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第96章 迦具土(かぐつち)の化身

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1944年12月15日 午前4時30分(太平洋標準時)

アメリカ合衆国 カリフォルニア州 サンディエゴ海軍基地 第11防空警戒・電波探知センター(レーダー・サイト)

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アメリカ合衆国ユナイテッド・ステイツ西海岸ウェスト・コーストの最南端に位置し、太平洋艦隊パシフィック・フリートの巨大な母港の一つとして、無数の造船所と海軍施設を擁するサンディエゴ。 そこは、太平洋の彼方で血みどろの死闘が繰り広げられている世界総力戦の喧騒からは完全に隔絶された、絶対的な安全と平和が保証された「合衆国本土ホームランド」の象徴であった。


その郊外、冷たい海風が吹き付ける小高い丘陵地帯に設置された第11防空警戒・電波探知センターでは、深夜の退屈極まりない監視業務に就くオペレーターたちが、淹れたてのコーヒーの香りを漂わせながら気怠いあくびを噛み殺していた。


「……セクター(区画)7、海上に巨大なブリップ(光点)群を捕捉しました。距離120マイル。メキシコ領のバハ・カリフォルニア半島を南へ迂回し、ガルフ・オブ・カリフォルニア(カリフォルニア湾)の深部へと入り込もうとしている艦隊フリートです」


ウェスティングハウス社製の最新型『SCR-270 防空レーダー』の、緑色に発光する巨大な円形オシロスコープを睨んでいたレーダー兵が、甘いドーナツを齧りながら無機質に報告した。


「カリフォルニア湾だと? あんなメキシコの裏庭みたいな、軍事価値の何もない内海に、どの部隊が入り込んでいるんだ」


当直将校のロバート・M・ミラー大尉が、怪訝な顔で海図テーブルを覗き込んだ。


「レーダーの反射断面積(RCS)と航跡データから分析します。……巨大な四角い船影シルエットが8隻。この電波の跳ね返り方は間違いありません。カイザー造船所等で建造された、我らが合衆国海軍の新鋭大型空母『エセックス級』のタスク・フォース(任務部隊)です。さらに周囲を護衛する無数の駆逐艦の反応も、フレッチャー級の船体磁気シグネチャと完全に一致します」


「なるほど、エセックス級の巨大な群れか」


ミラー大尉は、納得したように肩をすくめた。


現在、アメリカ西海岸の巨大ドック群からは、フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領が発動した『ヌードセン・プラン(国家総力戦体制)』によって、狂気的なペースでエセックス級空母が海へと吐き出されている。新兵の慣熟訓練を終えたばかりの新編艦隊が、演習を兼ねて波の穏やかなカリフォルニア湾で機動訓練マニューバ・ドリルを行っていることは、彼らにとって決して珍しい光景ではなかった。


「一応、アイデンティフィケーション・コード(識別信号)を確認しろ」


「イエス、サー。……該当のタスク・フォースから、暗号化されたIFF(敵味方識別装置)の定時発信を傍受。コード照合、完全にクリア(一致)です。第3艦隊所属の補充・演習部隊で間違いありません」


「了解した。パシフィック・コマンド(太平洋軍司令部)へ、予定通りの訓練航行として報告を上げておけ」


ミラー大尉は、熱いコーヒーを啜りながら小さく息を吐いた。

ここで、アメリカの防空網に生じた「致命的な盲点ブラインド・スポット」には、二つの巨大な要因が存在していた。


一つは、日本の『電脳』による完璧な電子偽装である。美濃国みののくにの『竹中数理演算所』が極限の論理アルゴリズムで構築した電磁自動算盤コンピュータは、アメリカ海軍のIFF暗号生成パターンを完全に解析・逆算し、敵の防空網に対して「我々は友軍のエセックス級空母である」という完璧な虚偽フェイクの電磁波を送り続けていたのだ。


そしてもう一つの要因──それこそが、ルーズベルト大統領と海軍作戦部長アーネスト・J・キング大将が、自らの国民と前線の兵士たちに対して敷いていた「情報統制の罠」であった。


