第105話:ファミマの神対応と、お膝の上のアラクネ
「あ、……あの〜……」
最新型ドローンのスピーカーから発せられた俺の間抜けな声を、制服姿の女性スタッフさんはその場で正面から受け止めた。
「はい? 何かお困りでしょうか?」
女性スタッフさんは、にっこりと完璧な営業スマイルを俺たちに向けて笑いかけてくる。
「……プロペラの修理って、こちらで出来ますか?」
俺はドローンのマイクの出力を少し調整し、液晶画面の向こうの彼女に話しかけてみた。
「はい。もちろん可能でございます♪」ニコッ
なんて、なんて従業員教育の行き届いたコンビニなんだ……!?
敵の要塞のど真ん中だぞここ。俺はファ〇リーマートの圧倒的なスタッフ育成能力と、サービス精神の底知れなさに本気で驚愕するしかなかった。
「お支払いは……現金になさいますか?」
「いえ、カードで……」
俺たちはドローンの底面に付いている、本部仕様の非接触型「タッチ決済機能」を使い、レジの読み取り部にピッと機体を近づけて支払いを瞬時に終えた。
「ありがとうございます。それでは、こちらで至急修理をさせていただきますね」
彼女に案内され、ドローンは店内の隅にある専用の『ドローンメンテナンス・ドック』へと入っていった。
修理を待つ間、俺はストコン側のドローンのマイク設定を一時的にミュートに切り替え、隣のルカ君とこれからの潜入作戦についての会議を始めた。
「とりあえず、これでドローンの飛行不良の問題はあっさりと解決したな。あとは、どうやってこの巨大な店内からサカモトを探し出すかだが……」
俺の問いかけに、ルカ君がストコンのキーボードに手を置きながら答える。
「まずは普通に『お客様』のふりをして、堂々と店内を散策してみましょう。監視カメラの死角や、怪しいバックヤードの扉なんかがあるはずですから、何か手がかりが見つかるかもしれません」
「そうだな。修理が終わったら、怪しまれない程度に店内を回ってみよう。……それに、純粋にあのファ〇マの新型店舗の品揃えにも、ちょっと店長として興味があるしな……」
「ですね! これは間違いなく、僕たちの世界でも見たことのない全く新しいタイプのコンビニですよ!」
俺たちは、敵の要塞に潜入しているという大前提をすっかり忘れて、ファ〇マの最新の設備に不覚にも激しく大興奮していた。
やがてドローンのプロペラ修理が終わり、俺たちは再び浮上して店内の散策を開始した。
「おおおお! ルカ君見てくれ、このファ〇マオリジナル衣料のラインナップの充実っぷり! 凄まじいな!」
「マモル店長、あっちの専用カフェコーナーの挽きたてコーヒー……液晶画面越しでもめちゃくちゃ美味そうですよ!」
「くっそ〜〜〜……! このドローンに、コーヒーを自動で抽出して飲む機能が搭載されてないのがこれほど悔やまれる日が来るとは……っ!」
男二人、深夜の一号店のバックヤードで肩を並べながらキャッキャと画面を見て楽しんでいる時だった。
ふと、背後に何とも言えない、冷たい「強い視線」をビリビリと感じて、俺とルカ君は同時に恐る恐る後ろを振り返った。
そこには──。
いつの間にやら爆睡から静かに目覚めていたアラクネが、今にも泣き出しそうな寂しげな表情を浮かべて、ポツンと直立不動で立っていた。
「ど、……どうしたんだ? アラクネ」
俺がそう問いかけても、アラクネはただじっと、その潤んだ瞳で俺の目を真っ直ぐに見つめたまま、ピクリとも動かない。
「ど、どうしたんだよ? どこかお腹でも痛いのか?」
心配になって、俺は再度、優しくアラクネに問いかける。
すると、アラクネは俺の目をしっかりと見つめ返しながら、小さな唇を不満そうに尖らせた。
「……二人だけで、たのしそうにして……。アラクネだけのけもの……ずるい……」
「あ、……いや……その、ごめん」
ルカ君が気まずそうに、真っ先にペコリと頭を下げて謝る。
「アラクネ……悪かったよ。別にお前をのけ者にするつもりじゃなかったんだ。ちょっと色々とドタバタしててさ」
アラクネはまだ、不満を全身から滲ませながらじっと俺を見つめて動かない。
俺は苦笑いしながら、パイプ椅子に座った自分の『両膝』をポンポンと手のひらで軽く叩いた。
「ほら、おいで。アラクネもこっちに来て、一緒にこのストコンの画面を見よう」
そう声をかけた、その瞬間だった。
アラクネの瞳が、まるで宝石のように一瞬でキラキラと輝きを放った。
「うんっ!!」と嬉しそうに頷き、飛び跳ねるような勢いで、俺の膝の上へと真っ直ぐに飛び乗ってきた。
膝の上にすっぽりと乗っかったアラクネは、女の子の温かいぬくもりを俺に預け、可愛い二本の脚を嬉しそうにパタパタと動かしている。
俺はそんなアラクネをしっかりと膝に乗せて抱きかかえながら、俺たち三人でストコンの画面に映し出されるファ〇マの夢のような新型コンビニの光景を、深夜のバックヤードで夜通し、心ゆくまで堪能するのだった──。




