第34章 補給の飛び石と真珠湾の落日
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1943年9月25日 午前5時 中部太平洋
ミッドウェイ環礁沖合
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夜明け前の暗黒の海に、巨大な違法建築物のようにそびえ立つ四つの不気味なシルエットが浮かび上がっていた。 天を突くような特異な形状の「パゴダ・マスト(艦橋)」を持つ、第五艦隊の重火力旧式戦艦『扶桑』『山城』『伊勢』『日向』である
。
「目標、ミッドウェイ島・イースタン島およびサンド島の敵防衛施設。……全砲門、開け」
第五艦隊司令長官・細萱戊子郎中将の静かな号令が、『扶桑』の艦橋に響いた。
直後、4隻の戦艦に搭載された計44門の36センチ(14インチ)主砲が、凄まじい閃光とともに一斉に火を噴いた。 ズドォォォォンッ!! 放たれた重量600キロを超える高爆速榴弾の群れが、夜空を引き裂きながらミッドウェイ環礁へと降り注ぐ。アメリカ軍が不沈空母として要塞化を進めていた飛行場、対空砲陣地、そしてレーダー施設が、瞬く間に土砂もろとも天高く吹き飛ばされた。
「次弾装填! 撃てェッ!」
『扶桑』の主砲塔内で、砲手長の武田 雄一曹長が汗と油にまみれながら怒号を飛ばす。足は遅いが、打撃力にかけては無類の面制圧力を誇るこれらの重火力戦艦群は、アメリカ兵が息をつく暇すら与えない圧倒的な飽和砲撃で、小さな環礁を文字通り「更地」へと変えていった。
「……敵の対空・沿岸砲火、完全に沈黙しました」
「よし、揚陸部隊を前進させろ」
細萱中将が指揮棒を振り下ろす。その背後の水平線から、浅野港湾や藤堂製作所が建造した『第一号型高速強襲揚陸艦』の群れが、白波を立ててミッドウェイの海岸へと突進してきた。
「バウ・ドア開け! 陸戦隊、一気に制圧しろ!」
揚陸艦の艦首が観音開きに開き、油圧式の道板が砂浜に叩きつけられる。
そこから、外様財閥の武装開拓陸戦隊を率いる吉川 忠明大尉が、百式機関短銃を片手に先陣を切って飛び出した。 彼らの後方からは、前田発動機製のディーゼルを積んだブルドーザーや輸送トラックが次々と上陸を開始し、まだ硝煙の燻るアメリカ軍の滑走路を制圧していく。
彼らの目的は、単なる島の占領ではない。 このミッドウェイ環礁を、日本本土からハワイへと向かう巨大な大艦隊の「絶対的な補給の中継拠点(飛び石)」として即座に要塞化することである。ここが確保されたことで、防長石油(毛利家)の給油艦や浅野港湾の弾薬輸送船が、ハワイ攻略部隊へ向けて安全に燃料と物資を送り届けるための『太い動脈』が完全に繋がり切ったのだ。
ハワイを物理的に解体し、維持し続けるための絶対的な兵站の足場。 それが完成したという暗号電文は、ただちに東の海域──オアフ島沖合で待機する巨大な怪物の群れへと打電された。
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1943年9月26日 午前7時30分 米国ハワイ準州・オアフ島
真珠湾太平洋艦隊司令部
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「……ミッドウェイからの定時連絡が途絶。通信ケーブルも切断されました」
真珠湾の司令部で、情報参謀のエドウィン・レイトン中佐が、血の気を失った顔で報告した。 太平洋艦隊司令長官・チェスター・ニミッツ大将は、窓の外の穏やかな真珠湾を見つめたまま、拳を強く握りしめた。
「日本の第五艦隊……旧式戦艦群がミッドウェイを落としたか。奴らめ、ただハワイを攻撃するだけでなく、ここを完全に占領・維持するための『補給路』を敷きにきたというわけだ」
その時、地下の暗号解読室(HYPO)から、ジョセフ・ロシュフォート中佐が血相を変えて司令部へと駆け込んできた。彼の手には、オアフ島北端のオパナ・レーダーサイトから送られてきたばかりの緊急報告書が握られている。
「長官! 北西方向、距離150マイルに巨大な機影の群れ! 数、少なくとも600機以上! さらにその直下、海面上に信じられない規模の大型艦影が多数、オアフ島へ向けて直進してきます!」
「なんだと!?」
ニミッツの顔が驚愕に強張った。
「日本軍はタラワに主力を割いているはずだ! どこからそれほどの航空機を……まさか!」
