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第92章 大不列顛(グレートブリテン)の鉄壁と奇跡の刃

フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領が「ヨーロッパ・ファースト(欧州第一主義)」の冷徹な決断を下し、合衆国の誇るマニュファクチャリング・モンスター(大量生産の怪物)の全質量を大西洋アトランティック・オーシャンへと叩きつけた『英国奪還作戦オペレーション・リターン・キング』。


カイザー造船所が粗製濫造した無数の上陸舟艇ランディング・クラフト戦時標準船リバティ・シップによって、数百万のアメリカ兵と天文学的な数の兵器が、ナチス・ドイツに占領されていたイギリス本土(グレートブリテン島)の西海岸へと吐き出された。彼らは圧倒的な艦砲射撃と航空支援を盾にして強引に橋頭堡ビーチヘッドを築き上げ、かつて大英帝国の心臓であった首都ロンドンを奪還すべく、内陸部への怒涛の進撃を開始していた。


だが、ヨーロッパの完全支配を目論むアドルフ・ヒトラーが、このイギリスの大地をそう易々と手放すはずがなかった。


ロンドンを占領し、西方総軍オーベー・ヴェスト司令官としてこの島に君臨するゲルト・フォン・ルントシュテット元帥は、モスクワ陥落によって東部戦線オストフロントから解放されたドイツ国防軍ヴェアマハト精鋭装甲師団パンツァー・ディヴィジオンを、無傷のままイギリス本土へと結集させていたのである。


アメリカの「規格化された無限の暴力」と、ドイツの「マイスター(職人)が鍛え上げた究極の鋼鉄」。

二つの全く異なるドクトリンが、霧深いイギリスの丘陵地帯で正面から激突し、世界大戦は新たな流血の限界点へとその凄惨な歩みを進めようとしていた。


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1944年7月15日 午前6時00分

イギリス本土 ロンドン北西郊外 チルターン丘陵

アメリカ合衆国陸軍・第3機甲師団 最前線

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イギリス特有の重く湿った朝霧モーニング・フォグが、なだらかな起伏の続くチルターン丘陵を白く包み込んでいた。


「……霧が濃すぎる。エア・サポート(航空支援)は期待できそうにないな」


アメリカ合衆国陸軍・第3機甲師団の戦車長、ウィリアム・G・ガーナー軍曹は、デトロイトの工場から出荷されたばかりの最新型、クライスラー社製『M4A3E8 シャーマン(通称:イージーエイト)』のキューポラから身を乗り出し、湿った風に目を細めた。


フォード製500馬力V型8気筒エンジンの重低音が、周囲を埋め尽くす数十両の僚車とともに、丘陵の朝の静寂を震わせている。アメリカの工業力は、従来のM4シャーマンの弱点であった足回りをHVSS(水平渦巻スプリング・サスペンション)へと改良し、さらに主砲を長砲身の76.2ミリ砲へと換装したこの新鋭機を、すでに湯水のように最前線へと供給し始めていた。


前進フォワードだ。ジャップの島での戦いと違い、ここは平坦で走りやすい。ナチスの野郎どもをロンドンまで一気に押し込むぞ!」


ガーナー軍曹の号令で、アメリカ軍の機甲部隊がキャタピラで泥を蹴立てて突進を開始した。彼らの背後には、無数の『M3ハーフトラック』に乗った歩兵インファントリーたちが追随している。


だが、霧の向こう側──丘陵の稜線に広がる深い森の暗がりには、アメリカの量産戦車をただの「ブリキの標的ターゲット」としか見なさない、本物の鋼鉄の怪物たちが冷徹に息を潜めていたのである。


「……アメリカの素人どもが、また懲りずにやってきたぞ。我が軍の防衛線フェルタイディグングスリーニエを、戦車パンツァーの数だけで抜けると思い込んでいる」


森の木陰に完璧に偽装ターンカモフラーシュされた、重重量68トンを誇る第三帝国最強の重戦車『ティーガーIIケーニヒスティーガー』。ヘンシェル社が極限の職人技で鍛え上げた前面150ミリの傾斜装甲を纏うその車長席で、第503重戦車大隊の中隊長、ハインツ・フォン・クライスト大尉が冷酷な笑みを浮かべた。


