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巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった  作者: ノラクラ
第二章 強者尊ぶ竜皇国-ヴァルゼリオン

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86.殺す覚悟と、エルシェリアの本領

時は――ユウトを転移させた場面まで遡る。



◆視点:エルシェリア◆


用心のため転移石を持って準備していたおかげで、

私は無事に弟君を逃がすことができた。


――あとは、この状況をどう切り抜けましょうか。


「おやおやぁ~?

 逃げられてしまったようですねぇ~」


「それが答えか?」


「何のことでしょうかぁ~?

 どう見てもぉ、皇女様の魂約スキルによる転移ですよぉ~?」


「ほう。俺には、地面に落ちている血が幻に見えるが?」


そう言われ、私はやれやれとため息を吐き、

弟君をナイフで刺したように偽装した痕跡を消した。


「バレてましたかぁ~」


「たわごとだな……。あの勇者を逃がしたということは、

 こちらにつく気がないのだろう?」


「クスクス……。

 それこそ、ざれごとですねぇ~。

 弟君はぁ、“ついで”なのでしょう~?」


この男の目的が私なのだろうことは、最初から予想していたし、

弟君をあえて見逃した様子を見て、それは確信へと変わった。


≪だからこそぉ、私は残るしかなかったのですがぁ~。

 さてさてぇ、本当にどうしましょうかぁ~≫


ひとまず、期待できない救援が来るのを待つつもりで、

私は時間稼ぎを試みた。


「こんなことしてよろしかったのですかぁ~?

 古竜様方がぁ帰って来られたらぁ、大変なことになりますよぉ~?」


数日前から、竜の天秤の全員が、

久遠の竜都へと定時報告のため戻っている。


それについて尋ねてみたのだが――


「問題ないな」


アウグストは意にも介さず答え、言葉を続けた。


「さっきは皇女が助けには来られないと言ったが、

 正確には――救援は望めない、だ」


「おやおやぁ~、それは困りましたねぇ~」


「ほう、想定内であるか……。

 しかし、これは予想できたか?」


「……?」


私は、アウグストの次の言葉を待つと、

この男は、信じられないことを口にした。


「俺の叔父上――古竜レオリクスが、

 竜皇リオネスと竜妃シルヴィアを殺しに向かった」


「……っ!?」


これは完全に想定外だった。


なぜ、竜の天秤に所属しているはずのレオリクスが、ここに残っているのか。


≪嘘を吐く理由もありませんしぃ……

 これは、この国も危ないかもですねぇ~≫


竜の天秤の執行者であり、しかも相手は古竜様……。

竜皇と竜妃と言えど、分が悪いだろう。


≪まあ、そう簡単に殺されることはないでしょうがぁ~≫


そう思いながら私は意識を、

竜力と魔力をゆっくり高めていくアウグストへ向けた。


どうやら雑談はここまでらしい。


「もうおしゃべりは終わりですかぁ~……。

 釣れないですねぇ~……」


「ククク……そう言うな。

 貴様は殺さず連れ帰り、しつけ直してから俺の部下にするつもりだ」


これからいくらでも話す時間は作れる――

そうアウグストは言った。


しかし、自分で言うのもなんだが、私の見た目は少女そのものだ。

“契約”で体の成長を止めているこの身体に、女性らしい部分はない。


つまり――


「なるほどなるほどぉ~。

 アウグスト様は変態さんだったのですねぇ~」


「ふむ。外聞から見れば、そうかもしれんな。

 だが、弱者になど興味はない。

 俺はお前を認めているのだ、エルシェリア!」


こちらは軽口のつもりだったのに、

真面目に返されると反応に困ってしまう。


≪まあ、この方が軽口を言う姿は想像できませんねぇ~≫


そう思いながら、私は臨戦態勢を取った。


≪堅物なアウグスト様を相手にぃ、どこまでやれるか分かりませんがぁ~。

 それよりも、この違和感……もしかするとぉ~……≫


相性も状況も悪すぎるが、戦えないことはない。


それよりも、この胸騒ぎの方が、

私の心に警戒音を鳴らしていた。


しかし、ゆっくり考える時間は与えてくれないらしい。


「いくぞ!」


そう言って、アウグストが急接近しようとした――その瞬間。


「どうぞぉ~♪」


踏み込んだ瞬間、私は“瞬転・神楽”で背後に移動し、

彼を吹き飛ばした。


ドゴォーン!?


凄まじい衝撃と共に、アウグストが訓練場の壁へ激突する。


――だが同時に、私がいた場所も金色の爆炎に包まれていた。


「おぉ~、怖いことをしますねぇ~」


爆炎が上がる瞬間、私は“瞬転”で移動して難を逃れる。


そして瓦礫へ視線を向けた瞬間――


ドゴォン!?


