第39章 真珠湾の黄昏
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1943年11月5日 午前6時
米国ハワイ準州・オアフ島 ホノルル沖合
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9月末、豊栄大日本帝国が誇る第一艦隊の46センチ(18インチ)巨砲と、新鋭空母群の猛爆によって、真珠湾の太平洋艦隊中枢が物理的に解体されてから約1ヶ月半。
かつて「太平洋の心臓」と呼ばれ、アメリカ合衆国の覇権の象徴であったハワイ・オアフ島は、見捨てられた巨大な墓標のように、静まり返った太平洋の波間に横たわっていた。
太平洋反攻の要たるアメリカ第5艦隊と無数のエセックス級空母群は、南太平洋のタラワ環礁において、日本の地下要塞と第三・第五機動艦隊の冷徹な牽制によって完全に釘付けにされ、凄惨な血の泥沼に沈み込んでいる。
ルーズベルト大統領が誇る「マニュファクチャリング・モンスター(大量生産の怪物)」の全質量がタラワに吸い寄せられた結果、ハワイへの救援艦隊は一隻も到達せず、通信ケーブルすら切断されたオアフ島の米軍守備隊は、絶対的な孤立無援の檻の中に閉じ込められていた。
そして今、水平線の彼方から、その息の根を完全に止めるための「帝国の刃」が、ついにその全容を現したのである。
「目標、オアフ島・ワイキキ海岸およびダイヤモンド・ヘッド沿岸防衛陣地。……各艦、砲撃用意」
ハワイ沖の公海上を遊弋し続けていた第一艦隊の戦列から一歩前へ出た、準新鋭戦艦『長門』の羅針艦橋で、艦長が冷徹に命令を下した。
『大和』型戦艦群が真珠湾のインフラを跡形もなく吹き飛ばした第一撃に続き、今回は『長門』と『陸奥』の40センチ(16インチ)連装砲8基16門が、上陸地点となるホノルル南岸の制圧を担う。
ズドォォォォンッ!!
夜明けの静寂を引き裂き、1トンを超える徹甲榴弾の群れがオレンジ色の閃光とともにハワイの空を切り裂いた。
ダイヤモンド・ヘッドの稜線に構築されていた米陸軍の沿岸砲台や、海岸線に急造されたトーチカ群が、凄まじい爆発とともに土砂もろとも吹き飛ばされる。アメリカの防衛陣地から反撃の火線が上がるが、それも上空から飛来した『彗星』急降下爆撃機のピンポイント爆撃によって、瞬く間に沈黙を強いられていった。
「沿岸の敵砲火、沈黙。……これより、揚陸部隊を前進させます」
『長門』の艦橋から見下ろす波間の向こう、ハワイの青い海を真っ白な航跡で埋め尽くすようにして、無数の船団がオアフ島へと殺到してくる。
ミッドウェイ環礁を中継基地として完璧に要塞化・兵站拠点化したことで、毛利家の『防長石油』が連ねるタンカーや、芸州・『浅野港湾』の輸送船団が、安全かつ無尽蔵に日本本土からハワイの喉元へと上陸部隊を送り届ける太い動脈が完成していたのだ。
その先陣を切るのは、浅野港湾と伊勢の藤堂製作所が共同開発し、瀬戸内のドックで狂気的な速度で量産された次世代揚陸艦──『第一号型高速強襲揚陸艦』の巨大な群れであった。
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同日 午前7時30分
ハワイ・オアフ島 ワイキキ・ビーチ
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かつて世界中の富裕層がバカンスを楽しんだ白い砂浜に、地響きを立てて鋼鉄の艦首が乗り上げた。
「バウ・ドア、全開! 道板を下ろせ!」
揚陸艦の艦首が観音開きに開き、藤堂製作所の高度な油圧システムによって巨大な鋼鉄の道板が砂浜へと叩きつけられる。海水に濡れることも、小舟に乗り換える必要もない。艦の巨大な腹の中から、直接ハワイの大地へと飛び出してきたのは、越前松平重工業が誇る主力中戦車『三五式中戦車改』と、新鋭重装甲戦車『四〇式中戦車 鎧』の重厚な列であった。
