに弾を全て撃ち尽くして恭佳が使用しているアサルトライフルは弾切れになり、辺りは元の静けさを取り戻したが、またしても華琳達は唖然とした表情で無残な姿になっている木の的を見つめていた。フルオートによる射撃だったのでどうしても集弾率が多少は悪くなるので同じ箇所に命中している弾は少ないが、そのせいであちこちに穴が空いており、まさに蜂の巣と表現するのに相応しい姿に成り果てていたのだ。



「……な、なんやの。的がほんの一瞬の間に穴だらけになっとるやん!?」


「当たり前さ。コイツはそういう銃なんだから」


「き、恭佳様。さっき言ってた排出と次弾装填……もしかしてその銃も……?」


「当然さ。その一連の動作が連続、かつ継続して行われていた。だから引き金を引きっぱなしで連射ができるのさ」


「なんちゅう機構なんや。一体どういう構造にしたらそんな事が……」


「悪いけどそこまで細かく説明する気は無いよ。まっ、これでこの銃の恐ろしさは理解できたんじゃないか? いま撃ったのは木の的だけど、これがもしも生身の人間だったらどうなると思う? 相手は間違いなく蜂の巣だよ」


「蜂の巣? 恭佳様、なんでそこで蜂の巣が出てくるん?」


「蜂の巣ってのは一種の例えだよ。ほら、あの的も蜂の巣みたいに穴だらけだろ? だからアタシらの世界じゃ、銃で撃たれて穴だらけになった奴を蜂の巣って表現してるのさ」


「な、なるほど……」


「ふむ。言い得て妙な表現だけれど、人がそうなった姿は想像したくないわね」


「そりゃそうだろ。アタシだって想像なんかしたくないよ」



華琳はいつもの平静を崩している様子を見せてはいないが、内心では恭佳が使用したアサルトライフルの驚異的な性能に大きな衝撃を受けていた。最初に使用したデザートイーグルの時に飛び道具という説明を受けていたので、この世界の弓矢のような武器を想像していたのに現実はその想像を遥かに超えたものである。その衝撃を受けたのは魏の首脳陣全員がそうだろう。武人組も軍師組も、天の世界の銃という兵器の性能を前にし、あれやこれやと考えを巡らせながら自問自答を繰り返していた。



「なんて恐ろしい武器なの。あんな物を装備した歩兵が大群となって押し寄せたら、どれほどの精兵でも太刀打ちできないわね……」


「同感ですねー。弱点らしい弱点も現時点では見当たりませんしー。強いて言えば、恭佳ちゃんが言っていた弾切れが最大の弱点なのでしょうが、そこは一人一人の兵が交代で撃てば補えそうですしねー」


「そうね。それにあの威力と連射力、身を隠せる森林ならともかく、遮蔽物も無い荒野のような開けた場所で使われたら、精兵で構成した歩兵部隊どころか騎馬隊だって赤子同然でしょうね……」



最初に自らの考えを誰に言うのでもなく口にしたの、軍師組である桂花、風、稟の三人である。まず桂花が述べたように、アサルトライフル等の銃器を装備した歩兵が大群として押し寄せたりでもしたら、この世界でどれだけの実力がある精兵で構成した部隊をぶつけても対処のしようがないだろう。そもそも銃と剣や槍では勝負にすらならないのだ。鉄製の鎧で全身を防護しても、銃の前ではそれも万能とは言えない。徹甲弾を使用した銃なら鉄製の鎧も役に立たないし、そうでなくても鎧には可動域が存在しており、関節部などには可動域を確保するためにどうしても隙間ができてしまう。優れた兵士ならばその僅かな隙間を狙って一発狙撃する事も決して不可能ではない。風が述べたように銃にも弱点はあるが、現代よりの銃は昔と違い弾のリロードにもそれほど時間はかからない。だから弾切れはそこまで大きな弱点とは言えないだろう。他に弱点があるとするならば、それは汚れだ。荒野などの戦地で使用すれば舞い上がる砂埃が銃の内部に入り込み、動作不良の原因にもなる。最悪の場合、戦闘中にジャムを起こす事だってあり得るだろうが、それは銃のメンテナンスを怠ったり、質の悪い弾を使用したらの話だ。銃を扱う人間がそこを疎かにするなどまずあり得ない。そして稟が述べたように、銃を装備した歩兵部隊に対して剣や槍、弓矢などを装備した兵士達が敵うはずがない。ましてや騎馬隊など、背丈が高くなって格好の的になり、相手部隊に突撃を仕掛けても到達する前に馬ごと蜂の巣にされるのがオチだ。アサルトライフルという天の世界の銃器の脅威性。それには秋蘭を始めとした武人組も大きな衝撃を受けていた。



