第104話:地獄の門の自動ドアと、お客様の来店
要塞コンビニから次々と発射された無数の対空ミサイルが、ドローンのすぐ後方へと次々に着弾する。
その度に、画面を真っ白に染め上げる激しい閃光と、強烈な爆風の衝撃波がドローンの機体を大きく包み込み、ルカ君は激しく乱れる機体を制御しようと、額から大量の汗を流して必死の形相でコントローラーを握り締めていた。
「マモル店長! まだ見つかりませんか!? 侵入口です!」
「待ってくれ! ……クソっ! 一体どこなんだ、どこに隠してやがる!」
俺はストコンのモニターに映し出される、あの無骨な要塞の鋼鉄の外壁を、血眼になって必死に探し続ける。
「あっ! ルカ君、前方右40度の方角に向かって、ドローンの閃光弾を撃ち込んでくれ!」
「はいっ!」
ルカ君はコントローラーのボタンを親指で叩き、指定の方角へ閃光弾を射出する。
シュウウウウン──パッ!!!
強烈な光が、要塞の右側面を鮮明に照らし出す。
「見ろ! あそこだ、あそこが搬入口じゃないか!?」
俺が画面を指差した方向を、ルカ君が素早く見る。
そこには、周囲の装甲とは明らかに違う巨大なシャッターがあり、その上部には『搬入口』と大きく書かれた文字の扉が、まるで俺たちを噛み砕こうとする地獄の門のように、不気味に口を開いていた。
「……ハッ、さすがは大手のコンビニだな。これほどの激しい戦闘の真っ最中だろうが、24時間いつでも商品の搬入が行えるシステムになってるんだ!」
「ですね! その職業病みたいな親切設計のおかげで、僕たちも中に入れそうです!」
ルカ君は不敵に笑うと、コントローラーのレバーを限界まで前方に倒し、被弾寸前のドローンを一気に加速させた。
画面いっぱいに、地獄の門(搬入口)が猛スピードで目前に迫る。
「よし、そのまま一気に中に向かって突っ込め!!」
俺の声に、ルカ君は強く頷く。
ドローンがまさに搬入口の隙間へと滑り込もうとした、その瞬間だった。
扉の周囲の細かなハッチがガガガと一斉に開き、中から無数の防衛用機銃がズラリと銃口を覗かせた。
ダダダダダダダダダダダダーーーーーーーーーッッッッッ!!!
何万発という絶望的な数の銃弾が、一斉にドローン目掛けて網目のように飛んでくる。
「うわああああっ!?」
ルカ君は日頃のゲームで徹底的に鍛え上げられた、まさに超人的な反射神経でコントローラーを真上へと引き上げ、ドローンを強引に急上昇させた。機体の真下を、無数の銃弾の光の線が掠めていく。本当に、ミリ単位のギリギリのタイミングで銃弾をかわしきってみせた。
「あ、……あぶ、危なかった……っ」
ルカ君が額からポタポタと汗を流しながら、掠れた声で呟く。
俺も言葉が出ず、バックヤードの床の上でただ黙って深く頷くことしかできなかった。
やはり、そう簡単には中に潜入させてくれそうにはない。
「マモル店長! 上空から何か出てきます!!」
ルカ君の絶叫に近い悲鳴に、俺は弾かれたように再び画面を見た。
要塞の搬入口のハッチから、まるで蜂の巣から飛び出す羽虫のように、大量の黒い敵ドローンが一斉に出撃してきたのだ。
敵のドローン群は瞬時に美しい編隊を組むと、俺たちのドローンに猛スピードで接近し、寸分の狂いもない規則正しい機銃の一斉斉射を容赦なく加えてくる。
「振り切れルカ君!!」
俺たちは敵の猛追を引き離そうと、極寒の空を縦横無尽に駆け巡って必死に逃げ回るが、その後ろからぴったりと、吸盤のように敵のドローン群がどこまでも追いかけてくる。
激しい空中戦の中、何とかすべての攻撃を奇跡的にかわし続けていた俺たちだったが、ついに不運な一発の銃弾が、こちらのドローンのプロペラの一つへと直撃した。
パキィン、と嫌な音がして、ドローンの飛行バランスが目に見えてガタガタに乱れ始める。画面が激しく上下にブレる。
「クソ……っ、もう……操作が効かない、ダメです……っ!!」
ルカ君がコントローラーを必死にガチャガチャと動かしながら、悲痛な声を上げた。
「まだだ……! まだ諦めるわけにはいかない……っ!!」
俺は必死になって激しくブレる画面を凝視し、何かこの絶望をひっくり返す手立て(バグ)がないか、ゲーマーの脳みそをフル回転させて考えた。
その時、俺の目に、画面の隅から漏れる一筋の眩しい「光」が飛び込んできた。
「ルカ君!! あの右下の光に向かって、残ったパワーのすべてで飛んでくれ!!」
そこは、要塞の強固な装甲の隙間から、温かみのある内部の明かりが外の雪原へと漏れ出ている場所だった。もしかしたらあそこなら、内部へダイレクトに侵入することができるかもしれない。
「はいぃいいいっ!!」
ルカ君はそう叫ぶと、ほとんど操縦の効かなくなっているドローンの出力を限界まで上げ、半ば強引にその一筋の光の方向へと機体を突っ込ませた。
すぐ後方からは、敵のドローン編隊が牙を剥いて迫ってくる。
容赦のないトドメの一斉斉射が、俺たちのドローンの真後ろから始まった。
光の漏れる隙間は、もう目の前だ──。
「いけぇええええええええええエエエッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
俺とルカ君は、バックヤードで心からの魂の絶叫を上げた!!
ピロリロリーン♪
その瞬間。
激しい爆音と警報をすべてかき消すようにして、深夜の一号店でも毎日何百回と聞き慣れている、あのあまりにも間の抜けた小気味よい『入店音』が、ストコンのスピーカーから大音量で鳴り響いた。
そして、要塞のガラス製の自動ドアが、ドローンの接近を検知して何事もなかったかのように静かに左右へと開いた。
ドローンはそのまま、滑り込むようにして要塞の温かい店内の中へと無傷で飛び込んだ。
激しいブレがピタリと止まったドローンのメインモニターの目の前には──、
ファ〇マの緑と白の綺麗な制服に身を包んだ、一人の可愛い女の子の店員さんが、マニュアル通りの完璧な笑顔で真っ直ぐに立っていた。
「いらっしゃいませー♪」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
俺とルカ君は、ストコンの前で同時に完全にフリーズした。
そうか……。そうだった。
あいつらがどれほど頑強な防御力を誇ろうが、どれほど重武装された恐ろしい移動要塞であろうが──ベースが『コンビニ』である以上は、お客様の来店(自動ドアのセンサー)だけは、絶対に拒絶することなんてできないんだ……!!
俺は、かつてこのロー〇ソン一号店に、あのリゼッタが魔王軍を率いて初めて「お客様」としてやってきた時の、あの始まりの日の光景を、ストコンの画面の向こうの綺麗な売り場を見つめながら、静かに思い出していた──。




