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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第73話:午前3時のクレーマー撃退法(※魔族流)

午前零時。


バックヤードの奥、ストコンの前に座った俺は、静かに任務開始の時を待っていた。

ここから丸二日間、俺の意識をこの画面に縛り付けるための相棒──ドローンは、あらかじめ桜塚マネージャーに送ってもらっていた本部の特注部品製造工場の座標地点へと、自動操縦でとっくに向かわせてある。現在は工場の上空で息を潜めて待機中だ。


「ふ〜……。いよいよ、任務開始だな……」


俺はストコンの前から、バックヤードの入り口の方へ……トビラの向こうにいるはずの、今は姿の見えないレオンに向けて、そっと怯えるような視線を送った。


同じ建物の中に、いつ俺の首をへし折るか分からない凶悪なサイコパス魔族が夜勤に入っている。そんなB級ホラー映画さながらのシチュエーションに、俺は胃の痛みを覚えながら深いため息をついた。


その時、ストコンのモニター画面がパッと切り替わり、お馴染みのスーツ姿の桜塚マネージャーが映し出された。


『間宮店長。そろそろ任務開始の時刻です。準備はよろしいですか?』


「はい。いつでもいけます」


俺がリゲインのビンを横目に力強く答えると、桜塚マネージャーは珍しくフッと微かに笑みを浮かべた。


『それでは、健闘を祈ります』


プツリ、と画面が切れる。

誰もいなくなった画面の前で、俺は自分の両頬を両手でパンパンッ! と強く叩いて気合を入れた。


「よしっ、いくぞ!」


ドローンの操縦モードを自動操縦から手動へと切り替え、机の上に置いていたVRゴーグルを頭に被る。

時を同じくして、画面の向こうの工場の巨大なゲートが開き、本部の修理部品をこれでもかと積み込んだ大型トラックがゆっくりと一台、外の世界へと出てきた。


「あのトラックだな……」


俺はコントローラーを握り、トラックの上空を並走するようにドローンを追従させ、48時間耐久の護衛任務を正式に開始した。


──それから数時間。


ゴーグルの向こうでは、暗闇に包まれた異世界の代り映えのしない荒野の景色が、ただただ淡々と流れていく。あまりの動きのなさに目がしょぼしょぼとしてきて、俺は我慢できずに一旦ゴーグルを頭の上へと外した。


「まぁ、ストコンのメインモニターにドローンの映像をマルチウィンドウで映しておけば、目視での確認は問題ないだろう」


ストコンに流れる夜間巡航の映像を横目で厳重にチェックしながら、俺はリゼッタがデスクの上に用意してくれた夜食のおにぎりを一口かじり、温かいお茶で喉の奥へと流し込んだ。


壁の時計に目をやる。──午前3時。

「……まだ、あと45時間もあるのかよ」


俺は椅子の背もたれに深く体重をもたれ掛けさせ、ぼんやりとバックヤードの天井を見上げた。

そこでは、一号店の夜間営業のエースであるはずのアラクネが、自分の作った頑丈な蜘蛛の巣のベッドの中で、すやすやと本当に気持ち良さそうな寝息を立てて爆睡していた。


「……いいよな〜、アラクネは。何も考えずに寝られて……」


そこまで呟いて、俺はハッと息を呑んだ。


待てよ。……俺だって、つい数ヶ月前までは『そっち側』の人間だったじゃないか。

現実世界の薄暗い自室のベッドに閉じこもり、毎日好きな時に起きて、好きな時に寝る。社会のために働きもせず、老いた親のすねをかじりながら、ネットの掲示板で社会の文句ばかりを書き殴っていた、あのクズニート時代──。


俺は激しく首を横に振った。

「やめだ、やめだ! 今更そんなこと考えても仕方ないだろ」


せっかくこの世界に飛ばされて、ボロボロになりながらも、今できることを全力でするって自分で決めたんだ。過去を振り返って感傷に浸っている暇なんてない。


──ドゴォオオンッ!!!


「おい、てめえ店員よぉ!! なめてんじゃねえぞコラァッッ!!!」


その時、バックヤードのトビラの向こう、店内の売り場の方から凄まじい怒声と激しい物音が響いてきた。


俺は慌ててドローンの操縦を自動追尾モードへと切り替えると、ストコンの前を飛び出し、バックヤードの通路を駆け抜けて店内へと走り出た。


レジカウンターの前を覗き込むと、そこには岩石のような体躯をした一人の屈強な大男の魔族が、レジの中にいるレオンに向かって思いっきり凄んでいた。


だが、凄まじい威圧感を放つ大男に対し、レジの前に立つレオンは、ハイライトの消えた涼しくも冷酷な瞳で、ただじっとその大男を見つめ返している。


「……と、そのように大声を張り上げられましても。お弁当一個のご購入に対し、お箸を『10膳』つけろという理不尽なご要求は、マニュアル上お受けできません。──まさかお客様、そのお弁当一個を10人がかりで突っついて召し上がるわけではございませんよね?」


「な、なんだとォッ!? 10人で食うかもしれねえじゃねえか!! お前にそれが違うって分かるのかよ、あぁん!?」


レオンは男の苦しい言い訳を耳にすると、ふっ、と鼻で笑うように口元を歪めた。


「──その、見るからに強欲そうな醜いお身体で?」


「てッ……てめええええええええええっっっっ!!!!!」


レオンの容赦のない直球の煽り文句に、大男の怒りが完全に限界を突破した。

男は丸太のように太い両腕を強引に伸ばすと、レジカウンターを乗り越えてレオンの首元を目がけて掴みかかった。


「てめえのその生意気な細い首を、今すぐ根元からへし折ってやるよ!!」


男の剛腕が、ガッチリとレオンの首を締め上げる。


「レオンッッ!!!」


俺は通路から思わず叫び声を上げて駆け寄った。

──しかし、当のレオンは首を絞められているというのに、まるで蚊に刺されたかのように涼しい顔をしたままだった。


次の瞬間、大男の顔が劇的な苦悶にグニャリと歪んだ。


「がっ……あ……っ!?」


レオンは表情一つ変えないまま、自分の首を絞めている男の太い両腕を片手でそれぞれ掴むと──そのまま雑巾でも絞るかのように、あり得ない方向へと一気に捻り上げたのだ。


ボキボキボキボキッッッ!!!!!


店内に、肉と骨が凄まじい音を立てて破壊される耳障りな生々しい音が響き渡る。


「ぐわぁぁぁあああああああっっっっっ!!!! 痛ぇ、痛ええええ!! は、離せっ、離してくれえええっ!!!」


大男が悲鳴を上げる中、レオンは軽やかな身のこなしでカウンターをひらりと飛び越え、男の背後へと回り込む。そして、逃げようとする男の両腕を、さらに背中側へとあり得ない角度までバキバキと力任せに強制労働のごとく捻じ曲げた。


「ひぃィィッ、許して……っ! 許してください、俺が悪かったです……っっ!!」


大男は痛みのあまり床に膝をつき、大粒の涙と鼻水を流しながら必死に許しを請う。

そんな男の後頭部を見下ろしながら、レオンはゾッとするほど美しく、凍り付くような残虐な笑みを浮かべて耳元でささやいた。


「さあ……どうしようか。このままお前の四肢を全部逆方向にへし折って、レジ袋の中にぐちゃぐちゃに丸めて詰め込んでやろうか?」


完全にガチのトーンだった。

あまりの恐怖の光景に硬直していた俺だったが、このままでは一号店のレジ前が殺人現場(あるいは解体現場)になってしまうと慌てて割って入る。


「レ、レオン!!! やめろ!!! ストップだ!!! それ以上はさすがにやりすぎだ!!!」


ギロッ……!!!


レオンの血走った魔物の瞳が、獲物を邪魔された怒りそのままに俺を鋭く睨みつけてきた。

(ひぃっっ……! やばい、完全に目がイッちゃってるじゃないか、これ次は俺の番だろ……っ!)


チリリリリリリンッッッ!!!!!


その最悪のタイミングで、静まり返った店内に、レジカウンターの店の電話の呼び出し音がけたたましく鳴り響いた。


俺はレオンから目を離さないように細心の注意を払いながら、すっと手を伸ばして受話器を取り、耳に当てる。

「は、はいっ! ローソン一号店の間宮ですッッ!!」


『あれ〜? マモル? 今、本部の配送トラックの護衛任務中じゃなかったの?』


「り……リゼッタ……ッッ!!?」


受話器の向こうから聞こえてきたあまりにも場違いな聖母の声に、俺は素っ頓狂な声を上げた。


『ちょっとね、今日から夜勤に入ったレオンの様子がなんだか気になっちゃって電話してみたの。今、レオンは近くにいる?』


「あ、あああ!!! いる!!! すぐ真横にいるから、今代わるよ!!!」


俺は命綱を見つけたかのような勢いで、睨みつけてくるレオンの顔の前に受話器を突き出し、「リ、リゼッタからだ!!」と叫んで手渡した。


その瞬間だった。


バキィッッ!!!


「ギャァアアンッ!?」


レオンは俺から受話器を受け取るコンマ一秒の刹那、足元で泣き叫んでいた大男の脇腹を容赦ないローキックで蹴り飛ばし、自動ドアの向こうの遥か遠くの夜の闇へとゴミのように蹴り出し、即座に受話器を耳に当てた。


「──あ、姉さん? うん、うん、大丈夫だよ。僕ならマモル店長の指導のもと、真面目に、ちゃ〜んとお店番できてるから安心して……。うん、うん、分かったよ。姉さんも早く寝るんだよ?」


大男を蹴り飛ばした足のまま、レオンの口からは、今さっきまで男を丸めようとしていたとは思えないほどの、甘く優しい極上のブラコンスマイルと聖人ボイスが垂れ流されていた。


そのまま電話を優しく切ると、レオンは受話器をフックに戻し、ゆっくりとこちらを向いた。その顔からは、一瞬で先ほどの聖人の光が消え去り、元の死神の瞳に戻っている。


「……マモル店長。売り場のことは僕が完璧に『処理』しておきますから、店長は早く、バックヤードの任務に戻られた方がいいんじゃないですか?」


「あ……あはは、あ、ああ……! そうだな、そうするよ……!」


俺は引きつった声を出しながら、そそくさとバックヤードの左奥にある自分のストコンデスクへと逃げるように戻っていった。


ストコンのモニターを覗き込むと、自動追尾モードのドローンは、異世界の夜道を走る本部の配送トラックを健気に、静かに追い続けている。


「はあぁ……」


こちらの一号店の修羅場とはあまりにもかけ離れた、画面に映し出される平和で静かな夜の走行映像を見つめながら、俺は本日何度目かも分からない、魂からの深い溜め息を白く吐き出すのだった──。

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