第42話:店長、高度一万尺の迎撃と最悪のアディオス
ドゴォォォォォンッッッ!!!!!
凄まじい爆音と共に、ゴーレムの放った巨大な岩石の拳が地面を叩きつけ、画面一杯に濃い土煙が舞い上がる。
「ひ~……危ねぇ……! でも、怪我の功名だ。この土煙が煙幕代わりになってくれてる。今のうちに一気に突破するぞ!」
俺はコントローラーのレバーを押し込み、ドローンをあえて視界の悪い土煙の中へと突っ込ませた。力技での中央突破。
その時だった。突如として、俺の装着しているタクティカル・ゴーグルの画面右端に、真っ赤な【⚠️WARNING】の警告マークが激しく点滅した。
「──ッ!」
俺は考えるより先に、本能でレジストリを叩くようにコントローラーのレバーを警告の反対方向へと弾いた。
次の瞬間、土煙を割って突き出されたゴーレムの第二撃目が、ドローンのカメラの僅か数センチ脇を猛スピードでかすめ去っていった。風切り音の風圧で画面が激しくブレる。
「アブねぇ……っ!! しかし、機体の性能だけじゃなく、ゴーグルの危険予測機能までアップデートされてたのか。レベル10、マジで伊達じゃねぇな!」
おかげで命拾いした。だが、感心している余裕は無い。ゴーレムの猛攻を回避するのをてこずっている間に、無情にも風が土煙を吹き飛ばし、遮蔽物のないクリアな視界が戻ってしまった。
一旦距離を取るべきだ。俺はドローンを急速後退させ、間合いを取り直す。
巨大な岩の巨人が、こちらをハエ叩きでもするかのように両手を広げて待ち構えている。
「さあ……どうしたものか。流石に正面突破はきついぞ……」
俺がストコンの前で腕を組んで悩んでいると、隣からアラクネがボソッと、至極当然のような口調で言った。
「ねえ店長、もっと高く飛んだら?」
「………………わかっとるわい!!!」
別に気が付かなかったわけじゃない。ただ、ちょっとレベル10の性能を試すために、ゴーレムと熱い空中戦(遊び)を繰り広げたかっただけだ。本当だ。
俺は言い訳を心の中で並べ立てながら、ドローンの高度を一気に上昇させた。
ぐんぐんと地面が遠ざかり、ビルのようだったゴーレムの巨躯が、みるみるうちに消しゴムほどのサイズにまで小さくなっていく。
「よし! この高度なら、いくらなんでも安全に通れるぞ!」
俺はあえてアラクネの方を見ずに、ドヤ顔(※ただしマスクの下は角刈りの腫れ顔)で言い放った。
ところが、あの岩石野郎は想像以上に往生際が悪かった。ドローンを見失ったゴーレムは、周囲の巨大な岩を次から次へと引き剥がし、狂ったように上空へと投げ飛ばしてきたのだ。
ピピピピピピピピピピ!!!!!
ゴーグルの中に、けたたましい対空警告音が鳴り響き続ける。
俺はプロ引きこもりとしてのゲームスキルを限界まで解放し、下から弾幕のように迫り来る巨大な岩石を、紙一重の超絶テクニックで回避し続けた。
そして──。
ようやくゴーレムの射程圏内である平野を抜け、目的地の岩山の上空へとたどり着いた。
「この禍々しい岩山の上に、リゼッタの城があるんだな?」
「うん、そうだよ!」
「よし……。リゼッタ、今行くからな。待ってろよ」
俺はドローンの高度を維持したまま、切り立った岩山の斜面に沿って機体を滑らせる。
すると、はるか先の雲の切れ間に、ついにトゲトゲとした黒いシルエット──魔王城の威容がその姿を現した。
「あれか……! あと少し、もう少しで届く……っ!」
城までの直線ルートには、もう遮るような障害物は一切見当たらない。手紙の配達ミッションは、ほぼ成功したも同然だった。
俺はドローンの高度と向きを自動巡航モードにロックすると、ようやく一息ついてゴーグルを外した。そして、隣で見守っていた居候に指示を出す。
「アラクネ。ちょっと一瞬、お店(売り場)の方に誰も来てないか見てきてくれ」
「わかったー!」
アラクネがバックヤードの薄い扉を開けて売り場へと向かうのを見送り、俺は手元に置いたモニター画面へと視線を戻した。
──その瞬間、俺の全身の血が、文字通り一瞬で氷結した。
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいっっっっっっっっッッッ!!!!!!!」
俺はバックヤードが震えるほどの大絶叫を上げていた。
モニターに映し出されていたのは、岩山の景色でも、リゼッタの城でもなかった。
カメラのレンズを、上から完全に覆い隠すようにして覗き込んでいる──あの西の国のサイコ皇太子、レオナルトの、心底楽しそうな「笑顔」だった。
レオナルトは、カメラの向こうの俺と完全に目が合っているかのような涼しい顔で、極上の悪魔のような笑みを浮かべて叫んだ。
『ご機嫌麗しゅう、マモル君。……そして──アディオス(サヨウナラ)!!!!!!!!!』
ドグシャァァァァァァァァンッッッッッ!!!!!
鼓膜を突き破らんばかりの衝撃音が響き、レオナルトの強靭な手によって、ドローンが地面へと猛烈な力で叩きつけられた。
ガガァ……ガガガーーーー……。
同期が狂い、ストコンのカラー画面が酷いノイズで激しく乱れる。
砂嵐の隙間から見えたのは、ドローンの残骸を見下ろし、冷酷極まりない三白眼で歪んだ笑みを浮かべているレオナルトの最後の姿だった。
プツン……。
画面が完全に暗転し、信号途絶の文字が非情に点滅する。
「なっ……なっ、なんなんだよ一体──ッ!!!!!!」
俺の絶望に満ちた叫び声が、無人のバックヤードに虚しく木霊した。
なぜだ。なんであんな城の手前の何もない場所に、レオナルトが先回りして突っ立っていやがったんだ。
いや、そんな疑問よりも先に、最悪の現実が頭を殴りつける。
ドローンが、破壊された。
この世界に飛ばされてからのこの一ヶ月間、俺と外界を繋ぎ、お店の戦力を支えてくれた、唯一無二の最新鋭の相棒。
そして何より──リゼッタに俺たちの手紙を、俺の本当の気持ちを届けるための、最後の、たった一つの手段が。