「木製とはいえ、射撃用の的を一瞬で穴だらけにするとは。あれは厳顔が使っていた武器よりも脅威だな……」


「せやなぁ。おまけにウチらみたいな騎馬隊なんてええ的にされるだけやで。秋蘭、アンタあれと勝負してみたいと思うか?」


「……同じ弓使いが相手ならともかく、あそこまで原理が異なる射撃兵器を装備した者と勝負はしたくないな。撃ち殺される自分の姿が眼に浮かぶぞ」


「奇遇やな。ウチもや」


「天の国にはとんでもない武器が存在しているのだな。あれだけの威力だと、私の氣でも防ぎきれるか分からないな……」


「凪ちゃん。それ以前にあんな物を持った人と戦おうって考え方が危険だと沙和は思うのー……」


「はいはい。みんな静かにな。まだアタシの話は終わっちゃいないんだ。……さて、春蘭」


「…………」



周りのざわめきを収めるためにパンパンと恭佳は手を叩いてその場を静かにさせ、アサルトライフルを肩に担ぎながら春蘭に向き直った。彼女にとって重要なのはここからだ。これで春蘭がこちらの言い分を素直に聞き入れ、考えを改めてくれるかどうかが重要なのだ。これでもダメだった場合、恭佳も最後の手段を使う以外に手は無い。それだけはしたくないと願いつつも、顔には出さないように平静を装いながら静かに口を開いた。



「これを見てもまだ考え直すつもりは無いと言うのかい?」


「…………」


「いま見せたのは銃のほんの一部に過ぎない。銃にはそれこそ鉄の鎧なんて防具が全く役に立たないほどの威力がある物だってある。万が一にもそんな物騒な物を使われたら、百戦錬磨のアンタでもひとたまりもないんだよ」


「姉者。悔しい気持ちは分かるが、ここは素直に亜弥達に従おう。それに恭佳の言う通り、もしも黒狼達にこんな恐ろしい兵器を使われたら我らは瞬く間に全員死体にされるだろう」


「……くぅ。悔しいがお前の言う通りだな、秋蘭。分かった。今この時だけは、音無が用意した規則に従おう」


(ほっ。ありがとよ、秋蘭。アンタのフォローのおかげで最後の手段は使わずに済んだぜ)



秋蘭のフォローのおかげもあって、強情だった春蘭もようやく納得してくれたので、最後の手段も使わずに済んだので恭佳は内心胸を撫で下ろしていた。説得には骨が折れて思わぬ時間を割いてしまったが、実力行使に出ずに済んだだけでもマシな方だろうし、銃の実演のおかげで全員がこちらの言い分を素直に聞き入れる空気がその場に出来ている。これならば試験もスムーズに進行できるだろう。恭佳が銃を使用する場面から内心ハラハラしていた亜弥だったが、おかげで一触即発の雰囲気は打ち消されたので恭佳に感謝しつつ、一つ咳払いをして改めて話を進める事にした。



「さて、春蘭達も納得してくれたようですので、改めて試験の全容を説明させてもらいましょうか。……って、恭佳」


「ん?」


「貴方はいつまでそんな物騒な物を持っているつもりなんですか。用件は済んだんだからさっさと零治に返却してくださいよ。まさか試験中も銃を使う気ですか……?」


「んなわけないだろ。ここでの用事が済んだら直接渡すよ」


「なら構いませんが、銃を置いておくのならちゃんとセイフティーをかけて弾も抜いておいてくださいよ。万が一にも暴発して弾が誰かに命中したらシャレにならないんですからね」


「はいはい。分かっるって」



恭佳は亜弥に言われた通り、まずは腰のベルトに捩じ込んでるデザートイーグルを手に取り、マガジンを取り出してそれをカフェテーブルの上に置き、次にスライドを引いて薬室内に装填されている弾も排莢してスライドにもロックを掛け、安全装置もちゃんとセットして完全に撃てない状態にして銃本体もテーブルの上に置いた。次にアサルトライフルの方も安全装置をかけ、弾は先程の実演で撃ち尽くしているので既に解決済みなのでスペアマガジンと一緒にテーブルの上に置いたが、おかげでカフェテーブルは物凄く物々しい雰囲気を放っていた。亜弥と恭佳もこれでようやく本命の仕事に取りかかれる。亜弥が華琳達に試験の具体的な説明をしている中、恭佳はタバコを一本取り出して椅子に腰掛けながら火を点け、煙を吹かし始めた。少々時間を取られたが、ここに魏の長い長い一日が始まろうとしていた。

零治「お前はなんて物を登場させてんだ」


作者「銃の事か? 別にいいだろ。今回はこういう話なんだから」


亜弥「にしては、最初に出した銃、恭佳が随分とボロクソに言ってましたけど」


作者「オレはあの銃好きだけど、欠陥品なのは紛れもない事実だからな」


恭佳「何? アンタ欠陥品がお好みなの?」


作者「そうじゃないって。VP70は欠陥品だけど、あの独特のデザインが好みなの」


奈々瑠「性能的には?」


作者「残念ながら使いたいとは思わんな」


臥々瑠「マシンピストルにもなる優れ物なのに?」


作者「毎分2200発なんて連射力のせいで命中率がガタ落ちする銃のどこが優れ物なんだよ?」


樺憐「やっぱり嫌っているのでは? さっきから悪い点ばかり挙げられてますけれど」


作者「嫌いじゃない。それにいい所もあるぞ」


零治「何だよ?」


作者「デザイン」


零治「それはさっき聞いた。他には?」


作者「…………ゲームや映画に登場している所?」


零治「それはいい所って言うのか?」


作者「すまん。オレにも分からん……」


亜弥「やれやれ」

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