タラワの海で、アメリカ第5艦隊のエセックス級空母群8隻が無傷のまま白旗を掲げ、日本軍に丸ごと鹵獲されたという悪夢のような事実。ホワイトハウスはこの建国以来最大の歴史的敗北が世論に知れ渡ることを極度に恐れ、軍内部においてすら最高レベルの『箝口令かんこうれい』を敷いていたのである。


前線のレーダーサイトに勤務するミラー大尉らが、「自国の空母が日本軍に奪われ、その船がいま自分たちの沿岸を航行している」などという荒唐無稽な事態を想像できるはずがなかった。「エセックス級のシルエットと味方のIFF」を受信した以上、それは100パーセント味方の艦隊であると信じて疑わなかったのである。


敵の姿を完全に自軍の艦隊と誤認したアメリカ西海岸の防空網は、カリフォルニア湾の奥深くへと入り込んでいくその巨大な艦列を、一切の警戒警報アラートを鳴らすことなく、ただ静かに見逃した。


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同日 午前5時00分 ガルフ・オブ・カリフォルニア(カリフォルニア湾) 北部海域

第六機動艦隊 旗艦 鷲型正規空母『飛鷲ひわし

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アメリカ合衆国の防空網を電磁的に欺瞞ディセプションし、カリフォルニア半島の完全な死角たるカリフォルニア湾の最深部へと見事に潜り込んだ、八隻の巨大な異形。 豊栄大日本帝国・新編第六機動艦隊であった。


エセックス級の船体シルエットと、竹中数理演算所のハッキングによるIFF(敵味方識別装置)の電子的欺瞞を用いて、アメリカの裏庭へと侵入していたのである。夜の暗闇と陸地からの距離が、その旗の色をアメリカ軍の目視から完璧に隠し通していた。


「……長官。サンディエゴの敵電波探知機レーダーサイトからの探信波、我々を『友軍』と誤認したまま、追跡トラッキングを完全に解除しました。我々のアメリカ本土沿岸への隠密潜入は、完全に成功しました」


旗艦『飛鷲ひわし』の羅針艦橋で、通信参謀が押し殺した歓喜の声を上げた。

第六機動艦隊司令長官、角田かくた 覚治かくじ中将は、薄暗い艦橋の窓から、アメリカ大陸の赤茶けた大地がすぐ目前まで迫る東の地平線を冷徹に睨み据えた。


「ルーズベルトめ、自らが使い捨ての消耗品として粗製濫造したエセックス級の『同一のシルエット』が、まさか自らの最も柔らかい腹を刺すための最強の偽装衣カモフラージュになるとは夢にも思っていまい。……これより、作戦の最終フェーズ、『迦具土かぐつち作戦』の火蓋を切る」


火の神を斬り殺し、その血から新たな刃を生み出した神話の如く、アメリカが産み落とそうとしている「神の火(原爆)」を、産まれる前に地形ごと完全に蒸発させる、人類史上空前の本土直接奇襲作戦。


角田中将は、軍刀の柄を限界まで強く握りしめ、飛行長へ向けて凄まじい気迫で号令を下した。


「全艦、無線封止継続! 甲板の猛禽どもを、アメリカ大陸の内陸深くへ放て! 一機たりとも海に落とすなよ!」


「ハッ!」


『飛鷲』の広大な装甲飛行甲板では、すでに暗闇と海風の中で、限界ギリギリの狂気的な発艦準備が整えられていた。


甲板上に整列しているのは、美濃国の織田家を総帥とする『岐州重工きしゅうじゅうこう』が持てる航空力学のすべてを注ぎ込んだ、2500馬力級の超大出力発動機を搭載する四三式艦上攻撃機『迅星じんせい』の大編隊である。


だが、その姿は通常の出撃時とは全く異なり、見る者すべてに重圧を感じさせる異様なほど鈍重なシルエットと化していた。


「……重い。機体がまるで泥を詰めたドラム缶のように重いぞ!」


『迅星』の操縦桿を握る第一攻撃隊長、せき まもる少佐は、全身の筋肉を硬直させながら防喉送話器マイクで呻いた。

彼の機体の強靭な主翼下に備えられた懸架装置パイロンには、通常の爆弾や魚雷ではなく、肥後細川家の『細川ゴム工業』が精製した特殊な超大型の『落下増槽ドロップタンク』が、限界まで100オクタン航空ガソリンを満たした状態で左右にぶら下がっていた。

