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第88章 絶対突破の肉挽き機

1944年11月。

西半球のアメリカ合衆国がその無尽蔵の工業力を大西洋へ注ぎ込み、イギリス本土奪還へ向けた巨大な上陸作戦を発動したことで、アドルフ・ヒトラーは東部戦線(ウラル防衛線)で温存していた最強の精鋭装甲師団のすべてを、西ヨーロッパへと緊急引き抜きさせた。


そのナチス・ドイツの防衛線に生じた「致命的な質の空洞化」という黄金の隙を、シベリアの雪原に追い詰められていたソビエト連邦の最高指導者ヨシフ・スターリンは見逃さなかった。

彼らは、外部からの補給を完全に絶たれ、数ヶ月後には国家が餓死・機能停止するという絶望的なタイムリミットを突きつけられていた。生き残るための唯一の道は、シベリアの軍需工場で造り溜めたすべての戦車タンーク燃料槽タンクに、残された最後のガソリンを一滴残らず注ぎ込み、南ロシア・バクー油田へ至る長大な進撃路パイプラインを「一点突破」で力ずくでこじ開けることのみであった。


極寒のウラル山脈の麓において、燃料枯渇による国家の死を目前にしたソビエト赤軍クラースナヤ・アールミヤと、精鋭を引き抜かれて弱体化したドイツ東方軍オストヘーアによる、人類史上最大にして最も血塗られた巨大装甲激突の火蓋が、いよいよ切って落とされたのである。


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1944年11月26日 午前6時00分

ウラル山脈西麓 ペルミ東方 雪原平原

ドイツ国防軍 東方軍オストヘーア 第1防衛線フェルタイディグングスリーニエ

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零下三十度に達する極寒の朝。息をするだけで肺の細胞が凍りつきそうなウラルの冷気の中、長大な塹壕線シュッツェングラーベンに張り付いていた同盟国ルーマニアルーマニシェ・トゥルッペンの兵士たちは、手にしたモーゼル小銃ゲヴェーアを震わせながら、東の地平線を見つめて絶望の悲鳴を上げていた。


「……神よ。大地が、山脈の輪郭が、真っ黒に動いているぞ!」


彼らの足元を、巨大な地震のような重低音が容赦なく揺さぶり続けていた。

その地鳴りの正体は、風の音でも大砲の音でもない。数千基に及ぶ大馬力ディーゼルエンジンが吐き出す暴力的な排気音と、数万本の分厚い鉄の履帯ケッテンが、ウラルの凍土を同時に踏み砕く絶望的な「質量の足音」であった。


「……パニックを起こすな! 持ち場を離れた者は即座に軍法会議クリークスゲリヒトだぞ!」


塹壕線の後方に構築された対戦車陣地パンツァーアプヴェーア・シュタントから、ドイツ国防軍・第14装甲師団パンツァー・ディヴィジオンの戦車連隊長、ヨハン・シュトラーゼ少佐が怒号を飛ばした。

彼が身を乗り出しているのは、マイバッハ・HL120TRMエンジンを唸らせる長砲身7.5センチ砲搭載の『IV号戦車(パンツァー・カンプフ・ヴァーゲン・フィーア)G型』である。本来ならば、この防衛線は前面100ミリの重装甲を誇る重戦車シュヴェーレ・パンツァー『ティーガーI』や、新鋭の『パンター』の分厚い壁で守られているはずであった。しかし、それらはすべて西のイギリス防衛のために引き抜かれ、今この長大な防衛線を支えているのは、シュトラーゼ少佐が率いる旧式のIV号戦車やIII号戦車、そして士気の低いルーマニアやハンガリーの同盟国軍だけであった。


「来るぞ! ボリシェヴィキの鉄屑の群れだ!」


シュトラーゼ少佐が双眼鏡フェルングラスを覗き込んだ先、東方の白い雪原と暗雲の境界線を完全に埋め尽くして姿を現したのは、チェリャビンスク(タンコグラード)の工場から吐き出されたばかりの、冬季迷彩の白ペンキを雑に塗りたくられたソ連軍中戦車の大群であった。


「な……なんだあの砲身の長さと、砲塔の巨大さは! 我々が知っているT-34とは形が違うぞ!」


シュトラーゼの顔から血の気が引いた。彼らが東部戦線でかつて戦った76ミリ砲搭載のT-34ではない。それは、ドイツ軍の重装甲を近距離から叩き割るために、ハリコフ機械製造工場設計局が執念で開発し、85ミリ戦車砲を搭載した最新鋭中戦車『T-34/85』の巨大な波であった。


