第60話:店長、揺れる心と日常の愛おしさ
俺はドローンを店へと帰還させ、何食わぬ顔でいつものコンビニ業務へと戻った。
だが……手先はレジや商品を動かしていても、俺の頭の中では、今日サカモトのコンビニ(セ〇ン)で起きたあの不可解な出来事が、終わることなくぐるぐると回り続けていた。
──店舗ごと、光の粒子となって消える転移システム。
一体どんな原理でコンビニを転移させたのか、その具体的な方法は今の俺にはわからない。だが、あの光景は、間違いなく俺がこの異世界に店舗ごと連れてこられた初日のあの出来事と、全く同じ現象だった。
あの時も、突如として眩しい光に包まれた俺は、一瞬のうちにこの魔界へと拉致されたのだ。しかし、サカモトの野郎は一体なぜ、こんな大掛かりなことを仕組んだのだろうか。
それに……もし本当にサカモトがこの世界に俺を連れてきたのだとしたら。
それはつまり、アイツを問い詰めれば、俺を元の日本へと戻すことも可能だということなんじゃないのか……?
そんなことを考えているうちに、あっという間に営業時間は過ぎ去り、業務を終えた俺はバックヤードのベッドへと勢いよく飛び込んだ。
「あー……今日は本当に疲れたな……」
仰向けになり、薄暗い天井をぼんやりと眺めながら再び思考の渦に沈む。
もしも……もし本当に、元の世界に帰れる方法があるのだとしたら。
俺は……日本に帰りたいのだろうか?
あの世界の光景が頭をよぎる。両親の顔、チサの顔、そしてかつて学校で付き合いのあった友達の顔が脳裏を点滅する──。だが、その直後に、すぐさまリゼッタやアラクネ、そしてアンナちゃんの笑顔が頭いっぱいに浮かび上がってきた。
(俺……なんだかんだ言って、この魔界でのコンビニ生活に、人生で一番の充実感を感じているのかもしれないな……)
俺は右腕を顔にのせて両目を覆い、これ以上考えるのをやめるように脳へ無理やり指令を出した。そうして俺は、深い深い眠りの中へと落ちていった。
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翌朝──。
顔のあたりに、なにやら『ぷにぷに』とした柔らかくて温かい感触を覚え、俺は目を覚ました。
「うわぁっっ!!!???」
視界に入ってきた異変に、俺は叫び声を上げてベッドから飛び起き、大慌てで掛け布団を思い切りめくった。
そこには──アラクネが小さな身体をきゅっと丸め、まるで猫のようにすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
急に布団を剥ぎ取られたアラクネは、眩しそうに眠い目をこすりながら、不満げに口をとがらせる。
「店長〜……。布団取らないでよぉ……」
「馬鹿野郎! 何度言ったらわかるんだ、俺のベッドに勝手に入ってくるなっていつも言ってるだろ! またリゼッタに見つかって誤解されたらどうすんだよ!」
朝っぱらから俺に激しく怒鳴られたアラクネは、首をすくめて少し寂しそうな表情を浮かべながら、ぽつりと呟いた。
「だって……。なんか昨日、店長が遠くへいなくなっちゃうような気がしたんだもん……」
「っ……」
アラクネのあまりにも鋭すぎる一言に、俺の心臓が瞬間的にドキリと大きく跳ね上がった。
俺は慌てて洗面台の鏡の前に立ち、自分の顔をチェックする。
「顔には……別に何も書いてないよな……」
野生の勘なのか、蜘蛛の女王の直感なのか。アラクネの言葉に冷や汗をかきながら、俺はバンバン!と両手で自分の両頬を強く叩いて気合を入れた。
今はいくら一人で悩んで考えたところで仕方のないことだ。いずれ機会が来たら、サカモトの野郎の胸ぐらをつかんで直接すべてを吐き出させることにしよう。
そのためには、今はとにかくコンビニレベルをさらに上げて店舗を強化し、サカモトとの全面戦争に備えなければならない。
ピロリロリーン……。
いつも通り軽快な入店音が店内に響き、自動ドアからリゼッタが入ってきた。
「あ、リゼッタ。……体調はもう良くなったのか?」
「うん、マモル。ありがとう。昨日一日ぐっすり寝たら、すっかり良くなったみたい」
「そうか。それは良かったな」
ホッとした俺はそう言葉を返し、いつものレジカウンターのポジションへと戻る。リゼッタは制服に着替えるために「それじゃ」と言ってバックヤードの更衣室へと消えていった。
「んんんん〜〜〜〜っっっ!」
俺は両腕を高く突き上げて大きく伸びをしながら、ガラス窓の向こうの外の景色を見つめた。
魔界の空は、今日も突き抜けるような快晴だ。
よし。今日も一日、気合を入れて仕事をがんばりますか!