そして、胴体下部の爆弾倉ウェポンベイにのみ、ニューメキシコ州の核施設を吹き飛ばすための巨大な一発の特製爆弾が収められている。


アメリカ西海岸のカリフォルニア湾から、内陸部のニューメキシコ州ロスアラモスまで、往復で数千キロに及ぶ前代未聞の長距離奇襲爆撃。それを物理的に可能にするため、『迅星』は航空機の設計限界ペイロードを完全に超越した「極限の過積載オーバーウェイト」状態にあった。

この重量と空気抵抗ドラッグでは、通常の日本の空母の滑走距離では絶対に浮力を得られず、海へ墜落して終わる。


しかし、ここにはアメリカ人が造り上げたエセックス級の「広大すぎる飛行甲板」と、それを日本の極限規格で改造し、強引にねじ込まれた肥前鍋島家の『佐賀精密機械』製『超高圧油圧射出機カタパルト』があった。


「第一小隊、射出シュートッ!」


甲板指揮官の白旗が、闇を切り裂くように激しく振り下ろされる。


シュゴォォォォンッ!!


佐賀の超高圧カタパルトが、鼓膜を物理的に粉砕するような凄まじい圧搾音とともに爆発的なエネルギーを解き放った。

絶望的に重い『迅星』の機体が、カタパルトのシャトルによって強引に前へ蹴り飛ばされる。関少佐は、2500馬力級エンジンの絞りスロットルを力でへし折らんばかりに限界まで押し込み、巨大なプロペラで重い空気を掻きむしった。


「上がれェェェッ!」


『飛鷲』の甲板の先端から飛び出した『迅星』は、その絶望的な重量によって一度海面スレスレまでズシリと沈み込み、車輪が白波を巻き上げた。だが、暴力的な大馬力エンジンの推力によって喘ぐように機首を持ち上げ、強引にハワイの──いや、アメリカ合衆国本土の空へと這い上がっていった。


「……見事だ。このアメリカの巨大な船体容積と、日本の高圧カタパルトの融合キメラでなければ、この迦具土作戦の過積載長距離特攻は絶対に不可能だった」


角田中将は、次々と薄明かりの空へ吸い込まれていく『迅星』と、それを護衛するために飛び立つ四二式艦上戦闘機『天風』の巨大な編隊を双眼鏡で見上げながら、獰猛な笑みを浮かべた。


「行け、帝国の猛禽どもよ。ルーズベルトがニューメキシコの砂漠で育てている『神の火』の揺り籠を、産まれる前に地形ごと完全に蒸発させてこい」


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同日 午前6時15分

アメリカ合衆国 アリゾナ州南部 砂漠地帯上空

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カリフォルニア湾からアメリカ大陸の上空へと侵入した日本の攻撃隊・計120機に及ぶ大編隊は、夜明けの太陽を正面に受けながら、眼下に広がる果てしない赤茶けた砂漠と渓谷地帯を東へと突き進んでいた。


「……全機、絶対に高度を上げるな! 岩山に腹を擦るまで機体を沈めろ! アメリカの防空レーダー網の死角ブラインド・スポットを這い進むんだ!」


編隊長の関少佐が、血を吐くような緊張感の中で怒号を飛ばす。


彼らの飛行高度は、なんと海抜わずか数十メートル。

グランドキャニオンに連なる険しいロッキー山脈の南端の岩肌と、アリゾナの広大な砂漠の起伏にピタリと沿うように飛ぶ、狂気的な『地形追従飛行ナプ・オブ・ジ・アース』であった。


アメリカ西海岸から内陸部にかけては、強固な防空レーダー網が張り巡らされている。しかし、初期のレーダー電波は直進性が強く、地面スレスレを飛ぶ機体は、山や地平線の反射波グラウンド・クラッターに紛れてしまい、捕捉することが極めて困難になる。

日本のパイロットたちは、ただでさえ重い落下増槽ドロップタンクをぶら下げて操縦桿が岩のように重い『迅星』を、極限の職人技と反射神経で操り、岩山に激突する数メートル手前で機体を捻って死の峡谷をすり抜けていく。


