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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二章 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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94.策士の微笑と、進み始める闇

◆視点:ノクティア◆


「姉さま!」

「向かって」

「……わかりました」


その短いやり取りだけで、意図を汲み取ったセリィは、

重傷のカイル・ヴァルグラディオ――通称トカゲ君を担いで離脱していく。


ちなみに私は、エルシェと違って竜族への侮蔑語を口にしたりはしない。

……心の中で言うくらいに留める。大人だからね!


≪アイツ……目が覚めて、セリィに礼の一つも言えないようなら――

 私が“ちゃんとした礼の仕方”を教えてあげよう≫


ひっそりと黒い誓いを立てていると、目の前の狼人族が声をかけてきた。


「さてさて、お姉さん?

 一応聞くっすけど……俺を通してくれる気、あるっすか?」


「答えが分かってるから、さっき止まってたんじゃないの?」


「だから“一応”って言ったじゃないっすかぁ!」


アハハハ、と笑う男を眺める。


≪この歪んだ気配……。なるほど、増禍薬が“馴染む”とこうなるのねぇ≫


初対面でも、この邪な気配が混じっている相手なら見誤ることはなさそうだ。


――けれど、少し引っかかる。


「ねぇ……なんで君、カイルを連れて行こうとしたの?」

「あれ、気になります? 教えたら見逃してくれたり?」


「この程度の情報じゃあ無理かなぁ」

「ケチっすねぇ……」


会話とは裏腹に、空気はじわじわと張り詰めていく。


――これ以上のやり取りは無意味。


そう判断したタイミングで、狼人族の男が口を開いた。


「まあ、時間稼ぎも十分っすね。

 ノクティアさんを、あのお坊ちゃんの代わりに連れて行ってあげるっす!」


「あれ、なんで私の名前――っ!?」


男の言葉に疑問を口にしている途中で――

足に力が入らなくなって、私はその場に膝をついた。


「……驚いたなぁ。

 竜族にだけ効く薬なんて、聞いたことないよ」


「おや、そうなんすか?

 それはウチの研究バカどもが喜びそうっすね!」


「これ、カイルにも使ってたの?」


「いやいや、あのお坊ちゃんには必要ないっすよ。

 ノクティアさんみたいな強力な竜を捕まえるために持ってきたんす!」


筋肉が弛緩し、魔力はもちろん竜力の流れまで乱される。

まるで酷い二日酔いのような不快感。


――なるほど、確かに厄介だ。


「私、二日酔いって嫌いなんだよねぇ」

「誰でもそうでしょ……」


「呆れた顔するなんて、ひどいなぁ……」

「あれ、ずいぶん余裕っすね?」


「え~、この状態でも君のこと殺せちゃうもん」

「怖い怖い……。どうやるのか気になるんで、向こうに連れて行ったら教えてください!」


「向こうで何されちゃうの?」


「詳しくは聞いてないっすけど――増禍薬の強化素材の提供とか、

 あとは実験体っすね!」


「なにそれ、怖い……」


私はわざとらしく体を震わせながら、

近づいてくる狼人族の男を見上げる。


「あれ、さっきまでの威勢はどうしたんっすか?」

「だ、だって……私もそうなるってことでしょ?」


「アハハハ、確かに!

 でもノクティアさんは“教育”されるでしょうから、大事にされますよ?」


「きょ……教育?」


「はいっす! 従順で便利になるんっすよ!

 まあ、上級竜は試したことないんすけどね!」


私のあからさまな演技すら本気にするほど、

思考が“鈍り”始めている駄犬に、質問を重ねていく。


「へぇ~……誰が、どうやってやるの?」


「レオリクスって人が、ボコボコにしてから魔法と薬で洗脳するって話っすよ。

 それをウチらの――あれ?

 なんで俺、こんなベラベラ――っ!?」


男はハッとした様子で、大きく距離を取る。


「本当に怖い人っすねぇ……。

 自白系の魔法、いつかけたんすか?」


「私もまだまだねぇ……。

 こんなんで心が乱れるなんてさ」


「……教えてくれない感じっすか?」


「えぇ~?

