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第97章 神の火の消去

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1944年12月15日 午前8時15分(山岳部標準時)

アメリカ合衆国 ニューメキシコ州 ロスアラモス国立研究所

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アメリカ合衆国ユナイテッド・ステイツの中西部、赤茶けた不毛の砂漠地帯に隠匿されていた最高機密都市「ロスアラモス」。

数十億ドルという天文学的な国家予算キャピタルと、世界中からかき集められた最高峰の頭脳たちを注ぎ込み、人類が初めて「神の領域」へと足を踏み入れようとしていたその絶対安全圏は、わずか十数分の間に、文字通りの地獄の火葬場クレマトリウムへと変貌していた。


ズドガァァァァァァンッ!!!!


美濃国の織田家を総帥とする『岐州重工きしゅうじゅうこう』が持てる技術の粋を尽くして組み上げた、四三式艦上攻撃機『迅星じんせい』の大編隊。

肥後細川家の『細川ゴム工業』が精製した極大の落下増槽ドロップタンクによる極限の過積載オーバーウェイトで、太平洋とアメリカ大陸の防空網を這い抜けてきた彼らが、高度500メートルからの完全な垂直急降下によって投下した800キロ徹甲爆弾と巨大な榴弾の群れは、ロスアラモスの施設群を地形ごと物理的にすり潰していた。


「……終わった。我々のプロジェクト(計画)が、すべて……」


マンハッタン・プロジェクト(マンハッタン計画)の総責任者であるレスリー・R・グローヴス・メジャー・ジェネラル(少将)は、崩れ落ちた地下司令部オフィスの瓦礫の中から這い出し、燃え盛る砂漠を見渡して絶望の呻きを漏らした。


彼の隣では、天才物理学者であるJ・ロバート・オッペンハイマー・ドクター(博士)が、血の気が完全に失われた顔で、炎上するプラントの惨状をただ呆然と見つめていた。


急降下爆撃の直撃を受けた巨大なウラン濃縮施設は、分厚いコンクリートの天蓋をティッシュペーパーのように貫通され、内部に設置されていた何千台もの精密な遠心分離機が、火柱とともに土砂もろとも跡形もなく吹き飛ばされていた。ワシントン州ハンフォードから運び込まれたばかりのプルトニウム製造プラントの心臓部も、備前の『池田化学』が精製した新型高爆速火薬を詰めた日本軍の徹甲弾によって完全に粉砕され、有害な黒煙をもうもうと吐き出している。


「将軍! 変電施設と水冷プラントも、ジャップ(日本軍)の戦闘機による大口径機関砲の機銃掃射で完全に沈黙しました! 巨大なサイクロトロン(円形加速器)も木っ端微塵です! 再稼働には年単位の時間がかかります!」


顔を煤で真っ黒にした工兵将校が、悲鳴を上げながら駆け寄ってきた。


合衆国が世界を恐怖で支配するために産み出そうとしていたニュークリア・ボム(核分裂爆弾)。それは、完成まであとわずか数ヶ月というところで、地球の裏側にいる東洋の冷徹な怪物たちが放った長距離奇襲爆撃によって、その製造基盤インフラストラクチャーを根底から、そして物理的に完全に消去イレースされたのである。


「……全機、投弾完了。目標の完全な物理破壊を確認した。これより、我々は太平洋で待つ母艦(飛鷲)へと帰還する!」


ロスアラモスの黒煙の柱を上空から見下ろしながら、第一攻撃隊長、せき まもる少佐は、防喉送話器マイク越しに、血を吐くような声で帰投の号令を飛ばした。


だが、彼らの戦いはこれで終わりではなかった。行きは完璧な奇襲と地形追従飛行ナプ・オブ・ジ・アースによってアメリカの防空レーダー網を欺瞞ディセプションできたが、帰路は完全に「目覚めて狂乱したアメリカ本土の防空網」の中を強行突破しなければならないのである。


すでに、カリフォルニア方面の陸軍航空基地からは、ロッキード社製『P-38J ライトニング』や、ノースアメリカン社製『P-51D マスタング』の大編隊が、迎撃のために怒濤の勢いで飛び立っていた。


