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第85章 要塞大不列顛(グレートブリテン)

パナマ運河パナマ・カナルが、豊栄大日本帝国の放った深海の暗殺者『伊号第四百潜水艦』と『晴嵐』のピンポイント爆撃によって物理的に完全に切断され、アメリカ合衆国の巨大な生産力が太平洋へ向かう道を塞がれたという、絶望的な地政学の歪み。


それは、ワシントンD.C.に座するフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領をして、本来ならばまだ膨大な準備期間を要するはずであった大英帝国グレートブリテン奪還作戦──『リターン・キング作戦オペレーション・リターン・キング』のスケジュールを、狂気的なまでの力技で前倒しさせるという、最も血塗られた決断を引きずり出した。太平洋で足踏みさせられた分まで、アメリカ合衆国の無尽蔵の工業力インダストリィは、巨大な戦車揚陸艦タンク・ランディング・シップの群れとなって、すべて大西洋アトランティック・オーシャンへと向けられたのである。


しかし、アメリカが誇るマニュファクチャリング・モンスター(大量生産の怪物)がその巨大な全質量を叩きつけようとしているイギリス本土の西海岸は、かつての美しい砂浜やのどかな港町の面影など、もはや微塵も残してはいなかった。


1942年の「アシカ作戦」によって大英帝国の王都ロンドンを軍靴で踏み躙り、イギリス全土を完全に掌握したナチス・ドイツ。彼らは、いつの日か必ず大西洋の向こう側から新大陸の巨大な軍隊が押し寄せてくることを見越し、数十万人にも及ぶイギリス人捕虜や強制労働者ツヴァングスアルバイターを酷使し、海岸線という海岸線に数千万トンもの鉄筋コンクリートを流し込んでいたのである。


大ドイツ帝国・西方総軍オーベー・ヴェスト司令官、ゲルト・フォン・ルントシュテット元帥が数年がかりで構築した、人類史上最も分厚く、最も凶悪な海岸防衛線──『要塞イギリス(フェストゥング・グロースブリタンニエン)』。


そこは単なるコンクリートの壁ではなかった。海からの艦砲射撃を完全に無効化する数メートルもの厚さを持つ防御陣地ブンカーが無数に埋め込まれ、その周囲は数百万個の対戦車地雷パンツァーミーネと、上陸舟艇の腹を裂くための鋼鉄製の障害物チェコのハリネズミによって隙間なく埋め尽くされている。


アメリカ合衆国の規格化された「鉄の津波」が、ナチス・ドイツがマイスター(職人)の狂気で築き上げた「コンクリートと多様な装甲獣の防波堤」に正面から激突する。人類の流血の限界を試すような、終わりのない水際防衛戦の火蓋が、いよいよ切って落とされたのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1944年11月10日 午前8時00分

大英帝国グレートブリテン西海岸

ランカシャー沿岸部・マージーサイド海岸(米軍呼称:ソード・ビーチ)

ドイツ国防軍 第21装甲師団 海岸防衛陣地

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夜明けのアイルランド海を真昼のように照らし出した、アメリカ大西洋艦隊アトランティック・フリートの旧式戦艦群による凄まじい飽和砲撃ザトゥリーアングス・ベシュス。何千発もの14インチ(35.6センチ)および12インチ(30.5センチ)の大口径榴弾が海岸線の地形そのものを抉り取り、砂浜は無数のクレーターによって月面のような不気味な荒野へと変貌していた。


しかし、アメリカ軍が「すべての防御陣地を更地にした」と確信していたその焦土の奥底で、分厚いコンクリートの地下に潜んでいたドイツ国防軍の精鋭たちは、冷徹な殺意を微塵も鈍らせることなく完全に生き残っていたのである。


「……アメリカの成金ノイライヒどもの大砲は確かに派手だが、大味すぎて無駄弾が多すぎる。クルップ社の職人が練り上げたこの特厚コンクリートの防御陣地ブンカーを砕きたければ、直接船の艦首をぶつけてくるしかないな」


ドイツ国防軍 第21装甲師団・第125装甲擲弾兵連隊の大隊長、ハンス・フォン・ルック少佐は、分厚い観測スリットからカール・ツァイス製の双眼鏡を覗き込み、土埃にまみれた顔で冷ややかに口の端を歪めた。


硝煙が冷たい海風に流され始めた視界の先、波打ち際には、アメリカのカイザー造船所が粗製濫造した無数の戦車揚陸艦(LST)や歩兵揚陸艇(LCI)が、まるで巨大なクジラが浜辺に乗り上げるようにして次々と座礁し、巨大な艦首ドア(バウ・ドア)を開け放とうとしている。


