第55章 下腹への鉄槌とサレルノの血潮
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1944年4月5日 午前9時
アルジェリア・アルジェ 連合国遠征軍最高司令部
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北アフリカ・アルジェリアの海岸に面した白亜の総督府跡地に設けられた連合国遠征軍最高司令部は、分厚い葉巻の煙と、熱気に満ちた喧騒、そして絶え間なく鳴り響くテレタイプ(印刷電信機)の駆動音に包まれていた。
壁に掛けられた巨大な地中海の海図には、2月下旬にアメリカ第7軍とイギリス第8軍が電撃的に制圧を完了したシシリー島が、すでに完全に青色(連合軍の支配色)で塗りつぶされている。
「シシリーの確保により、地中海における我々の巨大な兵站の『飛び石』は完全に機能し始めた。……次はいよいよ、ヨーロッパ大陸の『柔らかい下腹』を直接抉り出す番だ」
連合国遠征軍最高司令官、ドワイト・D・アイゼンハワー大将(米陸軍)は、海図のイタリア半島・すねの部分にあたる「サレルノ」の海岸線を太い指で強く叩いた。
「作戦名『アヴァランチ』。シシリー海峡を飛び越え、イタリア本土サレルノの砂浜へ我が合衆国の全質量を叩きつける。マーク、準備はどうだ」
アイゼンハワーの視線の先で、アメリカ陸軍第5軍司令官に任命されたマーク・W・クラーク中将が、自信に満ちた笑みを浮かべて立ち上がった。
「完璧です、アイク(アイゼンハワーの愛称)。ヘンリー・K・ヒューイット中将率いる欧州方面派遣軍(上陸船団)は、シシリー上陸時をさらに遥かに上回る陣容で北アフリカの各港に集結しています。カイザー造船所が平均42日という狂気的な速度で進水させ続けている戦時標準船(リバティ船)の群れが、デトロイトの工場から吐き出された数千両のM4シャーマン戦車と弾薬を、これでもかというほど詰め込んで出撃の時を待っています」
クラーク中将は、腰に提げた象牙のグリップのリボルバーを撫でながら、傲慢なまでに胸を張った。
「イタリア王立軍の士気はすでに崩壊寸前です。そしてドイツ軍も、これほどの巨大な船団が直接イタリア本土へ上陸してくるとは予測しきれていないはずです。我が第5軍とイギリス軍の上陸部隊計16万名がサレルノの砂浜を踏み固めれば、そのままナポリを落とし、永遠の都ローマまで無血でパレードできるでしょう」
「慢心は禁物だぞ、マーク」
部屋の隅で腕を組んでいた第7軍司令官、ジョージ・S・パットン中将が、野太い声で釘を刺した。彼はシシリー島のジェーラ海岸で、ドイツ軍の降下装甲師団が放ったティーガーIの恐るべき反撃を直接その目で見ていた。
「イタリアのマカロニ野郎どもは艦砲射撃の音を聞いただけで降伏するだろうが、その後ろで糸を引いているドイツのケッセルリンク元帥は、間違いなく海岸線の内側に『本物の怪物』を潜ませている。我々が投射する質量を少しでも出し惜しみすれば、上陸部隊は血の海に叩き落とされるぞ」
「ご心配なく、パットン将軍」
クラーク中将は不敵に笑った。
「我が合衆国が誇る『マニュファクチャリング・モンスター』の力は、すでに臨界点に達しています。ナチスの職人が何ヶ月もかけて磨き上げた戦車が何両いようと、我々はそれを十倍、二十倍の数の鉄屑と爆弾で、地形ごと物理的にすり潰すだけです」
アイゼンハワーは深く頷き、ルーズベルト大統領から託された『アヴァランチ作戦・最終発動承認書』へ、力強くサインを刻み込んだ。
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1944年4月9日 午後11時
イタリア半島南部・サレルノ近郊
ドイツ南方総軍 第16装甲師団 前線指揮所