「距離2,000! 全砲門、水平射撃開始! 敵を塹壕線に近づけるな!」


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同日 午前6時30分

ウラル山脈西麓 突破部隊最前線

ソビエト連邦赤軍クラースナヤ・アールミヤ 第1戦車タンーク

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祖国ロージナのために! スターリン指導者ヴォシヂのために! 一歩も退くことは許さん! 止まった者は裏切り者として即座に銃殺ラスストリェールする!」


V-2 12気筒水冷ディーゼルエンジンが凄まじい黒煙と轟音を上げる『T-34/85』の砲塔にしがみつきながら、内務人民委員部(NKVD)の政治将校コミッサールが、PPSh-41短機関銃を片手に狂気的な絶叫を上げていた。


彼の周囲、見渡す限りの雪原を埋め尽くしているのは、粗悪な溶接跡も生々しい数千両のT-34/85の群れと、その戦車タンークの装甲を盾にして雪原を駆ける、数百万に及ぶ無尽蔵の歩兵ペホータたちである。彼らの顔は極寒と飢えで痩せこけ、軍服はボロボロであったが、その瞳には「南ロシアの油と麦を奪い返さねば、ここで凍死するしかない」という絶対的な生存本能と狂信が宿っていた。


「……第9砲兵工場ザヴォートの牙を見せてやれ。ファシストの陣地を吹き飛ばせ!」


T-34/85の車長が車内通話機で怒鳴る。巨大な3人用砲塔の中で、装填手が重量のある85ミリ砲弾スナリャートを乱暴に薬室へ押し込み、砲手がペダルを踏み込んだ。


ズドォォォォンッ!!


数千両のT-34/85から一斉に放たれた『ZiS-S-53 85ミリ戦車砲プーシュカ』の徹甲榴弾が、ウラルの冷気を引き裂き、ドイツ軍の防衛線へと着弾した。

ルーマニア軍が身を潜めていた塹壕は、凄まじい面制圧の爆発によって土砂と雪もろとも一瞬にして粉砕され、悲鳴を上げる間もなく数千の兵士たちが肉片となって宙を舞った。


「ウラァァァァァッ!!」


「ウラァァァァァッ!!」


着弾の火柱を合図に、ソ連の歩兵ペホータたちが一斉にモシン・ナガン小銃を掲げ、人間の波となってドイツ陣地へと雪崩れ込んでいく。彼らにはアメリカ軍や日本軍のような洗練された歩戦協同戦術や、緻密な無線誘導による航空支援など存在しない。あるのはただ、前列の戦車と兵士がスクラップと死体の山となり、その山を踏み越えて後列がさらに前進するという、純粋な「質量と血の消費ラスホート」による強行突破だけであった。


「止まるな! 履帯グーセニッツァでファシストの塹壕を踏み潰せ!」


T-34/85は、幅広の履帯グーセニッツァで深い雪をものともせずに突き進み、ドイツ軍が敷いた鉄条網や対戦車壕を、自らの車体の質量で強引に埋め立てながら突破を図った。


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同日 午前7時00分

ドイツ東方軍 第1防衛線フェルタイディグングスリーニエ

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「撃て(フォイア)! 撃ち続けろ! 砲身が焼き付くまで撃て!」


ドイツ軍の陣地から、すさまじい反撃の火線が吐き出された。

雪原の各所に偽装して配置されていたクルップ社製『8.8センチ FlaK36(フラック)』が高射砲から水平射撃へと転用され、初速800メートル毎秒の徹甲弾パンツァーグラナーテを次々とソ連軍の群れへと叩き込む。


さらにその後方からは、IV号戦車の車体に強引に長砲身8.8センチ砲(Pak43/1)を搭載した対戦車自走砲パンツァーイェーガー『ナースホルン(犀)』が、2,000メートル以上のアウトレンジから正確無比な狙撃を開始した。

ナースホルンから放たれた極めて貫通力の高い徹甲弾パンツァーグラナーテは、T-34/85が誇る避弾経始の傾斜装甲をも容易く貫き、次々とソ連戦車を火だるまの鉄屑へと変えていく。


ダダダダダダダッ!!


塹壕線の生き残りであるドイツ国防軍の機関銃手たちが、毎分1,200発の発射速度を誇るモーゼル社製『MG42機関銃マシーネンゲヴェーア』の引き金を引き続ける。布を引き裂くような独特の連射音が響き、波のように押し寄せるソ連の歩兵ペホータたちを、文字通り薙ぎ鎌のように刈り取っていった。


「敵戦車、撃破! ……しかし中隊長殿! 奴らの数が多すぎます! 撃っても撃っても、煙の向こうから新しい戦車が湧いてきます!」


シュトラーゼ少佐の乗るIV号戦車の砲手が、絶望的な声で叫んだ。


ドイツの砲兵たちがどれほど精緻なマイスターの腕前でT-34を破壊しようとも、ソ連軍の「数」はそれを遥かに凌駕していた。一両のT-34が燃え上がれば、その後ろから直ちに三両のT-34が突進してくる。さらに、T-34/85の搭載する85ミリ砲は、旧式のIII号戦車やIV号戦車の装甲を、距離1,000メートルからでも容易くブチ抜く威力を秘めていた。


ズガァァァンッ!!


