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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第36話:店長、未熟な自省と深夜のダイナマイト

「はぁ……」


鏡の中に映る自分の姿を見つめ、俺は本日何度目になるか分からない深い溜め息をついた。


翌朝、心配そうに覗き込んできたアラクネに揺り起こされて目を覚ました俺は、まず自分の顔面が物理的に千切れて床に転がっていないことを確認し、心底安堵した。

体感としては時速三百キロのF1カーに正面衝突されたような凄まじい衝撃だったが、俺の首は何とか胴体に繋がったまま吹き飛ばずに済んだらしい。


とはいえ、残された被害は極めて甚大だった。

右頬は真っ赤に熟したリンゴのように腫れ上がり、推定で通常の三倍は肥大化している。異世界にその概念があるかは知らないが、さながら日本の有名なパンのヒーローのごとき歪な球体の顔面の上に、例の『マイルド角刈り』が鎮座しているのだ。鏡の前にいるのは、どう見てもまともな人間の姿ではなかった。


とはいえ、いつまでもバックヤードでうじうじと休んでいる場合ではない。サカモトのセ〇ン包囲網に対抗するためにも、店舗のレベルアップは急務なのだ。


俺は重い身体とそれ以上に重い気持ちを無理やり振り払い、マスクを深く着けて店頭に立った。

常連のお客(魔族)たちをいつものハキハキとした笑顔(※マスクの下は激痛)でさばき、その日も昼のピーク時間をなんとか難なくこなしていく。


ふと、レジ上のデジタル時計に目をやった。

時刻は十五時。──そろそろ、リゼッタが出勤してくる時間だ。

昨日の今日で、一体どんな顔をして彼女を迎えればいいのか。俺の心臓が嫌な汗をかき始める。


ウィーン、ピロリオリーン♪


そんな俺の不安を嘲笑うかのように、規則正しい入店音が鳴り、長い黒髪をなびかせたリゼッタが自動ドアをくぐってきた。


「お……おぅ、おはよう……」


俺は痛む頬を庇いながら、片手を弱々しく上げて蚊の鳴くような声で挨拶を絞り出した。


「おはよう」


リゼッタは至極ぶっきらぼうにそう一言だけ答えると、俺の顔を直視することなく、そのままバックヤードへと消えていった。


……あれ? 思っていたよりも、激怒して職場放棄するような雰囲気ではないな。

最悪の事態(即日退職)だけは免れたことに、俺はとりあえずホッと胸を撫で下ろした。


それから夜にかけても特に変わったことは起きず、売り場にはいつも通りの穏やかな時間が流れていった。

時計の針が回り、そろそろリゼッタの退勤時間が近づいてきた、その時だった。


レジカウンターの横で商品の前出しをしていたリゼッタが、ふと手を止め、こちらをジロリと見据えて口を開いた。


「ねえ、あんたさぁ……。……わたしに、何か言うことないわけ?」


ゾワッ!!!


一瞬にして、背筋に本物の氷を突っ込まれたような恐怖が駆け巡る。

ひ、ヒィィィッ! やっぱり心の底ではめちゃくちゃ怒ってたのか!?


怯える俺のリアクションを見て、リゼッタは呆れたように小さくため息をついた。

「……その反応。やっぱり、昨日のこと気にしてるんでしょ?」


「あ……あ、ああ……。……ごめん。その、本当に悪かったと思ってる……」


「そうだよね? 悪いことしたら、まずはちゃんと謝る。そんな当たり前のこともできないの?」

リゼッタは腕を組み、少しだけ不満そうに唇を尖らせた。

「わたしはね、今日、あんたがちゃんと謝ってくるのをずっと待ってたのよ」


リゼッタのその言葉が、俺の胸の奥をキリキリと激しく締め付けた。


俺は──謝るのが、昔から死ぬほど苦手だった。

三年前、受験に失敗して引きこもりニートになってからというもの、俺はいつだって「自分は悪くない」「環境が悪い」「体調が悪かった」と、言い訳ばかりを脳内で並べ立てて生きてきた。それに……自分の非を認めて頭を下げた後、もし相手に許してもらえなかったらどうしようと想像すると、それがたまらなく、怖かったのだ。


そんな俺の未熟な心を、リゼッタはまるで見透かしているようだった。


「まぁ……猛省してるのは、その顔を見れば一目でわかるけどね。……これからは、ちゃんと非を認めて謝れる大人になりなさいよ」


「……はい、すみませんでした……」


俺は角刈りの頭を小さく丸め、神妙にコクコクと頷いた。

そんな俺の様子を見て、リゼッタはフッと表情を和らげると、少しだけ声をトーンダウンさせて上目遣いに聞いてきた。


「で……。あの時、あんた、私に何て言おうとしたの?」


「えっ!? いや……その! それは……あはは、大したことじゃないんだよ! 本当に!」


まさか下着姿の生着替えを直撃した直後に「お前のことが好きだ」なんて言おうとしていたとは口が裂けても言えない。俺は顔の前で大げさに両手をブンブンと振り回し、全力で誤魔化しにかかった。


「あっそ……。ならいいけど。……じゃあ、私、もう帰るわね」


リゼッタはそう素っ気なく言うと、荷物を持って自動ドアへと向かった。

去り際、一瞬だけ振り返った彼女の顔が、どこか、ほんの少しだけ残念そうに見えた……のは、俺の気のせいだっただろうか。


まぁ、どちらにしても、右頬が通常の三倍に腫れ上がった角刈り男の顔で、一世一代の愛の告白なんて決まるわけがない。

この情けない顔が元通りに直って、俺がもう少し、リゼッタの言うような「ちゃんとした大人」になれたその時に、今度こそ改めて、正面から──。



リゼッタが帰ったあと、俺は明日の営業に備えて、アラクネにフロアのモップがけを任せつつ、自分はせっせと商品の補充作業に勤しんでいた。


深夜、時刻はまもなく午前0時を回ろうとしていた。

静まり返った異世界の夜。そろそろ補充を切り上げて寝袋に入ろうかと思った、まさにその時だった。


ウィーン、ピロリオリーン♪


こんな深い時間に来客なんて、珍しいこともあるもんだ。

俺は何気なく「いらっしゃいませー」と声をかけながら、レジの定位置で顔を上げた。


──そして、俺のプロ店長としての動きが、完全にフリーズした。


自動ドアをくぐって入ってきたのは、この極寒の異世界の夜空にはあまりにも不釣り合いな、ボディラインをこれでもかと強調したボディコンを身にまとった、いかにも日本の夜の街にいる「飲み屋のお姉さん」といった風貌の女性だった。


「へぇ〜。これが、最近噂の『コンビニ』ってお店かしら?」


女は、艶めかしい赤い唇から吐息を漏らしながら、ゆっくりと店内へと歩を進めてくる。


視線が、彼女のハイヒールに包まれたつま先から、すらりと伸びた太もも、そして歩くたびに挑発的に揺れるヒップへと吸い寄せられる。さらに上へと視線を這わせれば、ボディコンの生地がはち切れんばかりに主張する、凄まじいボリュームのダイナミックな胸元──そして、妖艶に微笑む美しすぎる顔へと移った。


ダイマナイトボディのうえに、顔立ちがめちゃくちゃ可愛い……!!


さっきまでリゼッタへの純愛と男の決意を固めていたはずの俺の心臓は、この深夜0時のあまりにも刺激的すぎる不意打ちの来客によって、文字通り木っ端微塵に爆発する寸前だった。

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