閑話 彼女と彼らの夜の過ごし方
お久しぶりですみません(´;ω;`)
ソーランの港町に明かりが灯る様子を黒髪の青年は海から見上げた。
海に浮かぶ黒ずくめの船のマストにジュリーロジャーのガイコツとばってん印の骨が白く染められている。
その下の甲板で青年は柵に頬ずえついて陸地の方をみていた。
あの明かりのどこかにあいつらがいると思いながら……
「相変わらずのんきそうな港町だぜ」
隣にのそのそやってきたのは顔に傷がある、まるでくまのような男で片手に酒瓶を下げている。
「前のようにたっぷり稼がせてくれるさ」
青年は目を細めた。
おお、期待してるぜと男は酒瓶をあおった。
とりあえず潜入してくると黒髪の青年は甲板を歩きだした。
「親方があの若造を信用しすぎてるのはどういうわけなんだろうな」
小さくなっていく青年を見ながら熊男は酒をあおった。
闇の海を船は何か大きなものをともなってすすんでいった。
ドゥラ=キシグ香国のソーランの港町は夜もあかあかとひが灯っている。
港から少し離れた飲み屋のベランダでグーレラーシャの傭兵たちととソーラン支部軍の軍人たちが杯をかわしていた。
主に飲むのは軍人たちでグーレラーシャ傭兵たちははちみつ酒一人とジュースが二人である。
「全く、見当がつかねぇなぁ」
支部軍隊長が港の方を見ながらテーブルに片肘をついた。
「海は広いからな」
赤毛の傭兵は内心こんな交流会早く終わらないかと思いながらはちみつ酒を一口含んだ。
やはり甘みが足りないおいたしのはちみつディスペンサーをおいてくれてある馴染みの店のところに行きたいと思い眉をひそめた。
「班長〜なんで私帰んなくちゃ何ですかぁ〜」
ジュースでくだを巻く美少女、ヴィアラティアが叫んだ。
「仕方ないだろう〜お前はヒフィゼの令嬢なんだから、一応」
ウルニウスがなだめるように背中をなでた。
好きでヒフィゼ家に生まれたんじゃないよー。
それに私、先々代の娘だしー。
とわめいてヴィアラティアがグイッとジュースをあおった。
「他の客に迷惑だ、騒ぐなら他所でやれ」
ラウティウスはタコのガーリック炒めをつついた。
「ラウティウス班長だってカザフ家の貴公子じゃありませんか」
「俺はヒフィゼ家の傘下の下級貴族だし、姉も兄も弟もいるし招待状は来てないぞ」
ラウティウスはハチミツ酒にテーブルシュガーを何本も足してヴィアラティアをみすえた。
茶色の瞳にヴィアラティアは少しドキドキした。
「お前はメルディウス王子殿下の即位式と結婚式はお断りできないんじゃないか? 」
ラウティウスはかき混ぜながら苦笑した。
「うちだって行ける人員はいっぱいいます〜」
「おい、さわぐなよ」
ウルニウスが騒ぐヴィアラティアの口を押さえた。
ハチミツ酒を一口飲んで砂糖のざらつきのわりに甘くないとラウティウスは眉をひそめた。
「そういや、グーレラーシャ傭兵国はついに新国王陛下ご即位だそうだな」
ドゥラ=キシグ香国の軍人が酒を片手にやって来た。
ヴィアラティアの隣に座ろうとしてウルニウスににらまれてしかたなくラウティウスの隣に腰掛けた。
「ヌーツ帝国のジェーリアーヌ皇女殿下をついに落としたからだと聞いたぞ」
支部軍隊長もつまみ片手に堂々とヴィアラティアの隣に席を移った。
ウルニウスは顔をしかめたが親父の勝利である。
「めでたいことだが、戦力が落ちるのは困るぞ」
「だから私は行きません! 」
ウルニウスの手をなんとか外したヴィアラティアがさけんだ。
舌打ちしたウルニウスが立ち上がってヴィアラティアの脇の下にてをいれ立たせた。
何するのよ〜と騒ぐヴィアラティアを海側の外席に引きずっていった。
あーあーせっかく来たのにと支部軍隊長が手を振って見送ってラウティウスに向き直った。
「で、どうするんだ? 」
「俺の相棒が復帰する予定だ」
ラウティウスが手を上げた。
店員がよってくるとハチミツかガムシロップがたくさん欲しい旨を伝える。
店員はかしこまりましたとすこし好奇心旺盛な眼差しでラウティウスを見て去っていった。
グーレラーシャ人って本当に甘党なのね〜と今頃厨房で話題となっていることであろう。
「ふーん、その割に嬉しそうな雰囲気じゃないな」
「……戦闘能力は信頼している」
ラウティウスはハチミツ酒のグラスを指でつついた。
ラウティウスの相棒はファモウラ軍国の反逆者討伐戦で大怪我をしてしばらく療養していたのである。
ラウティウスと王立傭兵学校時代の後輩先輩の仲であるが……
もちろん傭兵稼業では全幅の信頼をおいているラウティウスである。
「まあ、早く海賊が何とかできればいいよな……であの二人できてるのか? 」
支部軍隊長が外席をちらっと見た。
「さあ? 」
ラウティウスはイカの揚げ物をフォークに刺してしらばっくれた。
