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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第33話:店長、最王手の罠と宣戦布告

「あっ……あれは……っ!?」


ゴーグル越しの視界に飛び込んできた光景に、俺は思わず声を上げた。

真っ白な雪原の中に佇む、あまりにも見慣れた四角い建物。そして、脳裏に焼き付いているお馴染みのカラーライン。──間違いない。それは、日本のコンビニ界における絶対王者『セ〇ンイレブン』だった。


「サカモトの野郎……やっぱり、最大手の回し者だったんだな……っ」


俺はこれまでの人生、常にナンバーワンを目指して生きてきた。だが、あの一番大事な受験で、俺は一番行きたかったトップの座に負けた。その時のひがみ根性がこじれにこじれた結果、俺はそれ以降、世の中のあらゆる『ナンバーワン』を激しく憎むようになっていたのだ。


異世界のコンビニ覇権まで、あの最大手に渡してたまるか……っ!

俺は激しい対抗心を燃やし、心の中でそう強く誓う。


とはいえ、今は人命が第一だ。私怨は一旦置いておく。

俺はコントローラーを繊細に操作し、ドローンを低空飛行に移行させた。可能な限りの低速で、音もなくゆっくりと四角い建物へと近づいていく。まずは外周をぐるりと一周し、外に敵の伏兵がいないかを確認する。


「……外には、誰もいないようだな。モカ、サカモトは本当にこの奥のバックヤードに捕らえられているんだな?」


俺の問いかけに、隣にいるモカはブルブルと震えながら力なく「うん……っ」と答えた。


「よし……突入するぞ」


ドローンを自動ドアのセンサーに反応させ、店内に滑り込ませる。


ウィーン、ピロリロンピロリロン♪


セ〇ン特有の、どこかお上品な入店音がゴーグルを通じて耳に響く。

売り場に人の気配は全く無い。俺はドローンのカメラを動かし、商品棚の陰に機体を器用に隠しながら、目的のバックヤードの扉へと近づいていった。


すると、中から複数の男たちの、ドスの利いた怒鳴り声が漏れ聞こえてきた。


『オラァ!! さっさとはきやがれ!!! 探している物はどこに隠した!?』


『フン、知らん。たとえ知っていたとしても、お前たちのような悪党に教えるものか……っ!』


サカモトの、いつもの胡散臭さが嘘のような毅然とした態度。それを聞いたモカが、ウルウルと大きな瞳に涙を浮かべて呟いた。


「やっぱり……サカモトの旦那は、最高にかっこいいっす……っ」


「そうね。……うちの、民家を覗くことしか能のないエロ店長にも、あの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ。──あ、そうか。今、あんたも一緒にこれを見てるんだったわね」


リゼッタがすぐ後ろから、これでもかと嫌味ったらしく話しかけてくる。

……ふん、別にいいさ。何とでも言え。


俺は完全なる無の感情マインドフルネスで、プロ店長としての任務を遂行する。


「よし……。バックヤードに侵入すると同時に、先制攻撃としてドローンのミサイルをぶっ放すぞ。──あ、待てよ。モカ、サカモトはミサイルの爆風に耐えられるのか? そもそもあいつは人間なのか、それとも頑丈な魔族なのか?」


俺の当然の疑問に、モカはしばらくフリーズして考えていたが、やがて「わからない……。サカモトの旦那がどこから来たのか、本当は誰なのか、モカも何も知らないの……」と弱々しく首を振った。


身元不明の商人か。俺はしばらく悩む──だが、このままで手をこまねいていても事態は悪化するだけだ。

やるしかない。突入と同時にゴーグルで瞬時に状況を確認し、できるだけサカモトの身体に当たらない角度を計算して、強盗どもを吹き飛ばすしかない!


「カウントダウン。3……2……1……ゴーっ!!!」


俺は一気にコントローラーのレバーを押し込み、バックヤードの扉の隙間からドローンを急突入させた。

──だが。


「……は?」


ゴーグルに映し出されたその光景に、俺の思考がピキリと停止した。


バックヤードの部屋の中には、強盗集団どころか、生き物の気配が一切無かったのだ。

あるのはただ一つ。ガランとした殺風景な部屋の中央に置かれた、一脚のパイプ椅子。そして、その椅子の座面の上に、ポツンと置かれた──昭和レトロな『ラジカセ』だけだった。


