第57話:店長、静かな怒りと反撃の翼
レオナルト襲撃事件から、数時間──。
俺は襲撃の衝撃と気絶から覚めたばかりの疲れた体に鞭打って、荒らされた店内の片づけに追われていた。
棚から落とされた商品を集めていると、アラクネが本当に申し訳なさそうな顔をして、隣から俺の様子を窺ってくる。
「店長……ごめん。アラクネ、梅おにぎりに騙された……」
落ち込む彼女の姿を見て、俺はアラクネの頭をごしごしと力いっぱいなだめながら、苦笑交じりに声をかけた。
「しょうがないよ。アラクネは梅おにぎりが大好物だもんな。……で、そのおにぎり、うまかったか?」
俺がそう尋ねると、アラクネは一瞬でパッと顔を輝かせ、満面の笑みになって元気よく答えた。
「うん!」
……なるほど、西の国で流通しているという『セ〇ン』の梅おにぎりも、やっぱり侮れないってことか。
そんな呑気なことを考えていると、自動ドアが勢いよく開き、リゼッタが息を切らせて店内に駆け込んできた。
床に座り込んで片付けをしている俺の姿を見るなり、彼女は心の底から安堵したような表情を浮かべ、そのままその場にペタンとへたり込んだ。
「よかった……っ。マモルが急に、目の前で光の粒子になって消えちゃうんだもん……本当に心配したんだから……っっ」
そう言うリゼッタの大きな瞳には、みるみるうちに涙がたまっていった。
「ごめんな……。でも、リゼッタが機転を利かせてアラクネにすぐ電話してくれたおかげで、なんとかトドメを刺される前に間に合ったみたいだ。二人とも、本当にありがとな」
俺は申し訳なさと感謝を伝え、バックヤードの方を見つめてため息をついた。
「だけど……カプセル、ひどい壊され方しちゃってたんだ。もう『ホロ・アテンダント・システム』は使えそうにないよ」
「そっか……しょうがないね……」
俺の説明を聞いたリゼッタは、楽しかったデートの余韻を惜しむように、どこか寂しそうにポツリと言った。
それから三人で夜遅くまで協力して店のかたづけを終わらせ、その日はお互いの無事を噛み締めながら、そのまま泥のように眠りについた。
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翌朝──。
いつも通り出勤してきたアンナちゃんは、昨夜の激しい戦いの爪痕がうっすらと残る店内を物珍しそうに眺め回しながら、ニヤニヤと楽しそうに俺に近づいてきた。
「店長さん……もしかして、リゼッタちゃんと大ゲンカでもしたの?」
どこか期待するような、嬉しそうな声で聞いてくるアンナちゃんに対し、俺はブンブンと激しく首を横に振った。
「ち、違うよ! ケンカなんかしてないって! 昨日はいろいろと、本当に大変なことがあってね……」
「な〜んだ、残念。てっきり私にも、店長さんを独り占めするチャンスが回ってきたのかと思ったのに」
そう言ってクスクスと笑うアンナちゃん。……まったく、夜の女は本当に怖い。今のが本心なのか、それともただのからかい嘘なのか、俺の恋愛経験値では全く判別がつかない。
とりあえず、バックヤードで寝ているアラクネが起きてくる前に、だらしなく伸び切った鼻の下を元の位置へと戻しておこう。
ちなみに、今日はリゼッタのシフトは休みだ。昨日の今日だし、精神的にも肉体的にもいろいろあって疲れたんだろう。
それに……好都合だ。今日のところは、彼女がお店にいない方が俺にとっては動きやすかった。
俺は自分の胸の奥底で、昨日から絶え間なく沸々と沸き起こっている、かつてないほどの激しい怒りの炎をじっと抑え込んでいた。
レオナルト……。そして、裏で糸を引いているサカモト……。
俺の店をメチャクチャにして、仲間を危険にさらして、タダで済むとおもうなよ。この俺が、いつまでもやられっぱなしのままでおとなしくしていると思うな。
「アンナちゃん、売り場をお願い」
「はーい、いってらっしゃーい」
俺はアラクネとアンナちゃんに店を任せると、静かにバックヤードの一室へと入った。
ストコンの正面にドカッと腰掛け、画面を開いて『ドローン』の出撃準備を始める。
コンビニレベルが『25』になった時のレベルアップ報酬──大幅に強化されたドローンの、真の進化をアイツらに見せつけてやる時が来た。
俺は画面上でドローンの最新装備のステータスを入念に確認し、起動スイッチをONにする。そして、網膜に映像を直接投影する専用の操作ゴーグルを頭から深く被った。
「引きこもりを本気で怒らせると一体どうなるか、その身にトクと味わせてやる……っ」
俺の凄まじい執念と怒りの思いを乗せ、バックヤードの専用ハッチから出撃したドローンが、魔界の不気味な赤黒い空へと向かって力強く飛び立った。




