第70章 血染めの黎明と不屈の鋼鉄
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【1944年4月15日 午前5時 ハワイ沖決戦・両軍残存戦力】
■ 豊栄大日本帝国(機動艦隊群:第二、第三、第四、第五)*
・稼働航空母艦:11隻
第二機動艦隊:装甲空母『大鳳』、中型空母『蒼龍』『飛龍』、改装空母『飛鷹』
第三機動艦隊:装甲空母『鳳凰』、大型空母『瑞鶴』、中型空母『天龍』、改装空母『隼鷹』
第四機動艦隊:装甲空母『白鳳』、大型空母『彩鶴』『千鶴』『真鶴』
第五機動艦隊:装甲空母『瑞鳳』、中型空母『神龍』『翔龍』
・喪失・大破離脱:大型空母『翔鶴』、中型空母『雲龍』『海龍』、装甲空母『祥鳳』
・稼働航空機:約650機(開戦時1,650機から半減以下)
・護衛水上部隊:超甲型巡洋艦『生駒』『阿蘇』、高速戦艦『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』等、防空巡洋艦『満月』等の防空艦艇多数。
■ アメリカ合衆国(第5艦隊 機動空母打撃群)
・稼働航空母艦:5隻(および応急復旧艦)
大型空母『エンタープライズ』『サラトガ』『ホーネット』、軽空母『プリンストン』『ベロー・ウッド』
・大破炎上・発着艦不能(一部は徹夜のダメコンで微速航行・発着艦能力を強引に回復中):新鋭空母『タイコンデロガ』『レキシントン(CV-16)』『エセックス』『バンカー・ヒル』『ワスプ』
・稼働航空機:約400機(補充機を含む)
・護衛水上部隊:新鋭戦艦『アイオワ』『ニュージャージー』『ワシントン』『ノースカロライナ』等(一部損傷)
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1944年4月15日 午前5時30分
ハワイ諸島 オアフ島沖合 太平洋上空
豊栄大日本帝国 機動艦隊群
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二日間にわたって繰り広げられた空母決戦は、エメラルドグリーンであったハワイの海を、赤黒い重油と沈みゆく鉄骸、そして無数の兵士たちの血で覆い尽くしていた。
夜戦の狂乱が過ぎ去り、東の水平線が白み始めたその時、日本の機動艦隊の飛行甲板では、人間の肉体的な限界を遥かに超えた、狂気的とも言える修復作業が休むことなく続けられていた。
「第二エレベーター、稼働再開! 補充の『天風』を甲板へ上げろ! もたもたするな、太陽が昇ればまたアメ公の爆弾が降ってくるぞ!」
豊栄大日本帝国・第四機動艦隊旗艦である装甲空母『白鳳』の格納庫で、煤と油にまみれた整備長の怒号が響き渡る。
床は漏れ出したオイルと負傷した搭乗員の血で汚れ、帰還した機体の大半はアメリカ軍の12.7ミリ重機関銃によって蜂の巣にされ、無惨に引き裂かれていた。アメリカ軍の波状攻撃によって、四個機動艦隊の航空機総数は開戦時の1,650機から650機へと、すでに半減以下にまで落ち込んでいる。
しかし、和泉国・堺の鍛冶商工組合が取り仕切る絶対的規格「堺公差」によってネジ一本、ボルト一つつに至るまで完全に規格化・標準化された帝国海軍の兵器システムは、その真価をこの極限状態の戦場で遺憾なく発揮していた。
「左主翼の油圧ライン切断! 予備パーツを持て! ボルトのサイズは完全に一致する、そのまま押し込んで締め上げろ!」
血走った目をした数十人の整備兵たちが、穴だらけになった四二式艦上戦闘機『天風』の主翼を電動レンチで瞬時に取り外し、真新しい予備の翼をスライドさせて接合する。アメリカ軍であれば「修理不能のスクラップ」として即座に海へ投棄されるレベルの損傷機体が、規格化による「共食い整備」と異常な修復速度により、わずか数時間で新品同様の機能を取り戻していく。
日本の空母群は、夜明けの空へ向けて再び強引に「矛」を束ねようとしていた。
「……稼働機、全艦隊合わせて約650機。これが、我々に残された最後の質量か」
第二機動艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は、装甲空母『大鳳』の艦橋から双眼鏡を下ろし、冷徹な目で朝日を睨みつけた。
