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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第96話:夏休みの終わりと、深夜のヒットマン

最新型ドローンを北の国へ向けて発進させてから、すでに数時間が経過していた。

バックヤードのストコンのモニターには、まだ延々と変わり映えのしない暗い夜空と、鬱蒼とした森の映像が流れ続けている。


俺はパイプ椅子に深く腰掛け、代り映えのしないそのモニター映像をぼんやりと眺めながら、デスクの上に置いたポテチの袋に手を伸ばした。


「なぁルカ君。北の国ってのは、そんなに恐ろしいところなのか?」


俺は大量に口の中へと詰め込んだポテチをバリバリと噛み砕きながら、隣でキーボードを叩いているルカ君に尋ねる。


「そうですね〜。たしかに小さい頃から大人たちに『あそこは恐ろしい未開の地だ』ってそうやって教わってはいるんですが……。実際のところはよく分からないんですよね。何せ、誰も行ったことが無いですから」


「へぇ〜」

俺はコーラのペットボトルのキャップをパキッとあけ、生返事を返しつつ炭酸を喉へと流し込む。


そうこうしているうちに、ストコンの画面の中の景色に少しずつ変化が現れ始めた。

それまで緑を鬱蒼と茂らせていた木々の数がみるみる少なくなっていき、画面越しでもはっきりと伝わってくるほどの鋭い「冷気」が、白いモヤとなってドローンのカメラを包み込んでいく。


「なんだか急に冷えてきたみたいだな……。最新型とはいえ、ドローンは大丈夫かな?」


俺の問いかけに、ルカ君が説明書のページをめくりながら答える。

「本部からの説明書によれば、マイナス100度の環境でもシステムに異常なく動作可能とありましたから、これくらいなら大丈夫じゃないですかね」


「へぇ〜」

俺はまた気の抜けた生返事を返す。

椅子の背もたれを限界まで後ろに倒し、両腕を上げて大きく伸びをした。ずっと同じ画面を見ているのも目が疲れる。


「ちょっと、売り場の方を見てくるよ。何か画面に変化があったらすぐに呼んでくれ」


「はい、わかりました」


そう言って、俺はルカ君をバックヤードに残し、防音扉を開けて深夜の売り場(店内)へと出て行った。


深夜の24時間営業のコンビニ。普段のこの時間帯なら、魔族のお客さんなんて滅多にやってこないガラガラの時間帯なのだが、なぜだか今日は妙に客足が多い。レジカウンターの奥では、アラクネが細い手を一生懸命に動かしながらレジを打っていた。


「あ、店長!」


俺はアラクネの横に入ると、そのまま無言で手際よく商品の袋詰めを手伝い始めた。

アラクネはサポートに入った俺の顔を見て、嬉しそうにニコリと笑顔を浮かべる。


「ありがとうございました〜♪」


深夜のラッシュが落ち着き、最後のお客さんを自動ドアの外へと送り出すと、俺とアラクネはレジカウンターの後ろにある丸椅子に揃って腰掛けた。

ちょうどその時、フライヤー(揚げ物ケース)の中で売れ残っていた「からあげクン」が、既定の廃棄時間を迎えた。


俺はトングでそれを取り出して油紙の袋に入れ、アラクネの目の前に差し出す。

「あまっちゃったな……。お腹空いただろ? 廃棄だから食べていいよ」


アラクネはパッと目を輝かせ、嬉しそうにうんうんと言葉にならない返事で深く頷いた。

そして、小さな口いっぱいにからあげクンを頬張りながら、モグモグと喋り出す。


「店長、任務どろーんはどうだ?」


「う〜ん、まだ目的地(北の国)まではずいぶん時間がかかるからなぁ〜」


「そんなに遠いところなのか?」


「ああ。今回の最新ドローンはスピードも前とは段違いに上がってるんだけど、それでも到着するまでにあと10時間くらいはかかるかな」


「じゅーじかん……?」

アラクネはピンと来ないようで、首を傾げる。


「ほら、アラクネが一日中ずーっと気持ちよさそうに眠ってる時間と同じくらいだよ」


「そうかー!」

アラクネは納得したようにニコニコしながら、次のからあげクンを爪楊枝で口に運ぶ。

そうして最後の一個になったとき、アラクネはハッと何かに気が付いたように動きを止め、爪楊枝に刺したからあげクンを、そっと俺の口元へと差し出してきた。お裾分けのつもりらしい。