頭上から降ってきたアウグストが、

私のいた場所へ拳を振り下ろした。


私は再び“瞬転”で回避する。


「本当にぃ、油断も隙もないのですからぁ~」


「よく言う。最初に仕掛けたのはお前だろう」


一瞬の小手調べ。


距離を取った私へ、アウグストは言葉を続けた。


「しかし相手にすると厄介だな。

 勇者から教わったという、その歩法は……」


「“瞬転”のことですかぁ~?」


私が好んで使う移動法――


瞬転は、【縮地】スキルを派生させて生まれた“技術アーツ”だ。


予備動作を悟られず移動できる。

しかしこの技の面白いところは、そこだけではない。


「移動するだけだと聞いていたが、

 攻撃にも転じられるのか?」


「そうですよぉ~。

 もう少し正確に言うならばぁ――

 “技の起点”でしょうかぁ~」


そう、瞬転から派生する技は多岐にわたる。


例えば――


「瞬転・神楽」


この技は、特殊な足運びによって、

移動エネルギーを攻撃力へと変換している。


その上、殺気などの気配をその場に残したまま移動するので、

戦闘経験者ほど、よく引っかかるからお気に入りだ。


アウグストの背後に現れた私は、

先ほどと同じように吹き飛ばそうとした。


しかし――


「ぐう……速度もそうだが……。

 なるほど……衝撃も凄まじいな……」


「さすがアウグストですねぇ~。

 あのトカゲもどきなら死んでるレベルなのですがぁ~」


「愚弟とはいえ、侮辱しないでもらおうか」


多少は後退させたが、

今度はしっかり耐えられてしまった。


≪ふむぅ……そう簡単には上手くいきませんねぇ~≫


そう思いながら様子を伺っていると、

アウグストがニヤリと笑った。


「なんだ? 追撃はしてこないのか?」


「よく言いますねぇ~。

 カウンター狙いがバレバレなのにぃ~」


「なんだ、気付いていたのか?」


瞬転・神楽の攻撃力は、その速度と同義だ。


つまり――。


≪逆に言えばぁ……カウンターを貰うとぉ、

 こちらのダメージが大変なことになるのですよねぇ~≫


私はやれやれと思いながら、

本気で戦うことを決めた。


アウグストにもそれが伝わったのだろう。


先ほどまでの静かな笑みが、

獰猛なものへと変わる。


「どうやら、本気を出す気になったようだな」


「どうでしょうかぁ~。

 乙女には秘密が多いのでぇ~」


場の空気が、静かに張り詰めていく。


そして私は――


アウグストを殺す覚悟を決めた。


「瞬転・神隠し(かくれんぼ)」


「なっ!?」


アウグストが驚くのも無理はない。


神楽は移動と攻撃を行うが、

神隠しは――読んで字のごとく、自分の姿を消す技だ。


≪魔法でも幻術でもない“ただの技術”。

 見つけるのは難しいでしょうぉ~≫


そして私は詠唱を開始する。


『氷点逆巻く天上の調べ。

 命すら包み込み、終わりへ導く鎮魂の旋律。

 地に降り注げば、等しき眠りを与える歌となる』


「ちっ!? この状態で“最上級魔法”の詠唱か!?」


アウグストは私を見つけ出すため、

上級の光と火の合成魔法“ソル・サイクロン”を放った。


次の瞬間、金色に燃える炎の渦が周囲へ広がっていくが意味はない。


なにしろ、私がいる場所は――


「残念ですねぇ~。

 ソル・サイクロンは術者の中心には影響しないのですよぉ~」


「なぜ貴様がそこに居るっ!?」


その質問には答えず、

私は地面から氷柱を生やし、アウグストを上空へ打ち上げた。


「もう一つ惜しいのはぁ、

 この魔法が“天災級”だということでしょうかぁ~」


そう言いながら、

私は“待機”させていた詠唱の続きを紡ぐ。


「されど、この歌は天へと還る。

 かの者が確かに存在したのだと示すため、

 永劫残る標として――」


上空に集まっていた冷気が、

氷雪を伴う渦となって地上へ降り注ぐ。


そして渦は中心へと収束し、

上空のアウグストを包み込んだ。


「氷天葬歌!」


その瞬間、

訓練場に巨大な氷柱が立ち上がる。


まるで――永劫残る墓標のように。


「ふぅ~……上手くいきましたねぇ~。

 さすがに魔力も竜力もすっからかんですよぉ~」


私は【アイテムボックス】から

上級の魔力回復薬を取り出し、一気に飲み干した。


「美味しくありませんがぁ、緊急事態ですからねぇ~」


そう言いながら、しばらく氷柱を観察する。


この魔法は“天災級”。


まともに受けたのだから、

アウグストは確実に死んでいるはずだ。


助かる術などない。


しかし――


「どうしてでしょうかねぇ~。

 胸騒ぎが一向に収まりません……」


決して溶けることのない氷柱は、

やがて私の胸騒ぎが正しいことを証明する。


――ピシ……。

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