第51話:店長、怪我の功名と初めてのデート
「で? この装置を使えば、外に出ることができるって事?」
俺は装置の前で、神妙に正座をして座っている。
対するリゼッタは、どこからか持ってきたパイプ椅子にどっかと腰掛け、足を組み、腕組みをして冷たい視線で俺を見下ろしていた。
「……なんで私たちに教えないの?」
「え〜・・・・と……特に理由はございません」
本当に? と言わんばかりのリゼッタの鋭い視線が、俺の目の奥から心の奥底までを容赦なく見透かしてくる。
俺はそのプレッシャーに耐えきれなくなって、ぼそりと小さな声で白状した。
「……『来夢来人』に行こうと……思って……」
「なに? 聞こえないんだけど!!!」
「ひー!!」
リゼッタに一喝されて、俺は背筋をピンと伸ばして直立不動になる。
「『来夢来人』に行こうと思ってました・・・・はい・・・すみません!」
「ちっ!」
リゼッタの容赦ない舌打ちに、部屋の温度が確実に10度は下がった気がした。
「お店に行って、アンナちゃんにエッチなことをしようと思ったって事ね?」
「いやいやいや! お店に行って、挨拶だけして帰ろうと思っただけです!」
俺は全力で首を振って否定する。
この絶望的な空間から一刻も早く脱出したい……。そうだ、話題をなんとか『来夢来人』からそらそう。
「そ……そうだ……っ! リゼッタ。せっかくこうして外に出られるようになるんだ。今度、一緒に弁当でも持って、ピクニックにでも行かないか?」
その瞬間、リゼッタの目の奥が少しだけ輝いたように見えた。
リゼッタはパイプ椅子から身を乗り出し、俺の顔に自分の顔をぐっと近づけてくる。
「いいわよ。あなたが行きたいなら、行ってあげる……。そうねぇ、明後日にしましょう。私はシフトに入ってないし、午前中はアンナちゃんがシフトに入ってるでしょ? 朝から出てお昼ご飯を食べて、夕方に帰ってくれば大丈夫でしょ」
「お……おお。そうしよう」
思ったよりもはるかに食い気味に計画を立ててくるリゼッタに多少驚いたが、こんなにかわいい子とピクニックに行ける機会なんてそうそうない。
これが世に言う『怪我の功名』ってやつか……。俺はそんなことを思いながら、内心でニヤニヤとしていた。
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約束の日。俺は朝からどうにもそわそわしていた。
バックヤードの鏡の前で、入念に身だしなみを整える。よし、今日はちゃんと服を着ている。(設定になっている)。
着ているのは、この異世界に来た初日に着ていた私服だ。深夜にコンビニへ行く用のラフな格好だから、お世辞にもおしゃれとは言えないが、コンビニの制服よりはマシだろう。今度は街に買い物にでも行って、私服でも買ってこようか。
そんなことを考えていたら、店内にピロリロリーンと軽快な入店音が鳴った。
リゼッタか? 俺は急いで売り場へと戻る。
そこには──夏物のかわいい白いワンピースを着たリゼッタが、はにかんだ笑顔で恥ずかしそうに立っていた。
「か……可愛い……」
あまりの眩しさに、思わず心の声がそのまま口から漏れてしまう。
「な、何言ってんのよ……っ!!」
リゼッタは顔を真っ赤に染め上げながら、俺の肩を思いっきりひっぱたいた。
いつもならバックヤードのテーブルを破壊するほどの激痛が走るはずなのだが、不思議と今回は全く痛みを感じなかった。なるほど、ホログラフの実体モードでも、こういう衝撃はカットしてくれるらしい。
「……行こうか」
「うん」
リゼッタはうつむき加減にそう言うと、俺の後ろをトコトコとついてくる。
自動ドアが開き、俺は一歩、外へと踏み出す。
その瞬間、俺の脳裏に、あの異世界初日に味わった「一瞬で干からびそうな灼熱地獄」の記憶がよみがえった。
(頼む……コンビニの科学力よ! 五感が同期しているのに、外の暑さは感じない……そんな都合のいい展開を俺にくれ……っ!)
俺は心の中でコンビニの神様に必死に祈りながら、一歩、また一歩と外の地面を踏みしめる。
……なにも……感じない。熱くないぞ!
俺はガッツポーズをキメた。
「神よ……コンビニの神よ……! ありがとうございます……!」
俺は手を組み、空を仰いで涙ぐみながら祈りを捧げた。
すると後ろから、リゼッタが俺の腕に自分の腕をぎゅっと絡め、無理やりぐいっと引っ張った。
「何やってんのよ! 行くわよ!」
「ああ!」
引きこもり生活、3年と10か月。
俺はついに、引きこもり生活「初」となるデートへと出発したのだった。