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連合軍の将官たちが楽観的なパレードを夢見ていた頃、サレルノの海岸線を見下ろす暗闇の丘陵地帯では、冷酷に研ぎ澄まされたドイツ国防軍の精鋭たちが、息を殺して海の彼方を凝視していた。
「……ケッセルリンク元帥の読み通りだ。アメリカの成金どもは、アフリカから最も距離が短く、かつ上陸に適したこのサレルノの砂浜を標的に選んだ」
ドイツ国防軍・第16装甲師団に所属する重戦車中隊長、マクシミリアン・フォン・マイヤー大尉は、愛機である重戦車『VI号戦車(ティーガーI)』のキューポラから双眼鏡を覗き込み、冷ややかに呟いた。
「中隊長殿、沿岸陣地のイタリア軍は、すでにアメリカの船団の影を見ただけで逃亡兵が相次いでおります。あのトーチカは夜明けまで持ちません」
砲塔のハッチから顔を出した装填手のミュラー伍長が、吐き捨てるように言った。ティーガーの車内は、むせ返るようなガソリンと潤滑油、そして男たちの濃密な汗の匂いが充満している。
「構わん。最初からイタリア軍など、敵の砲弾を吸い込ませるための『肉のクッション』にもならないと計算済みだ」
マイヤー大尉は、黒革の手袋をはめ直しながら冷酷に答えた。
シシリー島での凄惨な防衛戦を生き延びた彼は、連合軍の「圧倒的な物量と艦砲射撃の暴力」の恐ろしさを誰よりも熟知していた。だからこそ彼は、自らの部隊を海岸の波打ち際(水際)には配置せず、艦砲射撃の威力が減衰する数キロ内陸の稜線や、オリーブ畑の死角に、戦車を深くハルダウン(車体隠蔽)させて待ち構えていたのである。
「我々第16装甲師団の任務は、アメリカ兵がLST(戦車揚陸艦)から砂浜へ這い上がり、重火器を降ろそうと密集した『最も脆弱な瞬間』に、丘の上から装甲部隊の楔を打ち込み、奴らを物理的にティレニア海の底へ叩き落とすことだ。……ミュラー、徹甲弾の信管を確認しろ。バウアー、履帯の張りを保て」
「了解、大尉殿!」
マイヤーの背後には、長砲身の7.5センチ砲を積んだIV号戦車(G型)や、III号突撃砲など、合わせて数十両の精鋭装甲部隊が、冷たい夜露に濡れながら暗闇の中で静かにエンジンをアイドリングさせていた。
「アメリカの戦車は、ベルトコンベアで大量生産された粗悪なブリキ缶に過ぎん。我々マイスター(職人)が鍛え上げた本物のゲルマンの鋼鉄と、88ミリ砲の真の威力を、再び奴らの柔らかい頭蓋骨に叩き込んでやる」
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1944年4月10日 午前4時30分
地中海・ティレニア海 サレルノ沖合
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夜明け前のティレニア海に、人類の海戦史において誰も見たことのない、異常なまでの「規格化された鉄の暴力」がその全容を現した。
アメリカ海軍・欧州方面派遣軍司令官、ヘンリー・K・ヒューイット中将が率いる上陸大船団である。
攻撃輸送艦(APA)、攻撃貨物輸送艦(AKA)、そしてカイザー造船所がこの作戦のためだけに大量建造した戦車揚陸艦(LST)300隻と、歩兵揚陸艇(LCI)400隻。さらにその後方には、軍需物資を満載したリバティ船が地平線の果てまでびっしりと黒い影を連ねている。
総艦艇数、およそ3,000隻。総上陸兵力、実に16万名。
だが、この巨大な獲物を狙い、イタリア南部の飛行場から飛び立ったドイツ空軍の双発爆撃機『Ju88』の大編隊が、夜の闇に紛れて超低空からサレルノ沖へと殺到していた。
「敵の大船団を捕捉! 目標、大型の揚陸艦! 全機、魚雷および爆弾投下用意!」
ドイツ空軍の編隊長が無線で叫んだその瞬間、彼らが突入しようとした海域の空全体が、突如として無数の「黒い爆発の壁」によって完全に埋め尽くされた。
ドゴォォォォンッ!! ズガァァァァンッ!!