「引き付けろ。奴らが砂浜に完全に這い上がり、重い装備と戦車で砂に足を取られて動きが取れなくなったその瞬間が、我々の殺戮地帯トデスゾーンだ」


ルック少佐が視線を巡らせた海岸線の防衛網は、極めて異様かつ悪魔的な合理性に満ちていた。


波打ち際を直接制圧する第一線のトーチカ群には、かつてのダイナモ作戦やイギリス本土陥落の際にドイツ軍が大量に鹵獲ボイテした、イギリス軍の『マチルダII歩兵戦車』や『クルセーダー巡航戦車』が据え付けられていた。エンジンを外され、分厚い78ミリの装甲を持つマチルダIIの車体ごとコンクリートに深く埋め込まれたそれは、砲塔だけを地上に出した強固な固定砲台パンツァーネストとして、皮肉にもかつての祖国の奪還部隊へ向けてその2ポンド砲の砲口を向けている。


さらにその後方、海岸線を幾重にも十字に薙ぎ払うように計算し尽くされて配置された無数のモーゼル社製『MG42機関銃マシーネンゲヴェーア』が、一斉に装填の鋭い金属音を響かせていた。


そして、ルック少佐の背後、艦砲射撃の届かない稜線の裏側には、多種多様なドイツの装甲獣たちが、エンジンの重低音を響かせて迎撃の時を待っている。


最前衛には、歴戦の『III号戦車パンツァー・カンプフ・ヴァーゲン・ドライ』と、長砲身7.5センチ砲を積んだ『IV号戦車(パンツァー・カンプフ・ヴァーゲン・フィーア)』の群れ。

その後方には、避弾経始ひだんけいしに優れた傾斜装甲と、パンターG型砲塔を持つ次世代の主力中戦車ミッテル・パンツァーたる『V号戦車 パンター』が控えている。


さらに後方の砲兵陣地からは、II号戦車の車体を流用して10.5センチ榴弾砲を載せた自走榴弾砲パンツァーハウビッツェ『ヴェスペ(スズメバチ)』と、IV号戦車の車体に絶大な威力を誇る長砲身8.8センチ砲(Pak43/1)を強引に搭載した対戦車自走砲パンツァーイェーガー『ナースホルン(犀)』が、長距離からアメリカ軍の上陸部隊を粉砕すべく、その長い砲身を空へ突き出していた。


だが、この防衛線における真の「絶望の象徴」は、さらに奥の森の中に隠蔽されていた。


ポルシェ博士とヘンシェル社が狂気的な重工業技術を結集して生み出した、前面装甲150ミリ、重量70トンを超える人類史上最強の怪物──71口径8.8センチ戦車砲を搭載した『VI号戦車B型 ティーガーIIケーニヒスティーガー』である。その隣には、パンターの車体に同じく長砲身8.8センチ砲を固定戦闘室に搭載した、流麗にして凶悪な駆逐戦車ヤークトパンツァー『ヤークトパンター』が、猟犬のように低く伏せて並んでいる。


「……撃て(フォイア)!!」


ルック少佐の軍刀が振り下ろされた。


ズドガァァァァンッ!! ダダダダダダダダッ!!!


何もないはずの瓦礫と砂の奥から、鹵獲されたイギリス軍のマチルダIIの2ポンド砲と、後方のナースホルンが放った8.8センチ砲の水平射撃が、凄まじい閃光とともに火を噴いた。初速1000メートル毎秒に達するナースホルンの徹甲弾パンツァーグラナーテが、波打ち際に現れたアメリカ軍の戦車を、まるで紙細工のように容易く貫通し、巨大な火柱を上げる。


さらに、毎分1200発という狂気的な発射速度を誇り「ヒトラーの電動ノコギリ」の異名をとるMG42機関銃が、布を引き裂くような独特の排莢音を響かせながら、途切れることのない猛烈な弾幕をアメリカ兵の群れへと浴びせかけた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同日 午前8時30分

大英帝国西海岸 マージーサイド海岸ソード・ビーチ

アメリカ合衆国陸軍 第1歩兵師団ビッグ・レッド・ワン

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「敵襲! 真正面のコンクリート陣地バンカーからだ! しかも、イギリス軍のマチルダ戦車が埋まってるぞ! 十字砲火クロス・ファイアだ!」


