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引きこもりニートのコンビニ籠城生活 〜店から出たら即死な異世界迷宮に、なぜかWi-Fiがつながる店舗ごと転移しました〜  作者: autofocus


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第23話:店長、レジ横の心理戦と看板の異なる同業者

おでんをメニューに加えてから数日、客足は驚くほど好調だった。

「ふふふ、やっぱり冬のコンビニにおける『おでん』の威力は絶大だな……」

俺はほくほくの売上画面を見つめながら、レジカウンターの中で不敵にほくそ笑んでいた。


ウィーン、ピロリオリーン♪


静かな店内に、お馴染みの入店音が響き渡る。

自動ドアの方へ視線を向けた俺は、思わず「あっ」と小さく声を上げた。


入ってきたのは、以前一度だけ来店した、あの哀愁漂う尻尾の生えたトカゲ風のおっさん(魔族)だった。

おっさんはレジの中にいる俺を見つけると、親戚の近所のおじさんみたいに片手を少しだけ上げてフワッと挨拶をして、そのままトコトコと弁当コーナーへと向かっていった。


お弁当とお茶を手に取ったおっさんが、次にカップ麺コーナーへと向かう。

だが──俺は確信していた。今日、おっさんは絶対にカップ麺を買わない。

なぜかって? それは、店に入ってきた瞬間から、おっさんの視線がレジ横で湯気を立てている『おでんの什器』を、これでもかと激しくチラ見していたのを、この俺のプロ店長アイ(引きこもり特有の人間観察眼)が見逃さなかったからだ。


おっさんの今日の弁当のお供は、カップ麺ではなくおでんに違いないのだ。

案の定、おっさんは一度カップ麺を手に取ったものの、少し悩む素振りを見せてから、そのまま静かに棚へと戻した。


──ふっ、そうだろう、そうだろう。

俺はすべてを見透かしているかのような、圧倒的に勝ち誇った全能の顔でおっさんがレジにやってくるのを待った。


おっさんはレジカウンターに弁当とお茶をコトッと出すと、少しだけ間を置いてから、後ろの棚を指さして言った。


「……あ、あと、百七番タバコを一つ」


そう言うとおっさんは、ズボンのポケットから魔石をごそごそと出すそぶりを始める。


「おでん買わねぇのかよっっっ!!!!(ガチ切れ)」


──あっ。

あまりの衝撃に、心の声じゃなく、普通に生々しい大声が口から飛び出してしまっていた。


「えっ……!?」

おっさんはビクッと肩を震わせ、びっくりして目を丸くして完全に固まっている。

気まずい。深夜ワンオペの何十倍も気まずい空気が、レジカウンターを包み込む。


おっさんは俺の猛烈な視線と、おでんの湯気を交互に見つめ、もの凄く申し訳なさそうな顔を浮かべると、ボソボソと言い直した。


「じゃ……じゃあ……おでんも、もらおうかな……」


「あ、はい! 喜んでっ!」


……くやしい。くやしいぞ、おっさん……っ!

おでんを買わなかったこと自体も悔しいが、何より、引きこもりニートの俺が、異世界の化け物(魔族)に「気を使われて」おでんを買われたというこの事実が、猛烈に恥ずかしくて悔しい……!!


俺は自分の動揺と心の狭さを見透かされまいと、必死に冷静なビジネススマイルを装い、トングを手にした。


「……おでん、何にいたしますか?」


「え、え~っと……じゃあ、ちくわと、はんぺんと……あと大根で」


「かしこまりました」


俺が丁寧におでんの具材をプラカップに詰めていると、おっさんがレジ裏の香ばしい匂いを嗅ぎながら、ぼそぼそと世間話を始めた。


「しかし……『おでん』を始めたのは、やっぱりこの店が一番乗りだな。さすがだよ」


手を動かしていた俺の指先が、ピクリと止まる。

……一番乗り? その言い方は、まるで、


「……やっぱり、ここ(ロー◯ソン)以外にも、この世界に『コンビニ』が存在するんですか?」


俺は平静を装い、情報を聞き出そうとトーンを落として質問した。


「ん? ああ、そうだな。俺は現場仕事(建築関係)が多くて色んな街や領地に行くからね。最近は色んなところで見かけるよ。でも、ここは圧倒的に品揃えが良いから、俺の中では一押しだね」


「ありがとうございます。……ちなみに、ほかのコンビニって、どんな感じなんですか?」


「う~ん、そもそも看板の色からして全然違うからなぁ。中に入っても、あっちにはこんなに美味そうな熱々の出汁の食い物は置いてないよ」


おっさんはそう言って、俺からおでんのカップを受け取った。

──看板の色が、違う。

脳裏に、赤と緑の三本ラインのロゴや、青と緑のグラデーションのロゴが鮮明に浮かび上がる。

ということは……やっぱり、セ◯ンか、ファ◯マか……あるいは別のチェーンが、すでにこの世界のどこかで営業しているのか……!?


「そんじゃ、また来るよ。おでん、楽しみにしてる」


おっさんはそう言うと、大事そうにおでんのカップを抱えて店を後にした。

ウィーン、ピロリオリーン♪


新規の、しかもリピーターの一般客は大歓迎だ。……しかし。

やっぱりこの異世界には、うちの店の他に『別のコンビニ』が存在し、確実と言っていいほど、あの商人サカモト(あるいはモカの組織)がそこに関わっている。そしてそれは、おそらくうちのライバルチェーンである可能性が極めて高い。


外は三秒で凍る絶対零度の冬だ。間違っても店から一歩も外に出る気はない。歩いて視察に行くなんて自殺行為だ。

だけど……ライバル店の動向は、店長としてめちゃくちゃ気になる。


どうにか、この店から一歩も出ずに、外にある他店の様子を『視察』する方法はないだろうか……。


そんな、高度な引きこもり業務のアイデアを模索しながら、俺はおっさんから受け取った決済用の魔石をレジのドロアーに仕舞い込んだ。


ガチャ、とレジが閉まった、まさにその瞬間だった。


ピロリロリロリコォォォォーーーーンッ!!!


突如、レジのスピーカーから、今まで一度も聞いたことのない大音量のファンファーレが鳴り響いた。それはまるで、日本の有名RPGでキャラクターがレベルアップした時のような、やたらと荘厳で小気味良いメロディだった。


「うおっ!? な、なんだ急に!?」


驚いてレジの画面を凝視する俺の耳に、今度はいつものストコンの無機質な合成音声によるシステムアナウンスが流れ始める。


『──通知。獲得予算の累計が【百万円】を突破しました。条件達成につき、店舗のコンビニレベルがアップします』


言われてみれば、いつの間にか画面の右隅に、神々しい金色の文字で【LV2】という見慣れないアイコンが表示されていることに気が付いた。


「な、なんなんだ一体……。レベルが上がると、何が起きるんだ?」


突然のゲーム的な展開に、俺の頭は一瞬フリーズする。

だが、なんだかよく分からんが、わざわざこんな派手なファンファーレを鳴らしてレベルが上がったということは、店長である俺にとって何かしらの大きなメリットや新機能が解放されたハズだ。


もしかしたら、この機能を使えば、さっき思いついた「引きこもりながらの他店視察」だって可能になるんじゃないか……?


予期せぬ店舗の進化を前に、俺は胸の奥で、ドクドクと高鳴る鼓動をはっきりと感じていた。

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