表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二章 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/119

87.手を伸ばすことをやめた二人……

さて、本当にどうしたものか。


ピシ……ピシピシ……。


今、私が放った天災級魔法――

決して溶けない氷の墓標と、魔導書に記されていた“氷天葬歌”に、

ひとつ、またひとつと亀裂が走り始めている。


ピシ……ピシピシ……


その亀裂は、一気に広がっていく。


ビシビシバキバキ……!


バキバキン――ドドドドドドド……!


「さてさてぇ~……。

 これは本当に、覚悟を決めなければいけませんねぇ~……」


砕け、崩れ落ちていく氷の瓦礫の中から、

翼をはためかせるアウグストが、己の身体を確かめるように手を握り、開いた。


金色の炎を纏っているが、先ほどまでとはまるで別人のように感じられる。

特に、金色の中に混じっている――


「その“禍々しい炎”はぁ、増禍薬の影響でしょうかぁ~?」


問いかけると、アウグストは静かにこちらへ視線を向ける。

その瞳には、底冷えするような冷たさを宿していた。


「ああ、そうらしい。

 体への影響はなさそうだが……エルシェリアよ。

 貴様にはどう見える?」


「そうですねぇ~……。

 淀んでいて気持ち悪いですねぇ~」


警戒しながら答えると、アウグストは短く「そうか」とだけ返し――


その姿を、消した。


「っ!?」


瞬転を使う余裕なんてない。

私はとっさに前方へ大きく飛びのく。


――直後。


ドゴン!?


先ほどまでいた場所で爆発が起こる。

肩越しに振り返れば、拳を地面に叩きつけたアウグストの姿。


しかも彼は片手をこちらへ向け――

およそ二十センチはある、大きな金炎弾を撃ち放ってきた。


「くっ!? 容赦がないですねぇ~!」


文句を言いつつ、体をひねり防御姿勢を取る。


ドゴォン!?


衝撃音とともに、金炎に呑まれ、私は後方へと吹き飛ばされた。


“どうやら、上手く適応できたようだ”


――そんな声が、聞こえた気がした。


だが、そんなことを考えている余裕はない。


「しまっ――!?」


背中へ凄まじい衝撃が叩き込まれ、

メキ、と骨が軋む音が響く。


そのまま身体が弾き飛ばされた。


「ぐぅっ!?」


呻きながら、なんとか体勢を整えようと身体をひねる。


だが――


ドゴンッ! ドゴンッ! ドガァァンッ!!


