第58話:店長、仁義なき空爆と報復の狼煙
サカモトが経営するコンビニの場所は、以前視察に行ったことがあるから、おおよその位置はすべて頭に入っている。
俺はストコンの画面を睨みつけ、ドローンをサカモトの待つ店舗へと向けて一直線に飛ばした。
レベルアップにともなう基本性能の向上により、以前よりも格段に飛行スピードの増したドローンは、風を切り裂きながら軽快に赤黒い荒野を進んでいく。
「以前よりもスピードは格段に上がっているな……。これなら、向こうのコンビニに着くまでの時間は、以前の半分くらいか」
俺はドローンの巡航ルートを一度自動操縦に切り替えると、頭からゴーグルを外した。そしてバックヤードの棚からおもむろにジュースとパンを取り出し、操作机の上へと置く。
パンの袋をガサゴソと開けて大きくかぶりつく。ストコンに表示されるレーダーの映像を横目でチェックしながら、冷たいジュースでパンを胃袋へと一気に流し込んだ。
しばらくの間は、画面の向こうに代り映えのない荒涼とした岩肌の景色が続いていたが、やがて、前方の地平線にそれらしいコンビニの建物がうっすらと見えてきた。
「よし、来たな……」
俺は再び操作ゴーグルを頭から深く被り、自動操縦をオフにして完全な手動操作へと切り替える。
「ひひひひひひ……見てろよサカモトぉ〜……っ」
俺はバックヤードの暗がりのなかで、いかにも悪役らしい下衆な笑い声をあげながら、目の前の画面を食い入るように見つめた。
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同時刻──『セ〇ン』。
こちらでは、すぐ近くまでマモルの科学力の脅威が迫っているとも知らず、妖精のモカがいつも通りだらだらと、やる気のない様子でレジ打ちの仕事をこなしていた。
「フンっ」
モカは無表情のまま、不機嫌そうに商品の袋を客へと手渡す。
昼時ということもあって、モカの前にはすでに何人もの客の列ができていた。少しの時間も惜しい休憩中の客たちは、モカのあからさまにちんたらとしたレジ打ちの遅さに、あからさまなイラつきを覚え始めていた。
「おい、ねえちゃんよぉ〜! もう少し早くしてくれねぇか? こんなに待たされたんじゃ、俺たちの貴重な昼休憩が終わっちまうよ!」
列の途中に並んでいた一人のおっさん(魔獣)が、ついに我慢の限界を迎えたらしく、モカに対して苛立ちの声をぶつけた。
その瞬間、モカの表情がピキッと変わった。
「あぁん!? ……いま、お前なんつった?」
モカは手元にあった商品をレジカウンターの上へと乱暴に叩きつけ、小さな身体でその巨体のおっさんを激しく睨みつけた。
言われたおっさんも負けてはいない。
「お前がちんたら、ちんたら仕事してやがるから言ってんだろうが! こっちは短い休憩時間を使って買い物に来てんだよ。つべこべ言わずにさっさと手を動かせよ!」
おっさんの言葉を聞いたモカの目は、完全に光の消えた死んだ魚のようになり、おっさんの顔を正面からじっと見つめた。
「へぇ……。おまえさ、そんなに休憩が必要なほど、普段まともに仕事してんのか? どう見たって、お前が仕事のできる優秀な奴には見えねぇぞ!?」
「な、なんだとぉっっ!?」
おっさんは侮辱されたことに顔を真っ赤にして激怒する。
「おまえみたいな〇〇〇────ん────っっっ」
モカが口にするのも憚られる最悪の禁止用語を大声でぶちまけようとした、まさにその時だった。
「はいはい、えろーすんまへん!」
どこからともなく突如として現れたサカモトが、素早い動きでモカの小さな口をガシッと手で押さえ込むと、そのまま自分が着ているベストのファスナー付き胸ポケットの中へと強引に押し込んだ。
サカモトはへらへらと愛想笑いを浮かべながら、手慣れた見事な手つきで残りのレジを瞬く間にこなしていく。あっという間に、店内にできていた行列は綺麗に解消されてしまった。
客がハケたのを見届けたサカモトが、胸元のファスナーをチリチリと開けると、中から不満げなモカがひょこっと顔を出した。
「モカはん。大切なお客さまとケンカしたらあきまへんで〜」
サカモトはそう言って、モカを指先でつまみ上げると、売り場へとポイっと投げた。
モカは空中で羽をバタバタと必死に羽ばたかせて着空すると、サカモトに向かってぺこりと頭を下げた。
──その、まさに直後のことだった。
キィイイイイイイイン!!!!
店の外から、強烈な光を放つ『何か』が、セ〇ンの自動ドアめがけて凄まじい速度で飛来してきた。
「ッ!?」
その異常な駆動音を瞬時に察知したサカモトは、近くにいたモカの身体をガシッとキャッチャーミットのように受け止めると、そのままレジカウンターの裏へと全力でうずくまり、頭を抱えて隠した。
直後、光を放つ物体は頑丈なガラスの自動ドアを派手に破壊して店内に侵入し、中央の商品棚へと正面衝突──そのまま凄まじい大爆発を引き起こした。
ドガアアアアアアアン!!!!!
けたたましい爆音とともに激しい爆炎があたりを包み込み、店内には一瞬にして真っ黒い煙が充満していった。
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「いよっしゃぁああああああのワァアアアア!!!!!」
バックヤードのストコンの前で、俺はガッツポーズを決めながら割れんばかりの叫び声をあげた。
「サカモトぉ〜〜〜〜!! どうだコラ!? 俺の特製ドローンミサイルの味は……っ! 舐めるなよ、こんなもんじゃ到底終わらせねぇからな……っっ!!」
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セ〇ンの店内──。
煙が立ち込めるボロボロになったレジの裏から、サカモトがゆっくりと立ち上がった。
男は割れたガラスの向こう、魔界の空で不気味にホバリングしている俺のドローンを鋭い眼光でにらみつけ、
「おうおう、マモルはん……。……やってくれるやないけ」
そう呟くと、口元を獰猛に、にやりと歪めて不敵に笑った。
俺とサカモトの、プライドをかけた『仁義なき戦い』は、こうして盛大に幕を開けたのである。




