第67章 巨砲の咆哮と血塗られた砂浜
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1944年4月12日 午前8時
ハワイ諸島 オアフ島沖合 沿岸海域
豊栄大日本帝国海軍 第一艦隊旗艦『大和』
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ハワイの眩い朝陽が、エメラルドグリーンの海面を照らし出す中、オアフ島沿岸の浅海域には、不気味なほど微動だにしない巨大な鋼鉄の山脈が連なっていた。
豊栄大日本帝国海軍・第一艦隊司令長官、松平 保男大将が直卒する超弩級戦艦『大和』『武蔵』『信濃』『甲斐』『紀伊』の5隻である。彼らはオアフ島の陸上対空陣地と完全に連動し、島と一体化した「絶対的な浮き砲台」として、迫り来るアメリカ第5艦隊の全質量を迎え撃つべく陣取っていた。
「……電探に反応。前方、距離4万ヤード。敵の艦砲射撃部隊、および上陸輸送船団が接近してきます!」
第一艦隊旗艦『大和』の作戦室で、通信参謀の黒河内 修中佐が、緊迫した声を上げた。
松平大将は、腕を組んだまま冷徹に前方を睨み据えた。
「引き付けろ。ルーズベルトの物量がどれほどあろうと、水戸徳川造兵工機が削り出した巨砲の前ではただの的だ。……全砲門、開け」
『大和』の第一主砲塔内部。
巨大な油圧ポンプが低く唸りを上げ、要塞のような密閉空間には重油とグリス、そして男たちの濃密な汗の匂いが充満していた。
「目標、敵大型艦! 距離3万8000! 徹甲榴弾、装填急げ!」
第一艦隊旗艦『大和』第一主砲塔砲手長、山田 鉄男上等兵曹が、声帯が引き裂かれんばかりの怒号を飛ばす。
数十人の砲員たちが一糸乱れぬ動きで巨大な薬室を開き、揚弾機が重量1.4トンにも及ぶ『九一式徹甲榴弾』を押し上げる。続いて、備前の池田化学が製造した強力な装薬の詰まった薬嚢が次々と押し込まれ、分厚い閉鎖機が重低音とともにロックされた。
「装填完了!」
「方位盤、連動よし! ……撃てェッ!」
ドゴォォォォォォォンッ!!!
6万4000トンの巨体が発射の反動で海面へ深く沈み込み、鼓膜を物理的に破壊するような轟音がオアフ島沖合の空間を支配した。5隻の超弩級戦艦に搭載された計45門の18インチ(46センチ)巨砲が、空気を切り裂く凄まじい飛翔音とともに、水平線の彼方へ向けて巨大な鉄の塊を放物線に打ち上げる。
「……敵弾接近! ジャップの戦艦からです! 射程外のはずだぞ!」
アメリカ合衆国海軍・第64任務部隊に所属する駆逐艦『ラドフォード』の砲術長、デヴィッド・A・クラーク大尉は、艦橋で双眼鏡を覗き込みながらパニックに陥った声を上げた。
彼らの周囲を進んでいた旧式戦艦『コロラド』や無数の輸送船団の頭上に、隕石のような黒い影が降り注ぐ。
ズドガァァァァァンッ!!!
1.4トンの徹甲弾が、アメリカの輸送船の土手っ腹を紙のように貫通し、海中で炸裂した。巨大な水柱が天を突き、積載していた無数の兵器と数百名のアメリカ兵が一瞬にして海の底へと消滅する。
「近づけない! ジャップの戦艦が沿岸にへばりついている限り、我々の艦砲射撃も揚陸作戦も不可能だ!」
クラーク大尉が絶叫する。アメリカが誇るマニュファクチャリングの質量は、日本の極限の火力と装甲の前に、水際へ触れることすら許されずに一方的な出血を強いられていたのである。
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1944年4月13日 午前9時
ハワイ諸島 オアフ島 ワイキキ海岸
アメリカ合衆国海兵隊 第5水陸両用軍団
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第一艦隊の圧倒的な火力の前に上陸を阻まれたアメリカ軍であったが、第5艦隊司令官レイモンド・エイムズ・スプルーアンス中将の冷徹な「マウイ島への陽動作戦」が、ついに日本の絶対防衛線に風穴を開けた。
オアフ島を守護していた第一艦隊が、マウイ沖の囮部隊を粉砕すべくその巨体を移動させ、オアフの沿岸が「空」になったその黄金の隙を突き、アメリカの全質量がワイキキの砂浜へと殺到したのである。
「前進だ! ジャップの巨砲は消えた! 一気に海岸へ乗り上げろ!」
アメリカ陸軍・第1機甲師団のM4シャーマン車長、ウィリアム・G・ガーナー軍曹が、ハッチから身を乗り出して吠えた。数百隻のLST(戦車揚陸艦)の観音開きドアが開き、デトロイトの自動車工場で量産されたばかりのM4戦車と、何万という海兵隊員が波打ち際へと次々と吐き出されていく。
アメリカ合衆国海兵隊・第5水陸両用軍団の第2海兵連隊歩兵分隊長、ジョン・H・ミラー伍長は、トンプソン短機関銃を掲げ、腰まで海水に浸かりながら上陸を開始した。
「進め! 艦砲射撃で海岸のジャップは全滅している! 抵抗の気配はないぞ!」
彼の隣を歩く新兵のロバート・E・スミス二等兵も、重いバックパックを背負いながら安堵の息を吐いた。美しいワイキキの白い砂浜には、艦砲射撃でへし折られたヤシの木が散乱しているだけで、日本兵の姿はどこにも見当たらなかった。
だが、彼らが無防備に砂浜へ上がり、キルゾーン(射撃帯)の中央へと密集したまさにその瞬間。
「距離50。目標、正面の敵歩兵群および戦車。……撃てェッ!!」
地下十数メートルに構築された巨大な地下要塞の暗闇の中で、第一機関銃小隊長、小林 繁曹長が冷徹に軍刀を振り下ろした。
ダダダダダダダッ!!