彼の艦隊は前日の戦闘で大型空母『翔鶴』を大火災で失い、第五機動艦隊も『海龍』が沈没、『祥鳳』が大破・戦列を離脱するという甚大な出血を強いられていた。いかに修理速度が早くとも、絶対的な「数」の減少は誤魔化しようがない。
「アメリカの空母群は、我々の波状攻撃で火だるまになったはずだ。だが、ルーズベルトの化け物たちは、あの巨大な鉄の箱に異常なまでの消火・復旧能力を持たせている。息の根を完全に止めねば、何度でも蘇るぞ」
小沢の傍らの通信管越しに、第三機動艦隊司令長官・山口 多聞中将の野太い声が響いた。
「休ませるな、小沢中将。我々の整備兵とパイロットが限界なら、アメリカのダメージコントロール班や水兵たちも疲労の限界のはずだ。残るすべての稼働機を空へ上げろ。ルーズベルトの誇る不沈の金庫を、文字通り海の底へ沈むまで上からブチ抜くのだ」
「全艦、一斉発艦!」
鍋島家の佐賀精密機械が削り出した高圧油圧カタパルトの圧搾音が、悲鳴のように響き渡る。
第四機動艦隊 第4航空戦隊・攻撃隊長の関 衛少佐が率いる四三式艦上攻撃機『迅星』の編隊、そして第二機動艦隊 第2航空戦隊・制空隊長の岩本 徹三少佐が操縦する『天風』が、血染めの海原を蹴って次々と黎明の空へ躍り出た。
彼らの眼には、もはや生還の計算や燃料の残量など存在しなかった。ただひたすらに、目の前に立ち塞がるアメリカの鉄の城を完全に粉砕するという、狂気的で冷徹な殺意だけが燃え盛っていた。
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同日 午前6時
アメリカ合衆国 第5艦隊 機動空母打撃群
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だが、アメリカの「マニュファクチャリング・モンスター(大量生産の怪物)」は、日本の熟練パイロットたちの想像を絶する、不死鳥の如き生存能力をハワイの海で見せつけていた。
「……第11任務群より報告。『エセックス』および『レキシントン(CV-16)』、徹夜のダメージコントロールにより主要火災の完全鎮火に成功しました。さらに、破壊されたエレベーター1基の稼働を復旧し、微速ながら発着艦能力を強引に回復させています!」
旗艦『タイコンデロガ』のCIC(戦闘指揮所)で、航空管制官が煤で真っ黒になった顔のまま、血を吐くような声で報告した。
合衆国海軍・第5艦隊司令官のレイモンド・エイムズ・スプルーアンス中将は、スプリンクラーの煤水に濡れた海図台の前に立ち、氷のような目で頷いた。
「これがアメリカの力だ。ジャップが職人技で放った魚雷も爆弾も、我々の区画細分化と完璧なマニュアル化された消火システムの前には、致命傷にはならん」
日本の雷爆撃を受けて大破・発着艦不能と思われていたエセックス級空母群は、ブルドーザーで燃え盛る機材や残骸を海へ蹴り落とし、鉄板を飛行甲板の巨大な穴に溶接し直すことで、強引に空母としての機能を蘇らせていたのである。沈めば次を造るという粗製濫造の塊でありながら、その不沈性においてはまさに「動く金庫」であった。
「ハワイのジャップは、我が方の上陸部隊に狂気的な出血を強要している。だが、我々にはまだ『エンタープライズ』『サラトガ』といった無傷の正規空母が残っている。それに加えて、蘇ったエセックス級の甲板から、補充パイロットとF6Fをすべて空へ解き放て。ジャップの残存空母を、今度こそ完全にすり潰すのだ!」
スプルーアンスの号令とともに、傷だらけのアメリカ空母群の甲板から、プラット・アンド・ホイットニー製の大馬力エンジンを唸らせて『F6Fヘルキャット』と『SB2Cヘルダイバー』の群れが、文字通り雲霞のように飛び立っていった。
合衆国海軍・第11戦闘飛行隊の新兵、ジェームズ・H・カーター少尉は、昨日僚機を次々と火だるまにされた恐怖を噛み殺し、F6Fの分厚い操縦桿を両手で強く握りしめていた。
「俺たちの分厚い装甲と、この圧倒的な数があれば、必ず勝てる。ジャップの化け物どもを、今日こそ海へ沈めてやる!」
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同日 午前7時30分
