第118話:束の間のゲーム三昧と、セ〇ンの孤高
「おい! 兄ちゃん。頼んどいた弁当が入ってねえぞ!」
「あ……すみません! 忘れてました!」
「らしくねぇなぁ……次は頼むぞ」
「申し訳ありませんでした……!」
常連のおっちゃんに頭を下げて謝る俺の肩を、ポンと叩く手がひとつ。振り返ると、リゼッタが心配そうな眼差しで見つめていた。
「どうしたのよマモル。ちょっと疲れてるんじゃない?」
「ああ……さすがにここ数日は、いろいろありすぎて……」
サカモトの救出、モカの裏切り、千石さんの介抱……精神的にも肉体的にも、俺のキャパシティはとっくに限界を超えていたらしい。
「お店は私が見ておくから、たまには仕事のことなんて忘れて、ルカとゲームでもしてなさいよ」
「……ありがとう、リゼッタ。お言葉に甘えようかな」
俺は素直に感謝を口にし、バックヤードへと戻った。
バックヤードに入ると、ルカ君がストコンの前に座り、画面を食い入るように見つめていた。
千石さんがここに潜伏している以上、サカモトを一号店に呼び寄せるわけにはいかない。ルカ君には一度ドローンを一号店へ帰還させるよう指示を出していたのだ。セブンの惣菜工場に待機させる案もあったが、サカモトをまだ手放しで信用しきれていない俺たちは、安全を取ってドローンを引き上げさせることにした。
ルカ君はドローンを自動操縦モードにセットすると、くるりと椅子を回転させて俺の方を向いた。
「リゼッタが『たまには休んでルカとゲームでもしろ』ってさ」
頭をかきながらそう言うと、途端にルカ君の目がパァァッと輝いた。
「本当ですか!? マモル店長と一度、本気で対戦してみたかったんですよ!」
ルカ君の底抜けに明るい笑顔を見ていると、肩の荷がふっと下り、心が軽くなるのを感じた。
「よし! やろう! 今日は一日ゲーム三昧だ!」
「ですね!」
「まずは……好きなポテチとジュースを取ってこようぜ!」
「いいですね~!」
俺たちはこれから遊ぶネットゲームの攻略法やキャラクターの話で大盛り上がりしながら、買い物かごを手に店内へと繰り出した。
売り場で山盛りのポテトチップスと大型ペットボトルのジュースをかごに放り込む俺たちを、レジに立つリゼッタが、微笑ましくも少し呆れたような表情で見守っている。
バックヤードに戻ると、ルカ君がハイスペックなゲーミングPCを立ち上げ、ゲームを起動した。
「さあ! 今日は何もかも忘れて、ゲームを楽しむぞ!!!!」
「おーッ!!」
──俺たちが久々の休日に羽を伸ばしていた、ちょうどその頃。
セブン−イレブンの惣菜工場の一室では、サカモトが険しい表情で本部とのリモート会議に臨んでいた。
ディスプレイの向こうに映る本部の幹部が、冷酷な眼光でサカモトを詰め寄る。
『──君の持っているUSBを、本部で預かると言っているんだ。迎えのドローンを向かわせる。すぐに渡しなさい』
「せやから、さっきから言ってますやん。ファ〇マの要塞コンビニから逃げる途中で落っことしましたんや」
サカモトは面倒そうに頭をかきながら、へらへらとした笑みを浮かべる。
『だったらすぐに捜索隊を編成する! 君も現場に同行したまえ!』
「そやから、わしは今日から有給休暇を申請してますねん。有給休暇の取得は労働者の正当な権利ちゃいますの?」
『…………………………』
画面の向こうの幹部が、苛立ちで顔をピキピキと引きつらせる。
「あんまりしつこく強要するようやったら、労働基準監督署に行きまっせ? コンビニ業界最大手のセ〇ンさんがそんなことしてみなはれ、マスコミが黙っとらんで?」
『…………………………ハァ。まあいい。君の有休消化は9日間だ。9日後には、我々の指示通りに動いてもらうからな』
冷たく言い放つと、画面はぷつりと暗転し、通信が切れた。
一部始終を見ていた傍らのセ〇ン店舗スタッフが、青ざめた顔でサカモトに駆け寄る。
「だ、大丈夫なんですかサカモトさん……!? 本部にそんなたてついて……!」
サカモトはパイプ椅子の背もたれに深く体を沈め、ぐーっと大きく背伸びをした。
「しゃーないやん……誰が敵で誰が味方かも分からんのやから。……まあ、これでわしの出世の道は完全に途絶えたわな」
そう言って、ハハッと乾いた笑い声が静かな部屋に空景しく響いた──。