「ええ。山口中将の第三機動艦隊と、真田中将の第五機動艦隊の空母群は、タラワで我々を拘束するための『囮(牽制)』です。奴らは、これまで温存していた立花中将の第四機動艦隊と、インド洋から極秘裏に転進させていた小沢中将の第二機動艦隊の全空母戦力を、一挙にこのハワイへ叩き込んできたのです!」
罠に嵌められた。 ニミッツは、自分たちがエセックス級空母群の全力を挙げてタラワの血塗られた珊瑚礁に釘付けになっている隙に、日本軍が熟練の空母群と、あの『大和型』の巨砲のすべてを、無防備なハワイの喉元へ突き立ててきたことを完全に悟った。
「全基地航空隊、緊急発進! 迎撃しろ! 港内の艦艇は対空戦闘配置!」
ニミッツの絶叫が響き渡るが、もはやすべてが遅すぎた。
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同日 午前8時15分 ハワイ・オアフ島
上空および近海
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ハワイの青い空を、耳を聾するような大馬力エンジンの咆哮が埋め尽くした。 小沢治三郎中将の第二機動艦隊と、立花宗紀中将の第四機動艦隊から放たれた、計660機に迫る『天風』『流星』『彗星』の大編隊である。
「ここがアメリカ太平洋艦隊の心臓か。……全機、突入!」
第二機動艦隊の制空隊を率いる『天風』の編隊長が、操縦桿を限界まで倒し込む。 2500馬力の超大出力空冷星型発動機と二重反転プロペラを備えた最新鋭戦闘機『天風』が、迎撃に上がってきたアメリカ軍のP-40戦闘機やB-17爆撃機を、まるで止まっている的を撃ち抜くかのように圧倒的な速度差で蹂躙していく。
「馬鹿な、速すぎる! 被弾した、脱出する!」
米軍パイロットの悲鳴が無線に飛び交う中、オアフ島上空の制空権はわずか十数分で日本の銀翼によって完全に掌握された。
そして、その絶対的な制空権の傘の下へ、水平線の彼方から「真の絶望」が姿を現した。
「……目標、真珠湾。バトルシップ・ロウ(戦艦通り)の敵戦艦群、および乾ドック、20万トン燃料タンク群」
第一艦隊旗艦『大和』の巨大な作戦室。 司令長官・松平保男大将は、オアフ島の輪郭を前方に捉えながら、冷徹な声で最終命令を下した。
『大和』『武蔵』『信濃』『甲斐』、そして『紀伊』。 基準排水量6万4,000トン。人類の造船史における極致とも言える5隻の超弩級戦艦が、オアフ島沖の真っ青な海に寸分の狂いもない単縦陣を形成し、すべての砲塔を真珠湾へ向けて旋回させた。 搭載された46センチ(18インチ)三連装砲は各3基、計45門。
「第一艦隊、全砲門開け。……アメリカの太平洋の牙城を、物理的に解体しろ。撃てェッ!!」
ドゴォォォォォォォンッ!!!
5隻の巨城が一斉に火を噴き、45門の46センチ砲が放った凄まじい爆風が、ハワイの海面を数十メートルにわたってすり鉢状に抉り取った。 重量1.4トンを超える九一式徹甲榴弾の群れが、大気を引き裂くような飛翔音を響かせ、放物線を描いてオアフ島の山越しに真珠湾へと降り注ぐ。
ズドガァァァァンッ!!!
真珠湾のバトルシップ・ロウに停泊していた旧式戦艦『メリーランド』の甲板を、大和の徹甲弾がティッシュペーパーのように貫通し、艦底の弾薬庫で大爆発を引き起こした。3万トンの巨体が、真っ二つに折れて炎とともに海面へ跳ね上がる。
さらに『武蔵』と『信濃』の砲弾が、アメリカが誇る巨大な乾ドックと、そこに隣接する重工業施設を土砂もろとも吹き飛ばし、クレーターへと変えていく。 極めつけは、『甲斐』と『紀伊』が放った三式弾(対地焼夷散弾)であった。数千の火の雨となって降り注いだそれが、真珠湾の命脈である巨大な「燃料タンク群」に着弾した瞬間。
何十万トンという重油が一瞬にして引火し、オアフ島全体を飲み込むほどの巨大な火柱と黒煙のキノコ雲が、ハワイの空を赤黒く染め上げた。
「……神よ」
地下司令部から地上へ這い出たニミッツは、燃え盛る真珠湾と、完全に灰燼に帰した太平洋艦隊の残骸を前に、膝から崩れ落ちた。
アメリカ合衆国が太平洋の覇権を維持するための心臓部。 それが今、豊栄大日本帝国が誇る「機動艦隊の猛禽」と「46センチの巨砲」という究極の物理的暴力によって、修復不可能なレベルで完全に解体された瞬間であった。