ハワイ沖 空母決戦空域(空戦)
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ハワイの上空で、両軍が放った「最後の刃」が正面から激突した。
「敵機、視認! パニックを起こすな! 訓練通り、サッチ・ウィーブ(交差戦法)を展開しろ!」
カーター少尉が所属するF6Fの編隊が、無数の銀色の壁となって日本の攻撃隊の前に立ちはだかる。
「邪魔だ! アメ公のシステム戦術ごと、大馬力で食い破れ!」
岩本徹三少佐が操る『天風』が、2500馬力の二重反転プロペラの爆発的な加速力で、F6Fの弾幕を強引に突破する。機首の30ミリ大口径機関砲が火を噴き、カーターの隣を飛んでいた僚機の極厚の防弾鋼板を叩き割り、一瞬で巨大な火の玉に変えた。
「くそっ! やらせるか!」
カーターは恐怖を怒りに変え、F6Fの6門の12.7ミリ重機関銃のトリガーを引いた。猛烈な火線が岩本の『天風』の尾翼をかすめ、装甲板に火花を散らす。
空は無数の曳光弾と黒煙で塗りつぶされ、日米のパイロットたちは極限のG(重力加速度)に耐えながら、互いの機体を限界まで削り合う泥沼のドッグファイトへとのめり込んでいった。
だが、空戦の混乱の隙を突き、アメリカの爆撃隊が日本の機動艦隊の上空へと到達していた。
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同日 午前8時
豊栄大日本帝国 第四機動艦隊 上空
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「敵急降下爆撃隊、本艦の真上! 完全な垂直ダイブで突っ込んできます!」
第四機動艦隊の旗艦、装甲空母『白鳳』の羅針艦橋で、見張員が絶叫した。
上空からサイレンのような風切り音を轟かせて降下してくるのは、合衆国海軍・第18急降下爆撃飛行隊の編隊長、ロバート・M・ハンター少佐が率いる『SB2Cヘルダイバー』の巨大な黒い編隊であった。
「全艦、対空戦闘! 長10センチ高角砲、最大仰角! ジャミング(電波妨害)最大出力!」
第四機動艦隊司令長官・立花 宗紀中将が、軍刀を握りしめて怒号を飛ばす。
『白鳳』を取り囲む超甲型巡洋艦『生駒』『阿蘇』から、オレンジ色の曳光弾がレーザービームのように空へ向けて撃ち上げられる。数機のヘルダイバーが空中で粉砕されたが、ハンター少佐は分厚い防弾ガラスの向こうで悪魔のように笑った。
「ジャップの対空砲火など恐れるな! デトロイトの鉄塊の硬さを教えてやれ! 目標、装甲空母『白鳳』および『彩鶴』!」
高度500メートル。ハンター少佐が投下レバーを引き、重量2,000ポンド(約900キロ)の巨大な徹甲爆弾が機体から切り離された。
ズドガァァァァァァンッ!!!!
凄まじい衝撃波が、基準排水量3万トンを超える『白鳳』の巨体を根本から揺るがした。
爆弾は『白鳳』の重装甲飛行甲板に直撃し、巨大なクレーターを作ったものの、西国重工が鍛え上げた何層にも及ぶ特殊鋼板は、致命的な貫通を見事に防ぎ切った。
「装甲甲板、持ち堪えました! 格納庫への誘爆はありません!」
立花中将が安堵の息を吐いたその直後。
「『彩鶴』に爆弾直撃! 飛行甲板貫通! 第2格納庫で大火災発生!」
『白鳳』の隣を航行していた大型正規空母『彩鶴』の防御力を持たない木張りの飛行甲板が、アメリカ軍の1000ポンド爆弾によって無慈悲にブチ抜かれたのである。
格納庫内に満載されていた航空ガソリンと、出撃待ちであった航空魚雷が次々と連鎖的な大誘爆を引き起こし、数百メートルの高さまで黒煙のキノコ雲が噴き上がった。分厚い鉄の甲板が内側からめくれ上がり、巨大な火柱が海原を照らす。
「『彩鶴』、大火災! 第2、第3エレベーター吹き飛びました!」
『彩鶴』艦長、松本 健太郎大佐の血の滲むような報告が、無線を通じて飛び込んできた。
さらに、海面スレスレを超低空で這い寄ってきたアメリカのTBFアベンジャー雷撃機が、対空砲火の死角を突いて航空魚雷を放った。
「右舷水線部に魚雷命中! 機関区画一部浸水!」
「……ここまでか。もはや沈没は免れんか」
