本日のおすすめ『サメ料理』
お久しぶりで申し訳ありませんm(_ _)m
さて今日は何を仕入れましょうかね。
朝焼けに照らされた港の市場を見ながら通い慣れた坂道を羊獣人な店主は降りていった。
朝も早くから港はにぎやかである。
魚介類を積んで港を滑らかにはしる小型運搬車や台車、漁から帰った漁師、仲買人や早起きの一般人や観光客を避けながら羊店主、アドリアナは歩いていた。
この間の巨大鮫はどこかに持っていったのか、もうないようである。
「よぉ、アドちゃん」
「おはようございます」
知り合いの漁協のおっさんオルビスに声をかけられてアドリアナは頭を下げた。
「仕入れかい? 」
「はい、今日は何がよく上がってますか? 」
店主はオルビスに微笑んだ。
「……引き取ってくんないかい? 」
「なんですか? 」
オルビスがぼそっと言った魚の名前を聞き損ねて店主は小首をかしげた。
あ~あれだ、この間まで下がってた海賊討伐の副産物をな、売ってグーレラーシャの傭兵とかカータシキの魔法使いの旦那を雇ってる費用の一部にしようって話が……とオルビスが自分の髪が寂しい頭をかいた。
「あ~あれですね、そんなにいっぱいは引き取れませんけど」
「悪いなぁ、アドちゃん」
巨大なあれの料理ってどんなのにしましょうかと店主は思いながらオルビスに案内されながら市場の方へ歩いていった。
キシギディル大陸のドゥラ=キシグ香国のソーランの港町に『飛ぶ羊亭』という食堂がある。
新鮮でそこそこ美味しい魚料理とのほほんでもふもふな羊店主に世界中から常連客がそこそこやってくるのである。
ソーランの坂道をあがりながら魔法使いは芳ばしい匂いに目を細めた。
「揚げ物ですかねぇ」
「いい匂いなの〜」
小さな翼のある子犬のような使い魔に話しかけると使い魔もひくひくと鼻を動かしてはしゃいだ。
早く行きましょうと使い魔を抱き上げて魔法使いは馴染みの店の扉を開けた。
カランカラン。
羊を模した扉にかかった木の看板の鈴がなった。
「いらっしゃいませ〜」
カウンターだけのこじんまりした店のオープンキッチンの向こうで羊店主が微笑んで頭を下げた。
店内は揚げ物とクリーミィな煮込み料理の匂いがただよっている。
「あら、ティアンさん久しぶりね」
エルフの常連ピアナがレモンハイのグラスを持ったまま魔法使いをみた。
「ちょっと本国に呼び戻されてました」
グーレラーシャ傭兵国で新国王陛下の即位がある関係ですと魔法使い、ティアンは使い魔、リーを膝に乗せてカウンターについた。
「あら、だから傭兵の坊やが来ないのかしら」
レモンハイをカウンターに置いてピアナはツンっと指先でグラスをつついた。
「彼も貴族らしいですからね」
ティアンは目の前に置かれたお手拭きの袋をやぶった。
店主が貴族なんですねとつぶやいた。
「それよりいい匂いなの」
リーがちょこんとカウンターに鼻を出した。
「そうですね、本日のおすすめは何ですか? 」
「サメです」
店主がホワイトボードに目線をむけた。
カウンターの横の黄色味を帯びたソーラン特有の漆喰の壁にかかったホワイトボードにはヘタウマなサメの絵と本日のおすすめはサメとかいてあった。
「サメですか、珍しいですね」
「タルタルフライサンド美味しいわよ」
ピアナが目の前に置かれた具が沢山はさまれたサンドイッチを指差した。
ひときれだけのこっているようだ。
付け合せのフライドポテトからも湯気が立っている。
「タルタルフライサンドイッチも美味しそうですがお酒も呑みたいのでつまみ系がいいです」
「お魚食べたいの〜」
膝の上から顔をのぞかせたリーをなでながらティアンは物憂いに気に酒瓶の並ぶ棚を見た。
「何かつまみ……揚げ物がいいです、それと白ワイン……リーに焼き魚をお願いします」
かしこまりましたと店主が保冷庫から材料を出した。
白ワインもだしてグラスに注いでティアンに提供する。
「センセーがお酒なんて珍しいわね」
ピアナがさり気なく席を隣に移した。
「ええ、ちょっと……」
「塔王様候補にあがったの」
ちょこんと御行儀よく座ったリーが暴露した。
「あらあら」
ピアナはリーをなでた。
ヒデルキサム大陸の端にあるカータシキ魔法塔国はその名の通り魔法使いの国である。
沢山の塔が立ち並ぶその国は少し特殊で建前上は当代一の魔法使いが『塔王』として国の代表者をつとめているのである。