「うおおおおッ!?」
ミラー伍長の隣を走っていたスミス二等兵の体が、井伊銃器製の『三〇式重機関銃』から放たれた猛烈な十字砲火によって真ん中から引き裂かれ、血しぶきを上げて吹き飛んだ。藤堂製作所の油圧緩衝器を備えた三〇式重機関銃は、発射の反動を完全に殺し、照準の狂いがない精密な弾幕をアメリカ兵の足元へ容赦なく叩き込む。
「敵襲! 正面の砂の中から機関銃だ!」
ミラー伍長がパニックに陥り、砂浜へ伏せる。だが、完全に平らにされた海岸には、身を隠す遮蔽物は一つも存在しなかった。
「戦車を盾にしろ! 前へ出ろ!」
ガーナー軍曹のM4シャーマンがエンジンを唸らせて前進しようとしたその時、岩肌に巧妙にカモフラージュされた砲眼から、乾いた砲声が響いた。
「もらったぞ、アメ公。……次弾装填!」
独立速射砲中隊の射手、佐藤 健太一等兵が、水戸徳川造兵工機製の『三九式四十七粍対戦車速射砲』の照準器を覗き込みながら引き金を引く。
極限まで姿勢を低く設計された砲眼から放たれた徹甲弾が、M4戦車の履帯を引きちぎり、車体側面に突き刺さって内部の弾薬を誘爆させた。
「ぎゃああああっ!!」
炎に包まれたガーナー軍曹がハッチから這い出ようとするが、そこへ無慈悲な機銃の雨が降り注ぐ。
第一艦隊防衛工兵特務小隊の高橋 平蔵曹長が、地下坑道の観測窓からその凄惨な光景を冷ややかに見下ろしていた。
「アメリカの大量生産も、キルゾーンに入ればただの肉の的だな。一滴も血を残すな、限界まで削り取れ」
オアフ島の美しい白い砂浜は、わずか数十分のうちに、おびただしい数のアメリカ海兵隊員の死体と、M4シャーマンの燃え上がる残骸で埋め尽くされ、エメラルドグリーンの海水は文字通り真っ赤な血の色に染め上げられた。
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1944年4月14日 午後1時
ハワイ諸島 オアフ島沿岸
豊栄大日本帝国海軍 第一艦隊
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マウイ島沖合での囮部隊との交戦で莫大な弾薬を浪費させられながらも、松平保男大将率いる第一艦隊は、ついにオアフ島の沿岸へと反転・帰還を果たした。
だが、作戦室の空気は極限まで張り詰めていた。
「松平長官。砲術長の有賀定武大佐より報告が上がりました。我が艦隊の46センチ主砲弾の残弾数は、全艦平均して『残り15発』を切りました。……もはや継戦能力は限界です」
第一艦隊・通信参謀の黒河内修中佐が、血の気の引いた顔で報告する。戦艦の弾薬庫が空になれば、いかに分厚い装甲を持っていようとも、ただの巨大な鉄の標的となる。沖合ではすでに四個機動艦隊が到着し、アメリカの空母群と凄惨な決戦を繰り広げているが、オアフ島の陸上では、アメリカ軍が血の代償を払いながらも強引に内陸部へ橋頭堡を広げようとしていた。
松平大将は、海図の上のワイキキ海岸を睨み据えた。そこには、揚陸された数万のアメリカ兵と数百両の戦車、そして山のように積まれた天文学的な量の兵站物資が密集している。
「……残り15発か。十分だ」
松平大将の眼光に、死狂いの冷酷な炎が宿った。
「全艦へ通達。一発たりとも残すな。弾薬庫が完全に空になるまで、オアフ島に上陸したアメリカの海岸堡へ向けて、残るすべての三式弾と徹甲榴弾を叩き込め」
「大和、砲戦用意! 目標、ワイキキ海岸の敵上陸部隊密集地帯!」
山田鉄男上等兵曹が、最後の一発まで己の命を燃やし尽くす覚悟で、巨大な砲塔内で絶叫する。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
弾薬庫の底をさらう最後の一斉射撃。
放たれた46センチ砲弾の群れが、ハワイの空を引き裂き、砂浜に構築されつつあったアメリカ軍の巨大な集積所へと隕石のように降り注いだ。
「なんだあの音は……! 嘘だろ、ジャップの戦艦が戻ってきたのか!」
砂浜の塹壕で泥と血にまみれていたミラー伍長が、絶望のあまり天を仰いだ。
ズドガァァァァァァンッ!!!!
三式弾が上空で炸裂し、数千の火の雨が海岸堡を覆い尽くす。陸揚げされたばかりの無数の弾薬とガソリンの山が連鎖的に大爆発を起こし、ワイキキの海岸線は文字通り「巨大な火葬の山」と化した。
「ぎゃああああッ!」
アメリカのマニュファクチャリングが生み出した鉄の塊も、生身の兵士たちも、第一艦隊が放った最後の巨砲の咆哮の前に、一切の区別なく蒸発していく。
弾薬を完全に撃ち尽くし、沈黙した『大和』の艦橋で、松平大将は燃え盛るオアフ島の海岸線を見つめながら、静かに腕を組んだ。
「ルーズベルトよ、これが我々の決意の重さだ。太平洋の土を踏むには、貴様らの血がまだ足りんぞ」
オアフ島の死闘は、日米両軍の極限の意地と質量が限界まで削り合う、真の地獄の様相を呈していたのである。