アメリカ陸軍・第1歩兵師団の分隊長、トーマス・A・カーペンター伍長コーポラルが、冷たいアイルランド海の水に腰まで浸かりながら、トンプソン短機関銃を頭上に掲げて絶叫した。


「伏せろ! 砂浜ビーチから頭を上げるな!」


しかし、彼らが身を隠そうとした砂浜には、艦砲射撃で吹き飛ばされたクレーター以外に一切の遮蔽物が存在しなかった。カーペンター伍長の隣を走っていた新兵の頭部が、MG42の銃弾によってスイカのように弾け飛び、血しぶきと脳漿が伍長の顔を赤く染める。


衛生兵メディック! 助けてくれ!」


波打ち際は、文字通り真っ赤な血の海へと変貌した。ドイツのマイスターたちが作り上げた精緻な防衛線が、アメリカの上陸歩兵インファントリーに凄惨な出血ブリーディングを強要し、彼らを砂浜に完全に釘付けにしていた。


だが、アメリカの「マニュファクチャリング・モンスター」もまた、ただのM4シャーマンだけをこの戦場に持ってきたわけではなかった。


「退路はない! 前へ出ろ! 新型のイージーエイトでナチスの陣地を吹き飛ばせ!」


アメリカ陸軍・第1機甲師団の車長タンク・コマンダー、ウィリアム・G・ガーナー軍曹サージェントがハッチから身を乗り出して吠える。


彼が乗っているのは、これまでの短砲身のM4ではない。幅広の履帯と水平懸架サスペンション(HVSS)を備え、長砲身の76ミリ砲を搭載した最新改良型、フォードGAA V8エンジンを唸らせる『M4A3E8 シャーマン(通称:イージーエイト)』であった。幅広の履帯は砂浜の泥濘を見事に捉え、なめらかな機動で前進していく。


さらにその後方からは、シャーマンの車体を流用し、オープントップ(開放式)の砲塔に強力な3インチ(76.2ミリ)高射砲を搭載した、アメリカ軍自慢の駆逐戦車タンク・デストロイヤー『M10 ウォルヴァーリン』の群れが、上陸用舟艇から次々と砂浜へと吐き出されてきた。


「見えたぞ! 丘の上の自走砲ナースホルンだ! M10の3インチ砲で削り落とせ!」


M10ウォルヴァーリンの砲塔が旋回し、3インチ砲が火を噴く。放たれた徹甲弾がドイツのナースホルンの薄い装甲を貫通し、一両を火だるまに変えた。さらにガーナー軍曹のイージーエイトが76ミリ砲を連射し、コンクリートに埋め込まれていた鹵獲マチルダIIの砲塔を吹き飛ばす。


「ハッハァ! 見たか! アメリカの新型ニューモデルの威力を!」


ガーナー軍曹が歓喜の声を上げた、まさにその瞬間であった。


ズドガァァァァァンッ!!!


海岸の空気を物理的に引き裂くような、桁違いの轟音が響き渡った。

ガーナー軍曹の目の前を走っていたイージーエイトの正面装甲が、一瞬にしてひしゃげ、砲塔が数十メートルの高さまで吹き飛ばされた。分厚い装甲を貫通しただけでなく、車体そのものを衝撃エネルギーで完全にバラバラにするほどの、圧倒的なオーバーキルの威力。


「な……なんだ!? 何に撃たれた!」


ガーナー軍曹が恐怖に引きつりながら双眼鏡を覗き込むと、丘陵地帯のオリーブ畑の奥、木々をなぎ倒しながら姿を現した「絶望の化け物」のシルエットが見えた。


重量70トン、前面装甲150ミリ。長い71口径8.8センチ戦車砲を備えたヘンシェル型砲塔を持つ巨大な鋼鉄の獣──『ティーガーII』であった。


その脇を固めるように、避弾経始に優れた傾斜装甲を持つ『パンターG型』の群れと、極端に背の低い『ヤークトパンター』が、マイバッハ・エンジンの重低音を地響きのように響かせながら前進してくる。


「アメ公のブリキ缶がいくら長砲身になろうと、我々マイスターが鍛え上げたティーガーIIの150ミリ装甲を抜くことなど不可能だ。……全車、アメリカの量産戦車を砂浜のゴミに変えてやれ」


ドイツ軍の戦車中隊長が冷酷に命じると、ティーガーIIとヤークトパンターの8.8センチ砲、そしてパンターの70口径7.5センチ砲が、距離1,500メートルの完全なアウトレンジから、次々と正確無比な狙撃を開始した。


