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第33章 血塗られた珊瑚礁と反攻の鉄槌

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1943年8月15日 午後9時 米国ワシントンD.C.

ホワイトハウス 大統領執務室

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オーバル・オフィス(大統領執務室)の重厚な空気を、フランクリン・ルーズベルト大統領の激しい怒声が引き裂いた。


「ハスキー作戦(シチリア上陸)を無期限待機としたばかりか、ロンメルにトリポリを奪還され、マルタ島まで無力化されただと!? パットンとモントゴメリーの馬鹿どもは、アフリカの砂漠で紅茶でもすすっているのか!」


車椅子に座る大統領は、机の上にうず高く積まれた報告書を力任せに払い落とした。バサバサと床に散らばる紙片を前にして、直立するジョージ・C・マーシャル陸軍参謀総長とアーネスト・キング海軍作戦部長は、苦渋に満ちた表情で沈黙を守っている。


「大統領。地中海でイギリスの旧式戦艦群がドイツとイタリアの新鋭艦隊に圧倒され、海からの砲撃支援が完全に失われたことが致命傷となりました。海岸線からの艦砲射撃という絶対的な援護なしでは、ロンメルの重装甲部隊の進撃を止めることは不可能です」


マーシャルが慎重に、しかし現実の過酷さを突きつけるように言葉を選ぶ。


「その原因を作ったのは我々だろうが! 日本の大和型戦艦群を抑え込むために、マサチューセッツやアイオワ級といった最新鋭の高速戦艦を、モロッコ上陸の直後にすべて太平洋へ引き抜いてしまった。そのツケが、ヨーロッパの泥沼化とアフリカの崩壊という最悪の形で跳ね返ってきているのだ!」


ルーズベルトは苛立ちに両手で顔を覆った。 アメリカ国民は、ヨーロッパへ向かった若者たちがナチスを蹴散らし、華々しい勝利を飾るニュースを毎朝のラジオで待ち望んでいる。しかし現実には、シチリア上陸は頓挫し、逆にロンメルのアフリカ軍団が息を吹き返してエジプト・スエズ運河へと猛進している。もしスエズが陥落すれば、大英帝国の命脈が断たれるだけでなく、「枢軸国によるユーラシア大陸打通」という最悪の悪夢が現実となる。このままでは、秋の選挙を前に国内の士気が完全に崩壊しかねなかった。


「……何か、決定的な勝利のニュースが必要だ。ヨーロッパが膠着しているなら、もう一つの戦線でアメリカの圧倒的な力を見せつけるしかない」


大統領の充血した目が、壁に掛けられた巨大な太平洋の海図へと向けられた。


「キング提督。デトロイトのマニュファクチャリングが生み出した新鋭『エセックス級』空母群の編成はどこまで進んでいる?」


「すでに第一陣の数隻が西海岸での公試を終え、真珠湾へ向けて進発準備を整えております」


キング提督が即座に答える。


「ですが大統領、ハワイ沖の公海上には未だに日本の『第一艦隊(大和型5隻を含む超弩級戦艦群)』が遊弋しており、太平洋艦隊は金縛り状態にあります。迂闊にハワイ周辺で動けば、彼らの46センチ砲の餌食になりかねません」


「ハワイの近海で戦えとは言っていない」


ルーズベルトは車椅子を進め、海図の赤道付近に浮かぶ小さな点の集まりを、太い指で強く叩いた。


「中部太平洋、ギルバート諸島の『タラワ環礁』だ。日本軍の絶対国防圏の最前線でありながら、ハワイ沖の大和型戦艦群の遊弋エリアからは遠く離れている。ここならば、ジャップの主力艦隊が介入する前に片がつく」


ルーズベルトの目に、冷酷な決断の光が宿る。


「来月、9月中旬を目標に作戦を前倒ししろ。新鋭空母群の絶対的な制空権のもと、海兵隊の全力を投入してこの島を強襲し、日本の防衛線を力ずくでこじ開ける。……アメリカの怒りと物量の前に、ジャップの島など数日で更地になるということを、世界に証明してやるのだ」


