第50話:店長、レベル25の恩恵と光のアバター
異世界にも四季はあるようで、俺がこの世界に来てから初めての夏が訪れた。店の商品もそれに伴い、夏用のラインナップが充実してくる。
とはいえ、コンビニに絶賛引きこもり中の俺には、あまり関係のない話だが……。
だが、コンビニレベルも順調に上がり、先日ついにレベル『25』になった。
レベル25による特典は──。
ドローンの性能向上、店舗の拡張、仕入れ商品の拡充、Wi-Fiの強化、そして……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ウィーンと自動ドアが開き、入店してくる客がみな一様に額から滝のような汗を流している。
「外は相当暑そうだな……」
俺はレジカウンターの中から、だれに言うでもなく外の燃えるような景色を見ながらひとりごとを言った。
ちょうどその時、バックヤードからアンナちゃんが着替えを終えて出てくる。
「店長さん、お先〜」
アンナちゃんは軽く手をあげてそう言うと、そのまま店の外へと出て行った。もともと衣服の限界に挑むような薄着のアンナちゃんだが、夏はさらに彼女を開放的にするようだ。そのボディコンに包まれた豊満なヒップを視線で見送り、俺は店内に視線を戻す。
「あ〜、退屈だ」
異世界引きこもり生活にもすっかり慣れたが、一歩も外に出られない環境に、さすがの俺もいい加減退屈していた。
やがてリゼッタが出勤してくると、俺はレジの操作と店舗の管理をアラクネとリゼッタの二人に任せ、足早にバックヤードの一室へと向かう。
その部屋は、今回のレベルアップにともなう店舗拡張で新たに作られた部屋だ。
「ふふふ……ふふふ……ふははははっははっはは!」
部屋の前に立つと、俺はもう笑いを抑えることができなかった。
部屋の中央には、近未来的な輝きを放つカプセル型の巨大な装置がドンと鎮座している。
──『ホロ・アテンダント・システム』──
日本が誇る最新鋭コンビニにふさわしい、超ハイテク最新機器。
視覚・聴覚・触覚が完全同期した、驚異のホログラムシステムだ。
つまり、この装置を使いこなせば、俺はコンビニに安全に引きこもりながらにして、外の世界を自由に散策することができるようになる。
念願だったアンナちゃんのスナック『来夢来人』に通うことだってできるってわけだ。しかも……あのダイナマイトボディを……。
いかんいかん。俺は垂れそうになったよだれをシャツの袖で慌てて拭きながら、身を引き締める。
ただ、調子に乗る前に注意も必要だ。
五感に完全同期するシステムなので、例えば外でリゼッタに殴られたら当然のごとく痛い。ましてや、あのサカモトやレオナルトのようなサイコ野郎につかまって拷問部屋にでも連れていかれようものなら、本体の脳にそのまま地獄の苦しみが伝わることになる。
まあ、そこは緊急時の回避策もある。
実体モードをOFF(脳内で念じることにより可能)にすることによって、一瞬だけ光の粒子になり、「攻撃をすり抜ける」「壁を透過する」といった芸当も可能なのだ。
ただし、行動範囲の制約はWi-Fiの届く範囲に限られる。今回のレベルアップで同時にWi-Fiの強化が行われたため、以前よりも広範囲に電波が届くようにはなっているはずだ。そのあたりはおいおい確認していくとしよう。
そして当然だが、活動中、カプセルの中にある本体は完全に無防備になる。そのあたりの安全確保も注意が必要だ。
「……って、いったい誰に説明してるんだ。引きこもりが長くなりすぎて、独り言が増えているみたいだな」
俺は我に返って自嘲気味に笑い、装置の主電源を入れた。
「とりあえず今日は、店の周りを軽く探索してみるか」
プシューという音とともに装置の蓋が開く。
俺はカプセルの中に這い入り、内側にあるスタートボタンを押した。
即座に蓋が閉まり、俺の身体の各所に無数の管がカチカチと装着されていく。
ウウィイイイイイイン──。
低い機械音が鳴り響き、装置内がすうっと暗くなる。
次の瞬間、俺の視界が一気に開けた。
驚いてパッと振り向くと、そこには透明なガラスの向こう側、装置の中で眠るように横たわっている俺自身の本体があった。
自分の顔を強めにつねってみる。……痛い。
「す……すげぇぞ……これはっ!」
俺は興奮を抑えきれないままバックヤードの扉を開け、店内に戻った。
売り場にいる周りの客たちは、いつも通り俺を一瞥するが、特に怪しむ様子もなくすぐに視線をそらす。
「いらっしゃいませ〜」
俺はいつも通り軽快に挨拶を交わしながら、売り場を進んでいく。
「ふふふ……誰も違和感は感じていないみたいだ。こいつはすごいぞ。あとはあの二人にばれなければ、完璧だ」
レジでは、お客に笑顔で袋を渡すアラクネとリゼッタが忙しそうに働いている。
やがて客の波が途切れたところで、俺は二人の元へと悠然と近づき、声をかけた。
「やあ、おふたりさん。まじめに働いているようだね。感心感心」
片手をひょいとあげて、いつもの店長らしく声をかける。
だが、二人は返事もせず、ただ黙って俺のことを見つめていた。
(……え? どうした? まさか……一瞬でホログラフだってバレたのか……?)
「ど、どうした? 俺の顔になんかついてるか?」
急に不安になって尋ねるが、アラクネは大きな目を丸くしたままガチガチに固まっており、リゼッタは声も出ないといった様子で俺を激しく凝視している。
おかしい。俺はリゼッタのその鋭い視線のレーザーをジッとたどってみた。
彼女の視線は……ん? 顔じゃない。胸でもない。……俺の……股間!?
視線を真下へ落とした俺は、己の目を疑った。
そこには──俺の「息子」が、何の衣服にも包まれることなく、堂々と、ありのままの姿でぶら下がっていたのだ。
俺はゆっくりと顔を上げ、もう一度フリーズしている二人を見てから、バックヤードまで突き抜けるような大絶叫を上げた。
「ノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
俺は恥ずかしさのあまり、そのままコンビニの床へと無様に崩れ落ち、激しくのたうち回った。
……なるほど。どうやらこの『ホロ・アテンダント・システム』は、衣服のデータは同期されず、生まれたままの姿で外へ再現される仕様だったらしい……。




