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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第38話:店長、天国のベッドと地獄の主語

アンナちゃんの素晴らしい後ろ姿(主にお尻)が夜の闇に消えて完全に見えなくなるまで見送った後、俺はハッと我に返った。アンナちゃんから会計として受け取ったはずの魔石を、レジのドロアーに入れ忘れたまま右手に握りしめていたのだ。


「危ねぇ……俺としたことが、煩悩に負けて売上をネコババするところだった……」


そんなマヌケな独り言を叩きながら、俺はレジのボタンを押して魔石をしっかりと中にしまった。


ドロアーがガシャンと閉まった、まさにその瞬間だった。


チャラララチャチャチャァァァンっ!!!!

脳内に、いつものレベルアップのファンファーレとは明らかに違う、やけに豪華で軽快なファンファーレが鳴り響いた。驚いてレジの液晶画面を見つめる。そこには、光り輝くフォントで大きくこう表示されていた。


【店舗レベル:10】


「おお……っ!!! ついに、ついに二桁……レベル10まで到達したぞ……っ!!!」


俺は深夜の売り場で一人、興奮を抑えきれずに画面を食い入るように見つめた。画面には、レベル10到達によって追加される新たな店舗ステータスや機能が次々とスクロール表示されていく。


「ふむふむ……なるほど、バックヤードの拡張か……。おお、保管用コンテナの容量増加! 私にとってはありがたいな!」


そんな風に新機能をチェックしていた俺の手が、最後に表示された文字列を見た瞬間にピタリと止まった。

直後、俺は深夜のコンビニで心の底からの大歓声を上げた。


画面に浮かび上がっていたのは──【店長専用ベッドルーム解放】の文字。


「ま、マジかよ……っ!!」


俺はレジカウンターを飛び越える勢いで、大急ぎでバックヤードへと向かった。

バックヤードの扉を押し開けて中に入る。一見すると、バックヤードはいつもと何も変わらない散らかった事務スペースのままだ。……ん? いや、違う。

いつも使っているトイレのドアのすぐ真横に、見慣れない木製のシックなドアが、まるで最初からそこにあったかのように新設されていたのだ。


俺はごくりと唾を飲み込み、その新しいドアノブに手をかけて勢いよく押し開けた。


「おお……っ!!!」


思わず感嘆の声が漏れる。

そこには、日本の実家を思い出させるような、居心地の良さそうな四畳半ほどの清潔な個室が広がっていた。部屋の奥には、見るからに寝心地の良さそうな厚みのあるフカフカのベッド、木製の箪笥、そしてシンプルな学習机が整然と置かれている。


この異世界に飛ばされてからの約一ヶ月間、実質毎日が床の上での寝袋生活だった。

俺は吸い寄せられるようにベッドへ近づくと、そのまま泥のようにフカフカの敷布団の上へと飛び込んだ。

いつぶりだろうか、全身を優しく包み込んでくれる本物のベッドの温もり。俺はプロニートとしてのプライドも警戒心もすべて忘れ、不覚にもそのまま一瞬で深い深い眠りへと落ちていったのだった。



「……うわぁぁぁぁぁっ!!!???」


翌朝。バチッと目が覚めた瞬間、俺は自分の視界に広がった光景に跳び起きて絶叫した。

俺が寝ているすぐ横、同じベッドの掛け布団の上に、アラクネがこれ以上ないほど気持ち良さそうに丸くなってスヤスヤと寝ていたのだ。


気配を察したアラクネが、眠たそうにその可愛い目をこすりながら、ケラケラと小さく笑った。

「ん……店長、おはよう〜」


「おはようじゃないだろっ!? なんでお前が俺のベッドの隣で寝てやがるんだよっ!!」


「え〜? だって、朝起きたらバックヤードに店長がいなかったからさ……。そしたら見たことない部屋が増えてて、開けたら店長が寝てたんだもん。すっごく気持ち良さそうだったから、アラクネも一緒に寝たの」


「………………」


頭が痛い。だが、この天然蜘蛛女にこれ以上何を言っても無駄だということは、これまでの経験上よく分かっている。

とにかく、アラクネの行動を責めるよりも先に、最悪のタイムスケジュールに頭が追いついた。こんな密室での添い寝現場、もし万が一にでもリゼッタに見られたら一発で終わりだ。今度こそ三半規管どころか、この最果ての地で命そのものを消されるかもしれない。


俺はベッドの横に置かれたデジタル時計の文字を凝視した。


【12:58】


「やっ、やべぇぇぇぇぇ!!! リゼッタの出勤時間は13時だっっ!!!」


あと二分しかない!

俺はベッドから文字通り跳び起きると、寝癖を直す暇もなく大急ぎでドアを開け、バックヤードの事務スペースへと飛び戻った。


──だが、そこがすでに、俺の終着駅デッドエンドだった。


「ひっ……」


目の前には、すでに青と白のロー〇ソンの制服へと完璧に着替え終えたリゼッタが、パイプ椅子に座って堂々と足を組んでいた。

リゼッタは、ゆっくりと、本当にゆっくりと俺の方へ首を向けると、底冷えするような笑みを浮かべてこちらを見つめてきた。


「おはよう、店長。昨夜は新しいお部屋で、さぞかし“よく眠れた”みたいかしら?」


冷たい。非常に、皮膚が壊死するほどに冷たい眼光だ。完璧に入室時の現場(あるいはアラクネののそのそ動く気配)を察知していやがる。


「リ、リゼッタ……! 待て、何か重大な誤解をしてないか!? 違うんだ、これはだな!」


「誤解? ……ふ~ん、何のことかしら。私にはさっぱり分からないわ」


俺が冷や汗を滝のように流して必死に言い訳を探していた、まさにその時。

後ろのドアから、アラクネがベッドの枕を愛おしそうに両手で抱きしめながら、のそのそと起きてきた。そして、リゼッタの目の前で、とどめの一撃となる極上の爆弾を平然と投下したのだ。


「店長ぉ……。さっきの、すっごく気持ちよかったねぇ?」


「アラクネェェェェェッッッ!!!!! お前は致命的に主語を忘れているぞぉぉぉぉぉっっっ!!!! ベッドだろ!! 主語は『ベッド』だろ!! フカフカの『ベッドの寝心地』が気持ち良かったんだろぉぉぉっっ!!!」


顔面を紅葉色以上に真っ赤に染め上げ、酸欠になりながら必死に取り繕う俺。

そんな哀れなエロ店長の姿を、リゼッタの据わりきった鋭い眼光が、どこまでも優しく、そして残酷に冷やし続けていたのだった。

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