「隊長! 後方より敵機多数! 追いつかれます!」


「絞りスロットル全開だ! 2500馬力エンジンが焼け焦げても構わん、太平洋へ向けて一直線に逃げ切れ!」


『迅星』の編隊は、落下増槽と爆弾を投棄して身軽になっていたとはいえ、最高速度で迫り来るアメリカの新鋭戦闘機群から完全に無傷で逃げ切ることは不可能であった。アリゾナの砂漠の上空で、P-51Dマスタングのブローニング12.7ミリ重機関銃が猛烈な火線を吹き、帰還を急ぐ日本の銀翼を次々と火だるまに変えていく。


「天皇陛下、万歳ッ!」


被弾した『迅星』の若きパイロットが、機内通信に最期の叫びを残し、黒煙を引きながらアメリカの荒野へと墜落していく。

アメリカの心臓部を物理的に粉砕し、「神の火」を消去するという人類史的な大戦果の代償として、日本の攻撃隊もまた、帰路において何十機もの未帰還機を出すという、凄惨かつ多大な犠牲コストを払うこととなったのである。


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1944年12月15日 午後1時00分(東部標準時)

アメリカ合衆国 ワシントンD.C. ホワイトハウス

大統領執務室オーバル・オフィス

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ニューメキシコ州からの絶望的な第一報は、専用の極秘暗号回線を通じて、ただちにワシントンD.C.のホワイトハウスへと届けられた。


「……以上が、ロスアラモスからの被害報告です。ジャップの艦載機による予期せぬダイブ・ボミング(急降下爆撃)により、ウラン濃縮施設およびプルトニウム製造プラントは完全にデストロイ(粉砕)されました。マンハッタン・プロジェクトは、事実上数年単位での後退、あるいは完全な頓挫を余儀なくされました」


合衆国陸軍参謀総長、ジョージ・C・マーシャル大将は、手にした報告書を震える手で机の上に置き、血の気を失った顔で報告を終えた。


オーバル・オフィス(大統領執務室)は、まるで巨大な氷塊に閉じ込められたかのような、重苦しく、そして恐ろしい静寂に支配されていた。


車椅子に深く身を沈めていた第32代アメリカ合衆国プレジデント(大統領)、フランクリン・デラノ・ルーズベルトの顔は、怒りとも絶望ともつかない、尋常ではない赤黒い色に染まっていた。


「……私のホームランド(本土)が。それも、太平洋から何百マイルも離れた内陸の砂漠地帯が、直接空襲されただと?」


ルーズベルトの低く唸るような声が、執務室の空気をびりびりと震わせた。

1812年の米英戦争以来、アメリカ合衆国の本土が外国の軍隊によって直接攻撃されたことは一度もなかった。太平洋の島々を奪われたこととは次元が違う。アメリカ本土ホームランドの絶対的な安全神話が、東洋の怪物によって土足で踏み躙られたのだ。


さらに、ルーズベルトを真の狂乱へと追いやったのは、彼が日本の「絶対防衛圏」を外側から一気に焼き尽くすために用意していた、アルティメット・カード(最強の切り札)たる『神の火』が、産声を上げる前に握り潰されたという事実であった。


「我々のアブソリュート・シークレット(最高機密)の座標が、なぜ奴らに漏れていた! なぜ、ジャップの航空機が西海岸のレーダー・ネットワーク(防空網)を素通りできたのだ!」


ルーズベルトは、机の上のインク壺を力任せに壁へ叩きつけた。黒いインクが壁に生々しい染みを作る。


合衆国海軍作戦部長のアーネスト・J・キング大将が、冷や汗を拭いながら前に出た。


「情報局の解析によれば、カリフォルニア湾へ侵入したジャップのタスク・フォース(任務部隊)は、タラワ沖で我々から鹵獲した『エセックス級空母』などの船影シルエットと、我々のIFF(敵味方識別装置)の暗号コードを完全にハッキングして使用していました。……しかし、それだけではありません」