「弾かれた! 76ミリ砲が正面装甲で弾かれるぞ!」

「M10がやられた! オープントップの砲塔に榴弾が飛び込んだ!」


アメリカのM4A3E8やM10駆逐戦車は、ティーガーIIやパンターの前面装甲に傷一つ付けることができず、逆にアウトレンジから一方的に正面装甲をブチ抜かれ、次々と火だるまのスクラップへと変えられていく。燃え盛るガソリンの黒煙が、上陸海岸の空を不気味に覆い隠していった。


「……神よ(ジーザス)。ここはただの巨大な肉挽きミート・グラインダーだ」


カーペンター伍長は、燃え盛るイージーエイトの残骸の陰に身を潜めながら、絶望的な呻きを漏らした。ヨーロッパの扉を力技でこじ開けるはずだった大上陸作戦は、ドイツ軍が誇る「多様な装甲獣の群れ」の前に、ただアメリカの若者の血とデトロイトの鉄を無為に浪費するだけの、終わりのない地獄インフェルノへと沈み込もうとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同日 午前10時00分

アイルランド海沖合 アメリカ合衆国海軍 第8艦隊

旗艦 重巡洋艦『オーガスタ(CA-31)』

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「……第一波の上陸部隊、海岸線にて完全に足止め。イージーエイトおよびM10駆逐戦車の損耗率はすでに40パーセントを超えました! 敵の防衛線には、新型の70トン級超重戦車ヘヴィ・タンクと、無数のパンター戦車が確認されています!」


沖合に展開する第8艦隊旗艦『オーガスタ』の艦橋で、通信参謀が悲鳴のような声を上げた。


欧州遠征軍最高司令官スプリーム・コマンダー、ドワイト・D・アイゼンハワー大将は、双眼鏡越しに黒煙に覆われたマージーサイド海岸を睨みつけ、ギリッと奥歯を鳴らした。


「ナチスの連中め、あれほどの装甲バケモノを温存していたというのか」


「アイク(アイゼンハワーの愛称)! 歩兵と中戦車だけにやらせておけば、海岸が死体で埋め尽くされるだけだぞ!」


傍らで指揮を執るアメリカ合衆国海軍 第8艦隊司令官のヘンリー・K・ヒューイット中将が、軍帽を叩きつけて吠えた。


「我々アメリカの本当の強さは、歩兵の突撃ではない。圧倒的な『質量マス』で敵の地形ごと更地にすることだ! 海軍の全火力を再び海岸へ叩き込む!」


ヒューイット中将は通信機のマイクをひったくり、沖合に並ぶ巨大な旧式戦艦群と無数の巡洋艦へ向けて、怒髪天を突く勢いで号令を飛ばした。


「目標、海岸線にへばりつくナチスの重戦車群とコンクリート陣地! 味方の歩兵が近かろうが構わん、ギリギリのラインへ全火力を叩き込め! あの忌々しいティーガーごと、崖を物理的に消し飛ばすのだ!」


ズドォォォォォォォンッ!!!


艦隊の最前衛に陣取っていた、第一次大戦世代の旧式戦艦『テキサス(BB-35)』『ニューヨーク(BB-34)』『アーカンソー(BB-33)』の14インチ(35.6センチ)および12インチ(30.5センチ)主砲が、再び腹の底を揺るがすような轟音とともに一斉に火を噴いた。さらに、数十隻の軽巡洋艦やフレッチャー級駆逐艦から、何千発という大口径の榴弾ハイ・エクスプローシブが、放物線を描いてイギリスの海岸線へと降り注いだ。


ドドォォォォンッ!! ズガァァァァァァンッ!!


「……さらにだ!」

アイゼンハワー大将は、後方の輸送船団へ向けて無線を飛ばした。


「M4やM10でナチスの装甲が抜けないのなら、もっと重くてデカい大砲を持っていけ! 開発テスト中の試作重戦車(T26E3)を、すべて海岸へ強行揚陸させろ!」


それは、ドイツのティーガーやパンターに対抗するためにアメリカが開発を急いでいた、90ミリ戦車砲M3を搭載し、分厚い鋳造装甲を備えた新鋭重戦車『M26 パーシング』であった。フォードGFA V8エンジンを唸らせ、重量41トンの巨体が、LSTのタラップを軋ませて次々と砂浜へと降り立っていく。


アメリカ合衆国の誇る無尽蔵の生産力プロダクションが吐き出した艦砲射撃の雨と、新型のM26パーシングの投入は、ドイツ軍が築き上げた防衛線に強引な「質量の暴力」を叩きつけた。


