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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第75話:労働基準法と、目の前に現れた「もう一人の俺

レオンが帰り、ようやくあの恐怖の夜勤から解放された俺は、椅子に深くもたれかかって天井を見上げた。

そこではアラクネが、相変わらず気持ち良さそうにすやすやと眠っている。


なんだか状況はよく分からんが、昨夜のあの絶体絶命の瞬間も、アラクネが俺の知らないところで守ってくれたみたいだな。


「……起きたら、ご褒美に何か美味いデザートでも食わせてやるか」


そんなことを思いながら、俺はストコンのモニターに視線を戻した。

画面の中のドローンは、相変わらず代り映えのない荒野の景色の中を、まっすぐ進んでいる。


最初の襲撃者はあれから一切姿を見せない。だが、照明弾一発で大人しく諦めたとは到底思えなかった。それに、本命のサカモトたちが裏で別行動をとっている可能性すらある。


「油断は禁物だな……」


「ふぁあ〜……」


言ったそばから、大きくて情けないあくびが口から出た。

徹夜の肉体疲労もきついが、何時間も変化のない景色の中をただ飛び続けるドローンの映像を凝視し続けるのは、精神的にもかなりの苦痛だ。画面の端で、トラックが小さな町のレストランの駐車場に停車した。


その瞬間、ストコンのリモート通信が繋がる。


『間宮店長。その駐車場で、トラックの運転手が交代します。次の運転手が到着して出発するまでの間、引き続きトラックの警備をお願いしますね』


「えっ?」

俺は画面の向こうの桜塚マネージャーに向かって、間の抜けた声を上げた。

「交代……するんですか?」


その問いに対し、桜塚マネージャーはさも当然と言わんばかりに冷ややかに答えた。


『当たり前です。彼らは当社の「正社員」ですよ? 会社としては当然、労働基準法を厳格に順守しなければなりません』


「あ……そうですか……」


そうか。……俺は本部から見ればただの「個人事業主(店長)」扱いだから、48時間不眠不休で連続労働させても法律上なんの問題もない、というわけだな。


俺は異世界で日本の格差社会の厳しさを骨の髄まで味わいながら、次のドライバーが来るまでの間、健気にトラックの護衛を続けた。

どれくらい時間が経っただろうか、ようやく代わりのドライバーがトラックに乗り込むのが画面に見えた。


俺は限界を迎えてかすむ眠い目をこすり、本日何度目かのリゲインを喉に流し込む。


「へっ、ようやく偉い正社員様がお越しになったかよ……」


画面に向かってそんな悪態をつきながら、俺はドローンの操縦を自動追尾へと切り替え、再び走り出したトラックの後を追った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うおっ、つめてっ!?」


突然、頬に冷たい缶ジュースを押し当てられて驚き、俺は慌てて振り返った。


そこには、いつの間にかバックヤードに入ってきていたリゼッタが立っていた。


「お疲れ様、マモル。警護は順調?」

そう言って、リゼッタは俺のストコンの隣の丸椅子にちょこんと腰掛けた。


「あ、ああ……。もう、こんな時間か」


「ちょっと、顔が凄くやつれてない? まだ24時間以上も残ってるんでしょ? 本当に大丈夫なの?」


「ああ、何とか……」


そう答えて、現状を確認するために立ち上がろうとした──その瞬間だった。

急激に視界がぐにゃりと歪み、脳のシャッターが強制的に下ろされる。


「──モル!? マモル、しっかりしてっ!!」


薄れゆく意識の暗闇の中で、リゼッタの悲痛な叫び声だけが、遠くの方で木霊していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


どれくらいの時間が経ったのだろうか。

ふと気がつくと、俺はバックヤードの隣にある自分の部屋のベッドの上で目を覚ました。


「──やばいっ!!! トラックは!?」


飛び起きた俺の頭の中で、桜塚マネージャーへの言い訳が次から次へと浮かんで は消えていく。任務放棄でクビか!? 減給か!?