もちろんウルニウスがヴィアラティアをにくからず想っているのは感じているがこの親父に話す必要性は感じないとラウティウスはイカにかじりついた。
ソーランは港から丘側に街並みが広がっているため坂がちである。
その道を黒髪の青年がゆっくりと歩いている。
街灯に照らされた街並みは昼間とおもむきが異なりなれぬものをますます迷い込ませそうである。
ソーランは坂の街、迷路の街なのである。
「おー、ピーちゃん帰ってるってアーちゃんに聞いてたけど久しぶり〜」
「久しぶりだ、店じまいか? 」
八百屋『野菜の恵』店主の息子のミーシャルトが青年ピエアシールに声をかけた。
ミーシャルトは野菜の箱を持ち上げている。
この二人と飛ぶ羊亭店主アドリアナの三人は幼馴染なのである。
かつてはピエアシールもこの界隈の家に母親と住んでいたのである。
「おばさんは元気か? 」
「王都でチャキチャキ親父の尻を叩いてるよ」
ピエアシールが苦笑した。
今度一緒に飲みに行こうぜとピエアシールはてをふってあるきだした。
あとからミーシャルトがついてきた。
「おい、ストーカーか? 」
「アーちゃんとこ行くんだろ、俺も押し売りに行くところだ」
ミーシャルトが野菜箱を振った。
中には売れ残りのナスやりんごやはしりのブドウやかぼちゃまで入っているようだ。
ヌイは人がいいからなぁとピエアシールは笑った。
ドゥラ=キシグ香国のソーランの港町に『飛ぶ羊亭』という小さな食堂がある。
そこそこ美味しい魚料理とのほほんな店主に惹かれてそこそこ常連客が来ている店である。
その店が本日は明かりがついていない。
「休みか? 」
「休みみたいだね……居住空間は電気がついてるみたいだ」
ミーシャルトは電気の着いた三階を見上げた。
二人はどうするかと顔を見合わせた。
「とりあえず声をかけてみるか」
「そうだな、病気だったらまずいしな」
言い訳をしながら店入り口のすぐ裏にある居住部分用の入り口のインターホンをピエアシールは押した。
はーいとインターホンから聞き慣れた声がした。
ドタドタと階段を降りる足音がして扉が勢い良く開いた。
「いらっしゃい〜」
ぬいぐるみみたいな羊獣人がにっこり笑った。
「おい、ヌイ、不用心だぞ」
開口一番ピエアシールが指を突きつけた。
「ええ〜画面から二人が見えたのです」
「敵に脅されてたらどうする! 」
ピエアシールはそう言いながら中に入っていった。
ミーシャルトもお邪魔しますと続いた。
「なんで今日は休みなんだよ」
ミーシャルトがリビングダイニングのテーブルについた。
ピエアシールはもうすでについていて足組みと腕組みしてキッチンにたってお茶を入れるアドリアナを見たあと街の道が見える窓に視線をむけた。
『プチホテル飛ぶ羊屋』時代の名残で居住空間は三階の街側である。
客室はすべてオーシャンビューでそこそこ人気のホテルだったのである。
「お客様が切れたあと来ないので閉めちゃいました」
ラウ……さんも来ないし……とつぶやきながらアドリアナは保冷庫から蒸しパンをだした。
「蒸しパンか……」
「はい、ピーちゃんが好きだったの思い出して作っちゃいました」
トレーにお茶を注いだマグカップとお皿においた蒸しパンを乗せてテーブルに置いたアドリアナが腰掛けた。
「最近は物騒だからな、不用意にあけるな、なんならあの傭兵に頼んだらいい」
「ラウティウスさんねーあの人グーレラーシャ人らしくなく八百屋のサラダとかかってくれるんだよな……でアーちゃんとできてるのか? 」
ピエアシールの鋭い眼差しとミーシャルトの好奇心旺盛の眼差しにアドリアナは喉がつまりそうになった。
「ら、ラウティウスさんは常連客なだけです、物騒なことってなんですか? 」
お茶にむせながらアドリアナが叫んだ。
「……今、ソーランに海賊が出没しているからな」
ピエアシールがつぶやきながらアドリアナを見た。
「不用意な真似はしません」
アドリアナが即答して手を上げた。
「海賊かぁ〜、あの時のこと思い出すよな」
ミーシャルトが頬を指でかいた。
そうですねとアドリアナがつぶやきピエアシールが無言で外を見てお茶を飲み干した。
「おばさんはお元気なのですか? 」
アドリアナがピエアシールのマグカップにお茶を足した。
「こんなん私の柄じゃないーと言いながらはしりまわってるよ、ヌイに手伝ってもらえるといいんだけどよ」
ピエアシールが蒸しパンにかじりついた。
「私こそそんな柄じゃありません」
アドリアナはお茶を飲んだ。
ピエアシールの母親は王都で過労必至の特殊職業についているのである。
「残念……それよりヌイんちのおばちゃんはどうなんだ? 」
「ミル=キシグ古王国にいるんだったよな」
ピエアシールの問いかけになぜかミーシャルトが答えた。