キングは、唇を噛み締めながら最大の失態を告白した。


「彼らは我々の星条旗を掲げるような国際法違反ディセプションは犯していませんでした。彼らのマストには、最初から『日章旗』がはためいていたのです。しかし、西海岸のレーダー員たちは、送られてくる味方のIFFとアメリカ製空母のシルエットを盲信し、夜闇と距離によって国旗の目視確認を怠りました。何より……」


「何より、何だ!」


「タラワでエセックス級などの空母8隻が無傷で鹵獲されたという事実に対し、大統領と私が軍内部にまで最高レベルの『箝口令かんこうれい』を敷いていたことが仇となりました。前線のレーダー員たちは、『自国の空母がジャップに奪われている』という前提を知らなかったため、あの巨大な艦影を100パーセント友軍だと誤認してしまったのです」


自らの敗北を隠蔽するための情報統制が、アメリカの分厚い防空網に致命的な盲点を生み出し、本土強襲を許したという皮肉すぎる現実。


「言い訳は聞かん!!」


ルーズベルトの怒号が、キングの言葉を遮った。大統領の双眸には、もはや冷徹な政治家の理性はなく、剥き出しの憎悪と殺意だけが燃え盛っていた。


「奴らは我が合衆国の顔に泥を塗り、未来の牙を抜き去ったのだ。……西海岸に展開するパシフィック・フリート(太平洋艦隊)の全艦艇、およびカリフォルニアに展開する全エア・フォース(航空部隊)にただちに命令を下せ! カリフォルニア湾から太平洋へ逃げ帰ろうとしているジャップの『キメラ艦隊』を、絶対に逃がすな! 海が血で染まるまで爆弾を落とし続け、奴らを一隻残らず海の底へ沈めろ! アナイアレイション(完全撃滅)だ!!」


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1944年12月15日 午後4時00分(太平洋標準時)

ガルフ・オブ・カリフォルニア(カリフォルニア湾) 出口付近

新編・第六機動艦隊 旗艦 鷲型正規空母『飛鷲ひわし

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アメリカ大陸の心臓部へ強烈な一撃を叩き込み、多数の未帰還機を出しながらも生き残った『迅星』の攻撃隊を収容した豊栄大日本帝国・第六機動艦隊。

角田かくた 覚治かくじ中将が率いる8隻のわし型正規空母(旧エセックス級および旧インディペンデンス級)と直衛艦艇群は、出撃時から掲げ続けた真紅の日章旗を砲煙で黒く染めながら、カリフォルニア湾から広大な太平洋へ向けて全速力で脱出を図っていた。


「……機関出力、最大! 速力33ノットを維持! 鍋島家(佐賀精密機械)のタービンは悲鳴を上げていますが、持ちこたえています!」


旗艦『飛鷲ひわし』(旧エセックス)の羅針艦橋で、航海長が汗だくになりながら報告する。


「アメリカの防空網は完全に蜂の巣を突いた騒ぎになっているはずだ。西海岸の全戦力が我々を殺しにくるぞ。……対空電探レーダー、敵機の反応はどうだ」


角田中将が、窓の外の暮れゆく空を睨みながら尋ねる。

アメリカの船体シルエットを被ったぬえ艦隊とはいえ、すでに正体は完全に露呈し、周囲は敵の絶対的な制海・制空権の内側である。


「来ます! 北西方向、カリフォルニアの陸上基地より、敵の大編隊! 爆撃機、戦闘機入り混じって、その数……優に600機を超えています! さらに、サンディエゴ方面の軍港から、敵の水上打撃艦隊が猛スピードで我々の退路を塞ごうと出撃してきました!」


通信参謀の絶望的な報告に、角田の顔に死狂いの武人としての獰猛な笑みが浮かんだ。


「上等だ。ルーズベルトの怒り狂った津波をまともに食らえば一溜まりもないが、我々にはこの鵺艦隊に積まれた『次世代の翼』がある。……甲板に待機している『焔風えんぷう』、全機発艦! アメリカの鈍重な爆撃機どもを、音速の炎で叩き落とせ!」


シュゴォォォォンッ!!