「隊長! 発動機エンジンの油温が限界に近づいています! この超低空での全力飛行は、機体への負担が大きすぎます!」


列機を飛ばす若きパイロットが、防喉送話器マイク越しに悲鳴を上げた。砂漠地帯の朝とはいえ、地表スレスレの乱気流と熱波は、岐州重工製の精密なエンジンに過酷な負荷を強要していた。エンジンカウルの隙間から、黒い煙が微かに漏れ始めている。


「泣き言を言うな! 徳川の宰相閣下から下された絶対の勅命だ! ここで我々がアメリカの『神の火(原爆)』を消去しなければ、数年後にはB-29がそれを抱えて帝都・東京へ飛来し、我々の家族も、帝国の未来も、すべてが一瞬で灰燼に帰すのだぞ! ……エンジンが焼き付こうが、歯を食いしばって飛び続けろ!」


関少佐の怒号が機内通信に響く中、日本の銀翼たちは、サボテンと岩山しかないアメリカの広大な荒野を、音速に近い大馬力エンジンの凄まじい咆哮で震わせながら、東へ、東へと一直線に地を這うように突き進んでいった。


彼らは、太平洋の彼方で血を流している無数の同胞たちの命運をその翼に背負い、アメリカの心臓部へ向けられた「見えない冷徹な刃」そのものとなっていたのである。


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同日 午前8時00分(山岳部標準時)

アメリカ合衆国 ニューメキシコ州 ロスアラモス国立研究所

マンハッタン工兵管区司令部

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カリフォルニアの美しい海岸線から遠く離れた、ニューメキシコ州の荒涼たる赤茶けた砂漠地帯にポツンと設置された秘密都市、ロスアラモス。

地図にも存在しないこの場所は、何重もの有刺鉄線バーブド・ワイヤーと、完全武装したミリタリー・ポリス(憲兵隊)によって外界から厳重に遮絶され、アメリカが誇る天才頭脳たちによる『マンハッタン計画』の最終段階が、極めて平穏な日常の中で進行していた。


「……プルトニウムの爆縮インプロージョンレンズの起爆テストは、来月には砂漠の実験場で行える予定です。巨大なサイクロトロン(円形加速器)の稼働も順調であり、大統領の期待通り、すべては完璧なスケジュールで動いています」


窓のない地下司令部オフィスで、マンハッタン・プロジェクトの総責任者であるレスリー・R・グローヴス少将が、極上のハバナ産葉巻の煙を吐き出しながら、天才物理学者J・ロバート・オッペンハイマー博士からの報告書に満足げに目を通していた。


「結構なことだ。太平洋のジャップはハワイやタラワでしぶとく足掻き、我が軍に出血を強要しているようだが……我々がこの『ニュークリア・ウェポン(核爆弾)』を完成させた瞬間、奴らの構築した地下要塞も大和型戦艦の群れも、一発の閃光で地図から完全にイーヴァポレイト(蒸発)するのだからな」


グローヴス少将は、分厚い金庫のダイヤルを回しながら傲慢に笑った。

アメリカ大陸のど真ん中。敵の戦艦も爆撃機も、絶対に届くはずのない絶対安全圏。彼らの心には、微塵の恐怖も警戒心も存在しなかった。西海岸の分厚い防空網を抜け、何千キロもの内陸部へジャップの航空機が飛来するなど、物理的・常識的に「あり得ない」と確信しきっていたのである。


だが、その静寂に満ちた砂漠の朝を、突如として空気を物理的に切り裂くような「異常な大音響」がぶち破った。


ギュィィィィィィィンッ!!!!


