第67話:バンダル2号店オープン!と、新たなる「人食い」の影
バンダル2号店、ついにオープン!
俺は一号店のレジカウンターの後ろに置いたノートパソコンの前に陣取り、リモート画面から現地の状況を鋭く確認しながら、新スタッフたちへと次々に的確な指示を飛ばしていく。
事前に入念に打っておいた広告の効果が絶大だったのか、オープン前の店頭にはすでに長蛇の列が出来上がっていた。
午前7時、自動ドアが勢いよく開き、異世界の新たなお客様たちがドッと店内へ流れ込んでくる。
画面の向こうでは、俺がこれまでの経験を元に事前発注しておいた売れ筋の商品が、まるで吸い込まれるように次々と売れていった。
新しく採用した2号店のスタッフたちは、事前の面接での見立て通り全員がすこぶる優秀だった。店長である俺が現地に不在という異例の状況にもかかわらず、大きな混乱もなくお店は完璧にうまく回っている。
俺はインカムを通じて、リモートで次々に指示を出す。
「よし、そろそろ『からあげクン』の調理を開始してくれ! バックヤードにあるお弁当も、どんどん前出しして売り場に並べて! あと、棚のドリンクの補充も絶対に忘れるなよ!!」
怒濤の昼ピークをなんとか無事に終え、店内が少し落ち着いたタイミングを見計らって、俺は現地のスタッフたちを一度カメラの前に集めた。そして、午前中の営業で見えた注意点や、午後から気を付けるべきポイントについての指導を行う。
──その時、ストコンのリモート画面に桜塚マネージャーが割り込むように顔を出した。
「間宮店長、2号店のオープンおめでとうございます。午前中の売上ペース、非常に順調な推移を見せていますね」
「ありがとうございます。おかげさまで、今のところは大きな問題もなく順調です。ただ……バンダル店の客層や動向をリアルタイムで見ていまして……」
俺はただ喜ぶだけでなく、これまでの数時間で感じた2号店ならではの問題点や、この土地で特に売れる商品の傾向を細かく分析して彼女に報告した。
桜塚マネージャーは、俺のその完璧なエリア分析を、珍しく満足そうな笑顔を浮かべながら静かに聞いていた。
「さすがですね、間宮店長。今店長からいただいた貴重な改善提案は、すぐにシステムの上層部へ報告しておきます。それでは、引き続きよろしくお願いしますね」
そう言って、桜塚マネージャーは満足げにリモートを退出していった。
「ふぅ〜……っ」
画面が切れた瞬間、俺は椅子の背もたれに体を預けて大きなため息をついた。
何はともあれ、これで新店のオープンは無事に成功と言っていいだろう。これからは、この一号店とバンダルの二号店を、離れた場所からいかに効率よく同時管理していくかの方法を本格的に考えないとな。
俺は二号店のスタッフたちに「少し休む」とインカムで伝えてリモート画面を閉じ、パソコンを閉じて店内へと戻った。
売り場では、アラクネとリゼッタが心配そうな表情で俺の顔を覗き込んできた。
「マモル、どうだった……?」
「まあ……なんとかなりそうだな。初日の滑り出しとしては上出来だよ」
「そう……! よかったわね、本当におめでとう!」
リゼッタは我がことのように嬉しそうに、心から安心したような可愛い笑顔を咲かせた。
「ありがとな。でもさ……これから二号店の遠隔管理もしなきゃいけないとなると、正直、こっちの一号店のスタッフがもう一人くらいは欲しいところなんだよな。二人とも、誰か真面目に働いてくれそうな知り合いって異世界にいないかな?」
「あ、いるよ!」
俺の問いかけに、アラクネがパァッと目を輝かせて元気に手を挙げた。
「本当かアラクネ! どんな奴だ?」
身を乗り出す俺の前で、アラクネは自分の指を一本ずつ折りながら、何故かもの凄く自信満々な表情で答えていく。
「えーーーとね、一人目は『マグマの谷』の底に住んでる、人食い大蛇のボアボアでしょー。二人目は『死の谷』に住んでる、人食い怪鳥のコカトリス先輩でしょー。それからね……」
「ちょちょちょ! アラクネ、ストップ! もういい、もう十分だ!!!」
慌てて俺が制止すると、アラクネは「どうして?」と不思議そうに小首をかしげている。
出される名前がどいつもこいつも『人食い』のオンパレードじゃねえか! そんな凶悪な連中を雇って、この一号店を俺の棺桶(エサ箱)にするつもりか……っ。
そんな俺たちの押し問答を苦笑いしながら見ていたリゼッタが、ふと思いついたように口を開いた。
「ねえ、それなら……私の弟なんてどうかな?」
「お前、弟なんかいたのか?」
「うん。年齢も確かマモルと同い年のはずだから、色々と話も合うんじゃないかなって思ったの」
「マジか……! それは本当に願ってもない申し出だ! ちょうど売り場の力仕事も任せられる、若い男のスタッフが欲しかったんだよ。リゼッタ、よかったら弟さんに頼んでみてもらえるか?」
「いいわよ。今日お店が終わって家に帰ったら、私から本人にお願いしてみるね」
「ありがとう、助かるよ!」
──この時のリゼッタの提案を、のちに俺がどれほど激しく後悔することになるのか……。
しかし、ただの引きこもり店長である今の俺には、知る由もなかったのである。




