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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第4話:店長、異世界のデフレと初めての発注

「……痛ててて」


頭にずしんと響く鈍い痛み。


「これが……二日酔いってやつか……」


アラクが店で働くことが決まった昨晩、バックヤードでささやかな歓迎会が催された。

歓迎会と言っても、ひたすらおにぎりを貪り食う蜘蛛娘と、急激な環境の変化に耐えかねて現実逃避したいニート(一応、今はコンビニ店長だが)が、売り場の缶チューハイをあおるだけの虚しい会だ。当然、バックヤードの床に段ボールを敷いただけの即席ベッドは寝心地が最悪で、全身の節々が悲鳴を上げている。


ぎこちない動作で身体を起こし、柔軟運動をしながら俺はあたりを見回した。


「アラクは……さすがに自分の巣に帰ったか?」


そんな淡い期待を抱いた俺だったが、足元に広がる不自然に揺れる影を見て、盛大なため息をつく。

見上げれば、天井の配管に編み上げられた頑丈な糸の繭の中で、すやすやと健やかに眠るアラクの姿があった。


「……ま、静かでいいか」


俺はアラクを起こさないように足音を潜め、バックヤードのデスクに鎮座するストアコンピューターの電源を入れた。

電気も通い、水道から水も出るこの都合のいい世界だ。もしかしたら、商品の『発注』だってできるんじゃないだろうか。そんな一縷の望みを抱きながら、キーボードを叩く。


デスクの上には、ご丁寧に前任者が残していったとおぼしき『発注業務マニュアル』が置かれていた。


「あの気だるそうな大学生だって毎日やってたんだ。優秀な受験生(元)の俺にできないはずがない」


かつて外界と繋がっていた頃のコンビニ店員の姿を思い出しながら、画面を進める。

モニターに映し出された発注画面には、お馴染みのお弁当やドリンク、スナック菓子に酒類などがズラリと並んでいた。

俺はとりあえず、全信頼を置く『梅おにぎり』の数量の枠に「10」と数字を入力し、おそるおそるエンターキーを押した。


ピピッ。

【エラー:残高が不足しています】


「……は?」


画面をよく見ると、右下のステータス欄に『店舗予算残高』という項目があり、そこには非情にも『0円』と表示されていた。


「……金、取るのかよ!?」


当たり前のことなのだが、身一つで異世界に放り出された今の俺には受け入れがたい現実だった。仕入れ値すら払えない。一体どうやってここにお金を準備すればいいんだ。


「ふわぁぁ……」


その時、背後で気の抜けたあくびが聞こえた。

眠たげな目をこすりながら、アラクが天井の巣からするすると降りて、こちらに近づいてくる。


おにぎりが発注できない(=在庫切れになる)ことがバレるのは、店長としての威厳に関わる。非常にまずい。


俺はとっさに自分の背中でモニターを隠しながら、極めて自然を装って声をかけた。


「お、おはよう、アラク」


「おはよう、店長……」


アラクが制服の袖を弄りながら挨拶を返す。


「な、なぁアラク、ちょっと聞きたいんだけどさ。この世界って『お金』的なものってあるのかな?」


俺の問いかけに、アラクは小首を傾げた。


「お……か……ね……? なにそれ。おいしいの?」


「いや食えない。お金っていうのは、例えば何かが欲しい時に、それを相手に渡せば欲しい物と交換してもらえる……みたいな、共通の価値があるもののことなんだけど」


そう説明されると、アラクはしばらく「うーん」と眉をひそめて考え込んだ。

沈黙の時間が流れる。


「……あるよ」


「えっ!?」


予想外の肯定に、俺は思わずアラクの両肩をガシッと掴んで叫んでいた。


「あるのか!? 見せてくれ! 今すぐそれを見せてくれ!!」


「店長……痛い……」


アラクが不満げに唇を尖らせる。


「あ……ごめん。つい興奮して。見せてくれるかな?」


アラクはダボダボのパーカーのポケットをごそごそと探ると、中から小さな『石ころ』を一つ取り出して差し出してきた。


それは、深い緑色に怪しく輝く、透き通った結晶だった。

素人目に見ても信じられないほど高価な宝石に見える。だが、これが日本のコンビニのシステムで使えるのだろうか。


俺はアラクからその石を受け取ると、急いでバックヤードを飛び出し、表のレジへと向かった。

適当な商品のバーコードをスキャナーで読み取り、タッチパネルに表示された『特殊決済・支払方法』の欄を開く。


するとそこには──ミスリル、オリハルコン、マナストーン……といった、どこかのRPGで聞いたことのあるような鉱物や宝石の名前がズラリと並んでいた。


「アラク!!! この宝石の名前は何て言うんだ!?」


カウンター越しにバックヤードへ向かって叫ぶと、アラクが気だるそうにトコトコと歩いてきて答えた。


「それ? その辺の魔物が落とす『グリーンマナストーン』。ただの魔石だよ」


「わかった、マナストーン(魔石)だな!」


俺が画面の【魔石決済】のボタンをタッチすると、次の瞬間──。


チーンッ!!!


小気味いい金属音と共に、レジのキャッシュドロアが勢いよく飛び出してきた。

俺は開いた引き出しの中に、預かった緑の石を入れる。すると、石はまるで電子の海に溶けるように、レジの底へスーッと吸い込まれて消えてしまった。


「まさか……!」


俺は急いでバックヤードへ走り戻り、ストコンのモニターを凝視した。

エラーで止まっていた画面の右下、さっきまで『0円』だった予算残高の項目が、眩い光を放ちながら書き換わっていく。


【店舗予算残高:100,000円】


「じゅ、じゅう、十万円……っ!?」


その辺に転がっているという緑の石一個で、一気に十万円のチャージ完了。

あまりの超絶デフレ(あるいは超高額買取チート)に、俺の目玉は飛び出さんばかりに見開かれた。

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