『飛鷲』の極厚装甲甲板から、佐賀の超高圧油圧射出機カタパルトによって次々と空へ蹴り出されたのは、岐州重工(織田家)が極秘裏に開発を完了し、この作戦のために実戦投入された次世代の怪物──四三式艦上噴進戦闘機『焔風』であった。


プロペラを完全に捨て去り、主翼の付け根に双発のターボジェットエンジンを搭載した『焔風』は、「キィィィィィンッ!」という金属的な甲高いジェット音をカリフォルニアの空に轟かせ、瞬く間に時速850キロメートル超という未知の速度領域へと加速していく。


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同日 午後4時30分

カリフォルニア湾上空 迎撃空域

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「目標、ジャップの鵺空母群! あの盗人どもを、太平洋の藻屑にしてやれ!」


合衆国海軍・第15爆撃飛行隊の編隊長は、カーチス社製『SB2C ヘルダイバー』の操縦桿を握り、復讐の闘志を燃やしてカリフォルニア湾へと殺到していた。周囲には、護衛の『F6F ヘルキャット』が分厚い壁を作っている。


だが、彼らの前に立ちはだかったのは、レシプロ機の常識を完全に凌駕する「次元の違う速度」であった。


「……な、なんだあの機体は! プロペラがないぞ! 早すぎる!」


アメリカ軍のパイロットたちが驚愕する間もなく、ジェットエンジンを全開にした『焔風』の編隊が、時速850キロの猛烈な速度でF6Fの護衛網をあっさりとすり抜け、爆撃機の編隊のど真ん中へと飛び込んできた。


ダダダダダダッ!!


『焔風』の機首に集中配置された30ミリ大口径機関砲が火を噴く。時速で150キロ以上も差があるジェット戦闘機の前では、ヘルダイバーもヘルキャットも、まるで空中に静止している標的ターゲットのように無力であった。和泉堺の工廠が削り出した徹甲焼夷弾が、アメリカ軍機の分厚い装甲板をティッシュペーパーのように叩き割る。


巨大な火柱を上げて、アメリカの爆撃機が次々とカリフォルニアの海へと叩き落とされていく。


しかし、アメリカ軍が本土から投射した質量の波は、ジェット戦闘機数機で防ぎ切れるほど甘いものではなかった。ルーズベルトの「完全撃滅」の厳命を受けたアメリカ軍は、被害を度外視して第六機動艦隊へ猛烈な波状飽和攻撃を仕掛けてきたのである。


防空網エアカバーを抜かれました! 敵の雷撃隊が海面スレスレから突入してきます!」


『飛鷲』の羅針艦橋で、見張員が絶叫する。

『焔風』が上空で奮戦している隙を突き、数百機のTBFアベンジャー雷撃機とドーントレス急降下爆撃機が、第六機動艦隊の輪形陣へと殺到した。


「全艦、対空戦闘! 弾幕を張れ! 回避運動!」


アメリカ海軍の『エセックス級』の船体に、日本の水戸徳川造兵工機製『長10センチ連装高角砲』をハリネズミのように増設した鷲型空母群は、猛烈な対空砲火を打ち上げる。


ズドガァァァァァァンッ!!!!


だが、圧倒的な数の網をすり抜けたアメリカ軍の1000ポンド爆弾と航空魚雷が、まず輪形陣の後方を航行していた7番艦『黒鷲くろわし』(元インディペンデンス級軽空母プリンストン)と、8番艦『神鷲しんわし』(元ベロー・ウッド)に立て続けに直撃した。


巡洋艦の船体を流用して急造されたアメリカの軽空母は、エセックス級のような巨大な船体容積とダメージコントロール(損害復旧)機能を持っておらず、越前松平の極厚装甲鋼板を張る日本側の魔改造にも、物理的な浮力の限界があった。


爆弾は薄い甲板を容易く貫通し、航空ガソリンと弾薬が満載された格納庫の奥深くで致命的な大爆発を引き起こした。


「『黒鷲』および『神鷲』被弾! 飛行甲板大火災! ……ダメです、軽空母の船体が持ちません! 誘爆が止まらない!」


通信兵の悲鳴が響く中、『黒鷲』と『神鷲』の2隻は腹の底から引き裂かれるような凄まじい大音響とともに真っ二つに折れ、数百名の乗員とともにカリフォルニア湾の冷たい海へとあっけなく沈んでいった。日本側が運用していた元軽空母群は、アメリカの物量の前に完全に全滅したのである。