次の瞬間、視界の先にはすでにアウグストの姿。


宙へと蹴り上げられ――


さらに回り込まれ、地面へと叩きつけられる。


「ゲホッ……グッ!? ガハ……ハァ……ハァ……」


追撃を防ぐため立ち上がろうとした瞬間、

胸から口へと込み上げる熱に耐えきれず――

私は血を吐き出した。


数度の攻撃。

たったそれだけで、全身が悲鳴を上げる。


≪これはもうダメですねぇ~。

 おかわりが怖くてもぉ、まともに動けそうにありませんよぉ~≫


状況は、最悪と言っていい。


最後の防御手段とも言える【天竜燐】は、

まとわりつく金炎によって再生を阻害されている。


つまり――次は、まともに受けるしかない。


「ふむ……力加減が難しいものだな」


そんな言葉が聞こえ視線を向けると、

地面へと降り立ったアウグストの存在感が膨れ上がる。


魔力と竜力が、肌で感じるほどに溢れ出しているのだ。


「さて、エルシェリアよ。

 やることがまだ残っていてな……これが最後だ」


【再生】スキルによって体の傷が癒えはじめ、

倒れていた体を起こし、アウグストを見据え言葉を待つ。


「ともに来い。

 そして、俺の女になれ――エルシェリア」


「ハァ……ハァ……。

 まるで告白ですねぇ~」


「そう取っても構わん。

 俺は、お前を認めているのだ」


竜族らしい告白だな、と思いながら――私は目を閉じて考える。


生き残るためには、アウグストの提案を受け入れるしかない。


だが、答えはすでに出ていた。


≪アウグストの近くにはぁ、私の大切なものがないのですよねぇ~≫


そうして目を開け、アウグストを見ると、

彼はすぐに察したのか、ため息をこぼす。


「意外と強情なのだな……」


「幼女…趣味の……男性は……ハァ……ハァ……。

 お断り……ですぅ~……」


「はぁ……仕方あるまい。

 俺も貴様の力を見くびっていた。

 今のまま連れて行けば、寝首をかかれかねん」


そう言いながら、アウグストは先ほどよりもさらに力をためていく。


――今度は、私がため息をこぼす番だった。


「死体く……らい……残し……てくれてもぉ~……?」


「すまんが、エルシェリア。

 さっきも言ったが、貴様を高く評価しているのだ」


なるほど、その評価が高いがゆえに、

助かる可能性は完全に消し去りたいらしい。


――とんだ迷惑な話だ。


≪結局、私の求めるものは得られませんでしたねぇ~≫


最初からアウグストを殺す方法はあったが、

それは私の矜持に反するし、今となってはもう遅い。


≪弟君もセリィちゃんも強くなりましたしぃ、

 私はぁ十分に仕事をしましたからねぇ~≫


もう会えなくなるのは寂しいけれど、

このまま生き続けても、辛いだけ……。


私が求めたものは――遠すぎた。


これまでの生で、唯一出会えた可能性は、すでに失われている。

そして、またその時を待つには……長すぎる。


もう、疲れてしまった。


「ノクティア姉さま、あとはお任せします。

 そして弟君……シンシアちゃんだけでなく、セリーネも大切にしてくださいね」


すでに再生を終えた身体に、私は苦笑する。


アウグストの頭上に浮かぶ、太陽のような金炎。

きっと、あれも避けられるだろう。


だが――


私にはもう、戦意どころか、

生きたいという意思すら残っていなかった。


「なんだ、もう再生したのか」

「アウグストがぁ、十分に時間をくれましたからぁ~」


「ほう……。

 しかし、闘志が見えんな……」


「クスクス。

 そう警戒しなくても、避けませんよぉ~」


「……なぜだ?」


そんなアウグストに、私はどう答えようかと少し考える。


彼は、“増禍薬”などというくだらないものに手を染めてまで、強くなろうとした。

それが本当に私を手に入れるためなのかは分からない。


だが、それでも――


竜族として、血縁よりも、己の力を求める意志。

それ自体は、尊敬に値する。


「そうですねぇ~。

 私自身が、諦めてしまったからでしょうかぁ~」


「戦うこと……いや、なにを諦めた?」


「欲していたものへと――手を伸ばすことを」


私がそう口にすると、アウグストが目を見開く。


「エルシェリアよ。

 先ほどから敬称がなくなっていたこともそうだが、その喋り方と雰囲気は……?」


どうやら、無意識に素を出してしまったらしい。

だが、これほど早く気付くとは……。


存外、アウグストは私をよく見ていたようだ。


「まあいいでしょう。これが素ですよ、アウグスト。

 ああ、敬称を付けないのは――貴方が明確な敵になったからです」


「ククク……。確かにそうだな。

 だが、もっと早く――今のエルシェリアと会いたかったぞ!」


彼は、そう言って笑う。


この男も笑うのだな――と、

死に際になって新しい発見をするとは……。


≪まあ、するならセリーネか弟君……。

 いえ、ユウト様の発見がしたかったですねぇ……≫


そんな思考がよぎったあと、私はアウグストへ声をかける。


「まだ、お話しますか?」


「いや……。

 名残惜しくはあるが、もう終わりにしよう」


「おやおやぁ~?

 私は構いませんよぉ~?

 いくらでも付き合ってあげます♪」


「であれば、俺とともに来い!」


「それは、謹んでご遠慮申し上げます」


丁寧に、きっぱりと断る。


もはや、殺す者と殺される者の会話ではない。


「そうか……。本当に残念だ」


「貴方にそう思っていただけたこと、誇りに思いましょう。

 そして――“増禍薬”などというくだらない物に手を染めてまで、

 強くあろうとしたことにも敬意を表します」


言い終えると、私たちは言葉を止めた。


しばしの静寂。


その中で響くのは、

アウグストの頭上に待機する、金色の業火の燃え盛る音のみ。


「さらばだ……」


「ええ、さようなら」


そしてアウグストは、

太陽とも呼べるほどのエネルギーを持つ、巨大な炎塊を放った。


「さようなら、セリーネ、ノクティア姉さま。

 そして――本当に楽しかったですよ、ユウト様……。


 願わくば、転生し……今度こそ、あなたを……」


ゆっくりと迫り来る、巨大な金炎の玉。


その前で、私は静かに目を閉じた。


そして――


「瞬転――これが俺の、全力全開だぁぁーーー!!?」


その声とともに、

突如として、大小二つの轟音が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