第68話:ニューフェイスは姉大好きの超絶凶悪ブラコン!?
システム管理本部へのバンダル2号店オープン報告書の作成をすべて終えた俺は、ふぅと息をついて壁の時計を見上げた。
「そろそろ、リゼッタが弟を連れてくるころだな……」
俺はデスクから立ち上がり、バックヤードを出ていつもの店内へと戻る。それからしばらく待っていると、自動ドアが開いてリゼッタが若い男の魔族を一人連れて入ってきた。
「おはよう」
俺はリゼッタと、その後ろにいる彼に向けて笑顔で挨拶する。
「おはようマモル!」
リゼッタは元気にそう返すと、後ろに隠れるようにしていた弟の肩をぐいっと前に押し出して、「ほら、弟のレオンよ。レオン、みんなにちゃんと挨拶しなさい」と促した。
リゼッタに言われたレオンは、俺とアラクネに向けて小さく、品よく会釈をしてから口を開いた。
「──初めまして、リゼッタの弟のレオンです。姉がいつも大変お世話になっています。店長や皆さんにご迷惑をかけないよう、一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
そう言って、彼は白い歯を覗かせてにこっと眩しい笑顔を作った。
「おお!! かっこいいーーーっ!」
カウンターの横から、アラクネがパァァアアと目を輝かせて黄色い声を上げる。
確かにアラクネの言う通り、レオンは文句なしの超絶イケメンだった。その上、物腰も柔らかく社交的で、いかにも真面目そうだ。これは一号店の女性客受けも間違いなく爆発的に良くなるぞ、と俺は内心でガッツポーズを決める。
「俺が店長の間宮守だ。これからよろしくな、レオン君」
そう言って、俺は歓迎の意を込めて右手を差し出した。
レオンはすぐにその手を取り、しっかりと握手を交わす。
「よろしくお願いします。マモル店長!」
そう言って屈託なく笑うレオン。
おお……なんだこいつ、男の俺でも不覚にも惚れてしまいそうなほどの好青年じゃないか。
「じゃあ、レオン君。奥のバックヤードでロー〇ソンの制服を渡すから、まずはそれに着替えてくれ」
「はい!」
俺たちは売り場をリゼッタたちに任せ、二人でバックヤードへと移動した。
「レオン君は、こっちの空いているロッカーを使ってくれ。鍵は……」
そう言いながら振り返った、その瞬間だった。
「………………」
レオンの目が、信じられないほど冷たく据わっていた。
ついさっきまで売り場で見せていたあの輝かしい笑顔は完全に消え失せ、まるで足元に転がっている不快な虫けらでも見るかのような、底冷えのする蔑んだ視線が俺を真っ向から射抜いていた。
「おい……虫けら」
「えっ……!?」
あまりにも低く冷酷な声に、俺の背筋にゾクリと冷たいものが走る。
「勘違いするなよ。俺はなぁ、リゼッタ姉さんにどうしてもって頼まれたから、この薄汚い店で働いてやってるだけだ。それ以上でも以下でもない」
「えっ!? ど……どうしたの、レオン君……?」
突然の凄まじい豹変ぶりに、俺は完全に動揺して引きつった声を出す。
しかしレオンは俺の質問には一切答えず、バックヤードの室内を忌々しそうにぐるりと見回した。
「しっかし……なんて汚ねぇ部屋だ。こんな劣悪な環境のところで、あの気高く美しいリゼッタ姉さんが毎日働かされていると思うと、俺は……俺は……う、う〜……っっ!!」
「ええっ!?」
なんと、レオンは急に顔を覆ってボロポロと涙を流し、激しく泣き出してしまった。姉への愛が重すぎて情緒が完全にぶっ壊れている。
俺はおろおろしながらも、とりあえず彼の背中にそっと手を置いて、「だ……大丈夫か……?」と恐る恐る声をかけた。
だが、それがレオンの逆鱗に触れた。
バシッ!!!
「触るな愚民が!!!」
レオンは俺の手を烈火のごとく激しく振り払うと、鬼のような形相で睨みつけてきた。
そして、目にも留まらぬ速さでその細く白い手を俺の首元へと伸ばし、容赦なくへし折るような力でグググと爪を立てて締め上げてきたのだ。
「今すぐ、その薄汚い首を根元からへし折ってやろうか、あぁん?」
その顔は、先ほど売り場にいた好青年のものなどでは断じてなかった。人を害することに何の躊躇もない、狂気と残虐性に満ちた本物の「高位の魔物」そのものの表情だった。
ヒィィイイッ……!
あまりの腕力に息が詰まり、俺が本気で自分の死を覚悟した──その、まさに次の瞬間だった。
ガチャ。
「ちょっと〜、いつまでかかってるのよ。私も早く制服に着替えたいんだから、男二人でいつまで長引かせてるのよ」
リゼッタが呆れたような声を出しながら、バックヤードの扉をパッと開けて入ってきた。
そのトビラが開いたコンマ一秒の刹那、レオンは俺の首からすっと手を離し、何事もなかったかのように満面の爽やかスマイルを作り上げた。
「あ、姉さん! いやぁ、マモル店長って本当に優しくて素晴らしい人だね!」
そう言って、レオンはハハハと朗らかに笑ってみせる。
「でしょ? 見た目はちょっと頼りないけど、これでも仕事は結構できるのよ。あんたも今日から、マモルのそばでしっかりコンビニの仕事を勉強させてもらいなさい」
「うん、もちろんさ! 姉さんの言う通り、マモル店長のそばで、親切丁寧に『みっちり』と勉強させてもらうよ」
「よろしくね」
リゼッタが笑ってロッカーへと向かう。
その瞬間、俺の方をゆっくりと振り返ったレオンの顔からは、再び一切の光が消えていた。
その瞳は、逃げ場のない檻の中で美味そうな獲物をじっと見据える、鋭く獰猛な飢えた豹そのものの輝きを放っていた──。