それは、アメリカが誇る「水陸両用作戦アンフィビアス・アサルト」の絶対的な暴力が、いよいよ太平洋の小さな島へと牙を剥く決定的な瞬間であった。


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1943年9月15日 午前5時 中部太平洋 ギルバート諸島

タラワ環礁 ベティオ島沖合

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夜明け前の静かな海原を、身の毛のよだつような轟音が引き裂いた。


「目標、ベティオ島全域! 全主砲、撃てェッ!」


タラワ環礁を包囲したアメリカ海軍の旧式戦艦群『コロラド』『メリーランド』『テネシー』などと、数え切れないほどの巡洋艦・駆逐艦から、一斉に数千発に及ぶ艦砲射撃の火球が解き放たれた。巨大な16インチ(40.6センチ)徹甲弾と榴弾が、空気を切り裂く不気味な飛翔音とともに、夜明けの空にオレンジ色の弧を描いて降り注ぐ。

さらに頭上の暗闇からは、新鋭空母『エセックス』『バンカー・ヒル』から発艦した数百機のF6Fヘルキャット戦闘機とSBDドーントレス急降下爆撃機が、島を埋め尽くすような爆撃と機銃掃射を浴びせかける。


標的となったベティオ島は、面積わずか1.2平方キロメートル。東京の代々木公園ほどの広さしかない、平坦な珊瑚礁の島である。その小さな箱庭のような島が、文字通り「炎と爆煙の竜巻」に包み込まれていた。


ドゴォォォォンッ!!!


16インチ砲弾の直撃を受けたサンゴ礁が、数十メートルの水柱と土砂の塔となって天を突く。島に生えていた無数のヤシの木は根本からへし折れて吹き飛び、地表にあった兵舎や見張所などのあらゆる構造物が完全に粉砕され、地形そのものが変わるほどの凄まじい飽和攻撃であった。


「素晴らしい弾幕だ。おい、このままでは島そのものが海に沈んでしまうんじゃないか?」


上陸部隊を指揮する第2海兵連隊のデヴィッド・シュウプ大佐は、輸送船の甲板から双眼鏡を覗き込み、満足げに葉巻の煙を吐き出した。


「作戦計画通り、午前9時に水陸両用装軌車(LVT)でサンゴ礁を乗り越え、海岸へ強行上陸する。残ったジャップの残骸を掃討し、昼までには飛行場を占領して冷たいビールで乾杯だ!」


海兵隊の若き兵士たちも、圧倒的なアメリカの火力支援を前に勝利を確信し、LVTの中で陽気なジョークを飛ばし合っていた。 第2海兵連隊の歩兵、ウィリアム・テイラー二等兵は、隣に座るジェームズ・ロビンス上等兵と肩を小突いて笑った。

「なあジェームズ、ジャップどもは今頃、神様に祈りながら砂浜でペチャンコになってるぜ。俺たちが上陸する頃には、穴掘りしかやることが残ってないさ」


「ヨーロッパで味方が苦戦してる分、俺たちがこのちっぽけな島で派手な勝利のニュースを作ってやろうぜ!」


誰もが、この作戦は「簡単な掃討戦」で終わるのだと信じて疑わなかった。


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同日 午前8時 ベティオ島

地下十メートル・日本軍守備隊 地下要塞

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だが、アメリカ軍が「すべて粉砕した」と確信していた炎と硝煙の竜巻のさらに下、地底の暗闇の中で、彼らは不気味なほど無傷で息を潜めていた。


「……第3坑道、異常なし。第5機銃座、被害なし。天井の補強梁は、ビクともしていません」


絶え間ない艦砲射撃の地響きが頭上で鳴り響き、パラパラと土埃が落ちてくる薄暗い地下坑道。そこで防毒マスクを首から提げた工兵特務小隊の高橋たかはし 平蔵へいぞう伍長が、カンテラの灯りを頼りに壁面を叩きながら報告した。


数ヶ月前、江戸城の徳川家正宰相の厳命により、このタラワの守備隊には伊達家の「奥州鉱業」から最新型の「携帯用動力削岩機」が緊急配備されていた。

高橋伍長ら工兵たちは、スコップなど跳ね返してしまう硬いサンゴ礁の岩盤を、この強力な動力削岩機で地下十数メートルまで掘り抜いた。そして、太いヤシの丸太を何重にも組み上げ、コンクリートを流し込み、さらにその上から越前松平重工業から送られた戦車用の「極厚装甲鋼板」を天井に敷き詰めることで、島全体をアリの巣のような「巨大な地下要塞群」へと改造していたのである。


ズガァァァンッ!!


