第95話:最新鋭の翼と、からあげクンの衝撃
翌日。待ちに待ったローソン本部からの最新型ドローンが、ついに一号店に届いた。
俺は段ボールから現れたそのピカピカに輝く機体を、まるで我が子を愛おしむかのように優しく、そっと両腕で抱き寄せた。
「マモル店長! この最新型、本当にすごいですよ……!」
ルカ君が分厚い仕様説明書をペラペラとめくりながら、興奮を隠しきれないといった様子で俺に話しかけてくる。大容量の魔導バッテリー、強化されたステルス機能──まさに本部の技術の結晶だ。
俺たち男二人は時間を忘れてマニアックなドローン談議に大いに花を咲かせ、昼過ぎ、リゼッタが出勤してくるのを待ってから、いよいよ本格的なサカモト救出の作戦会議を始めることにした。
24時間休まず動く店頭のレジはベテランのアンナちゃんに完全に任せ、俺、ルカ君、リゼッタ、そしてモカの四人は、売り場の隅のテーブルを囲んで輪になって座る。
ルカ君がストコンから印刷した大きな地図を机に広げ、神妙な面持ちで状況の説明を始めた。
「……ちょっと待ってよ。サカモトさんが連れ去られたのって、あの『北の国』なの……? 大丈夫なの、マモル?」
地図の赤丸を見たリゼッタが、未知の領域である北の国の名を聞いて、不安そうに眉をひそめて俺の顔を覗き込んできた。
「まあ、俺が直接その不気味な国の中に乗り込むわけじゃないからさ。それに、今回届いた最新ドローンの性能は、今まで使っていた物とは比べ物にならないくらい高いんだ。だから安心していいよ」
俺はなるべくさわやかにそう言って、心配してくれるリゼッタを優しく安心させる。
「ふぁ〜あ……」
その時、横にいたモカが、これ見よがしに超退屈そうな声をあげて大きなあくびをした。
「おいモカ! そもそもお前のお願いを聞いて、これから命がけでサカモトを助けに行く作戦を立ててるんだぞ! 少しは当事者としての緊張感を持てよ!」
俺がテーブルを叩いて怒鳴ると、モカはフンと露骨に不機嫌そうな顔をして、ぷいっと横を向いた。その背中の妖精の羽が、不満げにピコピコと揺れる。
ルカ君はやっぱりモカのことが猛烈に気になるようで、顔を真っ赤にしながら彼女の横顔をじっと見つめていた。
モカはそのウブな視線に瞬時に気が付くと、ルカ君に向けてパチンと可愛らしくウインクをしてみせる。
「ひゃうっ……」
ルカ君は一瞬で耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうにガバッと勢いよくうつむいた。
俺はその二人のやり取りを、レジカウンターの横から最高にイライラしながら見つめる。
(このクソ妖精……、またやってるよ……)
「そういえばさ、モカ。サカモトが連れ去られた時の状況で、何か他に新しく思い出したことはあるか?」
俺は気持ちを切り替え、わずかな手がかりでもあればと思って尋ねた。さすがのモカでも、昨日から丸一日経っているんだ。アホな頭なりに何か一つくらいは重要なディテールを思い出しているだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
安定のフリーズ。モカは口を半開きにしたまま、天井の蛍光灯を見上げた状態で綺麗に停止した。
「はぁ〜〜〜……」
俺は深いため息をつき、両手で頭を抱え込んだ。一瞬でもこいつの脳みそに期待した俺が完全に馬鹿だった。
「あっ!」
俺が完全に諦めて地図を畳もうとしたその時、モカが電球が光ったかのように、パッと何かを思い出したような声を上げた。
俺は最後の希望をかけてモカに向き直り、「なんだ!? 何か重要なことを思い出したのか!?」と身を乗り出して聞いた。
モカは俺の必死な顔をまじまじと見つめ……、そして、信じられないほどドヤ顔でこう言い放ったのだ。
「からあげくん……おいしかった♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
──昨日の夜、レジの影でつまみ食いしたローソン名物の感想じゃねぇかァアアアアアア!!!
「……まぁ、そんなわけで、俺たちはこれから最新ドローンのセッティングのためにバックヤードに籠るから。アンナちゃん、お店の方はよろしくな」
俺は限界だった。引きつった笑顔のまま強引に話をまとめると、ガタッと椅子を引いて立ち上がった。
モカは自分の感想が100点満点だったとでも思っているのか、なぜか非常に満足げな顔で俺を見つめている。
俺はそのまま無言でバックヤードを通り抜け、奥にある自分の部屋へと飛び込むと、ベッドの枕に思い切り顔をうずめて大絶叫した!
「おいおいおい!! なんなんだよあいつはァアアア!! マジか!? マジなのか!? なんなんだ!? 神は俺の精神力をテストしてんのか!? うぉおおおおおおいオイオイオイオイーーーー!!!!!!!!!」
俺はこれから始まる「北の国」への超重要作戦に深刻な支障をきたすレベルの精神的ダメージ(頭痛)をゴリゴリに抱えたまま、一号店の奥で一人、枕に向かって叫び続けるのだった──。




