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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二章 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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95.狂暴化事件の終息と、残された闇の痕跡

◆視点:悠斗◆


「はぁ……はぁ……はぁ……。

 よ、ようやく…着いた……」


「大丈夫、ユウト?」

「これはぁ、訓練内容を見直さないとですねぇ~」


エルシェさん、にこやかにトドメを刺しにこないでください……。


そんな言葉が喉まで出かかったが、口にする余裕すらない。


今、俺たちはセリィとの待ち合わせ場所である、宝物殿へと繋がる転移の間に来ている。


≪しっかし……。転移陣が各所にある理由を、身をもって理解したよ。

 廊下は長いし、使ってない客室も多いし――迷子が続出するぞこれ……≫


竜皇国に来てから、かなり鍛えたつもりだけど……。


エルシェ式のトレーニングを受けても、

ひと月にも満たない体力づくりじゃ、竜族には追いつけないらしい。


≪まあ、最強種に短期間で追いつけるわけもないか……

 アウグストといい勝負できてたと思ったけど、やっぱり手加減されてたんだろうなぁ……≫


壁に背を預けて座り込む俺に、エルシェが特製の回復薬を差し出してくる。

それを受け取り、ゆっくりと飲み始めた――その時。


「セリィ!?」


シアが突然声を上げ、出入り口へと駆け出した。


その声に反応し、エリオスさんや避難してきた人々も、会話を止めて視線を向ける。


「はぁ……はぁ……。

 遅く……なりました」


「ううん、大丈夫だよ!

 ……ところで、なんでカイルも一緒なの?」


俺も追いつき、セリィを労うように声をかけつつ、ぐったりとしたカイルへ視線を向ける。


――だが。


シアの視線は、どこか冷えていた。


どうやら、セリィを傷つけられたことへの怒りが、まだ残っているらしい。


だがその感情はすぐに抑えられ、シアは事情を尋ね始めた。



――――



「――ということがあり、急ぎこちらにお連れしました」


セリィがこれまでの経緯を説明し終えたころ――。


「うっ……んん……。ここは……?」


気を失っていたカイルが、ゆっくりと目を覚ます。


ちなみに彼が気絶していたのは――


「もう動けるから降ろせ……」

「問答している暇はないのです」

「うぐっ!?」


――といった流れで、

こちらへ向かう途中に、セリィが容赦なく意識を刈り取ったそうだ。


もちろん、同情はしてあげない。


「ようカイル! 具合はどうだ?」


「ユウト……か。

 なんでテメェが……いや、俺が連れてこられたのか」


「どうやら記憶は残っているようだね。

 話を聞かせてもらえるかな?」


エリオスさんに促され、カイルは語り始める。


・アウグストに気に入られていた側近が、突如襲ってきたこと

・狼人族でありながら、本気のカイルすら圧倒したこと


それでも殺さなかったことから、

目的は“拉致”だったのだろう――そう締めくくった。


「あ、あの……ノティ姉さまは大丈夫でしょうか?」


セリィは、ノクティアが異質な相手と一人で戦っていることに不安を口にする。


だが、エルシェがすぐに言葉を返した。


「心配はいりませんよぉ~。

 あの程度の狼人族ならぁ、情報を抜かれて、もう殺されてますよぉ~。」


「恐ろしいな!?」


エルシェもその獣人を知っているのか、軽い口調で断言する。


その後、俺たちは持っている情報を共有し、

避難してくる人々を宝物殿へと、転移陣で送り続けていた――その時。


ズゴォォーーーン!!!?