立花中将がギリッと奥歯を噛み締めたその時、無線から松本艦長の凄まじい怒号が響いた。
「馬鹿なことを言うな! 帝国海軍の大型空母を、そう易々と海の底へくれてやるものか! 総員退艦の命令は出さん! ダメージコントロール班、命に代えても火を消し止めろ!」
松本大佐は、炎に包まれる艦橋から身を乗り出し、決死の損害復旧を命じた。
「格納庫のガソリンと魚雷は、被弾覚悟でブルドーザーと人力で海へ蹴り落とせ! 弾薬庫の温度が限界に達する前に、弾薬庫へ強制注水しろ! 右舷の浸水に対しては、左舷に注水して傾斜を復元させろ!」
アメリカ軍のエセックス級が持つシステマチックなダメージコントロール能力には及ばないものの、日本の乗員たちもまた、自らの命を擲って艦を救おうとする狂気的な執念を見せた。炎に包まれながらも整備兵たちが爆弾を海へ放り投げ、決死隊が煙の充満する区画へ突入して隔壁を油圧で閉鎖していく。
さらに、周囲を護衛していた防空巡洋艦や駆逐艦が、アメリカ軍の空襲の的になる危険を冒して『彩鶴』の舷側にピタリと接近し、何十本ものホースを伸ばして外部からの決死の放水支援を開始した。
「……火勢、衰えつつあります! 弾薬庫への誘爆は阻止されました!」
「『彩鶴』、発着艦不能なるも、機関は無事! 自力航行可能です!」
数十分の凄惨な死闘の末、松本大佐と乗員たちの執念は、ついに巨大な炎をねじ伏せた。黒焦げになり、飛行甲板は完全に使い物にならなくなっていたが、『彩鶴』の巨体は沈むことなく、微速で海面に浮いていた。
「『彩鶴』、これより戦線を離脱します。長官、申し訳ありません!」
「謝るな、松本大佐。よくぞ艦を沈めずに持ち堪えてくれた。護衛をつけて後退させろ」
立花中将は、安堵と、アメリカ軍の物量に対する底知れぬ怒りを交えて頷いた。
「……ルーズベルトの物量は、我々の装甲をどこまで削り落とせば気が済むのだ。だが、我々もただ殴られ続けるわけではないぞ」
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同日 午前8時30分
アメリカ合衆国 第5艦隊 上空
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日本の空母群が炎に包まれ、死闘を繰り広げていたまさにその同時刻、アメリカの稼働空母群の頭上にも、帝国の「死の返礼」が容赦なく降り注いでいた。
「目標、敵大型空母『ホーネット』および『エンタープライズ』! VT信管の弾幕に穴が開いたぞ! 突入しろ!」
第四機動艦隊の攻撃隊長、関衛少佐が、愛機『迅星』のスロットルを全開にして、海面スレスレを超低空で這うように突進する。
アメリカ艦隊のVT信管(的近接信管)の弾幕は、日本軍が放った数百万枚の『電波欺瞞紙』によって空中で勝手に誤爆を繰り返し、巨大な防空の壁に風穴を開けられていた。
「雷撃、投下!」
関少佐が放った『二九式改航空魚雷』が、白い航跡を引いて『ホーネット』の巨大な船体へと向かって突き進む。同時に、高高度からは『彗星』の群れが、完全な垂直ダイブで急降下爆撃を敢行した。
ドゴォォォォンッ!! ズドォォォォンッ!!
「左舷中央部に魚雷2本命中! 飛行甲板に500キロ爆弾直撃!」
『ホーネット』の巨体が激しく横転し、巨大な水柱と炎のキノコ雲が艦を包み込んだ。飛行甲板のエレベーターが吹き飛び、格納庫内で大火災が発生する。
「やったぞ! 敵空母に命中!」
関少佐ら日本の熟練パイロットたちが歓喜の声を上げるが、アメリカのダメージコントロール要員たちは、炎の猛威に怯むことなく即座に消火作業を開始し、強引に艦の沈没を食い止めようと足掻いていた。
「一撃で沈まんのなら、沈むまで何十発でも叩き込むまでだ!」
関少佐は血を吐くような声で叫び、自らの機体を再び火線の中へと反転させた。
太平洋の覇権を賭けたハワイ沖の空母決戦は、もはや戦術や機動の美学など存在しない、純粋な「血と鉄」を限界まで削り合う地獄の消耗戦へとその凄惨な度合いを極めていた。
両軍ともに致命傷を負い、炎上する鋼鉄の城が海面を覆う中、決着の天秤はいまだどちらにも傾くことなく、狂気的な死闘が延々と続けられていたのである。