「距離2,000メートル。目標、先頭のアメリカ戦車。……撃て(フォイア)」


クライスト大尉の号令とともに、ティーガーIIに搭載された長砲身の『8.8センチ(88ミリ) KwK 43 L/71 戦車砲』が、鼓膜を物理的に粉砕するような凄まじい咆哮を上げた。


初速1,000メートル毎秒という狂気的な速度で撃ち出された徹甲弾パンツァーグラナーテが、チルターンの濃霧を一瞬で切り裂く。


ドゴォォォォンッ!!


「敵襲! 右前方のエリオットの車長車がやられた!」


ガーナー軍曹が絶叫する。彼の斜め前方を走っていたM4A3E8シャーマンの前面装甲が、距離2キロの彼方からまるでティッシュペーパーのようにブチ抜かれ、内部の弾薬とガソリンに誘爆して巨大な火柱へと変わった。分厚い砲塔が、爆風によって数十メートルも宙を舞う。


「クソッ、見えない! どこから撃ってきている! 76ミリ砲、反撃しろ! 丘の森へ向けて撃ちまくれ!」


アメリカ軍の戦車群がパニックに陥り、見えない敵へ向けて盲滅法に76.2ミリ砲の火線を放つ。数発の砲弾がティーガーIIの前面装甲に命中したが、甲高い金属音とともに火花を散らして弾き返されるだけで、その分厚い150ミリの傾斜装甲には僅かな傷一つつけることができなかった。


「……無駄だ。お前たちの弾は、我が大ゲルマン帝国の鋼鉄には絶対に届かない。次弾装填、右翼の敵車列を片端からスクラップにしろ」


ティーガーIIの8.8センチ砲が次々と火を噴き、さらにその側面からは、パンター戦車の車体を流用して固定戦闘室を設けた駆逐戦車『ヤークトパンター』の群れが、低く構えたシルエットから無慈悲な水平射撃を加える。


「退け! 退却リトリートしろ! これは戦闘じゃない、一方的な虐殺マサカーだ!」


ガーナー軍曹は、次々と火だるまになっていく僚車を目の当たりにし、血の涙を流しながら後退を命じた。


ルントシュテット元帥がイギリス本土に構築した防衛線は、まさに鉄壁であった。アメリカがどれほどカイザー造船所とデトロイトの工場をフル稼働させ、無尽蔵のM4シャーマンと兵員を波状攻撃として送り込もうとも、ドイツの「質的優位の極致」たる重装甲師団の前に、ただ莫大な鉄屑と屍の山を築き上げるだけで、ロンドンへの道は一歩も開けずにいたのである。


しかし、この圧倒的な防衛戦の裏側で、ドイツ国防軍もまた、アメリカの「物量」の前に目に見えない深刻な出血を強いられていた。


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同日 午後2時00分

ドイツ・ベルリン 総統官邸ライヒス・カンツライ

地下作戦会議室ウンターグルント・ラーゲツィンマー

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大理石の重厚な壁に囲まれた総統官邸の地下深く。

ヨーロッパ全土を支配する絶対的権力者、アドルフ・ヒトラー総統フューラーの顔には、勝利の歓喜ではなく、神経質で狂気じみた焦燥の色が深く刻まれていた。


「……ルントシュテットからの報告です。チルターン丘陵における防衛線は完璧に維持されており、アメリカの戦車部隊に日夜数千両単位の損害を与え続けております。……しかし」