「……冗談じゃありません……母がそれにともない嫁をもらえってうるさいですし……」
ティアンはサメの切り身をステック状に切る店主をせつなそうにみた。
「おモテになりそうです」
店主は小麦粉に粉チーズをいれハーブ塩を混ぜた。
鮫の切り身のうちの一つは味付けせずグリルに入れ火をつけた。
あらあら……とピアナはかわいそうにとティアンに視線をむけた。
ティアンの年下の店主アドリアナに対する恋心は常連客の間ではバレバレである。
しかし店主はプチホテル時代からの常連客のお兄さんとしか思っていないのもバレバレであった。
そしてとあるここに来てない血まみれ傭兵の事を店主が気になっていることもである。
「ねぇ、サメって珍しいわね」
「ええ、漁協で少し押し付けられました」
店主は少し遠い目をした。
漁協の巨大冷凍庫の前にオルビスに連れ込まれアドちゃんもソーランを愛する食堂店主なら買っていってくれるよなとニコニコとさしだされたサメ塊を……隣で同じように塊を押し付けられたらしい港のホテルのシェフと視線を合わせて空笑いをしたのであった。
「もしかして……」
「ええ、海賊の落とし物です」
ピアナの問いに答えながらサメの身に軽く塩を振って窓に視線を向けた。
大きな窓からは坂がちのソーランの港町の家々の明かりや坂道はるか下に海と港と停泊する船が見えた。
「あれですか……巨大鮫! 港にかかってましたね」
「はい、あれです」
店主はジャガイモを野菜カゴから出した。
それをクシ型に切ってゆでる。
春の新ジャガなので少々小ぶりである。
ニンニクを一房出して潰してフライパンにいれる。
やや生煮えのじゃがいもをザルにあげて水切りしたあとバットに置いて薄力粉をまぶしたあとフライパンに入れた。
その上からオリーブオイルを注ぎ入れ火をつける。
グリルからサメを取り出して身を小さく切ってお皿にのせてリーの前においた。
お待たせしましたと店主が微笑んだ。
美味しそうなの〜とリーが嬉しそうな声を出した。
隣にリーが来たとき用のガラス製の犬用水入れが置かれた。
その顔をティアンは一瞬見惚れた。
ああ、あのちっちゃかった子羊が立派な女性に……僕も歳を取るはずですねと思い白ワインを一口飲んだ。
センセーと駆けてくる羊幼児が思い出される、いつから女性として想うようになったのかとティアンは店主を見た。
塔王はともかくお嫁さん〜孫〜と騒ぐ母親の声が耳によみがえりティアンはため息をついた。
「討伐したサメを更に売るなんて商魂たくましいですね」
ピアナの視線を感じてティアンは微笑んだ。
「そうね、再利用? 」
ピアナは視線を反らしてそっちも美味しそうとレモンハイを片手にフライパンを覗き込んだ。
「海賊討伐の費用にあてるそうです」
店主は黄色く揚がったジャガイモをバットにもって塩コショウをした。
続いて小麦粉ミックスにビールを加えて混ぜサメの身を入れてあえる。
「海賊……ね、早くなんとかできればいいわね」
「はい……」
ピアナはサンドイッチをつまんで口に運んだ。
かつてこのソーランも海賊被害を受けたのである。
そのことがソーラン町民を打倒海賊に駆り立てるのであろう。
油にサメの身をくぐらせる。
小さなあぶくをたてながらサメは揚がっていった。
白ワインビネガーを小さなココット皿に注ぎ黒コショウと塩をふる。
マヨネーズをもう一つココット皿をだしてもり一味唐辛子をかけならべた。
フライドポテトを同じ皿に盛り付ける。
店主は揚げ鍋からきつね色にあがったサメのフリッターを網ですくって揚げ物バットに上げた。
サメのフリッターをフライドポテトの横に乗せる。
「フィッシュアンドチップス風お待たせいたしました」
店主はティアンの前に皿を置いた。
皿の上でサメフリッターとフライドポテトが湯気を立て美味しそうである。
「美味しいですね」
ティアンはフォークで芋をさして口に運んだ。
ハーブとニンニクの風味が口に広がる。
芋のホックリ加減がたまらない。
あら、このフライドポテトと同じなの? とピアナが一本自分の皿からフォークでさした。
ピアナさんのはあっさりめに塩コショウだけですと店主がバットを流しに置きながら答えた。
ふーんと言いながら横目でティアンのフライドポテトを見ながらピアナは自分のを口に放り込んだ。
「ピアナさんも食べますか? 」