頭上で16インチ砲弾が炸裂し、地下室全体が大きく揺れたが、越前松平の鋼板とサンゴ礁の岩盤がその衝撃を完全に吸収した。


「アメリカ人は、相変わらず無駄弾を撃つのが好きだな。まるで花火大会だ」


第一機関銃小隊長の小林こばやし しげる曹長が、土埃を払いながら冷ややかに笑った。


「水際での迎撃は一切行わん。奴らがのこのこと砂浜に上がり、俺たちが設定したキルゾーン(射撃帯)の真ん中まで入り込むまで、一発たりとも撃つなよ」


日本軍は最初から「海岸線の水際での迎撃」を完全に放棄し、アメリカ軍をわざと上陸させたうえで、障害物のない平坦な砂浜を「死の十字砲火」の舞台として設定していたのである。


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同日 午前9時15分 タラワ環礁 ベティオ島 海岸線

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艦砲射撃の硝煙が海風に流され始めた頃、何百隻ものLVT(水陸両用装軌車)がサンゴ礁の浅瀬を乗り越え、白い波頭を蹴立ててベティオ島の砂浜(コードネーム:レッドビーチ)へと殺到した。


「前進だ! キャタピラを止めずに一気に砂浜まで乗り上げるぞ!」


LVT操縦手のマイケル・オドネル伍長が、エンジンの咆哮に負けじと声を張り上げる。キャタピラが浅瀬の砂を噛み、巨大な鉄の箱が次々と海岸へ乗り上げた。


だが、ハッチが開き、海水に濡れたブーツでテイラー二等兵やロビンス上等兵ら海兵隊員が島の砂浜へと足を踏み入れた瞬間。アメリカの若者たちが目にしたのは、ヤシの木の残骸でも、降伏を叫んで命乞いをする日本兵の姿でもなかった。


そこにあったのは、無傷のまま沈黙を保つ、不気味なほどの「静寂」であった。


「……おかしいぞ。敵の死体が一つもない。塹壕の跡すら……」


沖合の輸送船から双眼鏡を覗くシュウプ大佐が、前線から送られてくる無線の報告に眉をひそめた、まさにその時である。


「距離50。目標、正面の敵歩兵群。……撃てェッ!!」


地下トーチカの暗闇の中で、小林曹長が冷徹に軍刀を振り下ろした。


ダダダダダダダッ!! ズドォォォォンッ!!


何もないはずの更地の「地中」から、突如として猛烈な十字砲火が海兵隊の側面を薙ぎ払った。


「うおおおおッ!?」


砂浜に躍り出たテイラー二等兵のすぐ横で、ロビンス上等兵の体が真ん中から引き裂かれ、血しぶきを上げて吹き飛んだ。


「敵襲! 正面のヤシの木の残骸の下から機関銃! 左翼の砂の中から対戦車砲だ!」


「馬鹿な! あれだけの艦砲射撃を浴びせたんだぞ! どこに隠れていたんだ!」


米兵たちがパニックに陥り、身を隠そうと砂浜へ伏せたが、砲撃でヤシの木すら吹き飛ばされた砂浜には、身を隠す遮蔽物は一つも存在しなかった。


「引き付けろ! 敵が鉄条網に引っかかったところを、十字火網で徹底的にすり潰せ!」


小林曹長の号令のもと、銃座についた射手の鈴木すずき 辰夫たつお上等兵が引き金を引いた。井伊銃器製の三〇式重機関銃が特有の重低音を響かせ、逃げ惑うアメリカ兵の足を次々と刈り取っていく。


さらに、分厚い鋼板の奥から顔を出した独立速射砲中隊の山本やまもと 健二けんじ軍曹が、照準器の十字線にLVTの土手っ腹を捉えた。


「もらったぞ、アメ公。……撃て!」


水戸徳川造兵工機製の三九式四十七粍対戦車速射砲が火を噴き、砂浜を這い上がろうとする米軍のLVTの薄い装甲を次々とブチ抜く。


ドゴォォォンッ!