「……退け! 丘の裏側へ後退しろ! 海からの火力が異常すぎる!」


堅牢なトーチカの中で指揮を執っていたルック少佐は、至近弾の凄まじい衝撃波で天井のコンクリートがひび割れ、粉塵が舞い散る中で、血塗れになった顔を上げて後退を命じた。


いかに無敵のティーガーIIやヤークトパンターであろうと、14インチの艦砲射撃が「面」として降り注ぐ空間では、ただの一撃で蒸発する無力な鉄の塊に過ぎない。後方に控えていたヴェスペやナースホルンも、装甲の薄い上部から降り注ぐ艦砲射撃の破片を浴びて次々と炎上していく。


ドイツの誇る極限の職人技は、アメリカの無機質で圧倒的な「弾薬の浪費」の前に、強引にすり潰されようとしていた。


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同日 午後1時00分

マージーサイド海岸 アメリカ軍 橋頭堡ビーチヘッド

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凄まじい艦砲射撃の嵐と、M26パーシングの90ミリ砲の援護が、ついにドイツ軍の強固な防衛線に巨大な「風穴」を開けた。


「今だ! 艦砲が作ったクレーターを伝って前へ出ろ! 鉄条網を吹き飛ばせ!」


カーペンター伍長が泥と血にまみれた顔で立ち上がり、部下たちを怒鳴りつけた。


「バンガロール爆雷トルペードを持て! 障害物を吹き飛ばすんだ!」


アメリカ兵たちが、長い筒状のバンガロール爆雷を鉄条網の下へ押し込み、起爆させる。ドカンという爆発とともに、海岸を覆っていた有刺鉄線の壁に突破口が開かれた。


火炎放射器隊フレイムスロワー、前へ! 沈黙したトーチカの奥にナパームを流し込め!」


背中に重いタンクを背負った火炎放射兵が、艦砲射撃で半壊した鹵獲マチルダ戦車のトーチカへ肉薄し、銃眼から超高温のゲル状燃料を噴射する。内部に潜んでいたドイツ兵たちが、絶叫とともに炎に包まれて飛び出してくる。アメリカの歩兵たちは、残存するドイツ兵を容赦なく掃討しながら、砂浜を血で染めて前進を続けた。


「前進だ! 立ち止まるな!」


ガーナー軍曹も、大破したイージーエイトを捨て、後続から揚陸された真新しいM4A3E8に乗り換えて再び前線へと復帰していた。彼らの背後からは、沖合のLSTから次々と新しいM26パーシング、M10駆逐戦車、そして歩兵が、まるで工場のベルトコンベアのように無尽蔵に吐き出され続けている。前の兵士が倒れれば、後ろの兵士がその死体を踏み越えて進む。アメリカの作戦は、命すらも「消費財」として投射する、冷徹な大量生産の具現化であった。


「……アメリカの成金どもめ。血の代償を艦砲の弾薬と兵士の命で強引に支払いおったか」


内陸の丘陵地帯へと後退を余儀なくされたルック少佐は、燃え盛る海岸線を見下ろしながら、忌々しげに呟いた。


彼の周囲では、弾薬を撃ち尽くしたティーガーIIやパンターが、深い轍を残しながら重々しく後退の隊形を組んでいる。


ドイツ軍の『要塞イギリス』は、その多様な装甲獣の分厚い壁を、アメリカ合衆国の規格外の暴力的な質量によって、ついに力ずくでこじ開けられたのである。


イギリスの大地は、数万のアメリカ兵の屍と燃え盛るM4戦車の残骸を代償として、アメリカ軍の血みどろの橋頭堡ビーチヘッドへと完全に書き換えられた。


だが、ルック少佐の眼には絶望はなかった。


「海岸線はくれてやる。だが、内陸に進めば海軍の艦砲射撃は届かなくなる。そこからが、ティーガーIIとヤークトパンターの真の狩りの時間だ」


パナマ運河の破壊という絶望をバネに、ルーズベルト大統領がその全質量をヨーロッパへと叩きつけた『英国奪還作戦オペレーション・リターン・キング』。


アメリカが誇るM26パーシングやM4A3E8の大量生産の怪物と、ナチス・ドイツが生み出したティーガーIIやパンターといった狂気の装甲獣が正面から激突する、人類史上最も血塗られたヨーロッパの泥沼の戦いが、今ここに完全な地獄の蓋を開け放ったのであった。

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