「な、なんだ!? 飛行機の音か!?」


グローヴス少将が淹れたてのコーヒーカップを落とし、オッペンハイマー博士が神経質な顔を上げたその瞬間。ロスアラモスの研究所全体に、耳を聾するような防空警報エア・レイド・サイレンが狂ったように鳴り響き始めた。


「将軍! レーダーに異常な反応! 西の砂漠の地表スレスレを飛び越えてきた、正体不明の巨大な大編隊です! 防空網を完全にすり抜けられました!」


通信兵が、ドアを蹴破るようにして司令室へ飛び込んできた。


「馬鹿な! アメリカのど真ん中だぞ! 西海岸の防空軍は何をしていた!」


グローヴス少将が司令部の外へ転がり出た時、彼が目にしたのは、朝陽を背にしてニューメキシコの赤い砂漠から突然湧き上がってきた、無数の「日の丸」を掲げた銀翼の群れであった。


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同日 午前8時05分

ロスアラモス国立研究所 上空

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「目標視認! 地図にない巨大な工場群と研究施設! 間違いない、電脳が弾き出した座標と完全に一致する! ここがアメリカの『神の火』の揺り籠だ!」


関少佐は、操縦席の中で血の滲むような歓喜の叫びを上げた。

太平洋を渡り、カリフォルニア湾から侵入し、岩山を縫う数時間の過酷な超低空飛行の果てに、彼らはついにアメリカの最高機密の心臓部を、完全に丸裸の状態で捉えたのである。


「全機、落下増槽ドロップタンク投棄パージ! 身軽になれ! 機首を上げて、急降下爆撃の体勢に入れ!」


関少佐の号令とともに、120機の『迅星』の主翼下から、空になった巨大な細川ゴム工業製の増槽が一斉に切り離され、砂漠へと落下していく。

極限の過積載から解放された2500馬力の怪鳥たちは、水を得た魚のように一気に高度数千メートルへと急上昇し、ロスアラモスの青い空を完全に支配した。


「対空砲火、全くありません! 敵は完全に奇襲を受けてパニック状態です!」


「ならば容赦は要らん。ウランの精製プラントも、研究棟も、一つ残らず地形ごと物理的に粉砕しろ! 全機、突入ダイブ!」


『迅星』の大編隊が、サイレンのような風切り音を轟かせながら、完全な垂直降下でロスアラモスの施設群へと殺到した。


ヒュルルルルルッ……!!

ズドガァァァァァァンッ!!!!


高度500メートルから投下された800キロの徹甲爆弾と巨大な榴弾が、オッペンハイマーらが心血を注いで構築していたウラン濃縮施設の分厚いコンクリート屋根をティッシュペーパーのように貫通し、内部の精密な遠心分離機やサイクロトロン設備を、巨大な火柱とともに土砂もろとも吹き飛ばした。


「ウワアアアッ! 逃げろ! 施設が崩れるぞ!」


白衣を着た研究員や憲兵たちが絶叫しながら逃げ惑う中、続いて突入した『天風』の戦闘機隊が、30ミリ大口径機関砲による猛烈な機銃掃射を浴びせかけ、研究所の動力源であった巨大な変電施設と発電プラントを蜂の巣にして完全に沈黙させた。


備前の池田化学が精製した新型高爆速火薬が連鎖的に炸裂し、ロスアラモスの砂漠は、核爆発を待たずして巨大な地獄の業火に包まれた。


「やめろ……! 我々の何十億ドルという予算が! 物理学の粋を集めた頭脳の結晶が……!」


グローヴス少将とオッペンハイマー博士は、燃え盛るロスアラモスの炎を前に、ただ膝から崩れ落ち、絶望の涙を流すことしかできなかった。


アメリカ合衆国が世界を恐怖で支配するために生み出そうとしていた「神の火」は、完成の一歩手前で、東洋の冷徹な電脳が弾き出した座標と、命知らずのキメラ艦隊が放った長距離奇襲爆撃によって、その製造インフラを数年単位で後退するほど完全に、そして物理的に粉砕されたのである。


「……全機、投弾完了。目標の完全な物理破壊を確認した。これより、我々は太平洋で待つ母艦(飛鷲)へと帰還する」


関少佐は、黒煙の柱が天を突くロスアラモスの砂漠を見下ろしながら、深く、重い安堵の息を吐き出した。

彼らの燃料は、帰りのカリフォルニア湾までギリギリの量しか残されていなかったが、誰の顔にも後悔はなかった。


それは、アメリカが信奉する「絶対の安全圏」という神話を根底から破壊し、豊栄大日本帝国が世界総力戦における最大の絶望のシナリオ(原爆投下)を、自らの刃で完全に消去してみせた、歴史的かつ狂気的な『迦具土の化身』たちの完全なる勝利の瞬間であった。

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