第79話:壊滅の報告と、天才ハッカー・ルカの秘密
「…………以上です。今後の防衛体制については、追って連絡します」
画面の向こうの桜塚マネージャーの冷徹な声が途切れると同時に、リモート映像がプツリと切れた。
バックヤードの空間を、重苦しい絶望的な沈黙が支配する。
コントローラーを持ったまま固まっていたルカが、気まずそうに、だけど俺を慰めるようにぽつりと口を開いた。
「まあ……その、マモル店長のせいじゃないですよ。いくら本部の特殊部隊が動いていたからって……まさか競合店(セ〇ン)が、ガチの軍用アパッチまで準備してるなんて誰も予想できませんし……」
「……ありがとう、ルカ君」
俺は力なくそう言って、パイプ椅子に深く身体を沈み込ませた。
先ほどの桜塚マネージャーからの最終報告は、最悪の一言に尽きるものだった。
上空からのアパッチによる突然の奇襲攻撃により、トラックの確保に向かっていたローソン自慢の私設特殊部隊は一瞬で壊滅。肝心のホロ・アテンダントの修理キットも、そのままサカモトたちに丸ごと持ち去られてしまったという。
さらに本部からは、度重なる配送失敗と今回の軍事的損害を重く受け止め、ルート上の安全が100%確保できるまで、ホロ・アテンダント・システムの修理キットの配送そのものを当面の間「全面停止」にするという非情な通達が下されたのだ。
「はぁ〜……」
俺は今日一番の、魂が抜けるような大きなため息をついた。
リゼッタとのデートがしばらくお預けになってしまったことは、男として確かに痛い。
だが、今の俺の脳裏を占めていたのは、そんな目先の煩悩よりも、もっと根深い『違和感』だった。
──なぜ、サカモトはそこまでして「ホロ・アテンダント・システム」の強奪にこだわるんだ?
ただのライバル店の営業妨害にしては、あいつらのやっていることは明らかに一線を越えすぎている。私設の軍用ヘリまで投入して、ローソン本部のシステム復旧を全力で阻止しようとするその執念……。
俺は胸の奥のほうに、冷たくてモヤモヤとした何かが急速に飛来してくるのを感じていた。
考えてみれば、以前俺がサカモトに報復をしようとした時、放ったミサイルを綺麗さっぱり回避するためにあいつが使った謎の『セ〇ンテレポート』の技術だって、未だに何一つ原理が解明されていない。
サカモトが、俺のこの異世界転生に何らかの形で深く関与していることは、もはや明白だ。
そして、そのサカモトが狂ったように執着しているホロ・アテンダント・システム──。
これには、俺が元の世界に戻るための、とんでもない重大な秘密が隠されているんじゃないか?
(……これは、本部を通さずに独自に調べてみる価値があるな)
俺はパイプ椅子から身を起こすと、隣でポテチの袋を弄んでいる同い年の相棒に向き直った。
「ねえ、ルカ君。リゼッタから、君はコンピュータ関係にむちゃくちゃ詳しいって聞いてるんだけど……実際、どこまでできるの?」
唐突な俺の質問に、ルカは一瞬驚いたように瞬きをしたが、すぐに引きこもり特有の、自分の得意分野を振られた時の嬉しそうなニヤリとした笑みを浮かべて小声で答えた。
「はい。僕は……ずっと部屋に引きこもりっぱなしのネトゲ廃人なんで。一日中、実家の高性能パソコンばかりいじってましたからね。……ここだけの話ですけど、実は以前、国のいくつかの主要な管理システムに裏から侵入したこともあるんですよ?」
「……えっ!? 国家システムのハッキング!?」
「あ、シーッ! 声が大きいです店長! ログは完璧に消したから国際指名手配はされてないハズですけど……とにかく、セキュリティの穴を見つけて潜り込むのだけは、そっちの専門家より得意です」
おどおどした普段の様子からは想像もつかない、ルカの頼もしすぎる裏の顔。
俺はストコンの光に照らされるルカの顔を見つめながら、ニヤリと不敵な笑みを返した。
「それは凄いな……! じゃあさ、ルカ君。本部のデータベースに内緒でアクセスして、少しだけ『調べてほしいこと』があるんだけど……手伝ってくれるか?」
「……うん。面白そうだし、店長の頼みなら、僕、やってみるよ」
国家の闇、ローソンの秘密、そしてサカモトの目的──。
アラクネが天井ですやすやと眠る一号店のバックヤードで、元ニート二人だけの静かな反撃の夜が、密やかに更けていくのだった。




