第114話:最新鋭の工場と、虫かごの中の暴言
セ〇ン惣菜工場の重厚な重圧ゲートの前で、俺たちはドローンを一時停止させた。
すると工場の中から三機の小型ドローンが滑らかに飛来し、サカモトに向けて三方向から緑色のレーザー光線を照射する。
おそらくサカモトの生体情報を、セ〇ン本部のデータベースとリアルタイムで照合しているのだろう。やっぱりコンビニ界の絶対王者の技術力は侮れないなと、俺は密かに感心する。
ほどなくしてドローンによる生体認証作業が完了すると、重厚なゲートがプシューッと音を立てて開かれた。
俺たちは前方を誘導するように飛行する三機のドローンの後を追い、ゆっくりと工場内へと侵入していく。
「セ〇ンの技術力もなかなかですね……」
隣でストコンを操作するルカ君が感心したように呟く。彼も俺とまったく同じことを考えていたようだ。俺は小さく頷いた。
ドローンは清潔で広大な惣菜工場内の通路を静かに飛行していく。強化ガラス越しに、工場内部の膨大なラインが一望できた。
「見てくれルカ君。作業員が一人もいない……すべて完全自動化されたロボットが作業しているぞ」
「すごいですね……。セ〇ンはやはりコンビニ界の雄です」
「だな。バレないように、できるだけ内部のシステムやラインの映像をカメラに収めておいてくれ。本部に戻ったら桜塚さんが喉から手が出るほど喜ぶはずだ」
「了解です!」
ルカ君は手慣れた操作でドローンのカメラ角度をわずかに調整し、工場内部の秘匿データを着々と記録していく。
やがて、案内された一角の広小路のような部屋へと入ると、俺たちはサカモトをそっと床へと下ろした。
誘導ドローン三機は巧みなマニピュレーター捌きでサカモトを縛っていた縄を素早く解き、彼を自由にする。縄から解放されたサカモトは、俺たちの呼びかけにも応えず、脱兎の勢いで部屋の奥にあるトイレへと一目散に駆け込んでいった。
──それからしばらくの間。
静まり返った無人の部屋で、俺たち(ドローン)は所在なく待機していた。
「マモル店長……まさかとは思いますが、このまま僕たちが拘束される……なんてことはないですよね?」
画面越しに部屋を見回しながら、ルカ君が不安そうに尋ねる。実は俺もまったく同じ懸念を抱いていた。
「まさか……とは思うけどな。サカモトには以前、盛大にはめられた前科があるからな……。とりあえず警戒だけは怠らないでおこう。ルカ君、ここまでの脱出ルートは覚えているか?」
「そこは抜かりないです。ドローンに飛行ログを完全に記憶させていますので」
「頼もしいよ」
やっぱりルカ君は最高に頼りになる。そう思いつつも、俺は万が一の事態に備えて、もう一つ『強力な保険』をかけておくことにした。
「ちょっと売り場に行ってくる」
ルカ君にそう言い残すと、俺はバックヤードのロッカーから『虫取り網』と『虫かご』を取り出し、そっと店内へと足を踏み出した。
店内では、アラクネとモカがいつものようにレジカウンターの中に並んで座り、売り物の『からあげクン』を勝手につまみ食いしていた。
俺は二人に気付かれないよう、忍び足でレジカウンターの前まで忍び寄り、カウンターの陰で静かに息をひそめた。
すると、二人の呑気な会話が俺の耳にハッキリと飛び込んでくる。
「マモル……忙しそう。大丈夫かなぁ」
アラクネが珍しく心配そうな声でモカに尋ねる。それに対してモカは、唐揚げをモグモグと噛み砕きながら吐き捨てた。
「あ〜……マモルね。あいつバカだから要領が悪いのよ。わたしならあんなのチョチョイのチョイよ」
「え〜、そうなの〜? モカってすごいんだねぇ」
アラクネは無邪気に感心してモカに笑いかける。
「そ……そうよ。私って超優秀なんだから」
「そっか〜。マモルはバカなんだ〜」
アラクネがケラケラと楽しそうに笑う。調子に乗ったモカはさらに言葉を畳みかけた。
「バカなだけじゃないわよ。バカでエロなクソニートよ!」
──こ……こいつ…………っ!!
俺はカウンターの下で身をかがめたまま、溢れ出す怒りでプルプルと全身をワナワナと震わせた。
「たしかに〜。マモルはエッチなことばっかり考えてる〜」
アラクネは手をたたいてさらに笑う。それに合わせてモカも調子づいて乗っかった。
「そうよ! バカでエッチでど変態の引きこもりニートクソ野郎よ!!」
──…………もう我慢の限界だ。
俺は猛然と立ち上がった!
突如として目の前に現れた俺の姿に、アラクネとモカは目を丸くしてフリーズする。
「誰がバカでエッチでど変態の引きこもりニートクソ野郎だァァァァァッッ!!!!!!!!!!!!!!」
俺は怒号を響かせながら、手に持った虫取り網をモカめがけて勢いよく振り下ろした!
「きゃわっ!?」
あっさりと網に引っかかったモカをすかさず虫かごの中に押し込み、プラスチックの蓋をバチコンとロックする。
「アラクネ、店を頼んだぞ」
あっけにとられるアラクネに後を任せ、俺はモカの入った虫かごを引っさげてバックヤードへと歩みを進めた。
かごの中では、モカがここではとても活字にはできないような極悪非道な罵詈雑言を全力で叫び散らかしていた──。