「な、なんだ!? 敵の対空砲火が……直撃していないのに空中で爆発しているぞ!?」
ドイツ軍のパイロットたちが悲鳴を上げた。
暗闇の海上に展開していた数十隻のアメリカ製『フレッチャー級』護衛駆逐艦や軽巡洋艦から撃ち上げられた5インチ(12.7センチ)両用砲弾。その砲弾の先端には、アメリカ電子技術の最高傑作である『VT信管(的近接信管)』が組み込まれていた。
砲弾から発せられた電波がドイツ機を感知し、目標から21メートルの距離まで接近した瞬間に自動的に炸裂するこの悪魔の信管は、従来の時限信管のように正確な高度設定を一切必要としない[355]。
「左翼被弾! エンジンが……火を噴いている!」
「操縦不能ッ! 脱出する!」
ただ空へ向けてバラ撒かれた弾幕が、近づくドイツ機を「面」として空中で粉砕していく。Ju88の編隊は、アメリカの船団に爆弾を一発も落とす前に次々と火だるまとなり、ティレニア海の暗い波間へと突き刺さっていった。
人間の職人技や気合いを完全に排除し、レーダーと電子信管によって空を支配する、アメリカの『システム化された防空』の完全な勝利であった。
空の脅威を完全に排除したアメリカ大船団の旗艦から、第8艦隊砲術支援指揮官リチャード・L・コノリー少将の冷徹な号令が下された。
「目標、サレルノの沿岸防衛陣地。我が合衆国海軍の火力で、海岸線の地形ごと物理的に消し飛ばせ! 全巡洋艦および駆逐艦、主砲一斉射撃!」
沖合に展開した軽巡洋艦『サバンナ』『ボイシ』『フィラデルフィア』、そして数十隻の駆逐艦から、数百門に及ぶ6インチ(15.2センチ)および5インチ砲が一斉に火を噴いた[342]。
何千発という大口径の榴弾が、放物線を描いてサレルノの海岸線へと降り注ぐ。地響きとともに、海岸線に敷かれていたイタリア軍のコンクリートトーチカや有刺鉄線が土砂もろとも完全に粉砕され、地形そのものが変わるほどの凄まじい飽和攻撃が展開された。
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同日 午前6時
サレルノ海岸線(上陸地点)
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「揚陸艦(LST)、全艦前進! 砂浜に直接乗り上げろ!」
ヒューイット中将の号令とともに、何百隻もの戦車揚陸艦が浅瀬の海水を蹴立てながら、サレルノの砂浜へと突進した。鋼鉄の艦底が砂を擦る凄まじい摩擦音が響き渡り、巨大な艦首の観音開きドア(バウ・ドア)が左右に開く。
LSTの薄暗い船倉の中で、エンジンをアイドリングさせたまま待機していたM4シャーマン中戦車の車長、ウィリアム・G・ガーナー軍曹は、ディーゼルの排気ガスと硝煙の匂いにむせ返りながら、キューポラから身を乗り出して前方を睨みつけた。
「よし、ドアが開いた! 前進だ! ファシストの野郎どもにアメリカン・ボーイズの力を見せてやれ!」
フォードの工場で流れ作業により大量生産されたばかりの新品のM4シャーマンが、コンチネンタル製星型エンジンを咆哮させて次々と砂浜へと吐き出されていく[356]。その後ろからは、重い装備を背負ったアメリカ陸軍・第5軍の歩兵たちが、腰まで海水に浸かりながら上陸を開始した。
「海岸のイタリア兵は艦砲射撃で全滅したか、逃げ出したようだぞ!」
分隊長のカーペンター伍長が、トンプソン短機関銃を掲げて安堵の声を上げた。
だが、彼らが無防備に密集し、砂浜に物資を下ろし始めたまさにその瞬間。
艦砲の届かない数キロ内陸の稜線で、彼らを冷徹に待ち構えていた「本物の怪物」が、ついにその牙を剥いた。
「……距離1,800! 砂浜のアメリカの鉄屑どもを一つ残らずスクラップにしろ! 撃て(フォイア)!」
丘陵地帯のオリーブ畑の死角から、マイヤー大尉のティーガーIの8.8センチ砲が、凄まじい咆哮を上げた。
ドゴォォォォンッ!!
初速800メートル毎秒の徹甲弾がサレルノの空気を切り裂き、LSTから降りたばかりのM4シャーマン中戦車の前面装甲を豆腐のようにブチ抜き、内部の弾薬に誘爆して巨大な火柱を上げた。
「な、なんだ!? どこから撃たれた!」
「敵襲! 丘の上から強力な戦車砲だ! 装甲が抜かれるぞ!」
砂浜で交通整理をしていたアメリカ兵たちが恐慌状態に陥る。
その混乱に追い打ちをかけるように、稜線に隠蔽されていたドイツ第16装甲師団のIV号戦車とIII号突撃砲が一斉に砲火を開いた。さらに、高台に配置された数十門の88ミリ高射砲が、水平射撃で海岸線のM4戦車やLSTの艦首へ向けて、無慈悲な徹甲弾の雨を降らせる。
「ミラー! 12時方向の丘だ! 撃ち返せ!」
ガーナー軍曹が絶叫し、砲手のミラー伍長がM4の75ミリ砲を撃ち放つ。しかし、砲弾はマイヤーのティーガーの分厚い垂直装甲に命中したものの、火花を散らしてカンカンと弾き返された。
「クソッ、弾かれた! 相手の装甲は化け物か!」
ドイツ軍の戦車は、アメリカ軍の有効射程の遥か外側から、極めて正確な砲術でM4戦車を次々と火だるまに変えていった。
さらに、斜面の上からはドイツ軍のMG42機関銃が猛烈な連射速度で弾幕を張り、身を隠す場所のない砂浜で立ち尽くすカーペンター伍長らアメリカの歩兵たちを、次々と血の海に沈めていった。
デトロイトの工場で大量生産されたアメリカの「量」が、ドイツの極限まで洗練された「質と戦術」の前に、完全に蹂躙されつつあったのである。
「クソッ! 艦砲射撃で仕留めきれていなかったのか! 第5軍が海へ押し戻されるぞ!」
上陸用舟艇からその惨状を目の当たりにしたマーク・クラーク中将は、血の気を失いながら通信機をひったくった。慢心は吹き飛び、生き残るための強引な力技だけが彼に残されていた。
「海軍は何をしている! 丘の上のナチスの戦車部隊へ、持てるすべての艦砲と爆弾を『面』で降らせろ! 丘の地形が変わるまで撃ち続けろ!」
クラークの血を吐くような要請は、即座に沖合のアメリカ艦隊へ伝達された。
「目標、海岸から数キロ内陸の敵装甲部隊! 我が合衆国海軍の火力は、点ではなく『面』で制圧する! 全艦、一斉射撃!」
ズドォォォォンッ!!!