巨大な雷が落ちたかのような轟音が響き渡り、

思わず目を見開いた。



――――



◆視点:第三者(全体)◆


ユウトたちのもとへ轟音が届く、少し前――


「ふぅ……。さすがは古竜か……」

「私たちを二人相手に、ここまで戦えるとは……やはりお強いですね」


「っち……。嫌味にしか聞こえんな……」


竜皇城・謁見の間。


竜皇リオネスと竜妃シルヴィアは、古竜レオリクスと対峙していた。


三者とも【再生】スキルにより肉体は癒え、

部分竜化によって形成された鱗も同様に再生されている。


衣服すら元通りなのは、着用している者たちの竜鱗で作られているためだろう。


周囲の惨状を見なければ、激戦の最中とは思えない。


「しかし解せませんね。

 なぜ古竜ともあろう方が、竜の矜持に反するような行いを?」


「反してなどおらんよ。

 “覇天竜”の力を手に入れ、高みに至る――それこそが私の矜持だ」


レオリクスが放った言葉に、リオネスは鼻で笑う。


「覇天竜など災厄にしかならん。

 我ら竜族が世界の調停者であること、忘れたか!」


「それこそくだらん。

 なぜ押し付けられた秩序に従わねばならん」


次の瞬間――


リオネスとレオリクスが、再び激突する。


その衝撃は、この魔道具で拡張された空間すら破壊しかねない威力。


かろうじてシルヴィアの補助により、空間が保たれていた。


それから数度の衝突を経て、三者は再び距離を取る。


押し切れないことに苛立ちを覚えながらも、レオリクスはさらに増禍薬を口に運んだ。


「まだ持っていたか」


リオネスは油断なく武器を構え、

シルヴィアは魔力と竜力を練り上げ、様子を窺う。


――その時。


「やあやあ、なにやら楽しそうなことしてるねぇ!」


この場にそぐわない、あっけらかんとした声が響いた。


全員が、その方向へ視線を向けると――。


バチバチ……。


何もない空間に紫電が走り、一人の女性が現れた。


紫の長髪をポニーテールに束ねた、異質な気配を纏う存在。


「トルシア様!?」

「貴女は久遠の竜都へ戻られたはず――まさか!?」


「……」


リオネスとシルヴィアが驚愕する中、レオリクスだけが静かに様子を窺っていた。


「変な誤解とかやめてよねぇ、リオ坊もシル嬢もさぁ……。

 アタシは、そこの洟垂れ小僧に用があって来ただけだよ?」


「……どういうことでしょうか?」


「お婆ちゃんのヒ・ミ・ツ♪」


そう言って、トルシアは迷いなくレオリクスへ歩み寄る。


「なんのつも――」


ドゴォン!?


言葉は最後まで紡がれなかった。


衝撃も音も――すべてが、遅れて届く。


竜化した部分の竜鱗を弾き飛ばし、レオリクスの意識を刈り取った、その一撃。


現代の竜皇と竜妃ですら目で追えなかった光景に、

二人の頬を冷たい汗が伝う。


トルシアはそんな二人へと視線を向け――ニカッと笑った。


「この小僧は連れてくけど……問題ないよね?」


親戚の子供に話しかけるような気安さ。


だがその裏で、本能が鳴らす警鐘は止まらない。


「問題ないかと聞く割に、こちらの返答など気にせず連れて行くのだろう?」


「あ、わかっちゃった?」


あまりに悪びれる様子もないトルシアに、

リオネスは小さくため息をつき、「勝手にしてくれ」と投げるように言った。


だが、シルヴィアは違う。


「レオリクスの処遇について、お聞きしても?」


「ナ・イ・ショ♪」


「……」


一切答える気のないその態度に、シルヴィアは静かにトルシアを見据える。


「そんなに見つめちゃってぇ~、かまってほしいの?」


「はぁ……。遠慮しておきます」


「えぇ~、昔は“お姉ちゃん”って――ご、ごめんって!?

 今日はからかわないから、その黒い笑顔やめてよ!怖いから!?」


もはや、先ほどまで戦闘が行われていたとは思えない空気の中、リオネスが口を開く。


「トルシア様……。今回の件、どこまで関わっておられるのだ?」


「直球だなぁ~。

 “この騒動”には、ノータッチだよ!」


含みのある言葉。


リオネスとシルヴィアはさらに問いただそうとするが――


「それじゃ、アタシはもう行くから!」


その言葉を残し、トルシアは去る。


ズゴォォーーーン!!!?


紫電を纏い、謁見の間の天井を盛大に突き破って。


「「……」」


天井に開いた穴の先、満月が覗いている。


竜皇リオネスと竜妃シルヴィアは、同時に思った。


――なぜ、わざわざ被害を広げていくのか。


こうして――


今回の竜族暴走事件の黒幕、レオリクスはトルシアに連れ去られた。


その直後――


様子を窺っていた、紅蓮を思わせる赤髪の青年が、入れ替わるように二人の前へと歩み寄る。


「お疲れのところ申し訳ありませんが、お力をお借りできますか?」

「ノア・ヴォルフレイムか……。少し休ませては――「ダメですよ」――ぐぬぬ……」


ノアの言葉に休憩を求めるも、シルヴィアに即座に却下され、

リオネスは苦い顔をした。


「同胞が頑張っているのでしょう?」

「わかった、わかった……。言ってみただけだ」


竜皇は肩をすくめるように言うと、竜妃とノアを連れて外へと向かう。


そして――。


「静まれ」


竜皇城のテラスに出ると、リオネスが短く言霊を放ち――

シルヴィアとともに【竜皇覇気】を解き放つ。


城下で暴れていた竜族たちは、その瞬間に萎縮し――

他の上級竜たちによって、瞬く間に制圧されていく。


そうして不明な点を多く残しながらも――


ひとまず、この事件は幕を閉じるのだった。

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