ミル=キシグ古王国で夫婦で暮らしてますとアドリアナは窓の外を見た。
ミル=キシグ古王国は福祉施設が充実していてアドリアナの母親もデイサービスやヘルパー、時にはショートステイを利用しながら父親とバリアフリーの借家で暮らしているのである。
お母さんは羊獣人でもう高齢ですからとアドリアナは寂しそうに笑った。
それは寂しいなとピエアシールがアドリアナの頭を撫でた。
レーズン蒸しパンを食べてた気がついたようにミーシャルトがあわてて立ち上がった。
「アーちゃん、野菜の引き取り頼む」
「はい、良いですよ」
すぐ取ってくんな〜とミーシャルトが階下に降りていった。
「ヌイは人がいいなぁ」
「お安くしてもらえるのでお互い様です」
ほっこりとする微笑みをうかべてマーマレードいり蒸しパンをアドリアナはかじった。
「母ちゃんに怒られるとこだったぜ」
ミーシャルトは玄関前に置かれた箱を持った。
ふと店の入り口の方を見ると見覚えある赤毛の1本三つ編みの傭兵が呆然自失でたっているのが見えた。
本当にこいつアーちゃんのことが好きなんだなぁとミーシャルトは思った。
「ミーシャルト殿、店長は……」
「あ〜客が途切れたんで早じまいしたって言ってたぜ」
そうかとラウティウスは安心したように微笑で上を見上げた。
その時、カランカランカランと鈴が鳴り店の扉が開いた。
「ミースケ手伝うぞ」
「お店の玄関から入れてください」
ピエアシールとアドリアナが顔を出した。
中階段からももちろん店に出られるのである。
ラウティウスさんとアドリアナが固まった。
ピエアシールがつまらなそうにその様子を見た。
「すみません、今日はいらっしゃらないと思ってお店閉めちゃいました」
「いや、俺も飲み会の後に少し来てみただけだから」
慌てるアドリアナに優しく微笑むラウティウスである。
「あ、あの蒸しパンお好きですか? 」
「甘いものは好きだ」
アドリアナの言葉にますます笑みを深くしたラウティウスである。
甘いもの、それは民族総超甘党のグーレラーシャ傭兵国人のソウルフードである。
それを店主から言われればニコニコであろう。
ちょっと待ってくださいとアドリアナは言い置いて階段をコケながら駆け上がっていった。
「傭兵の兄さん、あんたヌイ……アドリアナの事が好きだろう」
ピエアシールが腕組みして扉によりかかってラウティウスをにらみつけた。
「俺は店長……アドリアナ嬢を愛している」
ラウティウスはいつでも動けるように少し体をずらした。
緊張感が夜のソーランの街角に漂った。
「お、おい」
緊張に耐えきれずミーシャルトが声をかけた。
二人の鋭い眼差しを向けられて野菜の箱を落としそうになった。
まさに一触即発である。
ものすごく恐ろしかったと後に善良な八百屋の青年は語った。
その時階段からふわふわの羊獣人が紙袋を持って降りてきた。
緊張感が一瞬で霧散する。
「あの、お口に合うかわかりませんが」
皆さんでどうぞとアドリアナが紙袋をラウティウスに差し出した。
「ありがとう」
ラウティウスは満面の笑みを浮かべて紙袋を受け取った。
愛しい女の手作りというだけでまさに至高の蒸しパンとラウティウスはまさに天にものぼりそうだったのである。
「ヌイ、傭兵の兄さんは海賊討伐で疲れてるみたいだ」
ピエアシールがアドリアナの肩をたたいた。
あ、気が利かずにすみませんお疲れなのに引き留めてしまってとアドリアナはあわてた。
「別に……」
「ゆっくりと休んでくださいね」
見上げたアドリアナの愛らしさに言葉が詰まったラウティウスの通信機がなった。
「なんだ? 」
『やっほーラウたん〜』
不機嫌そうに答えたラウティウスの耳に聞き覚えのある声が響く。
一瞬固まったすきに店主は幼馴染の男とやらに邪魔していけないとうながされて会釈して家の中に幼馴染たちと入ってしまった。
「ラウたん、来週辺りにそっちに行けそうだ」
「ラウたんじゃねぇ」
不機嫌そうに答えるラウティウスにええー冷たいなぁとおちゃらける電話相手である。
電話相手あったらしめると心に誓ったラウティウスは通信機にじゃあなと言って冷たくきった。
もう一度三階を見てから踵を返してラウティウスは足早に坂をおりていった。
ちなみに電話相手は近々合流予定のバディである。
やっぱりお忙しいんですねと少しだけ別れるのを寂しく思うアドリアナは三階の大きな窓から坂を下っていく人陰を見て思った。
おい、ヌイ〜酒のもうぜーというピエアシールの声に反応しておつまみ作りますねと振り返るアドリアナである。
いい加減かえんないと母ちゃんに叱られるかも思いながらもついつい長居してしまったミーシャルトの運命やいかに?
こうしてある日の港町ソーランの夜は静かにふけていったのである。
読んでいただきありがとうございます♥




