第111話:人間シールドと、雪原に響く絶叫
「ルカ君、もっとスピードは出せないかな?」
俺はストコンのモニターに映る、背後から迫り来るファ〇マの凶悪な戦闘ドローン軍団を睨みつけながら言った。
「無理です……! サカモトさんの体重と椅子の重量が重すぎて、これ以上のスピードは物理的に出ません……っ!」
「どうするか……」
俺はストコンの前で腕を組んだまま、唸るようにモニターを凝視した。
そうこうしている間にも、敵のドローン軍団はこちらとの距離を確実に、そして着実に縮めてきている。
「ルカ君、ここから俺たちのローソン一号店まではあとどれくらいかかる?」
「そうですね〜……あの要塞に到達するまでに6時間くらいかかってますからね。今はサカモトさんをぶら下げて運んでますから……店まで戻るには10時間くらいはかかるかもしれません」
「まずいな……10時間は絶対に逃げきれない……。追撃を撒くために煙幕を使うにしても、障害物が何もない真っ白な雪原で使っても意味はないし……ましてやすごい吹雪だ。煙なんて一瞬で流されてしまう」
俺とルカ君がモニターの前で八方塞がりの状況に頭を抱えて唸っていると、デスクの上にいたモカが後ろから偉そうに話しかけてきた。
「この先に確か、セ〇ンの総菜工場があったはずよ。そこまで逃げ込めば、工場の防衛設備で援護してもらえるかも」
「本当か!? ……でも待てよ、このドローンはあからさまにロー〇ソンカラーだし、味方の工場に近づいた瞬間に逆に不審機として撃ち落とされたりしないか?」
「その可能性は十分にありますね……」
ルカ君も俺の当然の懸念に深く同意する。
「大丈夫よ」
モカが自信満々といった様子で、ドヤ顔で胸を張る。
「……どうすんだよ?」
俺が尋ねると、モカは悪びれもせずに恐ろしい作戦を言い放った。
「サカモトさんを上に持ち上げて、その後ろにドローンを隠して飛べばいいのよ。サカモトさんなら総菜工場のスタッフにも顔が知られてるし、まさか自分のところの店長に向かってミサイルなんか撃たないわ」
「お前……どこか頭でも打ったのか……?」
俺はモカが急に(手段を選ばないという意味で)あまりにも合理的でまともな作戦を提案してきたので、思わず本気で動揺してしまった。
「あぁん!?」
モカが下から俺の顔を睨みつけながら、ガラ悪くすごんでくる。
……ふぅ、やっぱりいつもの性格の悪いモカだ。
俺はなぜか心から安心して、言葉を続ける。
「よし! 悩んでる時間はない、モカの作戦で行くぞ! モカ、工場までのルートを案内してくれ!」
「はいっ!」
ルカ君はドローンのスピードを少し落とし、コントローラーのアームを巧みに操作する。サカモトの縛り付けられた頑丈な椅子を2本のアームで器用につかみ直すと、ドローンの真ん前へとグイッと豪快に持ち上げた。
前から見れば、パイプ椅子に縛られた生身のサカモトが、超高速で大空を飛び交っているようにしか見えないだろう……。もし雪原でこれに遭遇したら一生トラウマになるレベルの恐怖映像だが……。
と、ここでついに、気絶していたサカモトがゆっくりと目を覚ました。
「な! なんや! ど、どないなっとんねん!?」
サカモトは自分が置かれている常識外れの状況がまったく掴めず、目を丸くしてきょろきょろと周囲の雪原を見渡す。
俺はストコンのマイクを入れ、ドローンのスピーカーから話しかけた。
『サカモト! やっと起きたか?』
「そ、その声は……マモルはんか!?」
『ああ……不本意ながら、お前を助けに来てやったぞ』
「それはおおきに!! いや〜死ぬかおもたで……ほんまに……」
サカモトは胸を撫でおろし、へらへらと安堵の笑みを浮かべている。
『おい、安心するのはまだ早いぞ。後ろを見てみろ』
サカモトが言われるがままに、首をひねって後ろを振り返る。
「な……なんやぁああ!? 敵のドローンがめちゃくちゃ迫っとるやないの!! 早く逃げんかい!」
『この近くにあるセ〇ンの総菜工場に避難する。一気に飛ばすから歯を食いしばって我慢しろよ』
「なんでもええから早くしてやーーー!!」
「出力を限界まで上げます!」
ルカ君がコントローラーのレバーを前に倒し、ドローンの速度をマックスまで上げる。
ガガガガガガオオオオオッッッ!!!
超高速飛行による爆風のような暴風が直撃し、前面に設置されたサカモトの顔面の肉が、すさまじい風圧で後ろへとバリバリに波打って流されていく。
「ちょ……っ、マモルはん……っ!! 息が……息ができへん……! 死ぬ……死んでまう……っ!!」
『サカモト……我慢してくれ』
「ノーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
吹雪が荒れ狂う極寒の大空に、生身で人間シールドにされたサカモトの悲痛すぎる絶叫がむなしくこだまするのだった──。




