第102話:組織の壁と、更けゆくバックヤードの夜
要塞コンビニの周囲を低空飛行で飛ぶドローンの映像を眺めながら、俺はポテチの袋を開ける。
同じタイミングでルカ君も新しい袋を開けており、俺たちは目を合わせ笑う。
彼とは考えることが完全に同じだ。こういう極限の緊張感の中でこそ、俺たちの乾いた心と胃袋はポテチのジャンクな塩気を求めるのだ。
「これで冷えたコーラでもあれば最高なんだけどな」
俺はそう言ってルカ君を見る。
彼も眼鏡の位置を直して笑いながらこたえる。
「そうですよね。男の夜にポテチとコーラは鉄板です」
そんな俺たちの背後から、足音もなく桜塚マネージャーが静かに現れた。
「間宮店長。店舗の修繕が完了しました。外壁や窓ガラスに関しては一時的な仮設の補修となっていますが、先ほどの弾丸の解析が終わり次第、本部の最新テクノロジーによる改修工事を大急ぎでさせていただきます」
「ありがとうございます……」
俺とルカ君は、タイトなボディスーツに包まれた桜塚マネージャーの眩しい太ももへと、視線を完全に固定したまま無言で返事を返す。
「……ゴホン!」
俺たちの下気味な視線に瞬時に気が付いた桜塚マネージャーが、表情をピキッと強張らせて露骨な咳払いをしてみせた。
「あ、……っ!」
俺たちは慌てて居住まいを正し、電光石火のスピードで視線を彼女の顔へと強制的に戻す。
その時、桜塚マネージャーの鋭い視線が、俺たちのすぐ後ろにあるストコンに映し出された最新ドローンのモニター画面を真っ正面から見据えた。
「……あれは、……なんですか?」
「えっ!? いや……あの、その……これはですね……」
激しく動揺する俺たちを大真面目な顔で押しのけ、桜塚マネージャーがストコンのモニターへと食い入るようにその顔を近づける。
「間宮店長……。これは、一体なんですか……?」
画面の向こうの吹雪の中にそびえ立つ、あのファ〇マの巨大移動要塞コンビニのシルエットを凝視したまま、桜塚マネージャーは低い声で俺たちに問いかけた。
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「なるほど……。話は分かりました」
俺たちはパイプ椅子に腰掛け、サカモトの拉致から今回のドローン追跡に至るまでのこれまでの経緯を、桜塚マネージャーへと包み隠さず報告した。
「あなたたちが、競合であるセ〇ンの関係者と秘密裏に交友を持っていたことについては……、今は私の一存で本社には伏せておきます。そんなことが上にバレたら、社内全体が大騒ぎになりますからね……」
「すみません……」
俺とルカ君はパイプ椅子の上で揃って小さく頭を下げた。
「……まぁいいわ。それよりも最大の懸念は、あのファ〇マがこの異世界でこれほど巨大な要塞コンビニを秘密裏に建造していたこと。まさか、これほどのオーバーテクノロジー(技術力)があの会社にあるとは思いませんでした」
桜塚マネージャーは腕を組み、深刻な面持ちで続ける。
「それに……あなたたちの読み通りなら、ファ〇マはこの世界の流通網そのものを裏から完全に牛耳ろうとしている可能性がある……」
そこまで黙って話を聞いていたルカ君が、意を決したように口を開いた。
「桜塚さん……。もし僕の仮説が確かなら、この世界と間宮店長の世界を繋ぐ【ゲート】が必ずどこかに存在するはずです。そして……それはロー〇ソンやセ〇ンも、現在物資の輸送のために使っている共通のゲートのはず。……そうですよね?」
ルカ君の鋭い突っ込みに、桜塚マネージャーはふっと目をそらした。
「それについては本部の最重要極秘事項の為、お答えできません」
「桜塚さん! 間宮店長が自分の元の世界に帰るためには、そのゲートの解明が絶対に必要なんです! 答えてください!」
珍しく、ルカ君が感情を露わにして声を荒げた。
桜塚マネージャーは深く、重いため息をつくと、パイプ椅子から静かに立ち上がった。
「とにかく、今回のドローンが捉えた要塞の映像データは、即座に本社へ共有させていただきます。それから──この件は以降、本社の特務部門で引き継ぎますので、あなたたちは今すぐドローンをこちらへ帰還させてください。……以上です」
事務的にそう言い残すと、桜塚マネージャーは扉に向かって歩き出した。
「桜塚マネージャー」
俺は去りゆく彼女の背中に向かって、思わず呼び止めていた。
「なんですか?」
彼女が静かに振り返る。
「……いえ。何でもありません」
俺はそれ以上何も言えず、力なくそう言って再び椅子に腰掛けた。
「では」彼女はそう言い残し、ヒールの音を響かせてバックヤードの防音扉を出て行った。
扉が閉まった後、しばらくの間フロアの床を見つめて考えていた俺は、ゆっくりと顔を上げて隣のルカ君に指示を出した。
「ルカ君……。ドローンを、こちらに戻してくれ」
「マモル店長……! ──……はい」
ルカ君はキーボードの上に置いた両手を握り締め、最高に悔しそうな表情を浮かべながらも、短く返事をした。
こうして、ファ〇マ要塞を目の前にしながらも組織の壁に阻まれ、ロー〇ソン一号店のバックヤードの夜は、静かに、そして重苦しく更けてゆくのだった──。