国防軍最高司令部(OKW)総長、ヴィルヘルム・カイテル元帥が、手元の報告書を震える手で捲りながら言葉を継いだ。


「アメリカの大量生産マッセンプロドゥクツィオーンの速度は、我々の想像を遥かに絶しています。我が軍のティーガー1両が10両のシャーマンを破壊しても、翌日には海から20両の新品のシャーマンが陸揚げされ、前線へ補充されています。さらに、アメリカ陸軍航空軍が放つ『P-51Dマスタング』や『B-17』の無数の大編隊による絨毯爆撃によって、我が軍の精鋭パイロットと『Bf109』の損耗率が許容限界を超えつつあります。……このまま消耗戦アプヌッツンクスクリークが続けば、いずれ我が国の生産力と兵站が完全にすり減らされ、防衛線が崩壊する危険があると、ルントシュテット元帥は懸念しております」


「黙れッ!!」


ヒトラーは、作戦机ラーゲティッシュを両拳で激しく叩きつけ、カイテル元帥の言葉を狂気的な怒号で遮った。


「臆病者どもめ! イギリスを完全占領し、モスクワを落としたこの大ゲルマン帝国が、アメリカの粗悪な量産品マス・プロダクツごときに押し潰されるなどと、絶対にあり得ん! 我々アーリア人種には、アメリカのユダヤ資本主義者どもが束になっても敵わない、至高の『超科学』があるのだ!」


ヒトラーの血走った眼光が、会議室の隅で直立する空軍ルフトヴァッフェと兵器開発局の将校たちを射抜いた。


「もう出し惜しみはせん! 実戦配備を急がせていた例の『奇跡の兵器ヴンダーヴァッフェ』を、今すぐすべてイギリス戦線へ投入せよ! アメリカの鈍重な爆撃機どもを空から叩き落とし、ロンドン郊外に陣取るアメリカ軍の司令部を、音速の炎で地形ごと消し飛ばしてやるのだ!」


その総統の厳命は、航空力学と兵器開発の歴史を根本から塗り替える「悪魔の刃」の封印を、ついに完全に解き放つものであった。


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1944年7月20日 午前8時00分

イギリス本土 チルターン丘陵 上空 高度8,000メートル

アメリカ合衆国陸軍航空軍 第8航空軍

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「……本日の目標は、ロンドン郊外に展開するナチスの装甲部隊集積所だ。P-51の直掩機エスコートが完璧に護ってくれている。安心して爆弾の雨を降らせてやれ」


高度8,000メートルの高空。息が凍りつくような極寒の空気の中、ボーイング社製・四発重爆撃機『B-17G フライングフォートレス』の数百機に及ぶ大編隊が、巨大な四角い陣形コンバット・ボックスを組んでイギリスの空を東へと進撃していた。


B-17のパイロット、ジョン・M・テイラー大尉は、操縦桿を握りながら周囲の空を見渡し、確かな安堵感を抱いていた。


彼ら爆撃機群の周囲、そしてさらに高高度には、ノースアメリカン航空が誇る傑作戦闘機『P-51D マスタング』が、無数の銀色の群れとなって完璧な防空のエアカバーを形成している。ロールス・ロイス・マーリンエンジンをパッカード社が量産した1600馬力級のV型12気筒エンジンを積み、流体力学を極めた層流翼を持つこの戦闘機は、時速700キロを超える圧倒的な高速と長大な航続距離を併せ持ち、ドイツ空軍の『Bf109G』や『Fw190』を完全に圧倒しつつあった。


「ジャップの『天風』のような化け物は、このヨーロッパにはいない。ナチスの空軍は、我々のマスタングがすべて掃除してくれたさ」


テイラー大尉が無線で僚機とジョークを交わしていた、まさにその時である。


「……レーダーに感あり! 後方、高度1万メートルより、異常な速度で接近する機影複数! 早すぎる! マスタングの巡航速度の比じゃありません!」


B-17の尾部銃座テール・ガンナーから、パニックに陥った悲鳴が響き渡った。


「ナチスの迎撃機か!? マスタング隊、後方を抑えろ!」


直掩任務に就いていたP-51Dの編隊が、機首を反転させて後方の上空へと向かう。しかし、アメリカの若きパイロットたちの視界に飛び込んできたのは、彼らがこれまで見たこともない、不気味で異形なシルエットを持つ航空機であった。