「前進! アメリカの残党どもに、我々の鉄の重みを教えてやれ!」
加賀・前田発動機製の高出力V12空冷ディーゼルエンジンが重低音の咆哮を上げ、キャタピラが白い砂浜を蹴り立てる。
海岸線で待ち構えていた米軍のM3軽戦車や対戦車砲が発砲するが、『鎧』の分厚い鋳造装甲と避弾経始に優れた曲面は、アメリカの砲弾を火花とともにカンカンと弾き返す。直後、『鎧』の長砲身75ミリ砲が火を噴き、ヤシの木の陰に潜んでいた米軍戦車の砲塔を根本から吹き飛ばした。
「正面の盾は崩れた! 鎮撫兵団、展開しろ!」
戦車の後ろから砂浜へ躍り出たのは、外様財閥が私費で練り上げた戦闘のプロフェッショナル集団、武装開拓陸戦隊(鎮撫兵団)の兵士たちである。
彼らは、鍋島家の佐賀精密機械が極限のプレス加工で量産した『百式機関短銃』を構え、塹壕から這い出してくるアメリカ兵に対して、息をつく暇もない圧倒的な弾幕を浴びせかけた。
「撃て! 撃てェッ!」
「クソッ! 弾幕が濃すぎる! 頭を上げられない!」
孤立無援のまま1ヶ月半を耐え忍び、弾薬も食糧も尽きかけていたハワイ守備隊の士気は、すでに限界を迎えていた。
空を完全に見方につけた日本の鎮撫兵団は、アメリカのM1ガーランド小銃の反撃を機関短銃の面制圧で強引に黙らせながら、ワイキキのホテル群や市街地を次々と占領していく。
さらに、彼らの進撃を後押ししたのは、南太平洋でアメリカ軍から強奪した「キャタピラー社製D8ブルドーザー」であった。前田発動機の技術者がチューンナップを施した黄色い重機が、瓦礫で塞がれたホノルルの市街地をバリバリと圧殺しながら強引に道を開き、後続のトラック部隊を市街地の奥深くまで導いていく。
午前中が終わる頃には、ホノルル市街地は完全に日本軍の制圧下に置かれ、星条旗は引き摺り下ろされ、代わりに日章旗と各財閥の連衡旗がハワイの風に翻っていた。
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同日 午後2時
ハワイ・オアフ島 真珠湾太平洋艦隊司令部・地下HYPO
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地上での凄惨な銃撃戦の音が、厚いコンクリートを透かして地下深くまで響いてくる。
真珠湾の地下深く、かつてアメリカの頭脳と呼ばれた暗号解読室(HYPO)は、すでに地獄のような絶望に包まれていた。
壁一面を埋め尽くしていたIBMの真空管式電磁計算機は、冷却用の電力が絶たれたことで機能を停止し、ただの巨大な鉄の箱と化している。無数のパンチカードが床に散乱し、情報主任のジョセフ・ロシュフォート中佐は、赤いスモーキングジャケットを埃にまみれさせながら、力なく壁に寄りかかっていた。
「……計算機で日本の兵站線の綻び(タラワ)を炙り出し、そこに全質量を叩きつけたまでは良かった。だが、奴らはそのタラワすらも、我々の主力を完全に拘束するための巨大な『蟻地獄』として利用したのだ」
ロシュフォートは、乾いた笑いを漏らした。
アメリカの大量生産の怪物は、タラワの珊瑚礁で血を流し続けている。そしてその裏側で、手薄になったアメリカの心臓部へ、日本の完全な制圧部隊が無慈悲に上陸してきた。盤面を支配していたのは、アメリカの計算機ではなく、徳川幕府と外様財閥が描いた冷徹な「二重の挟撃」であった。
重い鉄扉が開き、太平洋艦隊司令長官・チェスター・ニミッツ大将が、疲れ果てた足取りで地下室へと入ってきた。
彼の軍服には煤汚れがこびりつき、その表情からは一切の希望が失われている。
「長官……」
「ロシュフォート。上の状況は、もはや絶望的だ」
ニミッツは、手の中の軍帽を強く握りしめた。