ガチャリ、と不穏なノイズが響き、ラジカセのスピーカーから、先ほどの強盗とサカモトの緊迫したやり取りが、全く同じトーンでエンドレスにリピート再生され始める。


「おい!!! モカ!!! どういうことだ、これ……っ!!!」


俺のバックヤードに響き渡った怒声に、モカは「知らない、知らないのぉぉ!」と激しく首を横に振ってパニックを起こしている。


その時だった。

突如としてドローンの制御が完全に不能となり、ストコンの画面にエラー表示が点滅した。何かに、ガシッと機体を直接手で掴まれたような感覚。


グイッ、と力任せにドローンが傾けられ、カメラのレンズの真ん前に、下からヌッと『ある男』の顔が覗き込んできた。


「おお……マモルはん。わざわざ遠くまで、元気かいな?」


「サ……サカモトぉぉぉぉぉ!!!!!???」


トレードマークのキツネ目を細め、ニタニタと極上の胡散臭い笑みを浮かべるサカモトのドアップ。


「すまんすまん。これな……いわゆる『狂言強盗』ってやつですわ」


「なっ……なんだって……!?」


「いや〜、最近マモルはんのロー〇ソンがえろー繁盛しとるって噂やし、何か特別な秘密でもあるんかと。そやから、モカをちょっと使わせてもらって、マモルはんがどんな動きをするか調べさせてもらったっちゅーわけですわ。──へぇ、こんなおもろいおもちゃ(ドローン)まで持ってはるんやなぁ」


「サカモト……お前、お前って奴は……っ!!」


ハメられた。モカすらも騙して、俺の店の戦力を炙り出すための罠だったのだ。

俺の全身から、わなわなと怒りがこみ上げてくる。


サカモトが、手に入れた戦利品をまじまじと観察するように、ドローンのカメラをさらに顔へ近づけた。──その瞬間、俺の理性のリミッターが完全に弾け飛んだ。


「舐めるなよ最大手ェェェェェェ!!!!!」


俺はストコンの画面にある、ミサイルの発射スイッチを全力で叩きつけた。


シュドォォォォンッ!!!!!


「おっと危なっ!?」


ドローンの銃口から放たれた小型ミサイルを、サカモトは超人的な反射神経で間一髪でかわしてみせた。だが、直後に背後の壁に着弾したミサイルの凄まじい爆風と衝撃波に煽られ、サカモトは思わずドローンから両手を離して床へと転がった。


その一瞬の隙を、プロ引きこもりの超絶ゲームテクニックが見逃すはずがない。

俺はコントローラーのレバーを鮮やかに捌き、煙が充満するバックヤードからドローンを急反転させ、最高速度でセ〇ンの店の外へと脱出させた。


「はぁ……はぁ……っ! 危なかった……。もう一歩で、俺の虎の子の最新鋭ドローンを強奪されるところだったぞ。やっぱり、あのサカモトって男は一ミリも油断ができない……!」


自動航行で無事にロー〇ソンへと帰還したドローンを確認し、俺は汗で滲んだタクティカル・ゴーグルをバサッと外した。


モニターで一部始終を見ていたリゼッタは、プライドを傷つけられたのか怒り心頭の様子で、「あのキツネ目の男、絶対に許さない……! 今から私が直接行って、あの赤と緑の店を跡形もなく更地にしてきてあげるわ!!」と、今にも武器を手に取りそうな勢いだったが、俺はそれを必死になってなだめた。


「待て、リゼッタ! そんな暴力的なやり方で勝ったって、一ミリも面白くないだろ」


これはビジネスの戦いだ。俺はこの異世界の地で、真っ向勝負であの最大手『セ〇ン』を売上で叩きのめし、コンビニ界の絶対的な覇権を手に入れてみせる。それが、受験で挫折した俺の、最高の復讐だ。


一方、自分がサカモトに道具として利用されていたことを知ったモカは、小さな緑の羽をがっくりと落としながら、悲しそうにトボトボと自分の店へと帰っていった。


「モカ……かわいそう……」


アラクネが、めずらしくケラケラと笑わずに、心配そうにその小さな後ろ姿を見送っている。


「……そうだな。まぁ、あいつの気が向いたら、またいつでもここに遊びに来ればいいさ」


俺はそう静かに呟きながら、ストコンの画面を見つめた。

その視線の先。俺は、異世界で暗躍するサカモトを、そして、現実世界においてコンビニ界最強の頂点に君臨する巨人を、明確にライバルとして見据えていたのだった。

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