「軽空母2隻沈没! さらに敵雷撃隊、3番艦『蒼鷲そうわし』へ向かいます!」


アメリカ軍の執念は、それだけでは終わらなかった。元エセックス級であり、強固な魔改造を施されていた『蒼鷲』(元バンカー・ヒル)に対し、復讐に燃える何十機ものアベンジャー雷撃機が、十字砲火クロスファイアの雷撃陣形を組んで襲いかかったのである。


「面舵一杯! 魚雷をかわせ!」


『蒼鷲』艦長が絶叫して巨大な船体を旋回させるが、全方位から放たれた航空魚雷の網の目をすべて避けることは不可能であった。


ドゴォォォォンッ!! ズドォォォンッ!!


『蒼鷲』の右舷水線下に2本、左舷機関部付近に1本の魚雷が立て続けに命中。越前松平の装甲と、アメリカ由来の強靭なダメージコントロール機能をもってしても、この短時間での致命的な集中攻撃オーバーキルを耐え抜くことはできなかった。


「機関室、完全水没! 電源喪失! 飛行甲板の火災、弾薬庫へ延焼します!」


『蒼鷲』は巨大な炎の塊となり、ついにその足を完全に止めた。


「構わん! 燃え盛る船は囮にしてでも、残る5隻は太平洋の闇の中へ逃げ切るのだ!」


角田中将は、爆風で割れたガラスの破片を顔に浴びながら、血まみれになって怒号を飛ばした。

日本軍は、『蒼鷲』の乗員に総員退艦を命じるとともに、残された5隻の鷲型正規空母の機関を限界まで回し続け、アメリカの防空圏外へと死に物狂いの撤退戦を繰り広げた。


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1944年12月16日 午前2時00分

太平洋東部 沖合

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夜の闇と、熱帯低気圧がもたらした猛烈なスコールが、傷ついた第六機動艦隊の残存艦艇を隠すように覆い隠していた。


アメリカ軍の怒り狂った猛烈な波状攻撃を、『焔風』の防空網と残された極厚装甲で血を吐くように耐え抜いた彼らは、ついにカリフォルニアの防空圏を完全に離脱することに成功した。


「……敵のレーダー反応、完全にロスト(消失)。追撃は振り切りました」


旗艦『飛鷲』の艦橋で、参謀が安堵と極度の疲労でその場に崩れ落ちた。


艦隊の被害は甚大であった。軽空母として運用されていた『神鷲』と『黒鷲』が全滅し、正規空母の『蒼鷲』もアメリカ沿岸の海の底へと沈んだ。出撃した『迅星』のパイロットの多くも、アメリカ大陸に「天皇陛下万歳」の叫びとともに命を散らし、二度と帰還することはなかった。


だが、角田覚治中将は、砲煙で黒く染まった自艦の甲板を見下ろしながら、その口元に勝利の獰猛な笑みを浮かべていた。


「ルーズベルトの心臓を物理的に抉り取り、アメリカが数年がかりで用意していた『神の火』の計画を完全に頓挫させた。……空母3隻とパイロットたちの犠牲は決して安くはないが、国家が蒸発する未来を消し去ったのだ。完全なる大勝利だ」


角田は、軍刀を杖代わりにして立ち上がり、西の海原──帰るべき帝国の絶対防衛圏の方角を睨み据えた。


「我々は逃げ切った。アメリカの『大量生産』と『核の火』という二つの絶望のうち、最も恐るべき片方を完全にへし折ったのだ」


世界総力戦の天秤は、ロスアラモスの灰燼と第六機動艦隊の凄惨な撤退戦を経て、アメリカから最強の切り札を奪い去るという、帝国の冷徹な大金星によって大きく傾いた。


しかし、自らの本土を直接叩かれ、最強のカードを失い、海空の意地を削り合ったアメリカ合衆国の狂気と怒りは、この太平洋の海を、二度と引き返すことのできない「絶対殲滅戦」へと完全に引きずり込んでいくことになるのである。

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