鉛のように重たい身体を何とか引きずり起こし、俺は部屋を飛び出してバックヤードへと駆け込んだ。


リゼッタが部屋に来たあの瞬間、ドローンの操縦は確か自動追尾モードに切り替えたはずだ。もしその間にサカモトたちに襲われていなければ、まだ何とかなるかもしれない。

そんな淡い期待を抱きながら、俺は必命でストコンのデスクへと向かった。


しかし、そこに広がる光景に、俺は自分の目を疑った。

暗転しているはずのストコンの前に、あろうことか『誰か』が座っているのだ。


俺は物音を立てないように、恐る恐るその背中に近づいていく。

……一体、誰だ? レオンか?


いや、違う。その男は、ドローンのコントローラーをめちゃくちゃ器用な手つきで操作しながら、左手でポテトチップスをぼりぼりと貪り食っていた。

しかも、ストコンのデスクのいたるところにポテチの粉が容赦なく落ちている。


(……食い方、めちゃくちゃ汚ねぇな、おい)


俺は意を決して、その男の肩をポンと叩いた。


「ひゃいっ!?」

男はビクゥッと大袈裟に肩を跳ね上がらせて振り返ると、俺を見てペコペコとおどおどした卑屈な笑みを浮かべた。


「ど、どうも……。あ、あの、間宮マモル店長……ですか? 急に、姉に頼まれて……その……」


消え入りそうな声で縮こまりながら応えるその男。

だが、その怯えるような目元や猫背な姿勢を見た瞬間、俺の胸の中に、えも言われぬ圧倒的な『親近感』がじわじわと湧き上がってきた。


「マモル! 気がついたのね!」


そこへ、トビラを開けてリゼッタがバックヤードに入ってきた。俺の姿を見るなり、嬉しそうに側に駆け寄ってくる。


「ああ、リゼッタ……ありがとう。助かったよ」

お礼を言ってから、俺はストコンの前で小さくなっている男を指差し、「……ところで、この方は?」と尋ねた。


「弟よ」と、リゼッタはあっさりと答えた。


「弟ぉ!? お前、あのレオン以外にも弟がいたのか?」


「うん。レオンとは双子の弟なのよ。ほら、ちゃんと自己紹介しなさい、ルカ」


リゼッタに背中をバシッと叩かれ、その男──ルカは、おずおずと立ち上がってペコリと頭を下げた。


「……お、弟の、ルカです。い、いつも、姉がお世話になってます……」


よく見ると、確かに顔のパーツ自体はもの凄く整っている。リゼッタの弟だと言われれば100%納得できるイケメンの部類だ。

だが……何だ、この身体中からこれでもかとドバドバ垂れ流されている凄まじい「負のオーラ」は。

この空気感、どこかで完璧に見覚えがある。……そうだ、いつかの俺。あの部屋に引きこもっていた時代の俺が放っていた、ガチの『引きこもりオーラ』そのものだ。


「ルカはね、マモルと全く同じで、ちょっとお家に引きこもっちゃってるのよ。いつもお部屋でコンピュータばかりいじってるし……。さっきマモルが急に倒れちゃったでしょ? 私はドローンの操縦なんて全然できないし、どうしようって焦ったんだけど……あ、ルカに頼めばこういうの得意なんじゃないかって思って、実家から連れてきたの!」


そう言って、リゼッタは名案だったでしょうとばかりに自慢げに笑った。

ルカは「いや、姉さん急に部屋のドアぶち破って連れてくるのやめてよ……」とでも言いたげに、気まずそうに頭をかいている。


(……こいつ……いいぞ。めちゃくちゃ気が合いそうだ……っ!)


外面完璧なサイコパスのレオンとは対極に位置する、純度100%の同族の匂い。

俺は異世界に来て初めて、心の底から新たな出会いというものに深く感謝したのだった。

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