第106話:秘密のスライド扉と、拉致監禁(?)の張り紙
気が付けば、バックヤードのデスクの上には無数の空になったポテトチップスの袋と、一滴残らず飲み干されたコーラのペットボトルが何本もゴロゴロと転がっていた。
一号店の外では、作業員たちが割れたガラスの補修作業を急ピッチで進めている。そんな深夜の慌ただしさを余所に、俺たち三人は時間も忘れて、ストコンのモニター越しにファ〇マの夢のような新店舗の品揃えを心ゆくまで堪能し尽くしていた。
パリッ、と最後のポテトチップスを小さな口にくわえながら、俺の膝の上にちょこんと乗っていたアラクネが、ふいにストコンモニターの端っこを小さな指でツンと指差した。
「店長……あそこに、へんな通路がある」
「え……?」
アラクネに言われて、俺とルカ君は同時に彼女の指す方向をじっと見つめた。
「マモル店長……! たしかに、陳列された商品と商品のほんのわずかな隙間から、奥へと続く通路らしい影が見えますね。もしかしたら……あれがバックヤードへの本当の入り口かもしれません!」
「ルカ君。ドローンをあそこに進めることはできるか?」
「うーん、ちょっと難しいですね。商品棚が完全に目の前を塞いでいますから、スタッフが普段どうやってあそこを出入りしているのかを確認しないと……」
「よし。もし本当にバックヤードへの入り口なら、スタッフが出入りする時に必ず何かしらの動きがあるはずだ。それまで怪しまれないように待とう」
俺はそう指示を出し、ドローンを普通に店内を回るお客様のふりをさせて泳がせながら、じっと隠し通路の周辺の様子を伺った。
どれくらい待っただろうか。やがて、制服を着た一人のスタッフが、あの商品棚の隙間の方へと迷いのない足取りで歩いてゆくのが映し出された。
スタッフは壁の目立たない場所にあるレバーを、手慣れた様子で下へとパタンと倒した。すると──。
ギギギギ……と音を立てて、頑強な商品棚そのものが左右へとダイナミックにスライドし、大人が一人やっと通れるほどの隠しスペースが壁の奥に出現したのだ。
「ルカ君! 今だっ!!」
「はいっ!!」
ルカ君はコントローラーを巧みに操り、スタッフの背後にピタリとドローンを張り付かせた。そして相手に気付かれないよう、背後の死角をすり抜けるようにして、隙間が完全に閉まってしまう前に商品棚の裏の闇へと一瞬で滑り込んだ。
「やったな……! やっぱり、あの怪しいスライド扉がバックヤードへの入り口だった。アラクネ、超お手柄だぞ!」
俺はそう言って、膝の上にいるアラクネの頭をよしよしと優しく撫でてやった。
当のアラクネはというと、夜通しお腹いっぱい大好きなポテチを食べまくったせいか、撫でられるがままに俺の膝の上で「す〜……す〜……」と、すでに幸せそうな可愛い寝息を立てて爆睡し始めていた。本当にマイペースな奴だ。
画面の向こうでは、ルカ君のドローンが、スタッフが中へと入って扉が閉まったのを少し見届けてから、ゆっくりと奥へと侵入を開始していた。
それにしても、さすがは移動要塞コンビニだ。
スライド扉の向こうに入ってすぐ、コンクリートで固められた異様に長い一本の通路が、はるか奥まで延々と続いていた。
「バックヤードって言うから、てっきりうちの店みたいな、荷物だらけの狭い事務所を想像してたんだけど……。全然違うな」
俺は一号店の狭さを思い出し、少し自嘲気味にハハと笑った。
「ですね……。なにもかも、僕たちの店とは規模が違いすぎます……」
ルカ君も、モニターに映る冷たい通路の光景に圧倒されている。
バックヤードへと続くこの通路はあまりにも無機質で長く、途中に身を隠せるような障害物が一つもない。もし正面から別のスタッフが歩いてくれば、ドローンが侵入したことがバレるのも時間の問題だ。一刻も早く、サカモトの手がかりを見つけ出さなければならない。
「マモル店長! あれ、見てください!」
ルカ君が声を潜めながら、画面の奥を指差した。
通路の前方には、いくつか重厚なドアが等間隔に並んでいた。
そのドアのすぐ横の壁に、何やら白い紙のようなものがぺたりと貼り出されている。
ドローンのズーム機能を使い、その張り紙の文字を拡大する。
そこには──手書きの太い文字で、あまりにも場違いな文言が書かれていた。
【 セ〇ン店長ご一行様 控え室 】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は一瞬、頭の中の処理が完全に追いつかなくなり、激しい嫌な予感が脳裏をよぎった。
……おい、ちょっと待て。
サカモトって、あいつ……、ファ〇マの要塞に凶悪な手段で「拉致監禁」されたんじゃなかったっけ……?




