第62話:店長、怒濤の面接と深夜のやけ食いパーティー
「ねえアラクネ、マモルは〜?」
リゼッタは、カウンターの横で保温什器から『からあげクン』を勝手につまみ食いしているアラクネに向かって尋ねた。
「……ん、めいしぇつ(面接)してるよ」
アラクネはもぐもぐと口を動かし、そう言ってさらに次のからあげクンをポイと口の中に放り込んだ。
「あんたさぁ〜、そうやっていつも売り物の商品を勝手につまみ食いしてるけど、いい加減マモルに本気で怒られるわよ?」
「大丈夫……。店長、アラクネには優しいから」
「あっそ」
リゼッタは呆れたように息を吐くと、アラクネが手に持っていたからあげクンのパックから一個を素早く奪い取り、自分の口へと放り込んでそのままバックヤードの奥へと歩いていった。
「あーっ! アラクネのからあげクン……っ!」
背後でアラクネが口を尖らせて何か文句を言っているが、リゼッタは気にせず進む。
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バックヤードの面接スペース──。
「──はい。それでは、これで本日の面接を終了とさせていただきます。合否の通知につきましては、また後日ご連絡いたしますね」
「ふぅ〜……っ」
本日最後の応募者をバックヤードから売り場へと送り出した俺は、椅子の背もたれに体を預けて大きく伸びをし、立ち上がった。
今日は本当に地獄だった。朝からシステム管理本部の桜塚マネージャーによる地獄のリモート研修をみっちり3時間。それが終わったと思ったら、休む間もなく新店舗の求人に集まってきた異世界の応募者10人が、この1号店のバックヤードへと次々に面接を受けにやってきたのだ。部屋へ代わる代わる入ってくる魔族たちを相手に、連続で10人の面接をこなし、気がつけばもう夕方だ。
そこへ、売り場からリゼッタがトビラを開けて入ってきた。
「マモル〜、面接は終わったの?」
「ああ……。たった今、ちょうど全員分が終わったところだよ」
「本当に新しいお店をオープンするのね」
「そうなんだよ。本社の……いや、システムの上層部から急にそんな話を振られちゃってさ」
「これからもっと忙しくなるわね……。でも……マモルは、どこかへいなくなったりしないわよね?」
リゼッタが少し不安そうな、寂しそうな瞳で俺を見つめてくる。
「あ……ああ、大丈夫だよ。俺はこの1号店のバックヤードから物理的に出られない仕様だからな。バンダルにできる2号店へは、ここからストコンを使って遠隔で指示を出して店舗運営をするんだ」
「そう……! なら安心したわ。マモル、少し休んだら? お店のほうは私とアラクネで何とか回せると思うし」
「ありがとう, リゼッタ。それじゃあお言葉に甘えて、ちょっとだけ休ませてもらうよ」
俺はリゼッタに感謝を伝えると、バックヤードの自室へと移動し、泥のようにベッドへと倒れ込んだ。
「なんか……話がどんどん大きくなっていくな……」
天井を見つめながらぽつりと思う。
ただの引きこもりニートだったこの俺が、異世界で多店舗経営のオーナーになるなんて。……っていうか、俺は一応オーナー(店長)のはずなのに、なんで本部の人間(桜塚麗香)にあんなに偉そうに命令されなきゃならないんだ?
そんな小さな疑問が頭に浮かぶが、ここは異世界、日本の常識が通用しない世界だ。
心地よい疲労感に包まれながら、俺の意識は次第にウトウトとし、やがて深い眠りへと落ちていった。
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「──って、やばっっっ!!!」
俺はガバッと跳ね起き、掛け布団を引ったくってベッドから飛び降りた。
ちょっと横になるだけのつもりが、一体どれだけ眠ってしまっていたんだ。
俺は慌てて身なりを整え、バックヤードから売り場へと飛び出した。
カウンターの中では、リゼッタがちょうど新しく揚がったからあげクンを什器へと補充しているところだった。
「ごめんリゼッタ! すっかり寝過ごしちゃったみたいだ!」
「あら、起きた? 相当疲れが溜まっていたみたいね、ぐっすりだったわよ」
「ああ……ここ最近、本当に色々なことが一気に起きたからな。でも、たっぷり寝かせてもらったおかげで完全に復活したよ! ほら、もうバッチリ!」
俺はそう言って、細い腕でグッと力こぶを作って見せた。
「あははは! 相変わらず頼りない細い腕ね。でも、元気そうで何より。私はもう時間だから帰るわね。パパが門限を1分でも過ぎるとうるさいのよ」
「おう、今日も手伝ってくれてありがとうな。気をつけて帰れよ」
リゼッタを見送り、ふぅと息をついたその瞬間だった。
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ!!!
レジの画面から、あの忌々しいストコンへの呼び出し警告音が響き渡る。
「はいはい、ただいまお呼びでしょうか……っ」
俺は慌ててバックヤードへと引き返し、ストコンの前の椅子へと滑り込む。
エンターキーを押すと、画面にリモート映像が繋がり、ビシッとスーツを着こなした桜塚マネージャーが冷徹な表情で顔を出した。
「2号店のオープン準備は順調ですか、店長?」
「あ、はい。まあ……今のところは、なんとか順調に進んでいます」
「それは結構。ところで、今日そちらのバックヤードで面接した応募者たちから預かった、履歴書データですが……。まだこちらのシステムにファックスで届いていないようですが?」
「あ……」
完全に忘れてた。面接が終わった安心感で、預かった履歴書の束を机の上に置きっぱなしにしていた。
「す、すみません! 完全に失念していました、今すぐファックスで送ります!」
俺が青ざめて平謝りすると、桜塚マネージャーは眼鏡の位置をクイッと直しながら、氷のような冷たい声でピシャリと言い放った。
「しっかりしてくださいよ。バンダル新店のオープンまで、もうそんなに日は残されていないんですからね?」
「はい……」
「明日も朝9時からリモートでのエリアマネージャー研修がありますので、絶対に遅れないようにお願いします。以上です」
ブツッ。
用件だけを一方的に告げると、リモート映像は無慈悲に真っ暗な画面へと戻った。
「あーーーーーもう……っ! なんだよこれ、魔界にいるはずなのに、やってることが完全に日本のしがないサラリーマンじゃねぇか……っっ!!」
頭をガシガシと掻きむしった俺は、この溜まりに溜まったストレスを爆発させるべく、大声で相棒の名前を呼んだ。
「アラクネーーーーーっ!!!」
「はーい? どうしたの店長?」
売り場からトコトコとアラクネが顔を出す。
「なんかもう、もの凄くストレスが溜まっちゃったからさ! 今日は店にある美味いもので、深夜の『やけ食いパーティー』を開催するぞ!!! 好きなデザートでもホットスナックでも、何でも好きなだけ棚から取ってきていいぞ!」
俺がヤケクソ気味にそう宣言すると、アラクネは一瞬でパァァアアと目を輝かせた。
「やったぁぁあーーーーーっっっ!!!」
アラクネは歓喜の声を上げると、目にも留らぬ蜘蛛のステップで売り場の商品棚へとダッシュで戻っていった。
「はぁ……まあ、なるようにしかならないか」
俺は自分にそう言い聞かせて苦笑いしながら、両手いっぱいに大好物のおにぎりやスナックを抱え込んでいるアラクネの後を、楽しげに追いかけるのだった。