「……なんだあの飛行機は。プロペラがないぞ!?」


サメのように滑らかな流線型の機体。後退角のついた主翼の下には、プロペラの代わりに巨大な「筒」のようなエンジンポッドが二つ懸架されている。


それこそが、メッサーシュミット社が人類史上初めて実戦投入に成功した双発ジェット戦闘機、『Me262 A-1a シュヴァルベ(燕)』であった。


「目標、アメリカの重爆撃機編隊ボンバー・フォルマツィオーン。……ジェットエンジン、全開。あの鈍重な四発機をすべて空の屑鉄に変えてやれ」


Me262の編隊長、ハインリヒ・ベア少佐が、スロットルを静かに押し込む。

ユンカース社が開発したJumo 004軸流式ターボジェットエンジンが、空気を切り裂くような甲高い金属音(ジェット音)を轟かせ、機体を一気に時速870キロメートルという、当時のレシプロ機では絶対に不可能な未知の速度領域へと押し上げた。


「速すぎる! 追いつけない! 射撃位置に……!」


P-51Dマスタングのパイロットが必死にスロットルを全開にして食らいつこうとするが、時速で150キロ以上も差があるMe262は、アメリカの傑作戦闘機をまるで止まっている標的ターゲットのように置き去りにし、あっという間にB-17の編隊の懐へと飛び込んだ。


「各機、ロケット弾斉射ザルヴェ!」


ベア少佐の号令とともに、Me262の主翼下に懸架された『R4M』55ミリ空対空ロケット弾が、一条の白煙を引いて無数に解き放たれた。


シュルルルルルッ!!


B-17の強固な防御陣形コンバット・ボックスの中央で、数十発のロケット弾が凄まじい爆発を起こす。13丁のブローニング重機関銃のハリネズミのような弾幕も、時速870キロで駆け抜けるジェット機を捉えることは全くできなかった。


「右翼被弾! エンジンが……! キャビンが燃えているッ!」


テイラー大尉のB-17のすぐ隣を飛んでいた僚機が、ロケット弾の直撃を受けて空中分解し、数名のクルーを乗せたまま燃え盛る火の玉となってイギリスの大地へと墜落していく。


さらにMe262は、ロケット弾を撃ち尽くすと同時に、機首に集中配置された『MK 108 30ミリ機関砲』4門による一撃離脱の銃撃を敢行した。毎分600発の速度で放たれる巨大な薄殻榴弾ミーネゲショスは、たった数発命中しただけでB-17の分厚い主翼を根元から完全に切断するほどの絶大な破壊力を誇った。


「……これが、ナチスの『奇跡の兵器』か。俺たちのマスタングが、まるで赤子扱いじゃないか……!」


生き残ったアメリカ軍のパイロットたちは、ただ音速に迫る速度で自軍の爆撃機を蹂躙し、悠々と飛び去っていくプロペラを持たない怪鳥の姿を、恐怖と絶望の中で見送ることしかできなかった。


アメリカの誇る「圧倒的な数の暴力」が、ドイツの超科学が産み出した「次元の違う速度と質の暴力」の前に、空で完全に防がれた瞬間であった。


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同日 正午

イギリス本土 チルターン丘陵後方

アメリカ第3軍 前線兵站集積所ロジスティクス・ベース

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しかし、ドイツの超科学がもたらした真の絶望は、空の上のジェット機だけにとどまらなかった。


「……空の爆撃隊がナチスの新兵器に叩き落とされただと? クソッ、空からの支援がなければ、我々はあのティーガーの陣地を抜くことは絶対に不可能だぞ!」


パットン中将の指揮下でイギリス上陸軍の前線を担うアメリカ陸軍の野戦司令部では、将校たちが報告書を前に頭を抱えていた。


彼らの周囲には、海岸から陸揚げされたばかりの数万トンの弾薬、ガソリン、そして数百両のM4シャーマン戦車が、見渡す限りの広大な平原にびっしりと集積されている。アメリカの継戦能力の源泉たる、巨大な胃袋である。


「爆撃機がダメなら、艦砲射撃の届く範囲までドイツ軍を引きずり出すしかない。あるいは、さらに無尽蔵の戦車を突っ込ませて……」


将校が地図を指差した、まさにその瞬間だった。


空気を切り裂く音も、爆撃機のエンジン音も、空襲警報エア・レイド・サイレンの鳴り響く暇すら一切なかった。


音よりも速く、成層圏の彼方から宇宙空間を越えて「それ」は突然降り注いだ。


ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!