沖合の軽巡洋艦や無数の駆逐艦から、数百発の大口径榴弾が再び放物線を描いて内陸の丘陵地帯へと降り注いだ。さらに上空からは、空母から発艦したSBDドーントレス急降下爆撃機が、ティーガーの密集する陣形へ向けて1000ポンド爆弾を次々と投下していく[353]。
ドドォォォンッ!! ズガァァァンッ!!
「……退け! 後退しろ! 海からの火力が異常すぎる!」
マイヤー大尉は、至近弾の爆風で装甲板を激しくへこませたティーガーのハッチから身を乗り出し、顔から血を流しながら後退を命じた。操縦手のバウアーが必死にレバーを引いて巨体を後退させる。
アメリカ海軍の飽和攻撃は、戦車の装甲の厚さなど完全に無意味にする「質量の暴力」であった。直撃せずとも、至近距離に落ちた艦砲の爆発が、ティーガーの複雑な千鳥足型サスペンションを粉砕し、乗員の鼓膜と内臓を衝撃波で破壊する。
アメリカ軍は、海岸で数十台のM4戦車と数千人の兵士の血を流すという莫大な出血を払いながらも、その背後にある無尽蔵の艦砲射撃と航空支援によって、強引にドイツ軍の装甲部隊をすり潰し、サレルノの海岸に確固たる橋頭堡を築き上げたのである。
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1944年4月12日 午後2時
イタリア・ローマ ヴェネツィア宮殿
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サレルノ海岸での凄惨な死闘と、アメリカ軍による強引な上陸成功という凶報は、イタリアの首都ローマに致命的な衝撃を与えていた。
「……ドゥーチェ(統領)。サレルノに上陸したアメリカ第5軍は、すでに膨大な物資を陸揚げし、内陸部へ向けて進撃の準備を整えています。我が国の沿岸守備隊は抵抗することなく次々と逃亡しており、もはや防衛線は存在しません」
ヴェネツィア宮殿の薄暗い執務室で、側近が震える声で報告を行った。
国家統領ベニート・ムッソリーニは、豪華なデスクの後ろで青ざめた顔を歪め、両手で頭を抱え込んでいた。
「ドイツは……ヒトラーは何をしている! 我が国を盾にするだけで、増援は寄こさないつもりか!」
「ドゥーチェ。すでに国王陛下およびファシスト大評議会の一部メンバーが、密かに連合軍への単独講和(降伏)を画策しているとの情報があります……。これ以上の継戦は、イタリア半島全土の焦土化を招きます。どうか、休戦の御英断を……!」
側近が涙ながらに進言したその時、執務室の重厚な扉が蹴り開かれ、黒い革のロングコートを翻した一人の男が雪崩れ込んできた。
ドイツ南方総軍司令官、アルベルト・ケッセルリンク元帥である。その背後には、武装したドイツ国防軍の親衛隊員たちが短機関銃を構えて付き従っていた。
「……休戦だと? この大ゲルマン帝国の神聖なる戦いにおいて、裏切りは絶対に許されんぞ、ムッソリーニ統領」
ケッセルリンクの冷酷な眼差しが、ムッソリーニを射抜いた。
「アドルフ・ヒトラー総統閣下からの厳命である。イタリアは永遠の都ローマが灰燼に帰そうとも、最後の一兵まで我がドイツ軍と共に血を流し、アメリカ軍の北上を食い止めねばならん。単独講和を画策する者は、即刻反逆罪として処断する。……イタリア軍の指揮権は、これよりすべて我が南方総軍が接収する」
ムッソリーニはヒトラーの恐怖の前に完全に屈し、休戦の言葉を呑み込むしかなかった。
ケッセルリンクは直ちに強権を発動し、イタリア半島の峻険な山岳地帯を利用してアメリカ軍を迎え撃つための、無慈悲な遅滞防衛計画を始動させたのである。
イタリアはまだ降伏を許されず、ファシズムの下腹に食い込んだアメリカの規格外の質量は、ローマを目指して、さらなる血みどろの山岳戦へとその重い歩みを進めていくのであった。