シュトラーゼ少佐のすぐ隣で射撃を行っていたIV号戦車が、T-34/85からの直撃を受け、砲塔を真上に吹き飛ばされて爆散した。

さらに、戦車のアウトレンジからの援護を失ったルーマニア軍の塹壕に、ソ連の歩兵たちが次々と肉薄し始めた。彼らはPPSh-41短機関銃の猛烈な弾幕を浴びせながら塹壕へと飛び込み、銃剣とスコップによる凄惨な白兵戦が繰り広げられる。


「ルーマニア兵の戦線が崩壊しました! 第3セクターから敵の装甲部隊が雪崩れ込んできます!」


防衛線の一部が、ついにソ連の純粋な「質量の暴力」によって食い破られた。シュトラーゼ少佐は、迫り来る何百両もの白い戦車の壁を前に、自らの死を覚悟した。


だがその時、彼らの頭上の空気を、巨大な「神の鉄槌」が引き裂いたのである。


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同日 午前8時00分

ドイツ東方軍 後方戦略砲兵陣地

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「……総統フューラーの大命により、防衛線を突破せんとするボリシェヴィキの群れを、地形ごと歴史から消去する。……装填よし!」


ウラル山脈の西側、防衛線の遥か後方に特別に敷設された複線の巨大な鉄軌道の上で、ドイツ重工業の狂気の結晶たる超巨大列車砲『ドーラ(グスタフ・ゲレート)』が、その口径80センチの巨大な砲身を鈍色の空へと突き上げていた。


発射には数千人の運用要員と技術者を必要とする、人類史上最大の大砲。


発射アプフォイアンッ!!」


運用指揮官の号令とともに、400トンを超える砲身が凄まじい反動で後座し、大地そのものが上下に激しく揺動した。ドーラの砲口から噴き出した数百メートルの巨大な火柱がウラルの雪雲を吹き飛ばし、重量7.1トンの巨大な徹甲榴弾が、放物線を描いてソ連軍の突破地点へと向けて飛翔した。


キュイィィィィィィンッ……!!


ソ連軍の戦車兵と歩兵たちが、空から降ってくる巨大な黒い影に気づき、本能的な恐怖に凍りついた直後。


ドゴォォォォォォォンッ!!!!!


T-34/85が密集していた雪原のど真ん中に、80センチ砲弾が着弾した。

それは大砲の着弾というより、小型の隕石の衝突であった。直径数十メートル、深さ数十メートルに及ぶ巨大なクレーターが穿たれ、着弾地点にいた数百両のT-34/85と数千のソ連歩兵が、爆風と熱線によって文字通り「一瞬にして蒸発」した。数十トンの戦車の残骸が、木の葉のように空高く舞い上がる。


「見たか! これが第三帝国ドリッテ・ライヒの力だ!」


後退しかけていたドイツ兵たちが、その圧倒的な破壊力に歓喜の声を上げた。

ドーラの一撃は、ソ連軍の進撃の鼻先を完全に粉砕し、彼らの突破の勢いを一時的に完全に削いだかに見えた。


だが、ドーラには致命的な弱点があった。


「次弾装填を急げ! 砲身を冷却しろ!」


指揮官が怒鳴るが、7.1トンの巨大な砲弾をクレーンで吊り上げ、薬室へ押し込み、発射準備を整えるためには、実に「30分から45分」という絶望的な時間を必要としたのである。

ドーラが次の一発を装填しているその長大な「空白の時間」に、ソ連軍の波は決して止まることはなかった。


「……大砲が何だ! ファシストの一発で一万人が死ぬなら、その後ろから十万人を突っ込ませろ! 止まるな! 突撃アターカ!」


政治将校コミッサールの狂気的な命令のもと、ソ連軍は巨大なクレーターを迂回することすらなく、そのすり鉢状の大穴の中へ次々と新たなT-34/85を突入させ、死体の山を踏み越えて再び前進を開始したのである。


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同日 正午

ウラル防衛線 激突地点キルゾーン

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戦闘開始から6時間が経過し、ウラルの雪原は、人類の流血の許容量を限界まで試す、果てしのない「鉄と血の肉挽きミートグラインダー」へと完全にその姿を変えていた。


「距離200! クソッ、近すぎる! 徹甲弾パンツァーグラナーテ、撃て!」


乱戦の只中で孤立した数少ない残存重戦車シュヴェーレ・パンツァー、『ティーガーI』の車長が絶叫する。8.8センチ砲が至近距離で火を噴き、目の前のT-34/85の砲塔を吹き飛ばす。

しかし、ティーガーが再装填を行う数秒の間に、別のT-34/85が側面から猛スピードで体当たり(タラーン)を敢行してきた。


ガシャアアアンッ!!