前触れの一切ない、鼓膜と内臓を粉砕するような凄まじい大音響とともに、アメリカ軍の兵站集積所のど真ん中に、太陽が落ちてきたかのような巨大な閃光と火柱が突き立った。


「な、なんだ!? 何が起きた!!」


「敵の爆撃か!? いや、飛行機の音は全くしなかったぞ!」


将校たちが天幕から這い出し、その惨状を目の当たりにして絶句した。


何千トンという弾薬とガソリンの山が、未知の超爆発によって一瞬にして蒸発し、数百両のM4シャーマン戦車が爆風で木の葉のように吹き飛ばされて裏返っている。直径数十メートル、深さ十数メートルに及ぶ巨大なクレーターが、大地に生々しく穿たれていた。


それこそが、ヴェルナー・フォン・ブラウン博士らドイツの天才科学者たちがペーネミュンデ陸軍兵器実験場で開発し、ヒトラーの厳命によってイギリス本土のアメリカ軍拠点へ向けて実戦投入された、人類初の実用弾道ミサイル『V2ロケット(A4)』であった。


最大速度マッハ5(時速約6,000キロメートル)。高度80キロメートルの宇宙空間に近い弾道を飛び、目標へ向かって音速の数倍で落下してくるこの巨大な兵器は、当時のいかなるレーダーでも迎撃不可能であり、着弾して爆発した「後」に、飛来する風切り音が聞こえてくるという、純粋にして絶対的な恐怖の象徴であった。


「……防ぐ手立てがない。こんな悪魔の兵器が空から突然降ってくるのなら、我々は前線に物資を集積することすらできない……!」


アメリカ軍の将校たちは、クレーターの底から立ち上る黒煙を前に、完全に心を折られようとしていた。


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1944年7月下旬

イギリス本土 ロンドン郊外 米独戦線

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大西洋を越えて「マニュファクチャリング・モンスター」の全質量を叩きつけ、ロンドン奪還を目前にしていたアメリカ合衆国の巨大な軍隊は、ここに来て完全にその足を止められていた。


地上では、ルントシュテット元帥が巧みに配置したティーガーIIとヤークトパンターの重装甲部隊が、アメリカのM4シャーマンの津波を「質の壁」で完璧に削り落とし続けている。


空では、プロペラを持たないジェット戦闘機『Me262』が、アメリカの重爆撃機とP-51の護衛網を異次元の速度で引き裂き、制空権を容易には渡さない。


そして後方の兵站基地には、いかなる警報も鳴らずに突如として降り注ぐ弾道ミサイル『V2ロケット』が、アメリカの血流ロジスティクスを無慈悲に粉砕し、兵士たちの精神を確実に蝕んでいった。


「……これが、ナチスの狂気が生み出した『超科学』か。我々の大量生産の力が、完全に泥沼に捕らえられてしまった」


アメリカ軍の前線司令部で、報告を受けたジョージ・S・パットン中将は、血の滲むような思いで海図に拳を叩きつけた。


イギリスの大地は、アメリカの膨大な鉄屑と屍、そしてドイツの驚異的な超科学兵器が交錯する、第一次世界大戦の塹壕戦を彷彿とさせる「果てしのない泥沼の消耗戦デッドロック」へと完全に陥没したのである。


四つの超大国が互いの国家の命運をすり減らす世界総力戦において、アメリカの矛先がヨーロッパの泥沼に深く突き刺さり抜けなくなったこの瞬間こそが、地球の裏側にいる豊栄大日本帝国に「次なる世代の牙」を錬成するための、完璧なる黄金の猶予を与えることとなったのである。

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