 見当違いなこと言ってる相手に、教えることなんてないんだけど?」


私は男へ手を向け――指をクイッと曲げる。


その瞬間。


「うおっ!?――ぐっ!?」


男の身体が、何かに引き寄せられるようにこちらへ飛んできた。


その勢いのまま、私は蹴りを叩き込む。


一発、二発、三発……。


死なないように、痛みを効率的に与えるのがポイントだ。


ドガガガガッ!?


狼人族の男は数本の木をへし折りながら吹き飛び、

最後は大木に激突して、ようやく止まった。


「ガハッ……」


「あれぇ、意外だなぁ~。

 ちゃんと血は赤いんだねぇ~。

 てっきりドブ色かと思ってたよ!」


私はゆっくりと歩み寄る。


男は脳震盪でも起こしたのか、立ち上がろうとしては転倒を繰り返していた。


「なん……つう……威力っすか……ホント……」


「あれぇ? ちゃんと手加減してあげたのに、もうギブ?」


「ハハハ……さ、さすが上級竜っすね」


だが少しすると、会話が成立し、

ふらつきながらも立ち上がり始めている。


どうやら、中級竜クラスの回復力はあるらしい。


「ところで聞きたいんっすけど……。

 もしかして、最初から効いてなかったんすか?」


「あのくっさい薬のこと?」


「……竜族には嗅ぎ取れないって聞きましたけど?」


思わず、呆れてしまう。


「あのさぁ、駄犬?

 私の名前知ってるくせに、甘く見すぎじゃない?」


私は、諜報と暗殺を生業とするヴァルティエル家の出身だ。


罠と薬品に関しては――姉妹で一番詳しい。


「これじゃあ、せっかくの意趣返しも意味ないじゃん!」

「……意趣返し?」


この男がセリィに近づきながら、風魔法で薬を撒いていたのは最初から分かっていた。

効果も把握していたから、あえて演技していた。


そして――


獣人族には“認識できない臭い”の自白剤で、

あらかた情報の裏も取れた。


「もう説明めんどいなぁ……」

「……どうするおつもりで?」


私は「そうだなぁ……」とつぶやいてからニヤリと笑って見せる。


すると、男はさらに警戒を強めるが――


「うん、警戒心がなさすぎ!

 やっぱり君、狼より飼い犬のほうが似合ってるよ!」


「は? 何を言って――ゴフ!?」


その瞬間。


狼人族の胸から剣が突き出た。


「いつの……間に……」


崩れ落ちる男の背後から現れたのは――

紅蓮の炎を思わせる髪を後ろでまとめた青年。


「ナイスタイミングだよ、ノア!」

「別にナイスではないでしょ……」


私は呆れた表情のノア・ヴォルフレイムに近づき、

肩を軽く叩きながら、「細かいことは気にしない気にしない!」と言うと、

彼はため息をつき、口を開いた。


「それで、殺しちゃってよかったの?」


「うん。聞きたいことは聞けたからね!

 そっちはどう?」


ノアは簡潔に教えてくれた。


・狂暴化した竜族とは別に、一部の竜たちが魔物の森へ向かっている

・竜皇国で暴れている個体より理性が感じられる

・中級竜が中心である


「つまり――暴走してる竜たちを囮にして、逃げるつもり?」


「そんな動き方だね。

 悪いけど、ぼくは竜皇様のところに向かうよ。

 早く“膿の元”を取り除いて、暴れてる竜たちを止めてもらわないと」


リオネス様とシルヴィア様の【竜皇覇気】による制圧。

確かに、敵にのみ畏怖を与えるから最短だろう。


「私も行こうか?」


「いや、大丈夫。

 ノティには、別の仕事があるでしょ?」


≪……相変わらずの朴念仁め≫と思いながらも、私は頷いた。


「わかった。気をつけてね、ノア!」

「ノティもね!」


私たちはその場で別れる。


気づけば周囲は、夜の気配に包まれ始めていた。


「まずは……魔物の森、か。

 いったい何を企んでるのやら……」

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