第31話:店長、妖精の涙とからあげクン(兵器型)発進
毛足が少しずつ伸びて、俺のあのみじめな『角刈り』のラインがいくらかマイルドに馴染んできた頃。
ウィーン、ピロリオリーン♪
入店音と共に、あのいつも騒がしい緑色の羽を持った妖精──モカが店内に飛び込んできた。
モカは俺の姿を見つけるなり、大粒の涙をボロボロと流しながら、全速力で俺の胸の真ん中痕へと飛び込み、ワンワンと大声で泣き叫び始めた。
「うわぁぁぁぁぁん!! 店長ぉぉぉぉ! 助けて、助けてよぉぉぉっ!!」
レジカウンターの中で、突如として始まったロリ妖精と俺の熱い抱擁。それを見た瞬間、隣にいたリゼッタから、絶対零度の冷たい視線が突き刺さる。
「……あんた、まさかその小さな妖精にまで手を出したんじゃないでしょうね?」
「なっ……!!! そんなわけないだろ、冤罪だわっ!!!」
俺は必死に身の潔白を主張しながら、俺の服の裾を掴んで震えるモカの肩を優しく抱き、少しだけ引き離して目線を合わせた。
「おい、モカ。落ち着け。一体何があったんだ?」
モカはしゃくり上げながらしばらく肩を震わせていたが、時間が経つにつれて少しずつ落ち着きを取り戻し、ぽつりぽつりと現場の状況を話し始めた。
モカの話は、こうだった。
いつものように、自分の働くライバル店に出勤した時のこと(相変わらずモカは徹底して店名を教えないので、そこがセ〇ンかファ〇マかは未だに不明だ)。店内の様子がいつもと違って妙に静まり返っていることに気づき、不審に思ったモカは、商品棚の陰に隠れながらそっと奥の様子を伺ったらしい。
すると、バックヤードの奥から激しい怒鳴り声が聞こえてきた。意を決して中の様子を覗き込むと──なんと、店主であるサカモトが頑丈な縄で椅子に拘束され、不気味なマスクを被った謎の強盗集団に襲われ、暴行を受けていたのだという。
モカは恐怖でパニックになりながらも店を脱出し、助けを求めようとしたものの、この世界の誰を頼ればいいのか分からず、気づけばこのロー〇ソンに駆け込んでいたらしい。
……いや、冷静に考えて、普段からさんざんスパイ活動や偵察を行っていたはずの競合店に、ピンチになったからって堂々と助けを求めに来るその強靭すぎるメンタルは、ある意味で心から尊敬に値する。
とはいえ、これは人命(魔族命?)が関わっている凶悪事件だ。私怨はともかく、見過ごしていい理由にはならない。
「おいモカ。お前のその店までは、ここから何キロくらい離れてる?」
俺の質問に、モカは涙目で首をコロンと傾げた。あ、ダメだ、こいつに正確な単位での距離を聞いた俺が間違っていた。
「……じゃあ、言い方を変える。前に俺がドローンで見つけた、あの雪原の『民家』。あそこから、さらにどれくらい向こうにあるんだ?」
俺がそう質問した一瞬、真後ろにいるリゼッタの眼光が、キラーンと包丁並みの鋭さで光った気がしたが、今はそんな修羅場を気にしている暇は一ミリも無い。
モカは小さな指をくわえてしばらく健気に考えていたが、「ここから、あの家までの距離の、だいたい『二個分』くらい向こう!」と答えた。
一個分が約三キロだったから、二個分ならおよそ六キロか。思ったよりも近いな。
俺はバックヤードのストコンの画面に飛びつき、現在の店舗レベル8におけるドローンの飛行可能エリアを確認する。
最大飛行距離──【十キロメートル】。
「……よし、何とかなりそうだな」
俺はコントローラーを力強く握り締め、胸に飛び込んできたモカの頭をポンと叩いた。
「安心しろ、モカ。俺がこのロー〇ソンの最新鋭ドローンで、お前の旦那を何とかして助けてやる」
「店長……っ!」
俺は事務机の引き出しから、レベル8で新たに支給された『タクティカル・ゴーグル』を取り出し、頭にカチッと装着した。
店舗レベルが上がるにつれて、我が店のドローンは単なる偵察機から、恐るべき進化を遂げている。このゴーグルを装着すれば、まるで自分自身が空を飛んでいるかのような一人称視点で、ドローンが送ってくる現地の景色を立体的に確認できるのだ。もちろん、ストコンのメインモニターにも同時に同じ映像が出力される。
さらに──レベル8のドローンには、防犯用の『いくつかの簡易ウエポン(兵器)』が標準装備されているのだ。引きこもりながら、合法的に無双できる。これほどニートの心を滾らせるシチューションがあるだろうか。
「よし! ロー〇ソン異世界1号店、防犯ドローン──発進!!!」
俺は不敵な笑みを浮かべ、ストコンの画面に表示された、真っ赤な起動スイッチを力いっぱい押し込んだのだった。