「ぎゃああああっ!!」


オドネル伍長が操縦していたLVTの車体を四十七粍の徹甲弾が容赦なく貫通。車内に積まれていた燃料と弾薬が誘爆し、中に乗っていた数十人の海兵隊員が、炎に包まれながら生きたまま吹き飛ばされた。


「前進しろ! 海岸に立ち止まればマトになるだけだ!」


沖合の輸送船からシュウプ大佐が無線で絶叫する。しかし、上陸した海兵隊員たちの前には、日本軍が巧妙に配置した幾重もの鉄条網と、そこへ向けて放たれる機関銃の弾幕が「見えない壁」となって立ちはだかっていた。


衛生兵メディック! 衛生兵ェェッ!」


「脚が……俺の脚が吹き飛んだ! 助けてくれ!」


生き残ったテイラー二等兵が、血の海でのたうち回る戦友の姿に絶望の悲鳴を上げる。

ベティオ島の美しい白い砂浜は、わずか数十分のうちに、おびただしい数のアメリカ海兵隊員の死体と、LVTの燃え上がる残骸で埋め尽くされ、エメラルドグリーンの海水は文字通り真っ赤な血の色に染め上げられた。

シュウプ大佐は、無線から聞こえてくる部下たちの断末魔の悲鳴に、葉巻を落として呆然と立ち尽くした。


「……神よ。これは上陸戦じゃない。ただの虐殺だ」


アメリカの誇る「圧倒的な物量と水陸両用作戦」が、日本の冷徹な「地下要塞・出血強要ドクトリン」の前に完全に無力化され、太平洋の島嶼戦が、純粋な命の削り合いという凄惨な泥沼のフェーズへと引きずり込まれた瞬間であった。


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1943年9月18日 午後3時 帝都・東京

江戸城本丸跡・幕府最高臨戦評議場

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ギルバート諸島タラワ環礁での凄惨な死闘の報告は、太平洋の海底ケーブルと黒田精機の暗号網を通じて、リアルタイムで江戸城の地下要塞へと届けられていた。


「……報告の通りです。タラワの守備隊約4500名は、地下要塞を完全に機能させ、米海兵隊に上陸からわずか数日で数千名に及ぶ天文学的な死傷者(出血)を強要しております。アメリカの従軍記者たちが打電した『血の海に浮かぶ海兵隊の死体の山』という現実は、すでにアメリカ国内の世論に凄まじいショックを与えているとのことです」


小栗忠純の冷徹な報告を聞き、幕府最高財務査定官・水野忠徳は、満足げに扇子を打ち鳴らした。


「タラワのような指先ほどの小島一つを奪うために、ルーズベルトはアメリカの世論が震え上がるほどの死者の山を築く羽目になった。高橋伍長や小林曹長のような、我が国の誇るべき下士官兵と『地下要塞化』のドクトリンは、完璧に機能しているというわけだ」


水野は、巨大な太平洋の海図を見上げた。


「アメリカの民主主義という脆弱なシステムが、この絶望的な命の浪費コストにいつまで耐えられるか見物だな。このまま数週間、タラワの守備隊には玉砕のその時まで、徹底的に米軍の血を啜ってもらおう」


「待て、水野殿」


評議場総裁たる徳川家正宰相の重く、そして氷のように冷たい声が、地下要塞の空気を一瞬で凍りつかせた。


「玉砕、だと?」


家正の眼鏡の奥の瞳が、水野を鋭く射抜く。


「あの島で命を削って米軍を出血させているのは、帝国の貴重な将兵だ。彼らは我が国の『時間』を稼ぎ、アメリカの慢心を打ち砕くという最大の任務を完璧に遂行している。……そのような忠勇なる兵を、この私がみすみす見殺しにするなどと、いつ言った?」


