第41話:店長、幼稚園児の地図と歩く岩山
俺はアラクネが描き殴った、お世辞にも正確とは言えない「迷地図」を膝の上に広げ、最新鋭ドローンのコントローラーを握りしめた。
「おい、アラクネ! お前のこの図解だと、この先に溶岩の川があるはずなんだが……本当にあるんだな?」
一旦ゴーグルを外し、隣で心配そうにモニターを覗き込むアラクネに確認を取る。
「うん。おっきい川があって、その先にすっごく高い山があって、魔獣もたくさんいるよ!」
「おいおい……魔獣なんて初耳だぞ。どんどん情報が後出しで出てくるな。……他には、もう不吉な障害物はないよな?」
「うん、大丈夫!」
そう言って、アラクネは満面の笑みで俺を真っ直ぐに見つめてきた。
……その根拠のない自信に満ちた顔が、一番俺を不安にさせるんだよ。
俺は覚悟を決めてゴーグルを被り直し、ドローンの操作に全神経を集中させる。
視界の先には、煮えたぎる灼熱の赤。吹き出す溶岩の川から、ランダムに立ち上る火柱。俺は機体のセンサーを頼りに、その火柱の隙間を巧みに、縫うようにしてかわしていく。
ようやく川を渡り切ると、次は空を突くようにそそり立つ連峰が視界を遮った。
まともに超えるには高度が足りない。俺は岩壁の僅かな「山の切れ目」を見つけ出し、そこへドローンを弾丸のように滑り込ませた。
指先一つのミスで機体が岩壁に激突し、粉々に砕け散る──。
かつて受験勉強で張り詰めていた時以上の緊張感に、俺の額を一筋の汗が静かに伝い落ちた。
「ふぅ……抜けたかっ!」
暗い岩の隙間を抜けた先、ようやく視界が開けた場所に出る。
目前には、周囲の景色を圧倒するほど巨大な『岩山』が鎮座していた。
「おいアラクネ。この巨大な岩山の脇を抜けて、そのまま先に進めばいいんだよな?」
俺の問いかけに、背後のアラクネが「ん?」と不思議そうに首を傾げる音がした。
「岩山……? そんなの、あったかな……?」
「なんだって? アラクネ、お前の地図に四角く描いてあるこれ、岩山じゃないのか!? いいんだな、進むぞ!?」
俺がアラクネに必死に問い直した、その瞬間だった。
目の前の巨大な岩山が、地響きのような重低音を響かせて突如として動き出したのだ。
山だと思っていたその巨躯がのっそりと立ち上がり、広大な影を落としてドローンの進路を完全に塞ぐ。
そこに現れたのは、岩石の塊を繋ぎ合わせたような、ビルのように巨大な超重量級モンスター──『古代ゴーレム』だった。
「おいおいおいおいおいっっっ!!!!! アラクネェェェェェッッッッ!!!!!!」
俺の情けない、だけど切実な叫び声が、バックヤードの薄い扉を震わせんばかりに響き渡った。