「あはは、ありがとう。でもアラクネが全部食べていいよ」


俺がそう言って微笑むと、アラクネはしばらくの間、爪楊枝のからあげクンと俺の顔を交互にまじまじと見比べていたが、やがて嬉しそうにパクリと自分で食べた。


「ふぅ〜……」


俺は小さくため息をつき、静かな店の白い天井をぼんやりと眺めた。

ここ最近は、本当に色々なことがありすぎた。リゼッタと本気で大ケンカしたり、液晶画面越しとはいえ現実世界の千砂に再会したり……。

自分でも今まで考えもしなかった「現実世界に本気で帰る」という未来を明確に意識し出してからというもの、毎日見慣れていたはずの一号店の日常の景色が、なんだか少し違って見えるようになっていた。


「なんか……夏休みに、ばあちゃんの家に行ったときみたいな感覚だな……」


小さい頃、俺は母に連れられて、よく田舎の祖母の家に遊びに行っていた。

2、3週間ほど滞在するのだが、いよいよ残り数日になって「もうすぐ東京の家に帰らなければならない」という寂しさが押し寄せてくると、不思議と同じ田舎の景色なのに、切なくてどこか特別に美しく見えた。今の俺の心境は、まさにアレにそっくりだった。


「ばあちゃん……ち……?」


口から漏れていた俺の独り言が聞こえていたのか、アラクネが首を傾げて聞いてくる。

まぁ……引きこもりニートだった俺のこんな女々しいセンチメンタルな感覚なんて、魔族の、しかもアラクネに共感してくれるわけもないよな。


俺はそう思って、苦笑いしながら言葉を濁した。

「ううん、何でもないよ」


アラクネと二人、レジカウンターの裏で心地の良い、静かな沈黙が流れる。

……やっぱり、なんだかんだ言っても、居心地がいいんだよな……この世界は。みんな優しいし。


ピロリロリーン♪


その時、静寂を破ってローソン一号店の入店音が小気味よく鳴り響き、自動ドアから一人の「男」が静かに入ってきた。

黒いトレンチコートの襟を立て、帽子を深くかぶったその男は、まるで映画に出てくる冷酷な『ヒットマン(殺し屋)』そのものといった風貌だった。男は店に入るなり、鋭い視線で店内の四方をギロリと見渡した。


「おい、アラクネ……なんか、あの人ヒットマンみたいだな」


俺は男に聞こえないよう、レジカウンターの下でアラクネの耳元に小声で楽しそうに話しかける。


「ヒット……マ……ン?」

アラクネが不思議そうに首をかしげる。


俺はたまたま手近な雑誌ラックに並んでいた最新の漫画雑誌を取り出すと、カウンターの下でアラクネに見せてやった。それは、超一流の殺し屋をコミカルかつシリアスに描いた、いま人気の暗殺漫画だった。


「おお……!」

アラクネがその表紙を見て、嬉しそうに何度も頷く。


「ヒットマンだ! ほんものみたい!」

「しーっ!」

俺は慌てて口元に人差し指を立てて、声をあげそうになったアラクネを全力で制止する。


──これは、深夜のコンビニバイトならよくある、店員同士の他愛のない「暇つぶしのお遊び」だ。お客さんに変なあだ名をつけているのが聞かれたら、一発でクレームになってしまう。


だが。

本当にただの退屈しのぎのつもりだった俺たちのこの呑気なお遊びが、この直後、血も凍るような「最悪の現実」となって俺たち自身に襲いかかろうとは──。


今の俺たちは、知る由もなかった。

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