57トンのティーガーと32トンのT-34が、激しい金属音を立てて正面から激突する。ソ連の戦車兵たちは、自らの戦車の履帯グーセニッツァが切れることも厭わず、ティーガーの砲塔の旋回を物理的に封じ込めるためにゼロ距離まで肉薄し、85ミリプーシュカを至近距離から叩き込んだ。

無敵を誇ったティーガーの側面装甲も、ゼロ距離からの85ミリ徹甲弾には耐えきれず、内部で弾薬が誘爆して巨大な火柱を上げた。


「ウラァァァァァッ!」


戦車同士が互いの残骸に乗り上げながら燃え盛るその足元では、両軍の歩兵による凄惨な白兵戦が繰り広げられていた。


塹壕の中で、ドイツの擲弾兵たちがMG42(マシーネンゲヴェーア)の銃身を真っ赤に焼きながら弾幕を張り続けるが、弾薬が尽きると、ソ連の歩兵ペホータたちが雪崩れ込んでくる。ドイツ兵は柄付き手榴弾を投げ込み、ソ連兵は火炎放射器オグニミョートで塹壕を焼き尽くす。

凍てつく雪原は、真っ黒な硝煙と、吹き飛ばされた戦車の鉄屑メタルロローム、そして両軍の兵士の血と内臓で、足の踏み場もないほどに赤黒く染まりきっていた。


「……これが、戦争なのか。我々はただ、互いの肉と鉄をすり減らしているだけではないか」


シュトラーゼ少佐は、履帯を破壊されて擱座したIV号戦車のハッチから血を流しながら身を乗り出し、地獄の業火に包まれた雪原を見渡して絶望的な呻きを漏らした。


ドイツの精緻な戦術も、巨大列車砲の破壊力も、ソ連軍の絶対的な「死を恐れぬ質量の波」の前には、ただ一時的な遅滞を生むだけであった。だが同時に、ソ連軍のT-34/85の群れもまた、ドイツ軍が築き上げた幾重もの対戦車火網とティーガーの残党の前に、前進した距離の数倍にも及ぶ天文学的な数の残骸を雪原に積み上げさせられていたのである。


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同日 午後5時00分

ウラル防衛線 激突海域(戦闘終結)

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日没を迎え、極寒のウラルに再び夜の暗闇が下りた時。

狂乱の装甲激突は、両軍が文字通り「完全に消耗し尽くす」という形で、不気味なほどの静寂へと移行していった。


ソ連軍は、第一防衛線を食い破り、ドイツ軍に莫大な出血を強いることには成功した。しかし、彼らがシベリアの工場ザヴォートで狂気的に造り溜め、最後の一滴の燃料トーブリヴァまで注ぎ込んで放った数千両のT-34/85の過半数は、ウラルの雪原で燃え盛る鉄屑メタルロロームと化していた。

バクー油田へ至る長大な進撃路をこじ開けるというスターリンの戦略目標は、強固なドイツ東方軍オストヘーアの「第二、第三の防衛線」を前に、決定的な突破には至らず、完全に足を止めることとなった。


一方で、ドイツ東方軍司令官フェードア・フォン・ボック元帥もまた、司令部の地下壕で絶望に打ち震えていた。

彼らがウラル防衛線に温存していた残存機甲戦力のすべては、このたった一日のソ連軍による「狂気の質量突撃」によって、完全にすり潰されてしまったのである。防衛線にヒビは入ったものの辛うじて突破は免れた。だが、ドイツ軍にはもはや、二度とウラル山脈を越えてシベリアの奥地へ攻め入り、ソ連の息の根を止めるだけの攻撃力(予備戦力)は一ミリも残されていなかった。


両軍ともに、何千両もの戦車をスクラップに変え、何十万という命を雪原に沈めながら、結果として手に入れたのは「前へ進む力の一切の喪失」だけであった。


極限の職人技を引き抜かれ空洞化した防衛線の意地と、飢えと寒さの中で最後の一滴まで絞り出した質量の狂気。

ユーラシア大陸の東部戦線は、どちらにも決定的な勝利をもたらすことなく、ただ果てしない絶望と膨大な血の海だけが広がる、完全なる「戦略的膠着デッドロック」の深淵へと、その重く冷たい歩みを沈めていったのである。

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