「いいの〜ありがとうセンセー」
ピアナは遠慮なくフライドポテトにフォークでさして口に入れた。
あら、全然違うわ〜美味しいと騒ぐピアナをしりめにサメのフリッターを一味唐辛子マヨネーズにつけて口に運んだ。
「白身魚みたいですね」
クセがなくて美味しいですとティアンは口をほころばせた。
弾力のあるサメの身がフリッター生地をふんわりしていて一味唐辛子マヨネーズがよく合うと思いながら白ワインを飲んだ。
「焼き魚も美味しいの〜」
リーが顔を上げた。
ピコピコと尻尾を振って嬉しそうだ。
「良かったですね」
リーの頭をなでて今度は芋をビネガーソースにつけて口に運ぶ。
フライドポテトのハーブ風味とビネガーソースの爽やかな酸味がよく合い一瞬カータシキでのやな事を忘れかけた。
我ながら単純だとおもいながら苦笑して白ワインのグラスを手に持った。
カランカランと入り口の鈴がやや荒くなって勢い良く扉が開いた。
「遅くなった! 」
「いらっしゃいませ」
飛び込むように入ってきた赤毛の傭兵を店主は笑みを浮かべて出向かえた。
心なしか自分のときより店主が嬉しそうに感じるとティアンは思いそんなことはないとかき消した。
「遅くなったって何よ〜学校とか家とかじゃないのよ〜」
ピアナがレモンハイを片手に赤毛の傭兵をからかった。
うちじゃないがいつでも来てるところだしと頬を指でかきながらラウティウスがカウンターにこしかけた。
「なんで『遅くなった』の? 」
ニヤニヤしながらピアナがラウティウスを見た。
「少し班編成の話し合いをしててな……俺のバディも復帰するし新国王陛下の即位式もあるしな」
ラウティウスがそういいながらお冷を一気飲みした。
鍛え上げられた肉体の若い男……店主への求愛の最大のライバルをみてグーレラーシャ傭兵国の新国王陛下の即位式はこの男にも影響があるらしいとティアンは思いながら白ワインを口に運んだ。
「いい匂いだ、今日のおすすめは……」
ラウティウスがホワイトボードに目を向けようとしたところでリーンリーンとベルがなった。
懐から通信機をラウティウスはだして通信者を確認した。
ウルニウスかとつぶやいて立ち上がり少しカウンターから離れて耳に当てる。
「ヴィアラティアに黒リスの迎えが? 俺に話があると!? 」
わかった、すぐ行くと不機嫌そうにラウティウスは通信機を切った。
みんなの注目を浴びてラウティウスは苦笑した。
「仲間に黒リス文官の襲来があったようなので帰らなければならないようだ」
「黒リス文官さん? 」
店主の頭に小さい黒リスがグーレラーシャの民族衣装を着てバインダーを持ってヴィアラティアたちに突撃してる図が脳裏に浮かんだ。
ああ、すまないと名残惜しそうに店主を見てラウティウスはでていった。
「黒リス文官は凄腕外交担当官『戦闘文官』の後継でしたね」
「そうなの? センセー」
ピアナは感心したように答えてレモンハイを飲み干した。
女性……優秀な方なんでしょうねとつぶやきながら店主はボールを洗い出した。
やっぱり、あの傭兵の若者が最大のライバルみたいですねと思いながら店主の白い巻毛をティアンはながめてサメのフリッターをビネガーソースにつけてかじった。
諦めるつもりはもちろんないが今日は静かに酒が飲みたいと思うティアンである。
その希望がかなうのはアドちゃーん、サメが気になってきちゃったと漁協の同僚を連れてオルビスが来るまでであと何分である。
☆本日のおすすめ☆
フイッシュアンドチップ風
異世界料理をアレンジしてみました。
明正和次元の英国とか言うところのファーストフードみたいですね。
おつまみなのでビールを入れてフリッターにしてみました。
白ワインはミル=キシグ古王国産のものです。
手軽な値段のものですけどあの国のワインは美味しいですから仕入れてます。
ビールのほうが出るんですけどね。
ビールは地元産を主に外国産から異世界産までそこそこ取り揃えてます。
はちみつ酒は……色々変えてみてるんですけどどこが美味しいんでしょうか?
それにしても……ラウティウスさん大丈夫でしょうか?
黒リス文官さんって……私には関係ない話ですよね。
グーレラーシャにラウティウスさんも帰っちゃうのかな……
読んでいただきありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ




