第71話:からあげクンの次はトラック!? 執念のサカモトとリゲインの夜
色々と命の危険を伴う問題はあったものの、レオンの一連の現場研修も無事に終わり、俺はようやく一息ついていた。
レジカウンターの後ろ、ストコンの前に座った俺は、リモート画面の向こうにいる桜塚マネージャーへと新人教育の進捗状況を淡々と報告する。
「──まあ、性格に若干……いや、かなり致命的な難はありますが……。業務自体の覚えは恐ろしく早い優秀な人材なんで、これなら一号店の即戦力にはなりそうです」
俺の報告を黙って聞いていた桜塚マネージャーは、ふむ、と画面の向こうで小さく頷いた。
「それは何よりです。バンダル2号店の管理もありますからね、そちらの一号店のスタッフの拡充は我が社にとっても急務ですから」
そこまではいつも通りの冷徹な上司のトーンだった。しかし次の瞬間、桜塚マネージャーの完璧に整った美貌が、心なしか怪訝そうに曇る。
「……ところで間宮店長。一つ、本部としても非常に気になることがありまして」
「え? 何かあったんですか?」
俺が聞き返すと、彼女はストコンのキーボードを叩きながら深刻な声を出した。
「実は、来週に予定していた『ホロ・アテンダント・システム』の修理に関してなのですが……。現在、本部の特注部品を積んだ配送トラックが、そちらのエリアへ向かう途中に度重なる襲撃を受けるという事件が続いております」
「えっ!? どういうことですか?」
「言葉の通りです。不気味なことに、なぜか『ホロ・アテンダント・システムの修理キット』を積んだピンポイントのトラックのみが、待ち伏せされて執拗に襲われているようなのです」
「と……いうことは、つまり?」
「このままでは部品が届かず、ホロ・アテンダント・システムを復旧させることができません」
ガクッ……!!!
俺はその場で、ストコンのデスクに頭をぶつける勢いでうなだれた。そんなバカな。せっかくピカピカの新品ドアに取り換えて、起動を今か今かと楽しみに待っていたっていうのに!
「犯人は……犯人は一体どこのどいつなんですか!? まったく見当もつかないんですか?」
悔し紛れに俺が尋ねると、桜塚マネージャーはふぅと短いため息をついた。
「ええ。現場のガードマン魔族たちも一瞬で気絶させられており、目撃証言が極端に少ないのです。ただ、今分かっている唯一の手がかりとしては──犯人グループのリーダーらしき男が、やたらと流暢な『関西弁』を操っていたということくらいです」
(サカモトやないか〜〜〜い!!!!!!)
俺は心の中で、全力のビターンという効果音付きで特大のツッコミを炸裂させた。
間違いない、あいつだ。ダイナマイトごとミサイルで木っ端微塵に吹き飛ばしてやったはずなのに、ゾンビ並みの生命力で生き残ってやがったのか……!
「ですから間宮店長。犯人の特定、およびその脅威を完全に排除できるまでは、ホロ・アテンダント・システムの復旧は一旦保留とさせていただきます。申し訳ありませんが、お待ちください」
おいおい、ちょっと待ってくれよ! 保留なんてされたら、俺がリゼッタと二人きりでデートに行く約束が完全に消滅しちまうじゃねぇか……! っていうかまたサカモトかよ! あいつは一体何のためにこの世界に来て、何のために俺の邪魔ばかりしやがるんだ。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
俺には……俺には、リゼッタとの甘酸っぱい約束があるんだ。リゼッタと手を繋いで……リゼッタと美味しいものを食べて……リゼッタと……リゼッタと…………リゼッタと………………。
「……間宮……店長……。間宮店長……っ!」
「──間宮店長っっっ!!!」
「あっ、はいっっっ!!!」
画面の向こうからの鋭い怒鳴り声に、俺はビクゥッと身体を跳ね上がらせて直立不動で立ち上がる。
「……お願いですから、通信中にそんな気持ち悪い顔をしないでください」
桜塚マネージャーが、この世の終わりと言わんばかりの冷ややかで軽蔑に満ちた目を俺に向けていた。
……えっ、俺、そんなに気持ち悪い顔で妄想にふけってたか……?
俺は慌ててコホンと咳払いをし、気を取り直して画面の中の彼女に進言した。
「桜塚さん。だったら、俺がその配送トラックを護衛しますよ」
「……え?」
「俺の持つ全ドローンを現場へ出撃させて、空からトラックを完璧に警護します。それならサカモト──いや、犯人の奇襲にも対応できるはずです」
俺の予想外の提案に、桜塚マネージャーは少し目を見張った。
「ですが間宮店長、部品の製造工場からそちらの店舗のルートまで、トラックの足だと丸二日はかかりますよ? その間、あなたはずっとドローンの操作と監視を続けなければならない。眠る時間など一分もありませんが?」
……いや、いまさらお前が労働時間を心配するなよ、と心底思ったが、そこはグッと胃液と一緒に飲み込んだ。そして、胸ポケットからお馴染みの茶色い小瓶を取り出し、画面に向けて掲げる。
「大丈夫です。俺には……この『リゲイン』がありますから」
俺は歯をキラーンと輝かせる勢いで、カメラに向かってニカッと自信満々の営業スマイルを浮かべてみせた。
「…………きもっ。──分かりました。では、よろしくお願いします」
このアマ……!!! 今、ボソッとカメラの集音マイクに残る音量で「きもっ」ってハッキリ言い放ちやがったよな!?
……まあいい。すべてはリゼッタとの大人のデート(予定)のためだ。俺は理不尽な怒りを必死に抑え込み、プロの店長としての冷静さを装う。
「では、トラックの現在位置と配送ルートの資料をお送りしますので、すぐに目を通しておいてください。──出発は『今夜』ですので」
……めちゃくちゃ渋るような口振りだったくせに、決定した瞬間「今夜出発」とか最高に容赦ねぇなこのアマ……!!!
こうして俺は、リゲインを片手に、異世界の夜へとドローンを飛び立たせるのだった。