「オアフ島の守備隊を指揮するショート中将から、全軍降伏の具申があった。我が方の残存艦艇はすべて破壊され、弾薬庫は空だ。これ以上の抵抗は、ハワイの民間人と兵士たちを無意味な肉片に変えるだけの虐殺に過ぎない」
ニミッツの脳裏に、ワシントンのルーズベルト大統領の顔が浮かんだ。
「日本の兵站を断頭台で切断する」と豪語し、太平洋へ全生産力を叩きつけた大統領の戦略は、ハワイという絶対的な足場を失ったことで、完全に根底から崩壊したのである。ハワイを失えば、アメリカ本土の西海岸は直接日本の脅威に晒され、太平洋におけるアメリカの覇権は百年後退することになる。
「……私が、ルーズベルト大統領の代わりに、この屈辱の泥を啜るしかない」
ニミッツは静かに踵を返し、地上へと向かう階段を上り始めた。
太平洋の海を支配していたアメリカ合衆国の誇りが、東洋の怪物の前に完全に膝を折るための、重く苦しい足取りであった。
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同日 午後5時
真珠湾外縁 フォード島 飛行場跡地
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9月の艦砲射撃で巨大なクレーターだらけとなった滑走路の跡地に、粗末な野戦机が一つ置かれていた。
その机を挟んで、二人の男が対峙している。
一人は、完全に武装解除され、疲労困憊の表情を隠せないチェスター・ニミッツ大将。
もう一人は、真っ白な第二種軍装に身を包み、背後に大和の威容を背負いながら椅子に深く腰掛ける、第一艦隊司令長官・松平保男大将であった。
「……オアフ島、ならびにハワイ諸島全域における合衆国軍の完全なる無条件降伏、および一切の軍事・港湾インフラの無傷での引き渡し。これが我が豊栄大日本帝国が提示する唯一の条件だ。交渉の余地はない」
松平大将は、机の上に置かれた降伏文書をニミッツの側へと無造作に押しやった。
「ニミッツ大将。貴官らは中立法の檻の中から、我々が動脈を断ち切られるのを計算機で弾き出そうとしていたようだが、少々『現実の物理力』を侮りすぎたようだな。我々が職人技で作る強固な兵器は、貴国がベルトコンベアで大量生産する粗悪な質量に押し潰されるほど、脆くはない」
ニミッツは、反論する気力すら湧かなかった。
開戦以来、ハワイ沖を遊弋し続け、ついには太平洋艦隊を跡形もなく吹き飛ばした大和型戦艦群の絶対的な圧力。そして今日、海岸線を蹂躙した日本の揚陸艦と戦車部隊の完璧な連携。それらは、アメリカが想定していた「東洋の未開な軍隊」というイメージを根本から打ち砕く、恐るべき軍産複合体の完成形であった。
「……我々の敗北だ」
ニミッツは絞り出すように呟き、机の上の万年筆を手に取った。
彼の手が震え、ペンの先が紙を削る。ハワイ諸島のすべての主権と支配権を、大日本帝国へと譲渡する降伏文書に、チェスター・ニミッツの署名が深く刻み込まれた。
その瞬間。
19世紀末からアメリカ合衆国が西への拡張の象徴とし、太平洋を支配するための「絶対的な不沈の要石」としてきたハワイは、名実ともに完全にアメリカの手から滑り落ちたのである。
「これで、太平洋の西半分は、完全に我々の内海となった」
松平大将は、署名された文書を副官に手渡し、燃え盛る夕陽に照らされた真珠湾を見渡した。
港内に沈むアメリカ太平洋艦隊の無数の残骸、そして黒煙を上げる燃料タンクの跡地。それらはすべて、帝国の絶対的な全盛期を世界に見せつけるための巨大なモニュメントに過ぎなかった。
タラワでの狂気的な拘束戦の裏側で、ついに本命たるハワイの完全制圧を成し遂げた豊栄大日本帝国。
アメリカというマニュファクチャリング・モンスターが太平洋で真の猛威を振るう前に、その首根っこを物理的に叩き割ることに成功した彼らの覇権は、いよいよ揺るぎない絶対の玉座へと近づいていたのである。