水野がハッとして息を呑む中、家正宰相はゆっくりと立ち上がり、海図の上に置かれた駒を指揮棒で力強く叩いた。


「米軍は今、タラワの攻略に躍起になるあまり、最新鋭の『エセックス級』空母群や戦艦群のすべてを、あの狭い環礁の周辺に集中させている。奴らは『日本の主力艦隊はハワイを睨んで動けない』と高を括り、完全に油断しきっているのだ。……これほど完璧な『釣り餌』が他にあるか?」


家正の唇が、狂気と冷徹さを孕んだ笑みの形に歪む。


「だが、あのエセックス級という空母群が、規格外の怪物であることもまた事実だ。分厚い防弾鋼板をまとった数千機の戦闘機と、VT信管による黒い弾幕。……いかに我が国の機動部隊が精鋭であろうと、あの大群と真正面から殴り合えば、相討ちによる致命的な出血は免れん。アメリカの望む消耗戦に付き合ってやる義理はない」


家正は、海図の西──インド洋・南太平洋方面に置かれていた二つの巨大な駒を、太平洋中央部へとスライドさせた。


「小沢治三郎の第二機動艦隊と、山口多聞の第三機動艦隊には、太平洋への転進を命じてある。彼らの任務は、タラワ周辺にひしめく米新鋭空母群を正面から叩き潰すことではない。熟練の機動運動とアウトレンジ戦術を駆使し、奴らをタラワ海域に『拘束・牽制』しろ。アメリカの主力をこの海域に完全に釘付けにし、一歩たりともハワイ方面へ戻らせないことだ」


その神業のような盤面の切り崩しに、評議場の将官たちが息を呑んだ。 米国の最強の盾をタラワで無力化(拘束)する。ならば、矛先が向かう先は──。


「米軍の主力がタラワで金縛りにあっているその隙に、我が方の真の矛を突き立てる」


家正は指揮棒を、太平洋のへそ、ハワイ・真珠湾へと力強く突き立てた。


「すでに新編されていた真田幸道中将の第五機動艦隊、および護衛を増強した立花宗紀中将の第四機動艦隊の全空母戦力をもって、ハワイへ向かわせよ。ハワイ沖で金縛りを続けている第一艦隊の『大和』型5隻も、タラワへ分遣する必要はない。大和型の全砲門と新鋭空母群の猛禽をすべて連動させ、手薄になった真珠湾の米太平洋艦隊とハワイの軍事施設を、完全に物理的解体(攻略)しろ」


さらに家正は、本土沿岸に待機していたもう一つの重厚な駒を動かした。


「同時に、内地で拠点防衛の任に就いていた細萱戊子郎中将の『第五艦隊』を出撃させる[69]。旧式戦艦『扶桑』『山城』『伊勢』『日向』の36センチ砲の圧倒的な面制圧力をもって、ハワイの西に浮かぶ『ミッドウェイ島』を完全攻略せよ。米本土からハワイへの増援ルートを遮断し、太平洋の中央に完璧な蓋を閉めるのだ」


江戸城の地下要塞に、帝国の恐るべき総攻撃とハワイ攻略の勅令が響き渡る。


「タラワの守備隊が流した血を、決して無駄にはせん。米軍の主力をタラワで空回りさせ、我々はその背後でミッドウェイを奪い、ハワイを焼き尽くす。……ルーズベルトに教えてやれ。太平洋の海は、我々が許さない限り、一歩たりとも進むことはできないということを」


タラワの珊瑚礁を巡る戦いは、単なる守備隊の玉砕戦から、米主力空母群を拘束し、その裏でハワイとミッドウェイを同時に奪取するという、太平洋の覇権を根底から覆す「超広域・戦略的挟撃戦」へと、その凄惨なスケールを飛躍的に拡大させようとしていたのである。

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